かちがらす: 幕末を読みきった男

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093864930

作品紹介・あらすじ

維新の礎を作った佐賀藩主・鍋島直正の生涯

若くして佐賀藩主となった鍋島直正。財政難に苦しむ藩は城の火事に遭うが、それをきっかけに藩の改革に取り組む。長崎警備を任されていた佐賀藩は、外国船の進入が増え、中国がアヘン戦争でイギリスに敗れたことに危機感を覚えた。
軍事力で負けないように、直正は最新の大砲や銃、西洋流の船の建造を藩で行うための人材を登用した。耐火煉瓦を作っての反射炉の建設、鉄の鋳造、大砲の製造と、いくつもの難関を乗り越え成し遂げられた。三重津には、藩独自の海軍学校を設けた。
また、息子の淳一郎にいち早く種痘を受けさせ、普及をうながした。
藩主を16歳の直大に譲って隠居した直正は、〈日本を外国列強の属国にしない〉〈幕府側と討幕派との内乱を回避する〉という思いを、諸大名や公家に伝えていった。最新の軍事力を誇る佐賀藩は、幕府側・倒幕派ともに頼りにされる存在だった。
欧米諸国が日本に開国を迫り、攘夷を叫ぶ諸藩が戦火を交える中、体調を崩しながらも、直正は徳川慶喜との会見に臨む。
江川坦庵、田中久重、島津斉彬、井伊直弼、勝海舟、江藤新平……。幕末の名だたる人物と交流し、明治維新の礎を作った鍋島直正を描いた長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代の終焉が整理できた。
    鍋島藩は、偉大だった。

  • 佐賀藩主鍋島直正の生涯を描きます。
    財政難に苦しむ藩の改革に取り組みながらも、長崎警備を任されていた佐賀藩。
    中国がアヘン戦争でイギリスに敗れたことに危機感を持ち、軍事力で負けないように、最新の大砲や銃、船の建造を藩で行うための人材を登用します。
    反射炉を建設し、鉄の鋳造、大砲の製造、三重津には藩独自の海軍学校も設けました。
    日本を外国列強の属国にしないために、幕府側と討幕派との内乱を回避するという思いを強く持ち、周りに伝えていきます。
    江川坦庵、田中久重、島津斉彬、井伊直弼、勝海舟、江藤新平など、名だたる人物と交流し、明治維新の礎を作佐賀藩、鍋島直正の生涯です。
    佐賀藩の認識が変わります。

  • 島津斉彬の影に隠れていて、その類稀な新規摂取の名君だったのを、初めて知りました。島津よりも先に反射炉の開発に成功していたんですね。

  • 鍋島直正。佐賀藩は、長崎警備の任務ある事から、早くから外国警備の重要性、西洋技術の優秀性を認識していた。
    鍋島直正は、藩政改革を断行し、早くから洋式軍制改革を実施。
    この時代、わが国で初めて反射炉の建設を成功させ、大量の銃砲を購入し、西洋艦船の製造・購入に努めた。
    また蘭学を奨励し、種痘を施行し、幕末に薩長土肥と通称される雄藩の実力を養った。

    薩摩、長州に隠れてはいるが、近代日本の開国、維新の重要なキーパーソンである事に間違いはない。

  • 2020.1 読了

  • 歴史は勝者の視点で語られる。
    尊王攘夷、幕府vs薩長、などという狭っ苦しい視点を超越した人物がいたことに、歴史観を変えられた。

  • テレビ番組『英雄たちの選択』で佐賀藩主鍋島直正を知り、手に取った初の植松作品。歴史初心者の私でも理解しやすい平易で丁寧な時代背景が施されている。『西郷どん』で描かれる幕末とは異なり、決して中心とはされない佐賀藩からの視点で、立場で史実が異なり見えることを再認識。財政危機や、体制維持への固執による拘泥に疑問を持ち、武士道、家族観までパラダイムシフトに挑んだ直正に拍手。進取の気性に充ちた彼が支えてくれる同士、家臣の相次ぐ喪失に苦しみながら、抵抗を乗り越え重用されていく様に、美しい指導者像を見た。

  • 佐賀藩主・鍋島直正は、日本を欧米列強の従属国にさせないために、反射炉の建設、大砲の製造、蒸気船の建造などの事業にいどんだ。その軍事力は、幕府側と倒幕派双方から求められ…。

    佐賀藩および鍋島直正が幕末にこんな大きな役割を演じていたとは知らなかった。作者の植松三十里は「雪つもりし朝」を読んだ時にも感じたけれど、歴史のひとコマを救い上げて上質な物語に仕立て上げるのが抜群に上手いと思う。
    (B)

  • 薩摩藩より早く反射炉を造成し大砲を作り上げ、長崎港の守備役を拝命していたということもあって海防については幕府よりも詳しく真剣に考え、諸外国の思惑に乗らずに内乱を防ごうと頑張っていた佐賀藩藩主・鍋島直正。
    これほどの技術力と様々な人材がありながら何故幕末の主役に躍り出ることができなかったのか、何故維新後はすっかり影に隠れてしまったのかという疑問を解消できた作品だった。
    直正はとにかく辛抱強く、現場のことは口を出さずに現場に任せ、たとえ失敗があっても決して藩士たちや技術者たちを責めずに彼らを信じて待ち、成功すれば共に喜ぶという理想の上司的男。
    派手なことは嫌うが、これは国のために絶対に必要と思えば懸命に幕府にも朝廷にも訴える。
    幕府側にも倒幕側にもつかず、『佐賀の日和見』と後ろ指をさされようと動かない。高い性能を持った武器や艦船を持っていても、それは使うためではなく諸外国に付け入られないためのものと言い切る。
    その思いはついに将軍・慶喜を動かし、やがて大政奉還へと繋がっていく。
    薩摩藩主だった島津斉彬と従兄弟でありながら実に対照的な人間だった。だが直正は彼なりに藩ではなく国を見つめて動いていたのだなと感じられる描き方だった。
    最後の最後、死に際して家族や長年付き添ってくれた近習との短くも濃い時間が良かった。

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著者プロフィール

静岡県生まれ。東京女子大学卒業。2003年『桑港にて』で歴史文学賞、09年『群青 日本海軍の礎を築いた男』で新田次郎文学賞、『彫残二人』で中山義秀賞。著書に『帝国ホテル建築物語』『万事オーライ』等。

「2023年 『羊子と玲 鴨居姉弟の光と影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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