ミカドの肖像(小学館文庫) (小学館文庫 い 7-2)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (887ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094023121

作品紹介・あらすじ

作家・猪瀬直樹の代表作にして原点!

天皇と日本人、伝統とモダン。近代天皇制に織り込まれた記号を、世界を一周する取材で丹念に読み解いた渾身の力作。皇居の周りにちりばめられた謎を一つ一つ解き明かし、物語はやがて世界へと広がっていく…。どうやって西武グループは皇族の土地にプリンスホテルを建てたのか? なぜ、オペレッタ「ミカド」が欧米人から喝采を浴びるのか? 明治天皇の「御真影」はどうして西洋人の風貌になったのか? 第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 強大な遠心力の働く日本の空虚な中心
    プリンスホテルの名を冠する西武系のホテルその命名の謎、19世紀ヨーロッパを席巻したオペレッタ「ミカド」、やんごとなき大君の御姿を衆目にさらすことになった「御真影」、「ミカド」をキーワードとした3つの柱を軸に、近代天皇制とは何かを考える。

    第1部「プリンスホテルの謎」
    西武グループ創業者堤康次郎は、戦中戦後を通して資産の管理に困窮した旧皇族たちの邸宅や土地を廉価で手に入れ、そこにプリンスの名を冠するホテルを建てることにより「どんな一流の建築家に委嘱しても手に入れることができないグレード」を大衆に販売することに成功した。土地をめぐる皇室と西武グループの密なる関係。

    第2部「歌劇ミカドをめぐる旅」
    19世紀ヨーロッパで人気を博したオペレッタ・ミカドは、死刑を愛好する残虐な独裁者・ミカドの治める「ティティプ」の町で繰り広げられる珍騒動を描く。世界の中心をヨーロッパに置く当時の人たちが、日本を未開の最果ての国として想像しどのように捉えていたかが見えてくる。

    第3部「心象風景のなかの天皇」
    世にもっとも知られている明治天皇の御真影は、西郷隆盛の肖像を描いたことでも知られる、イタリアからやってきた当時のお雇い外国人・キヨソーネの描いた肖像を再度写真として撮影したものであった。この御真影をめぐっても視えざる力が作用する紆余曲折があった。

     「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」(第1条)と日本国憲法に定義される天皇ですが、そもそも「象徴」というのは曖昧で非常に捕らえにくい。著者は、万世一系を守るやんごとなき天皇の御身ゆえ禁忌につつまれた皇居を、都心のど真ん中に位置し、「ひたすら効率を求めて突っ走る日本人にとって都合のよい象徴空間であり、あらゆる争点を呑み込む巨大なブラックホール」と例えています。

     しかし明治以来世界に向けて門戸を開いたこの国の中心となってきたのは紛れも無くこの核なき「空虚な中心」でした。そこには強大な遠心力が働いていてここから内外を問わず「ミカド」のエッセンスを帯びたかけらが飛散して行ったのだと思われます。「ミカド」をめぐる上記3本の柱は、本来なら一部ごとに一冊の本にできるほど緻密な考察になっています。互いに一見脈絡がないようにもみえますが、そこにあきらかにされた事実が実はそうしたかけらの一つ一つであり、同時に近代天皇制を縁取る1ピースになっていることに気づきます。

     本書は、この空虚な中心に直に手を入れて確かめることが不可能であれば、どんなに距離があろうとも確実にその周縁に当ると思われるこうした事実を、時間、空間に関わらず世界に取材して丁寧に拾い集めることにより、その像を顕かにしようという労作です。

     巻末に参考文献が列記されているのですが、古今東西ジャンルを問わず400冊にも及ぶその書籍のラインナップに圧倒されます。「空虚な中心としての近代天皇制を一つの像に結ぶ」というこの作業の困難さを想像するとともに、なんとしても遣り果せるという著者の執念を見たような思いに駆られました。

