さわり: 天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093882156

作品紹介・あらすじ

女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」、その数奇な人生。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 「ノヴェンバー・ステップス」と言えば、作曲家・武満徹の代表作であり、日本の現代音楽の大傑作でもある。

    1967年にニューヨーク・フィルの委嘱により作曲された琵琶・尺八・オーケストラのための楽曲で、琵琶奏者・鶴田錦史、尺八奏者・横山勝也、指揮・小澤征爾によって初演された。

    サントリーホールでこの3人(+新日本フィル)の演奏を聴いた時は、琵琶の鶴田錦史という人は男性だと単純に思ったが、割と最近この曲について調べていて初めて女性であることを知った。驚いた。しかしいでたちは紋付き袴であり、どう見ても男装である。これはどういうことなのか。気になってさらに調べてみると、この本に行き当たった。

    琵琶の天才少女と言われながら、やがて運命に弄ばれるようにして子らを捨て、琵琶を捨て、女であることも捨てた。強面の親分さんのような風体を身に纏い、後半生を「男」として過ごしたのである。新興喫茶やナイトクラブのような事業を次々と成功させ、財をなした。その後、琵琶に戻るとその再興を期して奔走した。そして武満と出合い、オーケストラと競演し、世界的評価を得るに至る。その火の出るような生き様ゆえに、紡ぎ出される音にも凄まじいものがあった・・・そんな物語が綿々と綴られていくのである。

    「さわり」とは琵琶独特の音質をつくるものであり、弦が棹に「触る」ことだと思うが、「障り」に通じるともいう。例えばギターのような「ポーン」という音ではなく、「ビーン」という音、すなわち耳に障るようないわば雑音をわざと含ませることにより、複雑でより自然の奥深い響きを作り出すのだという。この辺も、前に読んだ「密息」の本に出て来る尺八の音作り、ひいては日本古来の感受性にもつながる話であり、面白い。

    なお、琵琶という楽器が昭和初年の芸能の主役であったことや、その後人気奏者の死や戦後の洋楽の席巻などによって急速に衰退していく風景も興味深かった。

  • 本との出会いは不思議。もともと乱読の気はあるものの、なんで「琵琶師」の評伝を読もうと思ったのかは定かではない。(唯一言えるのは、小学館の新聞広告がうまかったのだということ。装丁[特にひらがなのフォント]が目をひいたのだと思う。)
    読む前は、存在すら知らなかった女性にして男流琵琶師の物語。確かにこれは数奇な人生だと思う。しかも、記録の数は少なく、評伝とするには非常にタフな対象だったのでしょう。その中で筆者は良くがんばりました。
    端的には「すげぇなぁ」という印象だけど、身にしみる一文もあり。読んで、新たな世界も知れてよかった。
    だから読書はやめられない?

  • 天才琵琶史「鶴田錦史」の生涯についての紹介本。
    写真からすると、すんごいおっさん。
    が、女性(!)と聞いてビックリ、驚愕、え!?って感じ。

    バーンスタイン、小澤征爾、武満徹ともからみ、天才奏者でありながら、実際は一度挫折して実業界で名を成してから、また戻ってくるという、とても数奇な人生。

    いやーこういう日本人がいたんだな、という点では面白かったが、なんでか兎に角読みにくかった。
    興味としては★4つだが、読みずらくてマイナス★2という感じ。

  • 武満徹のルポでノヴェンバーステップスの琵琶奏者として登場して気になった人物だったので読んでみた。
    鶴田本人の価値軸として美醜が重要でそれがコンプレックスになっているらしいとはいえ、著者の書き方や冒頭の写真の置き方も人の容貌に焦点があたりすぎていて古臭いしつらい。芸能人は人気商売だから女性なら容姿がモノを言うのは止むなく、美人の師匠の二番手に甘んじ無ければならなかった不本意さがこの人のパワーになっている。とは言えテレビはなかったのだから今よりは芸の道でやりようはあったと思うのだが。美人の師匠も当時ならではの悲惨な境遇ながら、魅力的な人物として描かれており、その面でも勝てない気持ちだったかも。
    ホンキで事にあたることの素晴らしさを実感させてくれる人物。
    戦前の日本の音楽状況が戦後とまるきり違うことが発見でき意外だった。

  • 琵琶奏者、鶴田錦史の伝記。(並行して武満徹の随筆を読んでますが)武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」を演奏した人です。すごい人です。少女時に天才琵琶奏者として名を馳せ、20代に夫と別れ子を捨て、琵琶を捨て実業界で成功し、更に女を捨て男として生き、そして再度、琵琶奏者として琵琶の新たな地平を開いて行く。キース・ジャレットと共演したこともあるようです。そのときのCDないのかな、、、

  • さわり

  • 琵琶の特徴的な響きは、「さわり」と呼ばれれている

    さわりは、弦が振動しながら楽器の一部に微かに触れることで生まれる

    琵琶の伝来は7,8世紀頃
     宮中で奏でられる楽器 楽琵琶となり、雅楽の楽器として現在に至る
     一方九州では琵琶演奏を生業とする琵琶法師が現れる
     9世紀 盲僧琵琶
     12世紀 薩摩盲僧琵琶
     13世紀 平家琵琶 語り物
     16世紀末 薩摩の戦国大名 島津義弘 薩摩琵琶 武士のたしなみ
     19世紀初め 薩摩藩 士気高揚のため琵琶を奨励
     明治に入り、薩摩人が上京すると、薩摩琵琶人気が東京にも伝わり始めた

    昭和20年8月26日 性の防波堤 RAA recreation amusement association

    石田琵琶店 明治11 初代石田不識によって神田に開かれた

  • 「鶴田錦史は、前半生で三つの生き方を捨てた。
    一つは「母」としての人生。
    二つめは「音楽家」としての人生。
    三つめは「女」としての人生。
    しかし、彼女は捨て去った三つの人生のうちの一つだけ取り戻した。
    音楽家としての人生だった。」

  • 本書は武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」の作曲に協力し、1967年11月にリンカーンセンターでの初演を担当した琵琶奏者である鶴田錦史の人生を描いたノンフィクションである。とにかくすごい人生だ。しかも、この振幅の激しい個人を描きながら、昭和史としても読み応えのあるものになっている。(岡ノ谷一夫)

  • 鶴田錦史女史の評伝。
    戦前の琵琶の大流行、戦記ものを得意としたところから、戦争中にはもてはやされたこと、また戦後は逆に疎まれた歴史などが書きこまれていて興味深かった。
    そんな時代の渦中で琵琶の世界を革新的に生き続ける鶴田氏の情熱と才覚と、そして努力が簡素な筆致で書かれていた。
    琵琶と尺八の描写で、武満徹氏の世界もまたよく理解できる、というすぐれた1冊でした。

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著者プロフィール

1964年、兵庫県尼崎市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、様々な職歴を経て、1993年、フリーライターとなる。学研『大人の科学マガジン』などでサイエンス・ライターとして、日経BP社『日経ビジネス』、日本経済新聞社『日本経済新聞電子版』などでビジネス・ライターとして活躍し、現在に至る。2010年『鶴田錦史伝―大正、昭和、平成を駆け抜けた男装の天才女流琵琶師の生涯』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。『さわり』として刊行。

「2022年 『台湾流通革命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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