- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093867214
作品紹介・あらすじ
生きることは、まだ許されている。
明治18年初夏、瀬戸内巽は国事犯として徒刑13年の判決を受け、北海道の樺戸集治監に収監された。同房の山本大二郎は、女の話や食い物の話など囚人の欲望を膨らませる、夢のような法螺ばかり吹く男だった。明治19年春、巽は硫黄採掘に従事するため相棒の大二郎とともに道東・標茶の釧路集治監へ移送されることになった。その道中で一行は四月の吹雪に遭遇する。生き延びたのは看守の中田、大二郎、巽の三人だけだった。無数の同胞を葬りながら続いた硫黄山での苦役は二年におよんだ。目を悪くしたこともあり、樺戸に戻ってきてから精彩を欠いていた大二郎は、明治22年1月末、収監されていた屏禁室の火事とともに、姿を消す。明治30年に仮放免となった巽は、大二郎の行方を、再会した看守の中田と探すことになる。山本大二郎は、かつて幼子二人を殺めていた。
「なあ兄さん。
石炭の山で泣いたら
黒い涙が出るのなら、
ここの硫黄の山で涙流したら、
黄色い涙が出るのかねえ」
【編集担当からのおすすめ情報】
直木賞受賞(『ともぐい』新潮社刊)後、第一作!
「地獄に光が差したとして、仮初めであってもお前はそれに手を伸ばすのか」
――河崎秋子
ブレイク作『絞め殺しの樹』に連なる、大河巨編!
河崎節が冴え渡る、圧巻の長編監獄小説!
感想・レビュー・書評
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人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ!!
人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!
・・・と叫ばずにはいられない。傑作でした!
明治初期(西暦1885年)。北海道の監獄に収監された男ふたりの物語。
彼らは絶望せず、人としての矜持を失わずにいられるのか?生きて、この地獄から出られる日は来るのか?
始めは『ショーシャンクの空に』的な、大脱走モノか?と思いながら読んでいた。
はたして物語の行く末は・・・?
序盤は、酷寒の「樺戸集治監」での過酷な労役と、主人公である瀬戸内巽(せとうち・たつみ)の人間的成長が描かれる。
彼は東京から送還された20歳そこそこの甘ちゃん坊やだったが、年上の大二郎と相棒となり、監獄の日々を耐え抜いていく。
前半の核は、巽と大二郎の関係性だ。
おしゃべり、ホラ吹き、剽軽な大二郎は、巽にとって心許せる相手となっていく。地獄を生き抜くのは一人では無理なのだ。
しかし、大二郎にはどこか人を煙に巻くようなところがあり・・・。
そんななか事件が起こり、彼らの文字通り「鎖で繋がれた関係」は終わりを迎える。
ここから物語は一気に面白さを増し、ある種ミステリー的展開へと進む!
すべての真相が判明し、最後の一文まで読み終えたとき、あなたにも生きる勇気がきっと湧いてくるはず。
やるせなさと切なさを抱えていても、それでも前を向く、そんな勇気が。 -
明治18年、瀬戸内巽は国事犯として13年の判決を受け北海道の樺戸集治監に収監された。
囚人として過酷な日々が始まったが、同じ鎖に繋がれ作業を共にすることとなった大二郎は、いい加減で、軽妙で、法螺吹きだがひ弱な癖に底の深さを感じさせた。
この2人を無言で見つめている冷静な中田看守も気になる存在だった。
さらに過酷だったのは2年も硫黄採掘に従事するため釧路集治監に収監されたときだろう。
毎日何人か亡くなるのが普通にあり、そのなかで大二郎も目を悪くする。
その後、大二郎が火事とともに姿を消し、巽が囚人生活を終えた後…
中田看守と再会した巽が大二郎の行方を探す。
すべてが明らかになったとき石に込められた思いを知ることになる。
けっして真実を言うこともなく姿を消した大二郎の思いは計り知れない。
命を削る過酷さに耐えながらも報われない思いは、何の罰だというのだろうか。