  • ・軽く手に取って読み始めてみたらとんでもない本だった。実際に天皇を語ることはせずに近代天皇制を語りつくした圧巻の一冊。皇居を見下ろすビルからプリンスホテル、ミカドゲーム、ミカドの街、オペレッタ「ミカド」、天皇御真影、富士山に浜辺と松のような日本の原風景(とされているもの)、と縦横無尽に駆け巡る。
    ・前半ではあまりにかけ離れた題材を扱う各章の展開に何が言いたいのかわからず投げ出しそうになったが、中盤まで読み進めるとこれは天皇制が放った光とその影を拾い集め、実際の天皇制を浮き彫りにしようという試みだということに気づかされた。
    ・猪瀬直樹の本はマンガの「ラストニュース」しか読んだことがなく、天皇制に大してどういうスタンスなのかが量れないまま、時に不快感を覚えつつ読み進んだ。読了した今となっては、その不快感は消え去った。ここまで真摯に天皇制について調べつくした男が左右どちらにいたっていい。
    ・本書は雑学としても興味深い内容が多い。プリンスホテルがすべて旧皇族の土地に建っているという事実、明治天皇の御真影はイタリア人画家の手による肖像画であったこと、欧米では日本人の知らぬ所でミカドと言う名のオペレッタが一般に広く知れ渡っていること(英国人の同僚も知っていた)、富士山を原風景とするような日本風景論という言論の展開があったということ、などなど。
    ・この本が昭和の終わりに書かれているというのも多少面白さを感じる。これを今皇居を見下ろす新丸ビルから書いているが、過去に東京海上ビルが120m以上の高さで設計した所100mを切る形でしか建設出来なかったという事実があった。今は丸の内にはるか100mを超えるビルが立ち並ぶが、この本の後いったいどういう変化があったのか。そこに本書が書かれた当時とは違う現代の天皇の肖像が見える気がする。

  • 帝(天皇)に関するあれこれを取材したドキュメンタリー。
    皇居を臨むビルの高さが制限されたことやプリンスホテルの名前の由来から
    立地場所の由来、天皇崩御の際のしきたりやらオペレッタ「MIKADO」、
    ミカドゲームという海外の遊びから御真影の裏話まで
    とにかく情報量も取材量も圧倒的で引き込まれました。
    とはいえ800ページを超える大作なので読むのには時間がかかりました。
    1980年代に書かれた文章ですが古臭いことも全くありませんでした。

    今でこそ皇室のスキャンダルも色々と報じられていますが
    昔の宮家も放蕩な人が結構いたり大概だったのだなぁと興味深かったです。

  • ボリュームがあって後半は特に読むのが大変だったけど、面白かったです。前半だけでも読んでみて。

    日本国の天皇(ミカド・プリンス)とは何か?を日本はもちろん海外からの視点でも少しづつ丁寧に、しつこくしつこく謎を解きほぐしていきます。世界一周して取材、スゴイ。
    西武グループが皇族の土地を買い上げて建てた『プリンスホテル』の謎から堤康次郎の執念が明かされ、『ミカド』というゲームの謎はアメリカの「ミカド」という町からオペラ「ミカド」につながっていく。めちゃくちゃ面白い。

    猪瀬氏は天皇を『空虚な中心』と表現しています。天皇を神聖化するための数々のタブーや暗黙の了解により、国民は天皇の実態をよく知らない「お上の存在」という意味でポッカリ空いた空間はイメージできますが、むなしい心持ちや、うつろな感じという『空虚』という表現はこの本を読むとよりしっくりきます。
    そんな空虚な中心から日本のレジャーランド化や大衆の近代化の「うねり」を感じました。

    私は日本人だから、この国の天皇とはどんな人物なのか?他の国からどう思われているのか?やっぱり興味があるんだなぁ。

  • 2023.03.23 落合陽一著『忘れる読書』からの選書

  • 天皇という空虚な中心.日本人のアイデンティティを探究した本.
    ただし天皇そのものは語らず,天皇の周囲を取り巻くものにスポットライトをあてそれをとことん探究する.
    ジャーナリズムとはこういうことか!と感じざるを得ないボリュームと内容の濃さに圧巻.この濃密さがフィクションを凌駕するリアルの面白さに繋がっている.

    この本を手に取ったということ自体、皇族に対する何かしらの独特な観念を持っているということの所作なのかもしれない

    時間の都合上第三部はあまり読めなかった.またいつか.
    猪瀬氏の他の作品も読もう.

