銃口 (上)(小学館文庫) (小学館文庫 R み- 1-1)

著者 :
  • 小学館
3.90
  • (59)
  • (57)
  • (71)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 569
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094021813

作品紹介・あらすじ

昭和元年、北森竜太は北海道旭川の小学4年生。納豆売りをしている転校生中原芳子に対する担任坂部先生の温かい言葉に心打たれ、竜太は教師を志す。竜太の家は祖父の代からの質屋。父、政太郎は侠気の人で、竜太が中学生の折、工事現場から逃げ出した朝鮮の青年、金俊明を匿い、ひそかに逃がしたこともある。日中戦争が始まった昭和12年、竜太は望んで炭鉱の町の小学校へ赴任する。生徒をいつくしみ、芳子との愛を育みながら、理想に燃える二人の背後に無気味な足音、それはこれからの過酷な運命の序曲だった。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • まずは上巻を読了する。

    幼き時の体験を大きくなった時、教師と言う形で具現化する竜太。
    やはり時代背景が大戦前でもあることから、思ったことを伝えにくい世の中、教育勅語が基礎となる時代背景であるが、そんな中でも教育の重要性を探求する竜太には脱帽もの。

    ふるいにかける真似はせず、むしろ貧しくても皆と共に同じ様に教育を志せる姿に、今の時代でもこんな先生に教わりたいものと、深く思い直しました。

    “研究授業”の章が気に入った章であり、教頭や校長の鼻を明かしたり!と思いましたが、まさかの賛同者である木下先生の左遷には驚きました。
    腐ったオトナによる腐った人事、それでもそこでまさかの小山光子先生の臨時ニュース。これにも一本取られた。
    どの登場人物も清く潔い姿には、好感しか覚えない。

    そんな上巻を後に、下巻に移ります。

  • 読後に知ったが、フィクションだった時点で少し興覚め。
    ただ同時に、三浦氏の遺書的な作品ということも知り、キリスト教をお仕着せするようなこともなく、氏が読者に伝えたかったことは純粋にこういうことだったのかなぁと思いながらどんどん読み進められた。

    内容としては連載小説ゆえ仕方ない面もあるが、同じ記述の繰り返しが多く、全体としても冗長過ぎるきらいがあった。

    細かいところでは、木下先生が校長の意向に背きつつ数年間も左遷されなかったのは無理がある(戦前だったら、親が政治家でもない限りあんな真似は出来ないはず)。

    また逆に、タコ部屋から逃げてきた金が、どういう形で朝鮮に帰ったのかが描かれていないことに不満が残る。
    ※下巻であれほどまでに重要な役割をするのだから…

  • 勉学も趣味だとする竜太は優等生だが、自分の思想や信念を読者や思索から深めるのではなく、小学校の恩師を行動規範とし、自らもそうありたいという願いから教師になる。しかし、その純心さや素直さが危険にも映る。倣う対象を間違えてもそれが正しいと思ってしまいかねないからだ。言論・思想統制が強まって行く中で子どもたちの範となるべき教師になってからも、竜太は理不尽に声を上げられない。私もこの時代に生きていたら、きっと軍国主義に染まっていただろうと思うと背筋が凍る。教育とは本当におそろしい。子供は大人を見て育つものだ。大人の部類に入った今、私は改めて何が正しい生き方かを自分で選び、そしてその責任を他者に転嫁せずに自分で負っていかなければならないとおもう。そこではこれまで受けてきた教育から全く自由になることはできないにしても、誰かに何かを伝える•教えるときには自分が負う将来の責任にまで思い致さなければならない。竜太は一人一人の生徒を一番に思う教師にも天皇を第一に思う教師にも教わり、自由を謳歌する従兄弟や忍ぶ恋人がいて良かった。竜太は、学校で教わる抽象ではなく、具体に対して心が動くところにも素直な人間であることに安心する。

