羆撃ち

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  • 小学館 (2009年4月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (322ページ) / ISBN・EAN: 9784093878401

作品紹介・あらすじ

これほどまでに迫真に満ちたハンティングの記録があったでしょうか。著者の久保俊治はいまも北海道・知床半島で羆を追う孤高のハンター。20代の頃より羆専門のハンターとして活躍、猟歴40年以上を誇ります。アイヌ語で火の女神を意味する「フチ」と名付けた北海道犬を相棒に小樽から知床半島まで羆を追い駆けめぐります。さらにはアメリカにハンター留学もしてさまざまな体験をします。初著作とは思えぬ卓越した筆力で壮絶な猟の一部始終を活写しています。ワクワクするような冒険譚に加え、大自然の春夏秋冬を繊細に描写。そして心を打つ「フチ」との悲しい別れのシーン。つまり著者は言葉を持ったハンターなのです。端的に評せば戸川幸夫氏+北方謙三氏。質の高い新たな動物文学の書き手が誕生しました。

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

自然との対話を通じて、ハンターの孤独と覚悟が描かれた作品です。著者は北海道・知床半島を舞台に、羆を追う日々を壮絶に綴っています。緻密な描写が、まるでその場にいるかのような臨場感を生み出し、読者は彼の冒...

感想・レビュー・書評

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  • 今年の8月に北海道の羅臼でヒグマに襲われ亡くなった方がいたが、本書に出てくる標津はその近くである。札幌市内でもヒグマの目撃談がある中、他方で外野からは熊を撃ち殺すのは残酷だとか、人間と熊の関係性を改めて問われている。

    対話がないノンフィクションの本。いや、正確には自己対話、自然、犬との対話はあるが、人間同士の対話はほとんどない。その分、狩に集中するその緊張感のひとコマひとコマがまるで熊が踏みしめた雪の軋む音まで聞こえるような静けさと臨場感として伝わってくるのだ。

    狩で生計を立てる男。著者自身の話で、著者は令和の最近まで生きていたが、亡くなった。いつ、熊に殺められても仕方ない覚悟だったと、それは本書の中からも伝わってくる。

    静かな本だからだろうか、自己対話が中心となるストーリーテラーだからだろうか、物語に入り込み、気付くと、著者と共に熊や鹿を追っている。そんな本の世界の中で、一枚写真のように語りを撮っておいた。

    ー 下枝の張った太いエゾマツの下で、雨を避けてビバークする。焚火のかたわらで、飯のメシを分け合って食べる。砂糖湯を飲みながら、私の脇に背をもたせかけているフチの頭を撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めるフチの顔を見ながら、またとない相棒を得たという思いがフツフツと湧いてくる。自分が訓練した犬が大きな熊を止めておき、それを至近距離から一発のもとに射止める。子供のころからのそんな夢に、また一歩近づきつつあることへの期待と予感が頭の中を駆けめぐり、シュラフカバーにもぐってもなかなか寝つけなかった。焚火の残り火が、強くなってきた風にあおられ、あちらへこちらへと揺れる。雨は止んだが冷え込んできた。

    詩的な文章で、本書の良さが凝縮されている気がしたのだ。

    ー 最後まで仔を守ったその姿を、決して忘れずに眼の奥に焼きつけておくぞ。嗅覚も聴覚も体力も、到底お前たちには及ばない。その及ばないことを補うために、銃を使わせてもらうが、自然の中では対等の同じ命であると思っている。俺が負けたときは、誰も山で見つけ出してくれないだろう。そのときは、自然の一部となり土に還る。その覚悟はできているつもりだ。