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    問い: 日本人一人一人にとって、天皇とはなんなのか
    "世界一の大都会東京には”空虚な中心”がある"

    皇居付近のビル建設のタブー・圧力,天皇専用鉄道ダイヤを組むスジ屋

    "美観とは主観のことだから、百人いれば百様の意見が出るのは当然"

    丸の内の東京海上のビル 99.7m ミカドを取り巻くタブー

    原宿 宮廷ホーム 2001年以降未使用

    上皇后 ロマンス婚 軽井沢のテニスコート、
    →大衆の夢のモデルケース?

    GHQ->皇籍離脱ー>免税特権など剥奪ー>課税
    政府は一時金という名の手切金をわたす

    新高輪プリンスホテル
    北白川家土地 
    売買にて金利による支払いの先延ばしと西武Gへの縁故採用。天下り的な 
    皇族は一時的な課税所得が減った。西武は金利を払って余りあるキャピタルゲインを得た。
    「西武に土地を売れば、あなたを社員として迎えたい」

    堤家(西武グループ)は、その天皇家の"藩屏である皇族の宮殿と宅地を収奪し、そのブランドを借用することによって、新時代のチャンピオンに成り上がったといえよう。

    プリンスヒロヒトと英国皇太子の親善試合

    私鉄網の発達時代、各社は終点にデパートを、もう一方の端にレジャーランドを設置。→私鉄は発生の時からきっぷをうるのではなくライフスタイルを売っていた。

    「労働は苦痛を伴う激しい競争の中で繰り広げられています。かつては労働自体が苦痛でした。今競争がきつくなっているのです。特に日本のような平等社会は、個性的であることが恥ずかしい。そのためにアイデンティティーの危機すら招いています。」

    ミカドゲーム

    西洋の歌劇ミカドが揶揄する。日本観("陛下の思し召しはすなわち法なのです。")

    宮さま宮さま 日本初の軍歌。江戸幕府を得た300年以来の王政復古

    "西武プリンスホテルが皇族の土地を手中におさめたのは、都心という得難い立地条件のほかに、それに付随した神話も同時に購入するためであった。"
    "ホテルを利用する顧客は、ベッドで就寝する目的以外の様々なソフトを買いに来る。宴会、結婚式、飲食、買物、観劇、眺望、入浴、スポーツ、セックス…。"
    "ホテルにおけるそれらの行為は、非日常に属するモノでなければならない"

    解説
    "私は自分を指導する大学院生猪瀬氏の著作を読ませている。それは綿密な事実調査を積み重ねていくことから圧倒的なリアリティを書き出し、そこから社会の「隠された構造」を照射すると言う方法が、優れた文化人類学者の営為と極めて近いからだ。

  • 天皇のイメージを、天皇を取り巻く様々な人々が炙り出そうとした本。天皇そのものの考察はないが、例えば、宮家の土地を次々と買い漁った西武グループが、なぜ宮家の土地を手に入れたのかなどを通じて、当時の宮家や皇室の状況が描き出されている。西武線沿線に住んでる自分としては、とても面白かったです。

  • IN2a

  • 猪瀬氏の若い頃の大作。
    この視点でここまでしぶとく調べ尽くすというのは、なかなかないと思う。

    前半が西武グループ、プリンスホテルは元皇族の土地に建っていると言う話。
    後半はミカドというオペレッタを通して海外から日本がどう見えているのかという話が中心。
    日本という国の中で象徴である天皇が、海外の目からは中心でありながら空虚に見えるというのを様々な事実から描こうとする。

    前半は西武グループ堤代表の伝記としても読めておもしろかったが、後半は読んでてだれてきた。
    細かい話にしつこく迫る様子が、ある意味猪瀬氏の持ち味であり強味なのだが、あまりに細かいところまで突っ込むのでついていくのがしんどくなってくる。
    この視点と追求力はすさまじく、正直このような都知事のもとで働く東京都職員はさぞかし大変だったろう。
    というかこの特長は、都知事というよりは野党議員が持つべき?

  • ノンフィクション
    歴史

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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