コスメの王様

  • 小学館 (2022年3月15日発売)
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本 ・本 (344ページ) / ISBN・EAN: 9784093866415

作品紹介・あらすじ

東洋の化粧品王は、いかにして誕生したか

「ほんまに、きみが愛おし!」
時は明治の世。秀才ながらも、山口の家族を支えるため進学をあきらめ、単身神戸に出てきた少年・利一。牛より安い値段で花街に売られてきた少女・ハナ。神戸の花隈での二人の出会いは、やがて日本の生活をも一変させる発明、大ヒット商品誕生へとつながっていく。そして、幼い日に誓い合った約束の行方は?
産経新聞連載時から大反響! 明治・大正・昭和の激動期を、「真心」の製品作りと斬新な宣伝手法を武器に乗り切り、大阪で100年を超える会社を創業した“東洋の化粧品王”と呼ばれた男の一代記!

感想・レビュー・書評

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  • 一言で表すなら「朝ドラチック」かな。
    主人公の一人が屋形(置き屋のこと)に牛より安い値段で売られたという、現代の朝ドラ的には不適切な設定だが、作品全体に時代の風が爽やかに吹き抜けていた。
    また神戸が舞台で、主人公のハナが生活する屋形の姐さんやお座敷に出入りするお大尽方特有の言葉遣いが小気味よく飛び交う…といったところが、朝ドラチックだなと思った次第である。

    「どんなに悲しくても憎くとも、利一には狂うことはできない。ただ、前を向いて進むだけだ。これからも、権力でもなく暴力でもなく金でもなく、たったひとつ真心だけを武器にして」(P 181)

    故郷 山口から若くして神戸に出てきた少年利一と、(冒頭でも書いた)屋形に売られてきた少女ハナの甘酸っぱくてほろ苦い一代記。ひょんなことから出会いを果たした二人は驚くほど馬が合い、やがてその交流は日本を代表する商品のヒットへと繋がっていく…。
    利一は貧困から中学に進学できず、お家再興のためビジネスや英語の習得にと、日夜けなげに励んでいる。独立してからも、ワーカホリックで馬鹿正直なくらい誠実なビジネスパーソン・商魂たくましいアイデアマン…と、仕事のために生きている印象だ。
    「仕事の次に家族」というスタンスが「ちょっとそれまずいのでは?」と、心配にさせる。

    彼の働きぶりやキャリアがあまりに克明だったので調べてみると、やはり実在の人物をモデルにしていた。
    中山太一(本書は永山利一。固有名詞を変えるあたりも「ザ・朝ドラ」だな…)。本書同様、洗い粉(洗顔料)や(当時主要成分だった)鉛不使用の化粧下地が爆発的にヒットし、「東洋の化粧品王」の異名をとった。彼が一代で築き上げた会社は「クラブコスメチックス」に名称を改め、現在も続いているという。
    これまた本書同様、穏やかな余生を過ごされていたのかな。

    「芸妓というものはみな剣山の上に座っている、きれい事をしゃべる生け花だ」(P 73)

    対するハナは、とにかく理にさとい。
    長年にわたる屋形生活やお座敷での接待からか、常に私見を抑えて何もかも客観視している。ハナへの想いをなかなか果たせず、仕事への情熱にひた走る利一より何歩もリードしているように思えた。
    だから彼女が感情を露わにしていくシーンでは度肝を抜かれ、同一人物だと認めるのに大分時間がかかった。しかし終盤、同じく想いを吐露した利一との対峙で「あぁ…二人はやっぱり似たもの同士だったんだな」と、その意外性が腹に落ちていったのである。
    初恋の仲だと思わせといて、その実態は苦楽を共にした戦友だったのだ。

    明治後期から大正・昭和初期…
    民間にも西洋化が浸透していくフェーズであっても、まだまだ本当の自分を曝け出せなかった時代。
    ハナや屋形の姐さんらは白粉で顔を固め、お座敷に上がればたちまち芸妓の顔になる。利一は利一で、どんなトラブルがあってもビジネスマンとしての顔を決して崩さない。それで上手くやり過ごせていても、「自分はどんな人間なのか」を二人は見失っていた。
    だからこそ彼らの晩年は、永山心美堂の洗い粉を使ったようにこざっぱりとして見えた。

  • ハナは、兵庫三田の山奥から牛より安い値段で花街に売られてきた少女。
    山口の家族を支えるために神戸に出てきた利一とは、ドブに足を踏み込んでいたのを助けたことがきっかけで知り合う。

    これは、東洋の化粧品王・中山太一をモデルにした一代記である。

    真面目で探究心旺盛な利一が、次々と商売をやり成功していくのだが、「思い立ったが吉日」「毎日が吉日…。ないものを知るのが商機…!」と行動力も凄い。
    一時の流行で終わるような商品を作りたくはない。という気持ちもあり、常に考えて知ってもらうための広告力も必要と視野も広い。