最後の最後まで希望もなく藻屑となる非情さに言葉も無い。
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超長時間の過酷な労役。弱った者は凍死するような粗末な環境。看守からの暴力が常態化した風紀。そもそも囚人に悔悟や贖罪の念を促すという考えさえ欠けた、まるで使い潰しても構わないといわんばかりの扱いだ。当時の政府側の人間が囚人をどう見なしていたかは『愚か者~』の冒頭に引いた山縣有朋の文書にも端的に表れている。
【「小説丸」新刊著者エッセイより抜粋】
明治18年 、国事犯として北海道の樺戸集治監に収監された青年 瀬戸内巽。参考文献にはたくさんの樺戸集治監に関する書籍が挙げられいましたが、北海道開拓の為に集められた囚人たちの劣悪で過酷な状況の描写に「これは罪を犯したらあかん」と震えるほどでした。
そんな中でも主人公の巽がくさらず、しかも娑婆に出たあかつきには自分を裏切った父と兄に復讐してやるとまで考え生き抜いていく姿が、物語の前半部分で心折れずに読み進められた1つだと思います。
あとは、巽とともに収監され 巽と鎖で繋がれることとなった大二郎。そして2人を見張る中田看守。この2人がとても魅力的な人物だということ!でしょうか。
2人を殺めた罪で捕まった大二郎は法螺話で囚人たちを楽しませ 口から出る話は何が本当の事なのかはわからないような男です。しかし大二郎の存在は巽が監獄で生きていく支えになっていくし、また大二郎にとっての巽もそんな存在だったろうなと思えます。
そんな2人を見張る中田看守は 冷静 冷酷 能面づらで感情を読み取ることの出来ない男。看守としては優秀で 看守は天職とも言える人間です。この中田看守がなんとも!いい!(相手に畏怖の念を抱かせるほどの一重ってどんなん?かっこよ)
巽と大二郎が樺戸集治監よりも酷いとされる「硫黄採掘」へと移送させられることになり、監視役として同行した中田とともに 春の吹雪に見舞われ遭難しかけるシーンが…いいんです(そればっかり)。生死を彷徨う体験をした3人に絆が生まれたか?と思うような…。 でもその後の中田看守は相変わらずの能面づらで最高です。
絆といえば、馬や犬などを縛り付ける綱って意味や、自由を縛る手枷 足枷(こちらは「ほだし」って読むのかな?)って意味もあるみたいで 巽と大二郎には良い意味も悪い意味も当てはまりそう。
物語が俄然 面白くなるのは、大二郎が脱走してからだと思います。
巽と同じく大二郎に「裏切られた」ような気持ちにもなり、また脱走した本当の意図も知りたい!となり。
それは中田看守も同感だったようで、刑期を終えた巽と中田は協力して大二郎を捜すことになります。
あぁ…( ノД`)
もうため息しか出ません。
大二郎の人生って何だったんだと…。ブクログのY氏なら天を仰いでしまうことでしょう。
大二郎が大事に隠し持っていた綺麗な石の意味と、脱走の真実が明らかになる時に、中田の心が揺れ動く場面が好きで、物語の前半に 今の中田を形成したと思われる生い立ちエピソードが数ページあるんですが、そこを読み返しちゃうくらいでした。
直木賞受賞作の「ともぐい」を始め 数々の受賞作品がある河﨑秋子さん。私はこの本が初の河﨑さんでしたが 読めて良かったです!
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ひまめろ先生!ありがとうございます!
ひまめろさんは馬好き・_・)φ_
ひまめろさんは狼・_・)φ_
男はオオカミなのよ的な?ひまめろ先生!ありがとうございます!
ひまめろさんは馬好き・_・)φ_
ひまめろさんは狼・_・)φ_
男はオオカミなのよ的な?2024/08/20 -
2024/08/20
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2024/08/20
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ここはJAPAN版アウシュビッツなのかい…?!