    • コルベットさん
      この本、私も昔読んでとても良かった…!と感じたのを思い出しました♡自己対話は、映像も音声も介在しない本というメディアが、最も得意とするところ...
      この本、私も昔読んでとても良かった…!と感じたのを思い出しました♡自己対話は、映像も音声も介在しない本というメディアが、最も得意とするところかなと思います。私自身の内面の声と重ねながら、深い読書が出来た感覚がありました
      2025/10/04
    • あぢまんがさん
      引用箇所があまりに気になった為近く購入して読みたいと思います。実用書で今まで勝手に参考にさせていただいていましたが、道民としてこれは気になっ...
      引用箇所があまりに気になった為近く購入して読みたいと思います。実用書で今まで勝手に参考にさせていただいていましたが、道民としてこれは気になって仕方ないでござんす…
      2025/10/04
    • Rafさん
      コルベットさん 
      確かに内面と向き合うような読書ができました。ソロキャンプとか一人旅とか、凄く深く入り込めるような読書で凄い良かったです。
      ...
      コルベットさん 
      確かに内面と向き合うような読書ができました。ソロキャンプとか一人旅とか、凄く深く入り込めるような読書で凄い良かったです。

      あぢまんがさん
      道民なら尚更オススメです。
      中々出会わない感覚の本でした。
      2025/10/04
  • Rafさんのレビューで気になり購入
    鉄砲撃ち(北海道ではこういう単語の方が浸透していると思う)のノンフィクション
    僕はたまたま同級生にハンターがおり、オリンピック程度の頻度でしか合わないのだが、飲みの席で聞くそれはあまりに僕の生活と違い大変興味深い

    この本の何が優れているか
    描写がとにかく細かく丁寧で本当に記憶を探っているのかとすら思ってしまう文体

    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    炊きたての温かい飯、トロロコンブの味噌汁、シカ肉の刺身を醤油につけて食べる。
    飯の後は贅沢に緑茶だ。茶碗に茶葉を入れ、湯をそそぎ、茶葉も食べてしまう。本当に心からうまいと感じる、そして食うもの飲むものすべてが体のすみずみまで力となって行き渡る感じがする
    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    孤独のグルメより遥かに上だろう
    何故なら1つ間違えれば命を意識することなく失う仕事の「当たり前の行動の中の安らぎ」のシーン
    説得力が違いすぎる
    まったく豪華でもなんでもないのにこのシーンは美味そうに見えて仕方ない。その手前では熊との五感を使った狩りのシーンであり、このただの夕飯シーンでわかるだろう、とにかく描写が細かいので自分がどこを歩いているのかすら体験できる

    さすが樽商卒ハンター(他にいるのか…?)

    熊一頭、シカニ頭、キツネニ◯頭、エゾライチョウニ◯羽で80万円ほどになる

    なんて記述も急に現れ、ただの垂れ流しノンフィクションと違う、脳内補完を固めてくれる要素も細かくくれる

    いや、これ
    ノンフィクション本と言ってしまったら簡単だけど作者の行動が文字になっているというか
    都会のハンターが視界が悪すぎて諦める森に入る作者のシーンだとか、心情描写と色と音と視界(足跡、糞)を細かく書かれているのでなかなかない読書体験ですよこれは すごいわ
    のちに狩猟犬を飼うことになるのですが、手汗がすごかった。
    ブクログで知り読んだ3冊目、ハズレ無し

    • Rafさん
      早速、読まれたのですね!
      狩猟犬のストーリーも見どころ多く、この世界観は中々他の本では味わえない、狩人独特の感性なのですかね。
      ハンターのご...
      早速、読まれたのですね!
      狩猟犬のストーリーも見どころ多く、この世界観は中々他の本では味わえない、狩人独特の感性なのですかね。
      ハンターのご友人がいるのは羨ましい限りです。
      2025/10/17
    • あぢまんがさん
      Rafさん ありがとうございますm(_ _)m
      著者がプロフェッショナルにも出演されていたと知りそちらも拝見しました
      感性が優れた方だと映像...
      Rafさん ありがとうございますm(_ _)m
      著者がプロフェッショナルにも出演されていたと知りそちらも拝見しました
      感性が優れた方だと映像で再確認。しかし本当にハンターなのかと思うほど文章良かったです
      2025/10/18
  • 昨今、熊の出没が多発し様々な被害が伝えられている所(熊多発出没県)で生活している自分であるが、久保氏の熊と対峙するハンターしてのビリビリとした緊張感から、自然との距離の取り方・味方につけさせ方等々を考えさせられた気がする。自分のいまの生活とはかけ離れている久保氏の狩猟人生ではあるが、自分中に眠っていただろう動物的な喜びや何ともいえない爽快感を感じる瞬間があった。

