ゴーマニズム宣言SPECIAL パール真論

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  • Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093890595

作品紹介・あらすじ

東京裁判で唯一「日本無罪」を主張した判事による「真理の裁き」。1235枚に及ぶ東京裁判への「反対意見書」に心血を注いだパール判事の「法廷の闘い」とは。

感想・レビュー・書評

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  • この本は「難しい」。

    著者の小林よしのりは、確かに語るべきことを余すところなく語っています。

    だけどその論述は中島岳志批判が中心になっています。ですので、結局パール判事の「真意」とその歴史的な位置づけをどう捉えるべきか、という核心にもうちょっとのところで届いていないのです。

    この本の「難しさ」は、その点にあります。

    パール判事が正義だと考えたのは、ひとことで言えば「法律をそのまま素直に用いること」です。

    単純な話です。法律の条文を、何も書き加えず、余計な解釈も挟まず、事実にそのまま適用すれば、判決というものは出てくるはずです。

    もしも、ある事態に対してある法律が適用されようという時に、その法律について拡大解釈などの余計な解釈が施されている場合は、これは法律の適用の仕方として間違っている可能性があります。

    例えば、人を殺せば罰せられます。

    ならば、昆虫を殺しても、罰せられるでしょうか。

    ここで「人も昆虫も生命があるのだから、昆虫を殺しても罰せられるのは当然」というふうに勝手な解釈をしてはいけません。

    法律で決められているのは、「人を殺せば罰せられる」ただそれだけです。昆虫を殺したら罰せられるとはどこにも書いてありません。だから昆虫を殺しても人は罰せられません。ただそれだけのことです。余計な解釈を加えることは、この場合、正しくありません。

    パール判事がやろうとしたのは、こういった「余計な解釈の排除」です。

    勝戦国だろうが敗戦国だろうが関係なく、当時の国際法を、起きてしまった事態に対してただひたすら愚直に適用させる。ただそれだけのことだったのです。

    戦勝国をいたずらに批判するのでもなく、日本に同情するのでもなく、当時の国際情勢と日本の内情を冷静に見つめ、それに法律を適用させたらどうなるか? という問いの結論を出したに過ぎません。

    もしも、日本があからさまな国際法違反を行っていれば、おそらくパール判事はそれを躊躇なく違法と見做していたことでしょう。

    もしも、人道的・道徳的な観点から「良くない」と思われるようなことでも、法律で決まっていない限りはそれを罰してはいけません。むしろそうした、言葉でスッキリと決めることの出来ない人道的・道徳的な善悪をスッパリと断ち切ったところにこそ、法律の正義は成立します。

    何故パール判事がそのように「法律の正義」にこだわったかというと、恐らく弱肉強食の国際情勢を乗り越えるには、このような法の下の平等というものを徹底するしかないという思いがあったからでしょう。

    そう、軍事的な力関係で言えば、全ての国家が平等であることは、ありえません。

    だけど法律の下であれば、誰しもが平等でいられます。

    このような平等さや公平性を確保するには、法律というものが、その時代の強者によって強引に、恣意的に用いられるのではなく、合理的に、数学的にスッキリと割り切れる形で用いられなければなりません。

    だからパール判事はそれを目指したのです。

    小林の「パール真論」には、このような法律の運用に関する解説がほとんどありません。全くないわけではないけれど、あくまでも中島岳志批判に終始している印象で、隔靴掻痒という印象が否めません。