主人公巽とキーパーソン大二郎が途中で移送された硫黄採掘場での過酷な労働。ついそう思ってしまった程に劣悪な労働環境。
ホロコーストと一緒にしてはいけないのですが、当時の杜撰な捜査で罪人となってしまった冤罪の人間もいる訳で…。
ひ弱な現代人の私は3日で倒れるなと震えていた本作。
しかしその実はtomoyukiさんがレビューに書かれていた通り、人間讃歌でした。
時は明治18年。
巽は学生生活を謳歌しつつ、政治活動にも参加。ところが中央官察の制圧を計画した所属団体の策略により運悪く逮捕され、国事犯として13年の実刑が下されてしまいます。編笠を被り柿色の囚人服を着せられ船に乗り汽車に乗り辿り着いたのは北海道の樺戸集治監。周りは様々な犯罪者のごった煮。単なる学生だった巽は初心なままで彼らの中に放り込まれる事に。婚約者にも裏切られ落ち込んだのも束の間、ここを出たら復讐してやる、と怒りを生きるパワーに変えてしまう。凄すぎる。
私なら生きる屍と化してしまう。この彼とその後10年以上も相棒となる男が大二郎です。
口から産まれたような彼は飄々とホラを吹き、適当な話をしては過酷な労役で精も根も尽き果てた囚人達を笑わせていました。
ですが自身の事は一切話さず煙に巻いてどこか掴み所の無い男だと巽は評していましたが、やがて彼に救われている自分に気付く事になります。
割と序盤で大二郎が大切にしている石が出てきます。
光に翳すと中の水が揺らめいて綺麗だけれど何の価値もない石。驚きの方法で看守に見つからぬようにずっと隠し持っているので、よほど曰く付きの物なんだろうと予想していたら、予想以上に大切な物だった…。
大二郎…!!涙
あーもう天を仰ぐしかないわ。天を仰ぎすぎて首がもげるわ…
こんな事があって良いのか!!最後は救われたのかい?!そう信じてるよ?!大二郎…!!
でも推しは中田看守です(ゆーきさんに予想され見事に的中)
1人だけいつも制服の手入れを欠かさず、能面のように表情も変えず粛々と与えられた仕事を全うする。他の看守のように憂さ晴らしで囚人を虐める訳でもなく、かと言って囚人に気安くする訳でもなく、ただただ中立。
中立なので威張り散らしもしない。
巽と大二郎たちの移送中のトラブルで遭難しかけた時には、懐に忍ばせておいた饅頭を2人に分けてあげる優しさも。
この時の饅頭が巽にとってどれ程美味しい物だったのかが伝わって来て、思わずスーパーで食べれもしない黒糖饅頭を買いそうになりました。(すぐに影響される)
本書は9割が獄中での話です。なのに印象に残っているのは巽が外で労役をしていた際に眺めている田舎の景色です。馬に乗って「囚人さんありがとう」と屈託なく手を振る子供や、囚人たちにとっては命に関わる雪、広大な大地に沈んで行く太陽。
河崎さんは初めましてなのですが、細かい所まで丁寧に物語を紡いで下さるのでどっぷり浸れました。
極寒だがのんびりした景色が臨める大地から、2人は1日に2度は囚人が倒れる過酷な釧路集治監へ移されます。
大二郎ですら、硫黄のガスで身体を弱らせお得意の口八丁が鳴りを潜めてしまう。
しかし、ここでの経験が巽の心境に大きな変化をもたらします。
大二郎の犯した罪とは何なのか?
この石は大二郎にとってどういう物なのか?
何故、巽を裏切るような行為をしたのか?
まるで2人と共に獄中生活を送ったかのような重厚感の後に待っている終盤。
中田と巽と共に、我々読者も一緒にこの謎を解く旅に出る事に。
ここでも丁寧な風景描写に心惹かれますが、どんどん真相に近付くに連れて緊張感も増してきます。
集治監を信用出来ないと言う、以前に説法をしに来ていたお坊さんに会いに行った所なんかは辛い真実が次々に訪れて第1次天仰ぎの儀式に突入。(2度目は先程書いた大二郎の真実にです)
盛大に心が折れたままで迎えたラストシーンなのですが、なんとこのラストシーンで何故か私まで救われた気持ちに。
これは是非とも体感して頂きたいのですが、好きなラストシーンベスト10の中にランクインしました。
とにかく…良い…。人間賛歌だぁー!!
