ラジオな日々

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093877121

感想・レビュー・書評

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  • ■2007年5月読了
    ■説明文
    80年代ラジオ界を自伝的に綴るクロニクル
    70年代終わりに放送作家になった著者が綴る、「ラジオがきらきら輝いていた時代」の自伝的クロニクルです。海千山千のディレクターにしごかれ、売れっ子アイドルたちと仕事をし、アニメの特番で盛り上がり、そして…。松田聖子、伊藤蘭、横山やすし、大滝詠一なども実名で登場し、青春小説としても感動的な「80年代ラジオ・グラフィティ」。人気イラストレーター木内達朗のウォームなイラストをカバーと各章に配し、ヴィジュアル面でもあの時代の空気を伝えます。
    ■感想
    藤井さんとは1度(いや2,3度)電話でお話したことがある。数々の伝説的なラジオ番組を作った方にも関わらず、非常に穏やかな口調だった印象がある。この「ラジオな日々」は藤井青銅さんの自伝的小説である。が、制作者としての振舞い方、作家としての技術論のみならず、制作者の不安やジレンマが記されており、マスコミを目指す方にとって非常に参考になる指針が書かれている。

    私自身、マスコミという世界に身をおき15年以上になる。当時抱えた不安などはどこへやら。この本を読んで、初心を思い出すとともに襟を正した。藤井さんは、自分が担当することになったラジオドラマ番組をエアチェックして、何度も書き起こしをしてスタイルを学んだという。僕自身も似たような経験がある。大御所藤井青銅さんにもそのような時期があったのかと思うと、ほっとする反面、今俺はなんも努力してねーなぁとつくづく思う。

    僕はとにかく本を読むし音楽を聴くし、映画も見る。自分に常に何かを入れていないと、これでいいのか?とものすごく不安になるのだ。しかし、この本ではそんな事情をこう言い放つ。

    『やっかいなのは、本というものは沢山読んでいると、自分が何かをなしているような気になってしまう点だ。蓄積はしていても(それは大切なことだが)、創作はしていない。』

    図星である。
    「ラジオな日々」は、ラジオ黄金時代と呼ばれたラジオ局の活気や、その時代を担った制作者の立ち振る舞いを知るだけでも損はしない1冊である。一日で読破した。

  •  ぼくには放送作家としての師匠がいない。どこか作家教室に通った経験もない(なにせ、基本中の基本「ハコ書き」を知らなかったくらいだ)。だからドラマ脚本のノウハウは自分で見つけ、身につけるしかなかった。そこで、ぼくはひそかに(誰に対してひそかになのか、意味不明だが)「夜ドラ・ノート」というものを作っていた。
     このノートに、毎週オンエアされた他の作家のドラマのあらすじをメモする。そして「ここがうまい」「真似しよう」という良い点と、「この伏線は弱い」「ここはカットすべき」という悪い点を記した。自分の脚本の反省点だけではなく、先輩作家のドラマに対しても「ここが良くない」などと書いていたのだから、やはりこのノートはひそかにであったのかもしれない。
     実は、その「夜ドラ・ノート」が現在も手元に残っている。いま見るととても恥ずかし内容だが、駆け出し作家は作家はいったいどんなことを考えていたのか、抜き出してみよう。
     以下は脚本を書くためのノウハウなので、興味のない人は飛ばしてもらっていい。
    【男女の関係】
     この番組は、男女二人のみで進行する。なので、ここでは、男女の組み合わせのいろいろなパターンを書き出している。たとえば、
    1 恋人(知り合って間もない恋人・婚約中の恋人・ケンカ中の恋人・別れそうな恋人・親が許さない恋人・両親公認の恋人・偽装恋人・年齢差のある恋人……)
     ドラマ初心者(つまり、当時のぼく)は、登場人物に[恋人]という関係を設定すると、もうそれだけで満足してしまう。これで設定ができたような気になるのだ。だが、書いてみるとたいてい、もやもや輪郭のぼやけたドラマになる。
    「なぜだろう?」
     それはたとえば、婚約中みたいに親しげなセリフなのに、まだ付き合いの浅い二人の物語だったりするから、チグハグな印象を与えるのだ。当然のことながら、知り合った直後の男女と、数年たった男女とでは言葉遣いが違う。デートで行く場所も違う。ケンカのしかただって違うはずだ。どっちの方がより相手に惚れているのかでも違う。年齢差が大きければ、また違う。
     小説ならば、《二人は付き合い始めて三年》と書けばいい。ナレーションのあるドラマの場合でも、同様だ。テレビドラマなら、二人の見た目の年齢や服装で、それを細く説明することもできる。しかし、音しかないラジをドラマでは、それをセリフだけでやらなければならない。
     ぼくは、そこでようやく
    「そうか。それを表に出すか出さないかとは関係なく、作者の心の中では『どういう恋人関係なのか』をしっかり決めておく必要があるんだな」
     と気付く。(たぶん)ドラマ教科書の最初の方に載っていると思われるこんな基本に、ノートを作ってみてやっと気付くのだから、なんともお粗末な新人だ。

