ミカドの肖像(小学館文庫)

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  • 小学館
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レビュー : 44
  • Amazon.co.jp ・本 (887ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094023121

作品紹介・あらすじ

作家・猪瀬直樹の代表作にして原点!

天皇と日本人、伝統とモダン。近代天皇制に織り込まれた記号を、世界を一周する取材で丹念に読み解いた渾身の力作。皇居の周りにちりばめられた謎を一つ一つ解き明かし、物語はやがて世界へと広がっていく…。どうやって西武グループは皇族の土地にプリンスホテルを建てたのか? なぜ、オペレッタ「ミカド」が欧米人から喝采を浴びるのか? 明治天皇の「御真影」はどうして西洋人の風貌になったのか? 第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 強大な遠心力の働く日本の空虚な中心
    プリンスホテルの名を冠する西武系のホテルその命名の謎、19世紀ヨーロッパを席巻したオペレッタ「ミカド」、やんごとなき大君の御姿を衆目にさらすことになった「御真影」、「ミカド」をキーワードとした3つの柱を軸に、近代天皇制とは何かを考える。

    第1部「プリンスホテルの謎」
    西武グループ創業者堤康次郎は、戦中戦後を通して資産の管理に困窮した旧皇族たちの邸宅や土地を廉価で手に入れ、そこにプリンスの名を冠するホテルを建てることにより「どんな一流の建築家に委嘱しても手に入れることができないグレード」を大衆に販売することに成功した。土地をめぐる皇室と西武グループの密なる関係。

    第2部「歌劇ミカドをめぐる旅」
    19世紀ヨーロッパで人気を博したオペレッタ・ミカドは、死刑を愛好する残虐な独裁者・ミカドの治める「ティティプ」の町で繰り広げられる珍騒動を描く。世界の中心をヨーロッパに置く当時の人たちが、日本を未開の最果ての国として想像しどのように捉えていたかが見えてくる。

    第3部「心象風景のなかの天皇」
    世にもっとも知られている明治天皇の御真影は、西郷隆盛の肖像を描いたことでも知られる、イタリアからやってきた当時のお雇い外国人・キヨソーネの描いた肖像を再度写真として撮影したものであった。この御真影をめぐっても視えざる力が作用する紆余曲折があった。

     「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」(第1条)と日本国憲法に定義される天皇ですが、そもそも「象徴」というのは曖昧で非常に捕らえにくい。著者は、万世一系を守るやんごとなき天皇の御身ゆえ禁忌につつまれた皇居を、都心のど真ん中に位置し、「ひたすら効率を求めて突っ走る日本人にとって都合のよい象徴空間であり、あらゆる争点を呑み込む巨大なブラックホール」と例えています。

     しかし明治以来世界に向けて門戸を開いたこの国の中心となってきたのは紛れも無くこの核なき「空虚な中心」でした。そこには強大な遠心力が働いていてここから内外を問わず「ミカド」のエッセンスを帯びたかけらが飛散して行ったのだと思われます。「ミカド」をめぐる上記3本の柱は、本来なら一部ごとに一冊の本にできるほど緻密な考察になっています。互いに一見脈絡がないようにもみえますが、そこにあきらかにされた事実が実はそうしたかけらの一つ一つであり、同時に近代天皇制を縁取る1ピースになっていることに気づきます。

     本書は、この空虚な中心に直に手を入れて確かめることが不可能であれば、どんなに距離があろうとも確実にその周縁に当ると思われるこうした事実を、時間、空間に関わらず世界に取材して丁寧に拾い集めることにより、その像を顕かにしようという労作です。

     巻末に参考文献が列記されているのですが、古今東西ジャンルを問わず400冊にも及ぶその書籍のラインナップに圧倒されます。「空虚な中心としての近代天皇制を一つの像に結ぶ」というこの作業の困難さを想像するとともに、なんとしても遣り果せるという著者の執念を見たような思いに駆られました。

