山ぎは少し明かりて

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 188
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093867016

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  • ダムに沈んでしまった瑞ノ瀬村。そこで生きた祖母、母、娘の三世代の物語。
    物語は現代の娘の話からスタートして、章ごとに遡っていくスタイル。
    それぞれの生きる時代背景や性格がわかりやすく、入っていきやすかった。
    全体を通して「ままならなさ」が感じられると同時に、家族愛だったり郷土愛が溢れていて、なんとも切ない気持ちになる。
    メインで描かれていているのは女性三人だけど、それぞれのパートナーがバラバラのタイプでありながら、すごくいい味わいを出している。こっそりそこもポイントが高かった。
    それにしても、最後のお祖母ちゃんは悲しい…。

  • ダム建設反対運動に命をかける母と、子育てを蔑ろにされた娘…どちらの気持ちも分からなくはない。親子の絆をも引き裂く「ふるさと」って一体何だろう、と考えさせられる物語。枕草子の一節からとったタイトルが郷愁を誘う。

  • 2023年に読んだ小説の中で個人的にはベスト。

    ダムの底に沈んだ村を舞台に、孫娘の都→母親の雅枝→祖母の佳代を主人公にした三本立てですが、ボリューム的には表題である「山ぎは少し明かりて」、祖母にあたる佳代さんの話が半分以上を占めます。

    ただ、孫の世代から遡って話が進んでいくゆえに、結末がわかっているもどかしさもある。
    (ただ、いかにも令和の女子大生、都の人間関係に躓くところから話が始まるゆえにすっとストーリに入っていけるようにも思える。令和版・西の魔女が死んだ的な)

    都会に憧れて補償金で西洋風の家を立てて村から脱出することを夢見た母親目線の2話目では、ダム反対運動のリーダーをつとめ、最後は行方不明となった父親が、なんというか悪い意味でいかにも「活動家」に映る。
    そして行方不明の父親は最後に白骨遺体が見つかり終わる

    一方で、3話目、祖母の世代の話。これは日中戦争前ののどかな村の風景から始まり、恋心を抱いた幼馴染の出征を見送り、出稼ぎの劣悪な工場で妹は結核を患い亡くなり、絶望的な村の状況の中で、出征から戻ってきたガキ大将の彼は本当に村の希望のように描かれるんですよね。それは、ダム戦争のリーダーにもなるのも納得だ、と。
    祖父にあたる彼の描かれ方が輝かしい分だけ、その結末を知っているからこそもどかしくなる。

    なんとなく1話目を読んだときの「おばあちゃん」の印象と、3話目の佳代の印象が合わないなぁ、と思っていたら最後はまさかの結末でした。

  • 心の奥の柔らかい部分に触れてくる素晴らしい話でした。
    私の家族にダム建設の地質調査をしている者がいます。
    ダムを作る側から言わせれば、それが正当なことかもしれないけれど、そこにはかつて自然があって村があって生活していた人がいるという事実を忘れがちです。
    佳代と孝光が、描いていた未来が戻ることなく、悲しい結末を迎えてしまったこと、残念で悔しくてなりません。
    『瑞ノ瀬の人間は、故郷を愛していた。先祖を敬い、大地に感謝し、山に与えてもらった恩を返そうとする心を忘れなかった。
    俺たちは皆、その小さな幸せを分かち合い、融通しあい、ささやかながらに誇りを持って暮らしてきました。』
    あの世で佳代と孝光が再会して幸せでありますように。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。東京大学在学中の2014年、「夢のトビラは泉の中に」で、第13回『このミステリーがすごい!』大賞《優秀賞》を受賞。15年、同作を改題した『いなくなった私へ』でデビュー。21年、『十の輪をくぐる』で吉川英治文学新人賞候補、『トリカゴ』で大藪春彦賞受賞。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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