    日本の右に倣えの風潮は、この頃から今でも変わっていないと感じる。内容は普通のことでも、声を上げる者・異を唱える者は目立ち、奇異の目でみられるため、それよりも目立たずに理不尽なことには耐える方がマシだと思う人の割合は未だに多く、多様な考えの存在を前提に、自分の意見を発信し、他者の意見を聞くことの難しさはこの時代と変わりないからだ。そういう意味で、本書の面白さは、竜太を取り巻く、「非優等生」に類する多様な人物像を描いているところにあるようにも感じるのである。

  • 芦田恵之介の綴り方教育について、最近周りで少し話題になっていて、その流れで出会った一冊です。
    上巻での様子は、今の職員室とも重なる部分が多くて、坂部先生や木下先生に憧れ連なる竜太のようでありたいものだと若々しい気持ちになりました。
    なんとなくあらすじは知っていたのですが、うへぇどうなっちゃうのよ!という上巻の引きでした。

  • 久々に三浦綾子を読みたくなり、本書を手に取りました。
    もっとも、白状すると、三浦綾子の作品で読んだことがあるのは「塩狩峠」だけ(拙宅の書棚には「泥流地帯」「広き迷路」「病めるときも」の3作がありますが、いずれも未読)。
    「塩狩峠」は、人は命を擲ってでも信念を貫くことができるのか、そこに信仰はどう介在するのか。
    そんな作品だったと記憶しますが、とにかく何度も有責感を催し、胸を締め付けられたのだけは、はっきりと覚えています。
    あ、でね、何で、「銃口」かというと、道新の「ひと」欄で、このたび三浦綾子記念文学館の館長に就任した田中綾さんの記事を読んだから。
    田中館長は、最も影響を受けた三浦作品として本作を挙げていたのです。
    おおお、読まねば、と思って早速、懇意にしているアマゾンさんに云って取り寄せた次第。
    本作を読んでいる途中で、例の森友学園問題が出ました。
    結果的には、とてもタイムリーな読書体験になりそうです。
    レビューは下巻を読んでから。

  • 主人公の一生を見たお話だった
    どんな出会いにも意味はあるし、人との関わりを大切に、誠実に向き合うことがいつかの自分を助けてくれるのかもしれない

  • 良い

  • 戦時の旭川の新米教師の話。昭和25年に三国同盟、政党解体、国家総動員、配給制が始まるのに、日本国内の出来事ではないように受け止めた上、いずれ勝つでしょとの国民一般の意識。新聞や東大も国策に疑義を持つ者を排除し、決まったベクトルに進んでいく。。そんか中、キリスト教の博愛精神を持つ担任に憧れ、教師となった主人公。天皇万歳の校長、教頭の下、今後どうなるのか。当時の状況もわかるし、展開もよく、読み応えしかない。

  • 戦中〜戦後の時代背景で正誤の倫理観の揺らぎや、
    正しく生きるとは、というテーマも分かりやすく深く描かれています。

    ただ上巻から下巻の中盤くらいまではグイグイ読ませる勢いがありましたが、ラストに近づくにつれて、ストーリーの綿密さ弱くなり、ご都合主義的な印象を感じました。

    もしかしたら、もうその時はだいぶ体調を崩されていたのかな。

    とはいえ代表作というのも理解出来る、重要な作品だと思います。

  • 質屋の息子として特に不自由なく旭川で暮らしていた主人公の竜太が小学校のときに担任で出会った、愛に溢れ貧富とわず平等に生徒に接し救おうとする理想の坂部久哉教師、そして、クラスメイトの貧乏な芳子。
     神楽岡への楽しい思い出になった遠足をおこない、さびしい卒業式を経た竜太は坂部教師にあこがれて、同じく小学校教師になるために師範学校に通う。時代は日中戦争が終わる気配を見せず、治安維持法ができて日本の言論は教育界でも窮屈になっていく。三浦綾子らしい相変わらず狭い世界で、幼馴染がそのまま好きあっていく。竜太は窮屈な中でも、自由と個性を伸ばす創意工夫ある授業をつくりだしていく。そんな中、綴り方の勉強会に参加したことで、警察に同行されていく竜太、そこで前半が終了。
     ごく前半に登場してくる、たこ部屋から逃げ出した金俊明を家族ぐるみで庇ったことが、終戦直後に大きな芽をだして竜太を救います。

全46件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦綾子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×