  • ・軽く手に取って読み始めてみたらとんでもない本だった。実際に天皇を語ることはせずに近代天皇制を語りつくした圧巻の一冊。皇居を見下ろすビルからプリンスホテル、ミカドゲーム、ミカドの街、オペレッタ「ミカド」、天皇御真影、富士山に浜辺と松のような日本の原風景(とされているもの)、と縦横無尽に駆け巡る。
    ・前半ではあまりにかけ離れた題材を扱う各章の展開に何が言いたいのかわからず投げ出しそうになったが、中盤まで読み進めるとこれは天皇制が放った光とその影を拾い集め、実際の天皇制を浮き彫りにしようという試みだということに気づかされた。
    ・猪瀬直樹の本はマンガの「ラストニュース」しか読んだことがなく、天皇制に大してどういうスタンスなのかが量れないまま、時に不快感を覚えつつ読み進んだ。読了した今となっては、その不快感は消え去った。ここまで真摯に天皇制について調べつくした男が左右どちらにいたっていい。
    ・本書は雑学としても興味深い内容が多い。プリンスホテルがすべて旧皇族の土地に建っているという事実、明治天皇の御真影はイタリア人画家の手による肖像画であったこと、欧米では日本人の知らぬ所でミカドと言う名のオペレッタが一般に広く知れ渡っていること(英国人の同僚も知っていた)、富士山を原風景とするような日本風景論という言論の展開があったということ、などなど。
    ・この本が昭和の終わりに書かれているというのも多少面白さを感じる。これを今皇居を見下ろす新丸ビルから書いているが、過去に東京海上ビルが120m以上の高さで設計した所100mを切る形でしか建設出来なかったという事実があった。今は丸の内にはるか100mを超えるビルが立ち並ぶが、この本の後いったいどういう変化があったのか。そこに本書が書かれた当時とは違う現代の天皇の肖像が見える気がする。

  • 著者の猪瀬さんの著作を読んでみたいと思ったので読んだ本。自分の読書のレベルよりも語彙や内容が難しくて、読むのに苦労した本。プリンスホテルの土地入手の流れやオペラに「ミカド」という演目があるということをこの本を読んで初めて知った。この本を読んで作家から東京都の副知事になれた理由がわかった。次は猪瀬さんのもっと簡単な内容の本が読んでみたいと思った。

  • 天皇にまつわる様々な出来事を綴ったノンフィクション。内容が多岐に渡り、読み応え抜群。テレビでは放送できないタブーに触れるような内容が本ならではのおもしろさ。

  • 西武の堤家が皇族たちから安く土地を買いあさったといった歴史が綿密にまとめられているが、詳細すぎて通勤の合間に読むのには辛く、挫折。本テーマについて強い興味があるわけではない人には辛いか。

  • ミカドの痕跡を近代史や海外から掘り起こし、天皇制と近代日本について論じた力作。あたかも枝ぶりの良い巨木を眺めるようなスケール感はあるが、枝葉が広がり過ぎてしまった感も否めない。もう少し剪定をして小ぶりにまとめて欲しかった。 ただし、西武グループと皇室の関係を描いた第一部の「プリンスホテルの謎」は抜群に面白かった。 西武という企業の経営のカラクリが分かるばかりではなく、堤康次郎、清二、義昭、というそれぞれの時代に君臨した稀有な親子の内面にまで肉薄するノンフィクションの傑作だと思う。第二部では「ミカド」という日本では馴染みのないオペレッタが、欧米では広く日本に対するイメージ形成に影響したこと、第三部では明治天皇の「御真影」や志賀重昂の「 日本風景論」という書物が、日本人自身の心性や文化に深く影響を与えたことを論じている。いずれも切り口が斬新でジャーナリストとしての猪瀬氏の力量に感服。東京都知事になって味噌がついてしまったのはくれぐれも残念。