    紆余曲折もありながら、大ヒット商品誕生へと繋がっていくのだが、決してハナを忘れたことはなかった。
    だが、想像していた幸せがずっと続くことはなく…

    いろんな状況を経て、年老いて懐かしき神戸の地で再会した2人。
    「ああ、ほんまに毎日が吉日やねえ」
    顔を合わせてこのことばを言う。
    これ以上に何を望むだろう…というのが感じられる。

    明治から大正、昭和にかけて戦争を体験しながらのこのことばに何とも言えない気持ちが込められている。



  • おちょぼのハナが、ドブ川から助け出した少年、利一。
    整った顔立ちがそっくりなふたりは、芸妓と商売、それぞれの道を上り詰めていく。

    おもしろかった。

    常に真心を大切にするふたり。
    裏切りや足の引っ張り合いがあっても、まっすぐに誠実に突き進む姿が、全編すがすがしい。

    そんなふたりだからこそ、周りに信頼され、素敵な人々とのつながりが続いていく。

    みんなが健康で幸せに暮らせるよう、毒性のない化粧品を、という理念もよかった。
    開発と販売を試行錯誤する、利一たちの心意気とチームワークも熱い。

    折に触れ、利一を支える言葉をかける、ハナ。
    いつまでも初々しい、ふたりの関係性もほほえましかった。

    読後感もさわやか。

  • 時代物はちょっと苦手で、なかなか読み進まなかった(汗)

    子どもが売られる、にわかに信じがたいが、ほんの100年ほど前にあったこと。その事実を私たちはどう受け止めるのか。そこから始まっているように思えた。

    お互いに売られて神戸の街で出会ったハナと利一。家族がどうしようもない人だということはこんなにも残酷なことなのか。二人の生き方は努力そのもの。

  • 「東洋の化粧品王」と「神戸一の名芸妓」の出会いが日本を変える。『コスメの王様』|株式会社小学館のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001600.000013640.html

    創業者「中山太一」をモデルにしたフィクション小説「コスメの王様」が産経新聞で連載スタートです | クラブ official blog | クラブコスメオンライン|クラブコスメチックス公式通販サイト(2021.4.1)
    https://club.cosmeonline.com/info/official_blog/5985/

    「推してけ! 推してけ!」第17回 ◆『コスメの王様』(高殿 円・著) | 小説丸
    https://shosetsu-maru.com/review/oshiteke/17

    高殿円氏“東洋の化粧王”を描く最新作で「いつか神戸を小説にしたい」が実現|NEWSポストセブン
    https://www.news-postseven.com/archives/20220324_1737246.html?DETAIL

    高殿 円『コスメの王様』 | 小説丸
    https://shosetsu-maru.com/yomimono/essay/kingofcosme

    コスメの王様 | 書籍 | 小学館
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09386641

  • 利一もすごいけれども、やはりハナの人としての器の大きさを感じました。
    全編通して明るいトーンで描かれていますが、戦争や花街で生きる辛さを考えると、サクセスストーリーと簡単に割り切って読むこともできない部分もあったなぁということで、暗さが苦手な私は星三つにしてしまいましたが、内容的にはとても良かったです。

  • 化粧品会社クラブコスメチックスの創業者・中山太一をモデルにした小説。

    士族でありながら、お金を稼ぐために山口から神戸に出てきた利一。お金のために三田から牛より安い値段で花街に売られてきた少女はな。二人の出会い、そして生まれたヒット化粧品…しかし、時代は戦争へと向かい…。

    なんだろね~苦労した部分とかさら~っと書かれているからそんなに感動とか涙~とかはなかったかな~。
    ごく淡々と紡がれているような小説だったかな~。

  • ハナと利一のひたむきに生きている姿に胸を打たれる。
    利一には実在のモデルがいるとのこと。物語はもちろんフィクションだけど、こんなふうに事業に情熱を注ぐ人たちがいたのだろうなとこの時代に思いを馳せた。

  • 東洋の化粧品王中山太一をモデルとし、花隈の芸妓ハナとの2人主役で進む話はどのエピソードも興味深い。男の立身出世だけではなく、女の自立の物語としてもおもしろく、2人を応援しながらページをめくった。

  • ドロドロした処が無くて朝ドラの原作みたいですね。
    主人公の二人が純粋です。
    本当にこんな人間がいるのかなと思いました。

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著者プロフィール

1976年兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。主な著作に「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』、『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』、『マル合の下僕』、「カーリー」シリーズ、『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』、『主君 井伊の赤鬼・直政伝』(文藝春秋)など。2013年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。漫画原作も多数。

「2023年 『忘らるる物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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