     ぼくは困って、すでに多く出ていた関連出版物ー小説、設定資料集、解説本などーを読み漁り、ようやく、おぼろげながらわかってきた。
    (ははぁ、そういうことか)
     世の中には、今もガンダム信者が多く存在する。ここでこんなことを書くと「わかってない」と怒られるのを承知の上で書くのだが、ぼくは、
    (つまり、このアニメは説明不足なんだ)
     と気がついた。
     制作者の頭の中にあるいくつかの大切な要素が、きちんと視聴者に伝わるように作られていない、と思えたのだ。最初から意図してなのか、あるいは時間的制約の中でやむを得なずなのかは、わからない。
     だが、そのおかげでファンは、不明な部分に対して過剰な思い入れと深読みをする。制作者はそれに応えて、欠けていた情報を後から出したり、あるいは後付でバックボーンを用意したりする。すると、
    「あれはそういう意味があったのか!」
    「深い内容だ」
     と感心される。これを何度も繰り返すと、さらに難解、重層的に見える。なので、ファンの周辺のマスコミ(つまり、ぼく)には、なおさら「わからない」となる。そして、そのわからないマスコミが伝える情報は、一般の人にとってはさらにさらに「わからない」と……。
     だいたい人というものは、自分にはわからないモノやコトの中に、実態以上に深奥な「ナニカ」を読み取りがちだ。難解なものを、その難解さゆえに畏れ、有り難がるという一面がある。特に日本人は、誤解を恐れずに言えば、宗教の教義もこれに近い。
     これは邪推だが、『ガンダム』のスタッフは途中からこの構造に気づき、その後意図して推し進めていったのではないか? 
     ぼくは、別にそれが悪いとは思わない。
    (そうか。そういう作り方も「あり」なんだな)
     と感心した。

  • 藤井青銅さん。
    オードリーのオールナイトニッポンの人だなぁーと、読み始めたんだけどラジオ界ですごい人なんですね。そういえば、伊集院光さんもラジオでちょこちょこ名前出されていたなぁ。いろいろ叩き込まれたって。

    とても、文章が読みやすい。
    簡単とか単純って意味じゃなくて、情報は密で濃いのだけど平常心で俯瞰的に書いてある。

    ゆっくり読むのがふさわしいスピード。

  • 青銅さんが放送作家になる経緯から放送作家として独り立ちするまでの日々を描いたもの。放送作家さんは番組作ってるだけあってアイデア豊富だけどラジオの放送作家さんがその世界を描いているものを読むのは初めて。

  • 藤井青銅氏が、放送作家(構成作家)としてスタートを
    切っときのエピソード集。
    1980年代初頭のラジオ局の雰囲気、
    そして、声優やアイドルなど
    現在活躍している人のデビュー当初の話などがわかります。

    パソコンやメールなどなかった時代。
    ワイワイガヤガヤと集まって作り上げていた時代。
    今、メールの文面だけでやりとりして、
    面と向かった「ワイワイガヤガヤ」が減ったのがいいのか悪いのか…

    ラジオは、画面を付けなくてもいい、難しけど可能性の多いメディアだ、
    ということが、よくわかります。

  • よく知っているアイドルタレントや、話題の放送作家さんの日常が、ちょっとだけ見えてきそうな話。実話?

  • 読み続けて行く内に、何か何処かで読んだ様な書き方だと、思いを巡らすと思い出した。藤井氏には失礼だが、景山民夫の「極楽TV」の構成をまんまパクッた感じ。あれは架空のTV局の流れを現実に即した書き方で書いた話、最後の部分、登場人物のビフォーアフターなど内容は別として、同じ。一寸気分悪い。

  • ラジオ番組とはこうやって作るものなんですね。声優さんたちがドラマとアフレコでは演技やマイクの位置を変えるというのが驚きでした。「音」だけで世界を作っていくのが面白かった。

  • この場所から夜に向かって放たれる電波の先で、無数の人々が耳を傾けている…駆け出し放送作家が、ラジオの世界で出会ったさまざまな個性的人物。海千山千のディレクターにしごかれ、売れっ子アイドルたちと仕事をし、深夜の「アニメ特番」で盛り上がり、そして…。ラジオがいきいきと輝いていたあの時代の空気をヴィヴィッドに伝える「80年代ラジオ・グラフィティ」。

      1 場違いの日々
      2 振り子の日々
      3 ドラマの日々
      4 アイドルの日々
      5 特番の日々
      6 始まりの終わり
      エンディング

  • 藤井青銅さんが、放送作家として放送業界に関わり始めてからの自伝のようなもの。
    80年代のラジオドラマ制作の話を中心に、ラジオ業界の裏側が書かれている。
    放送局は覚えていないけれど、昔ラジオドラマを聞いていた僕にとって、とても興味深く面白かった。
    2007.6.3〜6.4。

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著者プロフィール

23歳の時、第1回「星新一ショートショート・コンテスト」入賞を機に作家・脚本家・放送作家としての活動に入る。ライトノベルの源流とも呼ばれる『死人にシナチク』シリーズなどの小説のほか、数百本のラジオドラマを執筆。「バーチャル・アイドル」芳賀ゆいの仕掛けや、腹話術師・いっこく堂のプロデュースを手掛けるなど、メディアでの活動は多岐にわたる。最近では、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供している。

「2021年 『一千一ギガ物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藤井青銅の作品

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