  • いやいやいや。
    これは面白かった。
    久々に一気読み。

    猟だけで暮らしたい。
    そんな作者が
    猟だけで暮らし、
    猟犬を育て、
    アメリカで学び、
    牧場を営む。

    一つの夢を叶え、また次の夢に向かって歩む
    その作者の心意気がとても素敵な作品。
    猟で得た獲物を大切にし、
    綺麗に分けて無駄の出ないよう最大限に生かす姿勢も本当にかっこいい。

    男なら、こんな生活に憧れるんでしょうね。

    でも、それだけでなく、
    アメリカに渡って本場を見、自分の生きていく道を決めたところも人間らしいし、
    もう一頭犬を飼い、その結果自分の甘さに気づき
    深い後悔を背負うところにも
    共感できる作品。

  • 北海道の「本物の」猟師による半生記。
    猟師としてのドキュメントに加え、
    「優れた羆猟犬には一生涯に一度めぐり会えるかどうか」と
    いわれる程難しい、羆猟犬とのエピソード。
    さらにはハンティングの本場アメリカへの
    単身修行記と、ただでさえ魅力的な題材の数々を、
    見事な文章で表現に昇華させている。

    やはり何かに秀でた人の文章というのは
    巧拙をこえて心に迫るものがある。

    久しぶりに良い文章を読んだ、という気がした。

  • 日本で唯一の羆ハンターである著者の自叙伝。北海道に住み、大学を卒業してから40年間、最初は一人で、数年後からは猟犬「フチ」とともに羆、鹿をはじめとする動物と闘う日々を過ごす。また、狩猟の本場アメリカにも修行に出かけ高い評価を受けている。若い時の著者は専業プロハンターのため、自然動物に近い繊細な感性を持っている。その著者が表現する北海道の大自然の風景、気象状況、動物の動きの描写は絶妙で、犬とともに雪をかき分け羆を追いかける風景がありありと浮かんでくる。マタギと同じく、斃した動物たちに感謝し、皮、肉、内臓に至まで、そのほとんどすべてを無駄にすることなく活用するといった自然とのつきあい方にも感銘を受けた。一般社会と距離をおき生活する人間の生き様を知る感動の一冊である。

  • 北海道でプロの猟師だった著者の半生が書かれた本。
    狩猟生活について、作者のの実体験がとても興味深くて新鮮だった。
    探し追いつめていく過程、研ぎすまされていく感覚におどろく。
    その鋭さを持っての観察力と予測はほんとうに見事で感動する。

    大自然を深く知る作者の経験からあふれ出てくるような自然の描写がとても良い。誰かの書評で森の中にいるようだと言っていたそうだけれど、とてもよくわかる。
    そして五感を働かせひたすら目標に向かっていく猟をする作者がうらやましいような憧れるような気持ちになった。

    羆は多くの人にとってはあまり縁がないが、おそるべき自然の驚異だと思う。
    土饅頭のくだりは本当に怖かった。

    作者は狩猟をするにあたり、獲物の命に対して敬意をもっている。
    芯の通った誠実さを感じた。

    そして忘れられない、猟犬フチとの生活を書いた何章かについて、うまく言葉にできない。一生のうちで出会えた奇跡ともいえるフチ。
    気持ちが入り込んでしまった。
    自分もフチのことが愛しい。
    猟犬としての賢さ、優秀さが嬉しい。
    そして命あるもの、別れから逃れられないことがただただ悲しい。
    最後は涙なしには読めないのであった。

  • 実話である、ということが更に感動します。フチというアイヌ犬との出会い、羆を倒すその1点にかけて過ごす日々。自然への畏敬、自然の一部としての自分。今となっては望むべくもありませんが、あこがれの生き方です。

