- Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093897525
作品紹介・あらすじ
関西の視聴率男の「心奥」を描く
2014年1月3日、歌手でタレントのやしきたかじん氏が食道ガンで死去した。関西を中心に活動してきた、いわば”ローカルタレント”である。
しかし、翌日の全国紙はその死を大きく報じた。死後2か月後にとりおこなわれた偲ぶ会の発起人には、安倍晋三首相、建築家・安藤忠雄氏など各界の大物が名を連ねるなど存在感の大きさを示した。
ただし、数多の追悼番組が組まれ、芸能人との交遊録も語られたたかじんだが、素顔はあまり知られていない。
なぜ東京進出に失敗し、その後、東京の番組出演を避け、さらには東京への番組配信すら禁じたのか。晩年、なぜ政治に接近し、政治家を生む原動力となっていったのか――。
取材で明らかになっていったのは、ある作詞家が「小心者で、優しくて、気の弱いおじさん。あの人は、やしきたかじんを演じていたと思う」と評したように、一見、剛胆にみえるたかじんのあまりに一本気で繊細すぎる一面だった。歌手」という自負があった。本書は内なる葛藤を抱えながら、自らに求められた役割を「演じ続ける」たかじんの「心奥」を、たしかな取材で描いていく。
感想・レビュー・書評
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中高生の頃、ラジオで鶴瓶さんと息の合った掛け合い漫才のようなトークを聴いて、大好きになりました。でも、いつからか、どちらかと言うと嫌いになりました。暴君のような振る舞いに目を伏せるようになりました。読んでみて、いかに気の弱いデリケートな人であったこと、コンプレックスの塊であったことが分かりました。決して幸せな人生ではなかったのかなあと感じました。私には人の幸せをとやかくは言えないですが。
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その昔、カラオケバーで「好きやねん」だとか「いちず」などよく歌ってた時期があったけど、関東在住ゆえ、関西の視聴率男という側面は全く知らずにいた。在日という出自と東京での挫折を強烈なコンプレックスとして生涯抱え続けながらも、ローカルヒーローとしての生き様を貫いた姿は清々しくもあり、痛々しくもある。
橋下大阪府知事と平松大阪市長の誕生とその後の抗争のフィクサーだったという裏事情のくだりには驚かされた。 -
ゆめいらんかね やしきたかじん伝 単行本 – 2014/9/11
2016年3月10日記述
角岡伸彦氏によるルポ。
やしきたかじん氏の生涯を分析した本だ。
著者同様、自分もやしきたかじんを知ったのはTV番組の分析家、タレントとしてだった。
歌手と知ったのは随分後のことだ。
番組は確かたかじん胸いっぱいだった。
そんなやしきたかじんの若かりし日とはどんなものだったのか。
夢なり希望を見つけたらまずとことんやってみるという行動力の高さ。
この辺りは生涯において彼の人生を決定づける才能になったと思う。
たかじんの父が在日韓国人で名前を権三郎といった。
Gパンや音楽は不良のやるものだという認識の古さがあったそうな。
(とは言え、昔は音楽や漫画など新しい文化が正しく認知されていなかったのはなにもたかじん家だけではなかった)
いい友人をつくれ、いい本をたくさん読めというのが口癖の父親。
たかじんの買ってもらったドラムを捨てさせるなど昔の親父っぽいこともする。
一方で本屋で世界文学全集などをつけで購入しても何も言わないなど教育熱心でもあった。
後年、30代のたかじんに北新地のステーキハウスに呼ばれ黙って300万円を渡してやるなどいざこざはあれ常にたかじんを応援していたように思う。
龍谷大学を6年行き中退しているたかじんの学費は母親が出していたと言ってもそのお金はやはり親父さんの会社からのやりくりであろう。
権三郎氏の頑固親父ながらの愛情が幾重にも見えてくる。
そんな親父さんとの会話では常に敬語だったのだというたかじん。
TV画面のたかじんを思い返すと想像も出来ないが・・・・
引退するつもりでのぞんだフェスティバルホールでの大阪大衆音楽祭。
そしてそこでのグランプリ獲得。
なんというドラマチックな一場面であろうか。
TVタレントとしての開眼。
東京への乗り込みと挫折。
野田幸嗣マネージャーの解任劇。
再婚相手の智子氏によると、苦言、本当のことを言ってくれる人、対等に話ができる人を切っていった。
自分をちやほやしてくれるイエスマンばかりが残ってしまったと。
この辺は中小企業でも起こりがちな事であろう。
やしきたかじんの弱さを見た思いである。
以上のようにTV画面で知るたかじんのバックグランドが本書を通じて見えてきた気がする。
本書で残念なのは全て活字であること。
ルポなのだから全て活字はやめて欲しい。
特に昔の解説に関しては写真なども記載して欲しかった。
大阪大衆音楽祭の時の写真とか、マネージャーの顔写真とか。
当時の通っていた学校の写真とか。
あと可能ならたかじん年期みいたな年表もあればもっと良かった。
たかじんは仕事において手を抜くようなマネをするディレクターとは喧嘩をし時には殴打することもあったと本書にあった。
著者にももう少しそのたかじんの仕事ぶりを参考にし取り組んで欲しかった。
ルポとしての作り込みは不十分に思える。
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表紙いいっすね