  • 堤義明氏の逮捕の報道は、ぼくでもちょっとした驚きだった。西武グループという大きな看板を持った大物の逮捕だけにそう思ったのだが、同時に以前読んだ一冊の本のことを思い出した。

    猪瀬直樹著「ミカドの肖像」
    近代天皇制と日本人との関係を、これまでの天皇論とはまったく異なる角度から猪瀬氏らしい独自の取材と論法で、立体的に探っていくなかなかの秀作で、ぼくは天皇のことをいろいろ調べてた折に読んだのだが、それ以上にそこに出てくる西武グループの堤一族と皇族との関係にスキャンダラスな要素も含みつつ刺激的だった。当時ぼくからしたら西武ライオンズやパルコのセゾングループの西武だから、そんな西武と天皇との関係は素直におもしろかった。

    このとき、ぼくは間違った事実を覚えていたらしい。堤康二郎の三男の義明をぼくはずっと西武セゾングループの方、つまりは百貨店の方を仕切っていて、異母兄の清二が西武鉄道を主とする西武グループを継いだものと思っていたのだ。実際はまったく逆だった。

    でもそれもそのはず。兄の清二は、皇族と関係のあった康二郎を尻目に日本共産党に入党したり、自ら勘当されるように仕向けたりと、康二郎に反発していたようなのだ。そんなとき義明は康二郎の後ろをひた歩き、帝王学を学び、康二郎の築いたものを継承しえたのだろう。

    堤一族がこうしてひとつの時代を築き、時代から去ろうとしているわけだ。西武という大きなものが解体されていく中で、昭和の終焉をいまさらながらに感じるのは、堤一族と天皇との意味深な関係をどうしても想起してしまうからなのか。

  • [ 内容 ]
    コクドはなぜ旧皇族の土地を次々と取得し、プリンスホテルを建てることができたのか。
    その謎と西武王国・堤家支配の仕組みを、“ミカド”の禁忌に触れまいとする日本の“不可視のシステム”の存在とともに、ひもといてゆく。
    また、欧米人から喝采を浴びるオペレッタ「ミカド」をめぐって、世界史のなかに天皇制がどのように位置づけられていったかを探る。
    さらに、なぜ明治天皇の「御真影」が西洋人の風貌になったのかを解き明かす。
    近代天皇制に織り込まれたさまざまな記号を、世界一周取材で丹念に読み解いた、渾身の力作。

    [ 目次 ]
    第1部 プリンスホテルの謎(ブランドとしての皇族;土地収奪のからくり;天皇裕仁のゴルフコース ほか)
    第2部 歌劇ミカドをめぐる旅―デォオ“MIKADO”との二度目の対話(ミシガン州ミカド町へ;ミカドゲームと残酷日本;西洋人の日本観と歌劇ミカド ほか)
    第3部 心象風景のなかの天皇―デォオ“MIKADO”との三度目の対話(天皇崩御と世界の反応;つくられた御真影;ジェノヴァから来た男 ほか)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 前半は各地のプリンスホテルの由来がわかって興味深い。後半のオペレッタ「ミカド」を軸にした日本人の価値観論的な部分は少し誰てしまったように感じる

  • 一つのテーマに沿って、ジャーナリスト的、歴史学的、文化人類学的、哲学的に、縦横無尽に題材が広がる。日本的なるものに関心のある人は、引き込まれると思う。

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プロフィール

作家。1946年長野県生まれ。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞。2002年6月小泉純一郎首相の下で道路公団民営化委員に就任。07年6月石原慎太郎東京都知事の下で副知事に就任。12年に東京都知事に就任、13年12月辞任。現在、日本文明研究所所長、大阪府市特別顧問。主著に『昭和16年夏の敗戦』『天皇の影法師』(以上、中公文庫)『道路の権力』『道路の決着』(以上、文春文庫)、『猪瀬直樹著作集 日本の近代』(全12巻、小学館)がある。近著に『東京の敵』(角川新書)『民警』(扶桑社)。

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