海とジイ

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093865265

作品紹介・あらすじ

最期を見据えた生き様から光を得る人生賛歌

舞台は、美しくもありときに恐ろしい顔を見せる海と島。3人のおじいさん=ジイの生き抜く姿と,そのジイから思いを受け取る人々の心模様をときに温かくときに激しくときに静かな筆致で描ききります。全3編の物語。
〇海神~わだつみ
いじめが原因で不登校になってしまった小学四年生の優生。ある日、父の依頼で瀬戸内の島に暮らす曾祖父を訪ねることになる。死期が近いはずの曾祖父・清次は、病人とは思えないほど元気に優生らを案内し、饒舌に振る舞う。その後入院となった曾祖父と優生が交わした二人だけの約束とは……。
〇夕凪~ゆうなぎ
70代後半の老医師とそのクリニックに20年以上勤め、支え続けてきた48歳看護師の女性。ある日、クリニックを閉院すると宣言した後老医師が失踪する。必死で探す看護師の女性が行き着いたのは瀬戸内の島。もう戻らない、と告げる老医師の覚悟とは。静謐でほのかに温もる大人の慕情。
〇波光~はこう
すべてを陸上競技に捧げて生きてきたが、怪我により人生どん底になってしまった澪二。センター試験を前に逃げるように子供の頃訪れていた島にある祖父の家へ。石の博物館のリニューアルオープンの準備を手伝ううちに、今まで知り得なかった祖父の青春時代、親友、そして唯一の後悔を聞き……。


【編集担当からのおすすめ情報】
藤岡陽子さんは、おじいさんを描かせたら日本一の作家と思っております。
今から7年前、一冊の本と出合い藤岡陽子さんにお声をかけさせていただきました。とても心に残る大好きな小説です。その小説をこの度蘇らせることが出来ました。その小説のキーである「海」と「おじいさん=ジイ」をテーマに、感涙必至の短編、そしてもう一編は中編の書き下ろしで、誰にも必ず来る最期までを「生き抜く」人間の姿を描いていただきました。
三人三様のジイの生き様。ジイたちは悲しみ、悔恨を抱えながらも生き抜いてきた年月の分だけ強く、その強さを周囲の人々に分け与えてくれます。
読んでくださった方々の心に、温かな希望が灯る一冊となりました。

感想・レビュー・書評

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  • R3.10.13 読了。

     瀬戸内海の島を舞台にした3人のおじいさん達の連作短編小説。この中で「海神」「波光」は不登校になってしまったひ孫や陸上でケガしてしまった孫がそれぞれのおじいさんのもとを訪れる。瀬戸内の海や山などの自然と人生の荒波を乗り越えた経験豊富なおじいさん達の言葉、行動などから、勇気をもらったり、見失っていたものを取り戻したりしていく。おじいさん達の大切にしているものや自分を応援してくれたり支えてくれた人たちへの感謝の言葉などに、とても感動した。人のぬくもりのような温かい気持ちを下さってありがとうと言いたい。しみじみ良書だと思います。

    ・「強くなりたいと願った時に、人はもう強うなってるもんじゃ。」
    ・「時には逃げることがあった人生じゃ。(中略)逃げてもいいが、逃げ続けることはできないんじゃ。自分の人生から逃げきることなど、できないんじゃよ。」
    ・「明日は思うほど悪い日じゃない。」
    ・「人が自然を好む理由が、ここに来てわかった気がします。人は人に対して繕うのであって、自然の中では繕う必要がない。」
    ・「夢を持ち、叶えることは簡単ではない。だから一度夢をつかんだ人間は、その夢を手放さないために懸命に努力をするんだ。」
    ・「自分の弱さを受け入れた時に初めて、人は強くなれる。」

  • 手に取ると表紙カバーの風景にしばし目を奪われた。
    瀬戸内海の小さな島でそれぞれ語られる3人のおじいさんの3つのお話。
    人生の最終段階を生きる3人のおじいさん達に共通しているのは、誠実に歩いてきた人生が有ったこと。
    そしてそこから生まれた優しい人柄が垣間見える。
    そんな心を与えてくれた人々との出会いを大切にした生き様はちゃんと受け継がれて行くに違いない。
    誰にもいつかはやって来る最期だが、そこに絶望を見るのではなくどこまでも前向きさを感じる。
    それでも涙が落ちてしまう。

  • 最期を見据えた生き様から光を得る人生賛歌

    三編からなる連作短編集

    ・海神-わだつみ
    いじめが原因で不登校になってしまった小学四年生の優生。
    ある日、父の依頼で瀬戸内の島に暮らす曾祖父を訪ねることになる。
    死期が近いはずの曾祖父・清次は、病人とは思えないほど元気に優生らを案内し、饒舌に振る舞う。
    その後入院となった曾祖父と優生が交わした二人だけの約束とは……。

