十の輪をくぐる

著者 :
  • 小学館
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感想 : 112
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093865982

感想・レビュー・書評

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  • 定年間近のサラリーマン・泰介と、認知性を患う彼の母・万津子。東京で開催される2回のオリンピックとバレーボールをキーワードに、子育てに苦労する万津子と、思うに任せない人生に苛立つ泰介の姿を交互に描く。2/3くらいまでひたすらつらい内容で、何度も読むのをやめようと思った。その先は逆に何もかもうまく行き過ぎてシラけた。だが物語は2020年初頭で終わり、ぼくらはその先に何が起きたか知っている。彼ら家族を待ち受ける未来は決して明るくない。

  • 辻堂ゆめさんは初めて読む作家さん。
    読み終えて、感想を書こうにも何を書いたらいいのだろうか、と途方に暮れてしまった。何を書いてもネタバレになってしまうような、親子3代に渡るとても壮大な物語。
    初めは泰介と、近い年代の自分とを重ね合わせて、「私がこんな生活を送っていても不思議ではないのだなぁ」と思っていたのだけれど、そんな現実的な考えは吹き飛んでしまうくらい、心が揺さぶられる物語だった。

    妻と娘と認知症の母親と4人で暮らしている主人公の泰介は、母の万津子に対してすぐに怒鳴る本当に本当に嫌な男だった。
    物語は、現代の物語と過去の物語が交互に出てくるスタイルで進んで行く。
    泰介には心の中で冷たい視線を送り続けながら、若かりし時分の万津子の物語を楽しみに読み進めた。

    泰介は万津子の人生を知らない。それは万津子が話さなかったから。「泰介には内緒」と認知症になってもなお、頑なに詳細を語らない万津子。初めのうちはわからなかったが、「子どもには何も話さない」という万津子の強い意志が見えてきて、目頭が熱くなる。

    万津子の人生が分かれば分かるほど、まるで万津子からこっそり秘密を打ち明けられているかのように思えてくる。大きな秘密を抱えた私の目の前にいる何も知らない泰介。どうやっても伝えられないもどかしさが募る。
    万津子は頑なに泰介に何も語らないまま。でも、すれ違っていた親子の心がほんの少し触れ合ったところで、心は感動に震え、涙があふれた。

    人には、何も言わずに「とにかく読んでみて!」と勧めたくなるような、でもやっぱり秘密にしておきたくもなるような、そんな1冊。
    1年の締めくくりに素敵な本を読むことができてよかった。

  • 十の輪、という言葉の意味。
    今年オリンピックが開催されていたら、別の思いでこれを読んでいただろう、と。

    1958年から1964年までと、2019年から2020年までの物語が交互に語られる。
    熊本から愛知県へ女工として働きに出ていた万津子と、スポーツクラブを経営する会社に勤めるその息子泰介の、そして孫娘の物語。

    痴呆が入ってきた母親の謎めいた過去。かたくなに語ろうとしないその人生。三人をつなぐのはバレーボール。バレーボールに込められた思い。あの日、いったい何が起こったのか。
    バレーボールを中心に回っていた物語が、ある時急に別の顔を見せる。急な展開に驚きつつ、そういうことか、と腑に落ちる。それを乗り越えたときに見える新しい世界。
    でも…と読み終わって思う。この最後は悲しすぎる。切なすぎる。もう少し早く、何とかならなかったのだろうか、と悔やまれる。

  • 息子の母に対する態度にイライラし、母の昔の生活に同情し途中まで読んで読み切るだろうか?と心配したものの息子の態度の原因が分かると全く見方が変わってくる。
    それを指摘する娘もエライし娘に意見されて素直に従った父もすごいと思う。

  • 著作徐々に制覇中の辻堂ゆめさんより。タイトルは二つの東京五輪にかけて十の輪なのかな。

  • 泰介に腹が立って仕方なかったけど、ADHDとわかってからは見方が変わった。自分が人を見る目も偏ってたんだな、と。

  • 「私は東洋の魔女」このセリフから、お母さんは東洋の魔女だったのかな?と、思いながら読んでいきました。
    内容としては、現代を生きる50代の息子と、まだ2歳の息子を持つお母さんの話が交互に入れ替わる。だからと言ってゆっくり進行していくし、切り替わりは各く話交互に変わるので、たまに途中で切り替えてくる作品と違って非常に読みやすい。

    で、1番すごいと思ったのは、ほんとよく調べられたんだなぁーと思った。
    炭鉱の事件や日貿貝塚、東洋の魔女やその時代に流れていたテレビ番組等々。

    これはノンフィクションなのかな?と思いながら読んでいたぐらいです。新ワードが出てくると、ネットで調べて、本当にあるし!ってなる。


    肝心の内容ですけど、読んでいて先の展開がなんとなくわかりつつ、本当にそのように進んでいく。
    そして、よかった!というようや読後感もなく、よくある一般家庭の話なのかなー?と言うのが印象。

    よく調べてるだけあって、非常に勿体無い。

  • 認知症や介護がテーマのお話だと思って読み始めたところ、もっと深い、夫婦、親子、家族のあり方を問いかけてくるようなお話だった。

    主人公の生きる現在と、その母が若かりし日の時代が交互に語られ、読み手には分かっているできごとが、それぞれの登場人物には伝わることがないのが、もどかしかった。

  • 実際の世相や事件を背景に丁寧に物語が展開していく。老齢、更年期に入った登場人物の諸問題もリアルに描いている。
    感情移入が進み、重い話となっていきますが、解決策があり、希望が持てる内容でした。

  • 私の読解力では、母親の子どもに対する愛のお話でした。
    なので、主人公は、泰介ではなく万津子です。
    作品紹介に書かれていたあらすじから想像していたものとは全く違ってましたが、想像を遥かに上回る物凄く良い小説でした。
    辻堂ゆめさんの小説を初めて読みましたが、こんな凄い作家がいるのかと思いました。
    ただし、発達障害に無理解、無関心の人が読むと、本作の良さは分からないと思います。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。東京大学在学中の2014年、「夢のトビラは泉の中に」で、第13回『このミステリーがすごい!』大賞《優秀賞》を受賞。15年、同作を改題した『いなくなった私へ』でデビュー。21年、『十の輪をくぐる』で吉川英治文学新人賞候補、『トリカゴ』で大藪春彦賞受賞。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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