音の糸

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 144
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093885256

作品紹介・あらすじ

静かに響きわたる、著者初の音楽エッセイ

小学生の時に友人の家で聴いたカラヤンのレコード、中学校の音楽室で耳を傾けたブラームス、日曜朝のFM放送、故郷でストーヴを焚きながら聴いた灯油の臭いのするカセットテープ、大学生になって、抽選で当たって訪れた“はずだった”、あるピアニストのコンサート……。
音の記憶の糸をたぐり寄せ、絡まった糸を一本ずつ解きほぐしていくと、そこには何が見えてきたのであろうか――。
《音の糸は音の意図。場合によっては神の意図にもなる。翻弄されるのはつねにこちらのほうであって、だからこそ音楽との一対一の関係に適度な緊張が生まれてくる。どんなに絡まり合っていても、それが音楽にまつわる身分証明である以上、むげに断ち切ることなど、いまもこれからもできはしないだろう》(本文より)
50篇で綴る、音楽と記憶の断片。


【編集担当からのおすすめ情報】
この本には、およそ70曲におよぶ楽曲が綴られています。読み進めると、それらが頭の中に微かに鳴り響き、音源を探してみたくなるかもしれません。そしてまた、自分なりの音楽の記憶の糸をたぐり寄せたくもなるのではないでしょうか。

感想・レビュー・書評

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  •  音楽の勉強のために何か読もうと探していて、どうせなら素敵な文章で書かれたものが読みたいなと選んだ一冊です。

    子供のコロナワクチン接種のために小児科に行った待ち時間に読み始めたのですが、数ページでその文章の魅力の虜になってしまいました。
    そして、待合室で、子供に、「文を書くのが上手い人が人をディスると、こんなことになるのよ。」と、思わず一節を音読して聞かせてしまいました。

    例えばこんな文。

    ※歌手フィッシャー・ディスカウについて
    今の私なら、やや大きめの地方大学で体育学か運動生理学を教えている、アーチェリーの元欧州選手権銀メダリストに喩えたりするだろう。しかし少年の日に抱いたのは、「スタートレック」のカーク船長を少し太らせるとこんな感じかなと言う、じつに馬鹿げた思いだった。

     面白いのと、的確な言い回しに感動するのとでない混ぜになり、よくわからない高揚感に包まれながら読みました。

     伴奏のプロだったジェラルド・ムーアが引退コンサートで弾いた独奏『音楽に寄せて』(この演奏聴いてみたくて探したけどわかりませんでした)を聴いて作者は、

    ※角がまったくない、すべてを包み込むやさしい情熱に満ちた音。できることなら、いつか自分の言葉をこういう音に近づけてみたいと、私はひそかに夢見ている。

    と書いています。もう十分に私は作者の言葉に酔いしれています…と言いたくなりました。

     他にも、[スペインの太陽から熱抜いたような、曇りのない少し冷えた音を出す人]など、惚れ惚れする喩えが沢山ありました。

    個人的には前半が特に面白く、一番好きなのは,「ラの音」というお話でした。

  • 音楽エッセイといっても、音楽そのものより、音楽にまつわるいろいろ、思い出とか、音の話とか、だったので、疎いわたしも楽しく読んだ。「なくてもよいのに存在してしまった哀しみ」とか「腫れた耳朶で迎えた朝のこと」とかタイトルだけできゅんとすることもできる(内容はきゅんじゃなくて、たはーって感じのもあるけど。)。わたしの一番は「ラの音」。

  • 著者の手繰り寄せる音楽にまつわるエピソードに、こちらも絡みとられました。レコード1枚買うのが大冒険だ学生時代のエピソードから、大人になってからの音楽体験まで、なんだか不思議な世界でした。そしてかなりのクラオタ。これは凄い

  • ただただ単純にこの人の書く文章が好きだ。

  • 音符にさえ似たうつくしい言葉の連なりがそこにあり、ただ身を委ねてさえいればいい。ディートリヒ=フィッシャーディースカウが、カラヤンが、正しい場所に導いてくれる。そんな感覚をもたらしてくれるクラシックを材に取った底抜けにうつくしい随筆集。

  • 後半の吉田秀和とのエピソードが印象に残った。

  • 一編一編は短いのに、それぞれ音楽が鳴っているような素敵なエッセイ群。フランスでの体験はもとより、著者が子どもの頃通った”レコード”店、レコード、演奏家について、著者らしい静かな一歩引いた視点での文章が続く。最後の一編に最初ののエッセイが見事につながっていて、一つの音楽を聴いたような感慨に浸った。装丁も素敵なので文庫化されるならこの装丁を活かして欲しい。とはいえクラシックに疎い自分は残念ながら文章を読んで取り上げられた音楽がすぐ頭になることがない。クラシックに詳しい夫に「ブラームスの交響曲第一番、ミュンシュのパリ管ってわかる?」と尋ねたら「わかる」と即答。

  • 筆者と音楽との関わりを綴ったエッセイであるが、音楽をどう言語化するかという観点で、たいへん興味深く読んだ。
    やや詩的な表現に傾きがちなところはあるが、それはそれで楽曲の持つひとつの特徴を表現していると言えよう。
    特に前半のエッセイでは、ほぼ同時代を過ごしてきた者として、昔を懐かしく思い出した。
    後半の吉田秀和氏のとこを訪れる段は、筆者の吉田氏への尊敬の念が微笑ましく、吉田氏の語り口がその場に蘇ってくるようであった。

  • 堀江さんの作品はどれもはじめから古書のような雰囲気があるなあと思っていたら、その根底にはクラシック音楽が流れていたのか。

  • 音が聴こえてくる。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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