    ・夕凪-ゆうなぎ
    70代後半の老医師とそのクリニックに20年以上勤め、支え続けてきた48歳看護師の女性。
    ある日、クリニックを閉院すると宣言した後老医師が失踪する。
    必死で探す看護師の女性が行き着いたのは瀬戸内の島。
    もう戻らない、と告げる老医師の覚悟とは…。

    ・波光-はこう
    すべてを陸上競技に捧げて生きてきたが、怪我により人生どん底になってしまった澪二。
    センター試験を前に逃げるように子供の頃訪れていた島にある祖父の家へ。
    石の博物館のリニューアルオープンの準備を手伝ううちに、
    今まで知り得なかった祖父の青春時代、親友、そして唯一の後悔を聞き……。


    第二話の夕凪は海路の加筆だった。
    海路を読んだ時もじんわりいいお話だと思ったが、
    その良さを良く理解出来ていなかったみたいです。
    数年の時を経て読むと凄く心に響きました。共感も出来たし切なくもあった。
    こうして、三話の連作となると、心を打つものがまた違って感じられた。



    舞台が瀬戸内の島とは聞いていましたが、何と香川の島…嬉しかった。
    浜街道を走っている時に見る静かな海にポカリポカリと沢山の島が見える。
    あの景色が目に浮かびました。
    あの静かで波もないような海だけではないんだな。
    海は当たり前だけど別の怖い顔も見せていた。
    その過疎の島に暮らす三人のおじいさん。
    長く生きている分、楽しい事もあっただろうけど苦しい事・辛い事・後悔を
    沢山抱えて生きている。
    三人それぞれの生き様ですが、三人それぞれが素敵で素晴らしくて優しい。
    人生や年輪を重ねた人の言葉はとても沁みますね。
    そのジィ達の気持ちを受け取る人々の心も変わっていく。


    どのお話も涙が零れて仕方がなかった。
    こんなに泣いたのは久し振りだなぁ。
    人生は短い。今日一日を限界まで生きろ。
    自分の弱さを受け入れた時、初めて人は強くなれる。
    やっぱり藤岡さんのお話が大好きです。
    心に染み入る言葉を沢山いただきました。

  • 編集担当さんが「藤岡陽子さんは、おじいさんを描かせたら日本一の作家」と言う。
    村田喜代子さんの描くおばあさんに魅せられていたので、今度はおじいさんの話が読みたかった。
    3人もの素敵なおじいさんに出逢えた。瀬戸内海塩飽諸島の島を舞台にした3話、それぞれ良い話だった。その3話が緩やかに繋がっているところがまたいい。

    塩飽諸島を旅した時、瀬戸内海の美しさと穏やかさに包まれながらも、寂しいような切ない気持ちになった。海が荒れれば小さな島は恐いだろう、心細いだろう。
    島は、おじいさんの話が生まれる舞台としてぴったりだと思った。

    1話はいじめから学校に行けなくなった孫が、3話は怪我で目標を見失ってしまった孫が、それぞれ島に住むおじいさんを訪ねることで前に進む力をもらう。
    齢を重ねた人の持つ言葉や生き様が、誰かの力になる。生きてきた時間そのものが力を持つのだろうか。そうだったらいいな。
    2話の開業医と看護師の話も「せめてあと二十ずつ若かったら」とあるように、切なかった。

    人生の終わりを見据えて、残りの時間を生きている人の強さと優しさを感じた。
    塩飽諸島また訪ねたいです。

  • 「自分が自分でなくなることが怖いんだよ。誰からも相手にされないただの衰えたひとりきりの老人になることが」
    老いる、ということは、人生の残された日々が僅かである、ということは、こんなにも胸が締め付けられるものなのか…老いに対する怯えがリアルにストレートに伝わってきた。

    「人は人に対して繕うのであって、自然の中では繕う必要がない」
    大海原を前にしたジイが語る言葉が静かに心に響き渡る。
    残される者へ伝わるジイの熱量は計り知れない。
    ジイと孫、というのもいいものだな、としみじみ思う。
    年の離れた男二人、決して多くは語らないけれど、ジイの背中の大きさ・強さに憧れる孫はジイの教えを胸に、いつかジイを飛び越えて行くのだろう。

    「逃げてもいいが、逃げ続けることはできないんじゃ。自分の人生から逃げることなど、できないんじゃよ」
    「海を見ていると、他人とはなにも比較しないでよかった。自分は自分でしかない」
    私も最期は、この表紙のような穏やかな海を眺めながら余生を生きたいものだ。

  • 初読みの作家さん
    お爺さんと子供が朝焼け?を見ている装調で
    タイトルともに目を引きました(^ ^)