  • 自然に対する畏敬。中型日本犬はいいね。

  • 山中の香りや湿度、獣の息づかい、火薬と血の匂い。羆猟を追体験する。かっこいい本だ。こんな風に生きられる人間を心から羨ましく思う。
    節目の読書だった。

  • 羆撃ち
    羆を撃って生計をたてる
    山に籠もり羆の気配を追い仕留める
    命をかけたやり取り、向き合い、緊迫感が迫ってくる
    相棒となったアイヌ犬、フチとの絆、信頼もとても伝わってくる
    何と言ってもフチ、かわいい

    2023年、羆出没の多さ、人が襲われる事件もあり
    羆のことが知りたくて読んだ本
    1975年あたりのことが書かれている本書
    時代が変わっても羆が強くのは変わらず
    生身の人間では敵わないことを肝に免じてどう距離を取っていけるか 考えねば

  • 羆ハンターの話である。途中から育てたアイヌ犬フチの健気さや可愛さに惹かれ、心揺さぶられる。
    羆の生態について詳細に綴られており、これまでは単純に怖いだけの存在であった羆が、以外に臆病でよほどの事がない限り人を襲う事はないのだとわかった。(但し時期や子連れかどうか、また人を襲った事があるかないか等細かい事により状況は大きく変わるが…)

  • 文学

  • 生き物や自然への畏敬の念がにじみでる描写が素敵。

  • 幼少の頃から実父に猟の手ほどきを受けた著者は、大学卒業後、猟
    だけで食べていくことを決意して、山での生活を始めます。獲物の
    肉や皮を換金して生計を立てる暮し。ウサギ、キツネ、シカなど何
    でも獲りますが、一番の狙いは羆。著者が目指したのは、タイトル
    の通り「羆撃ち」だったのです。

    一人で山に入った著者は、あらゆる兆候を手がかりに何日もかけて
    獲物を追いつめて行きます。執念深く獲物を追うその行為は、獲物
    を倒すことよりも、獲物と同化することを目指しているかのようで
    す。実際、殺気が出ると獲物に感づかれてしまうため、できるだけ
    獲物のことを考えないようにして、間合いを詰めていくのです。

    獲物が何をしたか。何を感じたか。人間としての痕跡を出来るだけ
    消し、シカや羆に近づこうというただその一心で山を歩き続ける中
    で、著者の五感は覚醒し、普段は見えないもの、聞こえないことが、
    感じられるようになります。そして、獲物と同化し、周囲の自然と
    一体となった時に初めて、「予感」が「予兆」に変わるのです。

    命を奪うからこそ命の重さを知っている著者は、獲物に対して全て
    の責任を追う覚悟を持って引き金を引きます。そして、命が消える
    その瞬間までじっと獲物を眺め続けるのです。それが死にゆく者に
    対する、著者なりの畏敬の念の表し方だからです。

    獲物の腹を裂き、内蔵に手を当てて「痛いほどの熱さ」である命の
    温もりをもらう。取り出したばかりの心臓を食べ、その鉄臭い命の
    味、ほとんど苦しむことなく死んだ野生の味の旨さを全身で味わい、
    自らの血肉に替える。それは獲物の「生きていた価値、生きようと
    努力した価値」から、恩恵をもらうということです。そして、そう
    やって恩恵を得た者が誰よりもその価値をわかるからこそ、その価
    値が充分以上に発揮できるように、丁寧に獲物を扱うのです。

    猟とは、命の価値の交換なのだ、ということに本書を読んで初めて
    気付かされました。全て価値あるものは、交換される時に初めてそ
    の価値が実感されます。命も例外ではありません。自らの死が、他
    をどれだけ生かすことにつながるか。それがその命が生きてきたこ
    との価値になるのです。だからこそ、死は無駄に扱われてはならな
    い。ちゃんと生きてきたことの価値が十二分に発揮されるように扱
    われなければならないのです。