    ですので、この本は奇妙な「難しさ」を含んでしまっているのです。

  • 大学の基礎ゼミのレポートで『パール判決書は「日本無罪論」になりうるか』というテーマでKさんが書いてきた。大体の内容としては東京裁判が勝者による敗者への復讐であったという形式は非難すべきものだが、日本が戦争でこれこれといった犯罪を犯したことを白日のもとに曝したことは評価すべきであり、日本を無罪とすることは極論であるということであった。なんとなくバランスが取れてる内容だったので、なるほどね、という感じで―僕としてはこの手の話に興味があるので―とりあえず参考にさせてもらった。
    そんで、書店にこの本が並んであるのを見つけた。さっそく立ち読み・・・・予想通り日本無罪肯定論。しかも「東京裁判を否定しておきながら一部肯定とは暴挙である!」とかましていたので、ほうほうなるほどみたいな。完全にKさんを否定してる。今回はわりと文章攻めでパール判決書の解説もあったので、買い。読んでみて、おそらくシリーズ中もっとも面白くないことは疑いようもない。ていうか、漫画はぶいて文章だけ載せてくれればよかった。
    全編に渡って中島岳志を始とする『サヨク』の主張するパール判決書解釈への批判がなされており、より広い資料をもとにパール判事の人間性・思想まで踏み込んだ分析によるアンチテーゼな解釈は説得力を持つ。確かにこの本を読む限りでは『サヨク』の主張する解釈は穴だらけである。小林よしのりさん(以下敬称をはぶく)は「中島の解釈はパール判決書を自分の都合のよいように切ったり張ったりした誠に不正確な解釈である」とする。だが、以前読んだ『脱ゴー宣』を読む限り、それは小林お得意の手法でもある。だからたとえ説得力を持っているところで、僕はいったいなにが正しいのか全く判断できずにいる。ためしにKさんのレポート(ちなみに参考文献は全て小林が『サヨク』とよぶ論者のものであった)とこの本に書いてあることを比べてみたが、小林の指摘の鋭さが優っているものの、指摘されていない部分も多く、自分としてもやはり何か合点いかないところがある。判決書の解釈は双方疑わしいということだ。
    小林作品は読むにあたって、普段以上にメディアリテラシーという言葉を意識しなくてはならないと思う。もちろんなんにしてもそうなのだが、漫画を活用した斬新な言論であるために、特に注意を要する。現に小林作品に感化された人間は概してリテラシーが低い。小林作品から得た知識がほとんど全てといった感じである。小林も意図的なのか知らないが自分の作品だけを信じるように読者を促すシーンがよくある。「学者どもは権威主義に浸ってるから信用ならない、わしの作品を読め!」というように。
    確かに権威主義は日本に蔓延る悪習であり、ゴーマニズム宣言はその全編にわたってその権威主義に対し戦いを挑み続けたし、それはほんとにカッコいいことで、僕も大いに影響を受けた。しかし、最近、自分と違う意見のものをすべて権威主義と見なしているような気がしてならない。独立した事象をすべて結びつけて、権威主義を作り出しているような気がする。それに、権威主義を否定する一方でパール判事を聖人化権威化(本人は否定しているが、読み手にしたらそうなってる。それは国語力の問題とかではなく漫画としての表現の問題である)して議論の余地を無くしてゆく、いやむしろ自分が権威になろうとしているような印象さえ受ける。そしてコロコロ立場が変わるようになってきた(変わらないのは反権威主義という主張)。本書6章にいたっては結論を除けば9条肯定論にもなりうる。
    これに対抗するにはやはりパール判決書を自ら読むしかない。小林作品だけ読んで中島批判というのはあってはならない。その逆もまたしかりである。

  • ケンカを売った中島先生にも問題はあるが、大人げなく、対話も拒む小林先生にも問題がある。本書の疑問にほとんど答えてない本だが、2年後に出た、中島・西部『パール判決を問い直す』を読んでから、書いていたら、もっと違った内容になったのでは?中島先生が、可哀想過ぎる。まあ、中島『パール判決書』にも、本書に書かれたような問題はあるにせよ・・・。

  • 極東軍事裁判の猿芝居的判決に対し、パール判決書は少数意見にとどまらず唯一人専門家としてA級戦犯を私刑に等しい有罪にしたのを叱っている。その声は’67年に亡くなった80歳生涯の何十倍も後世まで届くであろう。亡くなる前年にでた朝日新聞社『共同研究パル判決』は長大な解説で、《無罪論証》を打ち消そうと努めているが、論説は「事後法だから無効」にとどまらない。侵略を是とする《共同謀議》は既に議会主義の日本にありえないし、戦争犯罪は連合国側がむしろ多かった…。
    一方的に日本を断罪したことによりスターリンや李承晩、毛沢東(その模倣者のポルポト)が増長し「戦後」は大悲惨な事態となった。