    当たりでした!
    素敵な生き様のジイ(爺さん)3人。

    瀬戸内にある小さな二つの島。
    ジイ達が送る若者へのエールにホロっと来ました。

    またまた素敵な作家さん見つけてしまった\(//∇//)\

  • なんとも素敵な連作短編集。この作家さんの物語を読むと、心が洗われていくようです。

    ①海神
    優生は小学4年生。3年生の時、体育のマラソンの授業の時にお漏らしをしてしまい、そこから学校に行けなくなった。島で一人暮らしをしている夫の祖父の具合が悪いので、夫に頼まれ、母親の千佳と優生、それから妹の3人で祖父の元に向かう。痛み止めを飲みながら元気に振る舞うジイ。その時優生とした約束とは。

    ②夕凪
    月島医院に勤める48歳看護師の志木。突然、老医師の月島は閉院すると告げ、閉院間近に失踪する。後を追うように瀬戸内の島にたどり着いた志木。なんとしても戻ってきて欲しいと説得するが・・・。

    ③波光
    澪二は高校3年生。センター試験を目前に控えている。母親と喧嘩するような形で島で一人暮らしをするジイの元を訪れる。そこで、ジイはこれまで誰にも語ったことのない半生を打ち明けた。ジイにはたった1つの後悔があった。

    あれ?もしかして一話目だけは単独なのかな?と思ったら、最後ちゃんと繋がりました。1つに繋がった時は、短編で読んだ時の感動が、倍以上の感動を伴って身体中を満たしてくれます。
    ジイちゃんって偉大だなぁ。自分にとっての祖父や、早逝した父親のことを思うと、やっぱり敵わないと思ってしまう。
    物語を読みながら、登場するジイや父親に、自分の祖父や父親を見るようで、本当に大きな心で守られていたことを実感しました。ありがとうございます。これからも素敵な作品を書いていってください!

  • 瀬戸内の小さな島に暮らすジイたちの話。

    表表紙の言葉
    「人生は短い。今日一日を限界まで生きろ」
    第三話のジイが孫に伝えた言葉。

    本書を読む前にこの言葉を見た時、毎日必死に一生懸命生きろと少し厳しく言われているようだった。だが、読了後の今は違う。人生の終わりに近づいているジイたちの話なのだが、私自身はより濃い人生を歩みたいと、希望に満ちた気持ちになっている。

    歳を取ると大切なものが年々減ってくることで大切にするものへの比重が増すのだそうだ。
    私もいつか、本書のジイたちのようなバアになれるだろうか。

  • いい本も映画も音楽も理屈じゃないですよね。心に直接作用する感動を信じるのが一番間違いないと思っています。
    藤岡陽子さんは魅力的な老人を書かせたら天下一品です。皆スーパー老人長訳ではなくて実直に生きてきた老人がとても輝いていて、こうやって年を取りたいと思わせる力があります。
    この本はまさに「海とジイ」。そう、おじいさんが輝いている本なんです。緩やかな連作で3人のおじいさんの物語が少しずつ重なります。誰も皆自分の中で抱えている悲しみや悩みを隠して、若い人達に毅然とした優しさで接する。とてもかっこいいけれど実際に表面に出てくるカッコ良さではないんですね。これがとっても渋いです。
    これから高齢化がとんでもなく進んで行きますが、こういう老人になりたいと思わせる魅力を感じます。
    この後老後破産という本を読んで陰鬱になっている所なので、この本のように強く優しい老人になりたい・・・。

  • 「海神」、「夕凪」、「波光」の三篇所収。このうち、「夕凪」は「海路」の改編とのこと。そういえば、「海路」の主人公の行先は沖縄の島だったはずだが、瀬戸内海の島に変わっていたが、久し振りに読んだので、あらすじは覚えているものの再読して新鮮だった。「海路」と同様、ギリシア哲学に出てくるような「良く生きる」ことを分かりやすく小説にしたようなところがある。
    「海神」も「波光」も、強い爺さんと、久し振りに会った孫・ひ孫のやり取りが感動的で印象に残る。藤岡陽子は、こういう仕立てが抜群にうまいと思う。すでにほとんどの作品は読んでしまっているが、さらに新作を期待してしまう。

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著者プロフィール

藤岡 陽子(ふじおか ようこ)
1971年、京都市生まれの小説家。同志社大学文学部卒業後、報知新聞社にスポーツ記者としての勤務を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。帰国後に塾講師や法律事務所勤務をしつつ、大阪文学学校に通い、小説を書き始める。この時期、慈恵看護専門学校を卒業し、看護師資格も取得している。
2006年「結い言」で第40回北日本文学賞選奨を受賞。2009年『いつまでも白い羽根』でデビュー。看護学校を舞台にした代表作、『いつまでも白い羽根』は2018年にテレビドラマ化された。

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