    生きている間は、他の生命の価値が最大限に発揮できるように努め、
    死ぬ時には他に惜しみなく与える。死にゆく運命にある者は、そう
    やって命を交換しながら、生きることの価値を発揮していくのでし
    ょう。この命の価値の交換関係にこそ、いかに生きるかの真実が隠
    されているのだろうと思いました。

    学ぶこと、働くこと、生きること、教えること、育てること等、あ
    らゆることのヒントに満ちた一冊です。是非、読んでみて下さい。

    =====================================================

    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    耳に残っている仔熊の鼻声を思い出しながら、自分に言い聞かせた。
    引き金を引くということがいかに重大かということを。それは、獲
    物に対して、すべての責任を負うということだ。すべての責任を負
    う心構えを持って弾を獲物に送り込もう。急所を狙って一発で斃せ
    るように。

    時間の観念が次第に消えていく。感覚が研ぎ澄まされていくと、木
    の葉が散る音、葉の茎が枝から離れる音さえも聞こえる気がする。
    いや、実際に聞こえるのである。それらの音をやり過ごし、ひたす
    らに身が周囲に同化するように待つ。

    シカの動きを知るには、自分がシカになったつもりで何日か徹底的
    に歩いてみるのが一番だ。

    一つのことだけに心を奪われすぎずに、あたり一帯に均一な緊張感
    で注意を払わなければならない。特に目を見開いて探すより半目に
    して見るほうが、微かに動くものでも目の隅で捉えやすい。

    ナイフを取り出しシカの腹を裂いた。その腹腔に凍えてかじかんだ
    両手をもぐりこませて温める。シカの最後のぬくもりが、痛いほど
    の熱さで両手に染み込んでくる。私はそのまましばしの間じっとし
    ていた。最後の温もり、生命の温もりの全部を両手にもらった。

    生きるということの凄さ、生きようと懸命に努力する姿を目のあた
    りにすること、それが猟の一番の魅力なのかもしれない。

    シカは生命の温もりで私の凍えた手を温め、うまい肉となって腹に
    おさまり、私の生命に置き換わってくれた。あのシカが生きていた
    価値、生きようと努力した価値は、そこから恩恵を得た私が誰より
    もわかり得るのではないか、そんな気がした。この充足感が、私の
    求めていたことの一つであることがわかったとき、狩猟だけで生活
    することへの確固たる自信へとなっていた。

    旨い。手負いで苦しんだり興奮して死んだ獲物に比べて、苦痛や恐
    怖をほとんど感じることなく斃された動物の肉はこれほどに旨いも
    のなのか、とあらためてその違いに驚かされる。

    美味しく食べられるように大切に扱わなければならない。それが死
    んでいった動物を生かすことになるし、彼らに対する礼儀だと思う
    からだ。ただ獲るのではなく、いかにして獲るかを心がけよう。

    重い。この重さは羆の命の重さかもしれないと思う。(…)斃され
    た命を決して無駄にはするまい。運びきって、生きてきた価値を俺
    を通して発揮させてやるのだ。そう自分に言い聞かせながら歩く。

    自然の中で生きた者は、すべて死をもって、生きていたときの価値
    と意味を発揮できるのではないだろうか。キツネ、テン、ネズミに
    食われ、鳥についばまれ、毛までも寝穴や巣の材料にされる。ハエ
    がたかり、ウジが湧き、他の虫にも食われ尽くし、腐って融けて土
    に返る。木に養分として吸われ、林となり森となる。森はまた、他
    の生き物を育てていく。誰も見ていないところで死ぬことで、生き
    ていた価値と意味を発揮していく。

    だから私は、斃し方に心がけ、解体に気を配る。肉となって誰に食
    べられても、これは旨いと言ってもらえ、自分で食べても最高の肉
    だと常に思える獲り方を心がけ実行しなければならない。斃された
    獲物が、生きてきた価値と意味を充分以上に発揮するように、すべ
    てを自分の内に取り入れてやる。私の生きる糧とするのだ。
    山での姿も、撃たれ斃れていった姿の細部までも目の奥に焼きつけ、
    決して忘れないでおこう。それが猟で生活しようと決心した者の、
    獲物の命に対する責任の取り方だろう。