  • 純粋な法律家として法に則り裁判に臨み、判断するをした。それが理解できればスッキリ理解出来る。

  • 非常に面白かったです。
    パール判事とは如何なる人物であったのか良く分かりました。

    日本においての「憲法改正」論議に対して出来るだけちゃんとした理解や考えを持ちたくて大東亜戦争とその前後史に興味を持って数年前から色々と読むようになりました。私たちの祖先達が体験した本当の歴史を知るほどに現在の日本人の多くが失くしてしまっている何かをしっかりと取り戻さなくてはならないのだと感じています。
    これから少子高齢化で日本は世界で一番先に未体験ゾーンへ突入してしまいます。
    大変革が始まる前に自分たちが進むべき道を考える上で歴史をしっかり理解していくことはとても大事なことなんです。
    もっともっとしっかり勉強したいと思います。

  • 第二次世界大戦における日本に対する極東軍事裁判いわゆる東京裁判において、判事の中で唯一日本に対し無罪判決を主張したインドのパール判事のことを書いた漫画。最近パール判事に対するデマを流す本が発売され、これに対する反論を展開する内容となっている。著者はこれまでも部落問題・薬害エイズ・オウム真理教・いわゆる従軍慰安婦・教科書問題等々様々な問題に新風を吹き込み、それまでの常識を覆してきた。今となっては信じられないことであるが地下鉄サリン事件が起こるまでオウム真理教を擁護していた知識人が多数存在しており、著者がこれらと戦っていたことが思い出される。色々敵が多い人であるが、ゴーマニズム宣言には多くの功績が有ることは間違いない。

  • 学歴は十分なのに、事実を誤認し、それをよしとする、アカデミニズムや権威主義に、漫画を通して論理的にチャレンジし、物の見事に看破するところが小林さんの真骨頂だと思う。
    漫画が論理性を頭だけではなく、心証として補足するところがすごい。
    文字を追っていくだけでは追いついていかない理解までが深まる。
    いろいろ小林さんの本をよんだが、パールの判決文という、当然ながら法律用語満載で、また難しい(+翻訳の限界もある)文献に取り組んで、よくぞここまで・・・と思った。

  • 太平洋戦争を見直すのにとても重要な漫画。
    日本に対する見方も変わる。

  • 極東国際軍事裁判(通称「東京裁判」昭和21年、1946年)の判決に対し、

    インドのラダビノードパール判事(1886~1967)を記した反対意見書(『パール判決書』)について、

    詳しく正しく描かれているとおもいます。



    読み応えは十分にありますよ。

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著者プロフィール

1953年8月31日生まれ。1975年、福岡大学在学中に初めて描いた漫画『東大一直線』が赤塚賞の最終候補で落選するが、雑誌に掲載され、大ヒットとなる。『東大快進撃』『おぼっちゃまくん』『ゴーマニズム宣言』など話題作多数。
●主な著書
『新ゴーマニズム宣言10』(2001、小学館)、『新・ゴーマニズム宣言Special 台湾論』(2000、小学館)、『新・ゴーマニズム宣言Special「個と公」論』(2000、幻冬舎)、『ゴーマニズム宣言9』(2000、幻冬舎)、『朝日新聞の正義』(共著、1999、小学館)、『自虐でやんす。』(1999、幻冬舎)、『国家と戦争』(共著、1999、飛鳥新社)、『子どもは待ってる! 親の出番』(共著、1999、黙出版)、『ゴーマニズム宣言 差別論スペシャル』(1998、幻冬舎)、『 知のハルマゲドン』(共著、1998、幻冬舎)、『ゴーマニズム思想講座 正義・戦争・国家論』(共著、径書房)、『教科書が教えかねない自虐』(共著、1997、ぶんか社)、『小林よしのりのゴーマンガ大事典』(1997、幻冬舎)、『小林よしのりの異常天才図鑑』(1997、幻冬舎)

「1997年 『ゴーマニスト大パーティー3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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