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角岡さんの作品は2冊目のレビューです。角岡さんの本ということもあったのですが、「在日コリアン」というルーツの持ち主としてのやしきたかじんに最近興味が湧いてきたというのも購入のキッカケです。
とはいえ、私自身、生まれも育ちも東北なのでこれまでやしきたかじんについては全くと言っていいほど馴染みがありませんでした。2、3回程度どっかで名前を聞いたくらい。それも、「過激な発言をする、関西中心にしか活動しない、テレビ司会者」くらいの把握。歌手だということを知ったのはこの本に触れてからです。この本を読みながら、「ゆめいらんかね」をYouTubeで検索して、初めて歌声を拝聴させていただきました。ハキッとしてよく通る、朗々とした美声ですね。確かに上手い。司会についても動画で見ました。絶妙なツッコミで、彼が喋るたびについついくすりと笑いを誘われます。アウトローな雰囲気を醸し出しながら、それでいて中々、人と向き合う姿勢に熱量、優しささえ感じる。
視聴率取れるのもわかります。こういう人がテレビに居たらついつい食い入るように見てしまいますよね。
そんな感じで、私にとっては亡くなってからよく知るようになった大物芸能人やしきたかじんについての評伝、本日読了です。
非常にストイックな人だというのがよく伝わってきました。また、テレビではあけすけに、ざっくばらんに語っている一方で、沢山の心の闇を抱えながら生きてきた人なんだなぁというのも読み取れます。胸が苦しくなるような生き様だと思いました。決して出自のことだけではないと思いますが、相当のコンプレックスを抱えながら必死に生き抜こうとした人だと思います。
たかじんが隠した出自とされる西成区の辺りは、一度ふらっと歩いたことがあります。この本にも書かれている通り、確かに遊郭、ドヤ街、被差別部落と、中々ディープな要素が密集した独特の雰囲気の街です。ただ、私は歩いてみて、日本では希少になりつつある、非常に下町風情を感じる良い街だと思いました。人と人とのつながりの温かさがあちこちに、濃厚に残っているということでは、良い意味でディープな街のようにも思います。端的に言えば、実に人間臭い。ああいう良さを、同じ大阪でありながらなぜ隠さなければならなかったのか。なぜそこまで、コンプレックスを抱えざるを得なかったのか。親友に
「俺の親父は韓国やねん」
ともらして涙を流す時、たかじんの心の内にどういう思いが渦巻いていたのか。たかじん自身がどういう被差別体験を受けたかというところは殆ど書かれていません。想像するに、おそらくは学校でいじめを受けたとか、そういうことがあったろうと思いますが、具体的にどういういじめを受けたかは分かりません。だから、読んでいるこちらとしては、やはり想像の域を出ないのですが、むしろたかじん自身が、自らの出自に対して根深く差別的な眼差しを抱え込んでいたのだろうと思います。母親からの写真がテレビに映っただけでも、「ばれてもええのか!」と電話で怒鳴るというのは、コンプレックスはコンプレックスとして持ちながら、それを乗り越えるという方向ではなくタブーとして封じていくような強烈な差別を内面化していたとも思えます。
まぁ、「ややこしい」ですね。私も読んでいてそう思いました。 -
たかじんの人生を追憶するのは、非常に疲れる
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図書館に予約して半年以上待った。
やしきたかじんのファンだった頃があった。コンサートやテレビ収録にも行ったことがある。でも、いつからか政治的な志向が全然違うことに耐えられず、テレビも全く見なくなった。この本には、本人に政治に関する確たる志向はないというようなことが書かれていたのだけれど。
前妻、娘、新旧マネージャーなど、よく取材されていて、興味深かった。ただたかじんの出自や性格などに関しては、薄々感じていて、そういう面での驚きなどはなかった。ファンならみんなそうなのではないか。
スターっていうのは孤独なものなのだなあと、改めてありきたりの感想を持った。 -
『殉愛』のせいで百田とさくら未亡人を取り巻く話題ばかりになってるけど、これは純粋にたかじんの生涯を丹念に綴った一冊。
生まれも育ちも関東の自分は、寡聞にして彼のことは全然知りませんでした。
西成生まれの在日だという出生から始まり、ミュージシャンとして売れなかった頃の話。
ラジオのトークが認められてタレントとして成功したこと。
ミュージシャンとして成功する前にタレントとして成功したせいで、ミュージシャンとしては悩みがつきなかったこと。
東京には3度進出したものの、いずれも上手く行かずに大阪に根を張ったこと。
売れる前から京都や北新地でお金を湯水のように使って、そのせいか私生活ではうまくいかなかったこと。
番組に対しては鋭い現場感覚と徹底したプロ意識で、数多くの看板場組を持つようになったこと。
けど、そのせいで政治にも関わるようになったこと。
他にも色々印象に残る記述がありました。
一言で言えば愛すべき暴君だったのかと思います。
不世出のタレントの死に合掌。 -
時々文章が引っかかる。
それから今喧伝される「やしきたかじん」という人物の評伝にしては薄いような気がしたが、それは死後の利権の行方による取材拒否のせいか。
複雑なたかじんの個性と、それに対しての著者の反発が伝わってくる。なのでちょっとたかじんに対しての愛が薄いように感じられる。しかし、もしかしたら今後、一周忌明けて口を開く親族や、その他の関係者の取材も取れて、もっと深い愛憎をとらえた改訂増補版が出るのかもしれない。期待したい。