生きねば!と、某ジブリのような事を強く思った読後感でした。
ゆーきさん、めちゃくちゃ大好きなお話でした!ありがとうございます♪
さて本書を拝読してフランクリンの名著『夜と霧』を思い出した訳です。そこにも人は希望があれば生きていけるとフランクリンの実体験を元に書かれていました。
彼は同じく収容所に連行され生きているか分からない妻の姿を思い出して乗り越えました。
大二郎にとっての石がそれに当たり、巽にとっては大二郎が無意識のうちに希望となっていた訳ですね。
ちくしょー…泣けるわい!!-
ゆーきさんのレビューで、ちょっと重めの本かなと思っていましたが、内容は間違いなく重そうですね(^◇^;)
でも最後救いがあるのかな??だと...ゆーきさんのレビューで、ちょっと重めの本かなと思っていましたが、内容は間違いなく重そうですね(^◇^;)
でも最後救いがあるのかな??だとしたら読めるかも。
凄く面白そうだけど、この本も辛い時間が長い予感が。。。でもいつか読んでみたいです!2024/10/30 -
マキさん、辛いんですが、大二郎の飄々とした語りは聞いていて楽しいですね。でも労働中にとんでもないもの食べたりするんで、重たいのは重たいかな(...マキさん、辛いんですが、大二郎の飄々とした語りは聞いていて楽しいですね。でも労働中にとんでもないもの食べたりするんで、重たいのは重たいかな(^_^;)
それでも最後はめっちゃ良いんです(>_<。)ここも人によるかも知れませんが、ぁぁぁ…!!って天を仰ぎます!(語彙力…笑)
文庫になると思うので、その頃にでも是非♪2024/10/30 -
マキさん、辛いんですが、大二郎の飄々とした語りは聞いていて楽しいですね。でも労働中にとんでもないもの食べたりするんで、重たいのは重たいかな(...マキさん、辛いんですが、大二郎の飄々とした語りは聞いていて楽しいですね。でも労働中にとんでもないもの食べたりするんで、重たいのは重たいかな(^_^;)
それでも最後はめっちゃ良いんです(>_<。)ここも人によるかも知れませんが、ぁぁぁ…!!って天を仰ぎます!(語彙力…笑)
文庫になると思うので、その頃にでも是非♪2024/10/30
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惹きつけられる一冊。
舞台は明治18年の北海道。
理不尽な罪に問われた主人公の瀬戸内。
収監された厳寒の地で課せられる過酷な労役の日々を彼はどう生き抜くのか、瞬く間に物語に惹きつけられ囚われた。
目を背けたくなるほどの描写に逆に感じるのは人の命の強さ。
その強さに並行するかのように瀬戸内の心の中で存在感が増していく同房の山本、看守の中田がいい。
彼らの関係はまるで時に緩み時に張り詰める糸のよう。
その糸が切れた後の心かき乱される瀬戸内の細やかな心情が秀逸だった。
石の向こうに拡がる空虚さと解放のブレンドが何とも言えない。 -
明治18年、国事犯として樺戸集治監に送られた、巽
同時に雑居房に入れられた大二郎は、つかみどころのない男で……。
自分はこんな扱いをされる罪を犯していない、と思っている、巽。
法螺話をしては周りを和ませる、胡散臭くてお調子者な、大二郎。
北海道の監獄生活の過酷さが浮き彫りになったり、彼らの心の距離の縮まりを感じたり。
きつい中にも、ふたりの独特の支えあいが、救い。
さらに、看守なかでも特に職務に忠実で、決して馴れ合わない、中田。
決して相容れないはずの看守と囚人が、近づいたり離れたりしながら、奇妙な関係性を続けていく。
派手な出来事はないが、不思議と読ませられる物語。 -
暗い、臭い、理不尽、他にも負の形容詞がたっぷりの作品、めちゃ重かったぶん、読み応えも十分で一気に読んだ。明治時代、主人公は政治犯として無実ながら実の兄の密告で逮捕された巽。収監された樺戸監獄で同室の大二郎と心を通わせる。そして看守の鑑のような中田。この3人が物語を動かしていく。ヒール役の中田が変わっていく所が見もの。
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北海道開拓の闇を川﨑秋子は容赦なく描く。理不尽だ。希望もない。だが、抗い続ける人びとの生への執着ともいえる粘りが、残されたように感じる。
自由を手に入れる、というよりは、感じられるためにはどう生きていけばいいのだろうか…
最後のシーンを読んでいたら、『絞め殺しの樹』のこの言葉を思い出した。「他の誰にも、あなたの生き方に異を差し挟ませたくないのであれば。左様で、あるならば。私は、さようならと、言う他ありません」 -
明治の世、捨て駒で政治犯として北海道の刑務所に送られた武家の出のおぼっちゃんが同室になった、やたらと口が上手く、妙な石を大切にしている男。
他の看守と異なり、嘲笑うでもなく淡々と監視している看守。
3人を中心に描かれる、刑務所の苦しい日々。
音や臭いまで感じるような文章に引き込まれた。
やるせなくも、不思議とどこか透明感がある物語で、読み終えてタイトルを見返すと胸が詰まる。
後半一気に面白くなりますね!
じゃあ私はその饅頭をもらう役にしよ。笑
後半一気に面白くなりますね!
じゃあ私はその饅頭をもらう役にしよ。笑
ツェペリさん最高!笑
ツェペリさん最高!笑