    猟犬はどんなに素質が良くとも、主人の技量と心以上には育たない
    ということがわかった。猟犬を育てる側は常に技と思考の向上を目
    指すことが必要となる。

    だからこそ猟に対する考え方をしっかりと維持していかなければな
    らないと己をきつく戒める。気を抜くと簡単に心を見透かされてし
    まう。そこそこの仕事だけをして、ずるを決め込むような犬になる
    ことが怖い。私の猟に対する姿勢がその程度だとフチに思われるこ
    とが本当に怖い。良い素質を持っていればいるほど感覚が鋭いのだ
    から、ごまかしはきかない。

    脆く壊れやすい、しかし私にとっては望めばすべてがあり、与えて
    くれたのが自然であった。獲物が、山菜が、川には魚が、厳しさが、
    優しさが、そして夢と冒険がそこにはあった。脆く壊れやすく、儚
    そうで強い自然だからこそ、その中にどっぷりと浸かりきってみた
    い、自分の野生を確かめてみたかったのだ。その自然からは貪るよ
    うなことはするまい、と常に自分に言い聞かせてきたはずであった
    のに、気付かぬうちに楽をして多くを望んでしまっていた。
    驕りであったのか、油断だったのか。いつのまにか自分が最も戒め
    ていたはずの自然から貪ろうとする卑しい根性に取りつかれていた
    のだ。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ●[2]編集後記

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    一月の終わりに手術した父の予後が思わしくなく、一週間の入院の
    予定が、三週間目に入っています。この二週間、病院に通い続けて
    いますが、病院というのは、本当に色々と考えさせる場所ですね。

    ベッドに縛り付けられていることに対して父親は苛立ちを隠せませ
    ん。もともと文句の多い人でしたが、病院に行く度に、嫌味や小言
    を言われるのは、それだけ不安でストレスを抱えているということ
    でしょう。気を回して何かをしてあげようとすると逆に怒られるか
    ら、何もせずにただベッドの横に座って、とりとめのない話に付き
    合うように心がけています。

    父の嫌味を聞きながら、本当に自分は、父の期待にも希望にも沿わ
    ない生き方をしてきたしまったんだなあとしみじみ考えます。この
    期に及んでも「息子は失敗作だった」と思わせるような生き方をし
    てしまったことを申し訳なく思い、そういう親子関係しか築けなか
    った自分を反省しもしますが、もう今更取り返しはつきません。

    だから、自分は娘や息子とどんな関係を築くことができるのか、と
    思いを馳せます。「猟犬はどんなに素質が良くとも、主人の技量と
    心以上には育たない」と今回ご紹介した本の中にありましたが、本
    当にそうだなあと思います。子ども達は親の「技量と心」を見透か
    す力を持っています。「その程度か」と思われるような生き方にな
    ってしまうのは本当に怖い。そう思われないように生きることが、
    子ども達への責任なのだろうと思うこの頃です。

  • 20120526 人と動物の物語。素直に感動できる。今度山に行ったら今までと感じ方が変わりそう。

  • 射止めた羆(ヒグマ)の腹腔内に溜まった血に、かじかんだ両手を突っ込み温める。まだ脈を打つ羆の命の息吹を感じると共に、温かさから生命を引き継ぎ、彼が生きてきたことを忘れない。
    ランニング後のポカリからですら生の潤いを感じるのに、数週間かけて極寒の山中で山の主を対決した後の肝臓は、どんな味なのだろうか。

  • 土の臭い、風、音、五感を刺激する山での狩猟本。久々に熱くなりました。

  • 北海道にただ一人の熊撃ち(マタギ)
    雪深い山の中で、わずかな兆候を探り
    熊と対峙する主人公は、アイヌのように
    自然を尊ぶ姿勢で好感がもてます
    木々が風にゆれ、小さな雪塊が転がる
    様子が文章から伝わり、kitanoも幼少の
    ころさんざん彷徨った「山」の世界に
    誘われました

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