- 本 ・本 (608ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094033151
作品紹介・あらすじ
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった。
感想・レビュー・書評
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「飯嶋和一にハズレなし」ーこのキャッチだいすき。正にその通り。面白いのはわかっているが、寡作なので、あえて取っておいて何年かに一回一作毎読んでる。
骨太、ダイナミックな歴史小説であり、魅力的でカッコ良過ぎる男たちが登場し(あっさり退場しちゃうのは歴史に沿ってるから?)、長崎の街、風景も魅力的に描かれている(長崎旅行に行きたくなった)。「出星前夜」も好きだがこちらも良い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江戸初期の長崎にて、鎖国に至るまでの経緯を代官の家に生まれた平左衛門の視点を中心に描かれた物語
以下、公式のあらすじ
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江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった。
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普段は時代物を読み慣れないというのもあって、読み終わる時間がかかった……
歴史の知識として、後に鎖国と呼ばれるような閉鎖的な貿易形態になった事は知っていても
その経緯や過渡期については知識がないので、その辺は興味深く読めた
遠藤周作の「沈黙」を読んではいたので、キリシタンへの迫害や、それに対する動きも何となくは知っていたわけで
まったく知らないわけでもないのもある
でもまぁ、これらだけでは不十分でしょうねぇ
キリスト教の特にカトリックの布教の弊害は描かれていても
それに伴う人攫いの横行に言及している作品は少ないなぁと感じる
それにしても、才介ぇ…… -
“放蕩息子”と言われた、実は広い視野を備えていて、正論を胸に秘めた、強い心を持つ男が代官に就任し、恐るべき陰謀を動かす敵役達と対峙…非常に痛快な物語だ!!未読の皆さんに御迷惑を掛けてしまうので仔細は綴らないが、何となく目頭が熱くなる場面も在り、夢中になる…他方で「政治とは何か?」、「“権力”とはどういう性質のものか?」というような普遍的なテーマを持ち、加えて「江戸時代とは何だったのか?」というようなテーマに関しても、キリシタン弾圧の経過や貿易制度の変遷という、平左衛門達の時代に実際に起こっていたことを交えながら、一定の回答例を示唆している…非常に充実した作品だ!!
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「長崎」の歴史小説です。江戸時代初期、鎖国直前の「長崎」が主人公です。
そして、渋い小説でした。渋い。渋すぎる。
飯嶋和一さん、という、1952年生まれの小説家さんです。
とにかく、凄い描写力。筆力。説得力が高い、でも地味な、歴史小説好きな大人向けの小説ですね。
将軍様で言うと、三代家光の治世の、初期。
キリシタン弾圧から鎖国へと向かう、負の変動期とも言うべき時代。
そこで、悪行を振るう長崎奉行に立ち向かう、長崎代官・末次平左衛門さんを中心とした、群像劇風のお話です。
2004年に出版された小説です。
新刊当時に、たまたま版元の小学館の文芸担当の方、「黄金旅風」ご担当の方と話す機会があったんです。
そのときに、その方が営業トークを超えて、絶賛されてたんですね。
「大人の男性にとって、たまらない本格小説である」という感じで。
それを聞いて、当時、新刊で買ったんです。ハードカバーで。
なんですけど、どうにものめり込めなくて。
何しろ冒頭から、状況描写が執拗に多くて、なかなか心情的に寄り添える人物が出てこないんですね。
それで、もう、ほんとに冒頭部分くらいで、挫折。
断言しますが、少なくとも掴みは、良くありません。
それから9年くらい経って。
去年から、またちびちび、他の本と並行して読み始めたんです。当然冒頭から。
そしたらだんだん面白くなってきたんですね。
なんだけど、これは僕の趣味かも知れませんが。
「で、いったい、何の話?誰の話?」という軸がやっぱりふらふらしてて、よく判らない。
それで、多分全体の1割も行かずに、再びストップしてしまって。
今年に入って、つい先週くらいからか、なんとなく再び読み始め。
そしたら、感覚的に言うと、全体の1/4くらいまで行くと、俄然面白くなりまして。
「あ、つまり、悪人の長崎奉行に、善玉の長崎代官が、街の為に立ち向かう話なんだな」と。
そこから先は、割と止まらずに面白くなって、読了。10年越しでした。
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基本的には、面白かったんです。読後感としては。
なんですが、初めに苦情から書いておくと(笑)。
とにかく、掴みが悪すぎる。
序盤、心情で寄り添える人物が前面に出てこない。
また、デティール描写が執拗で質が高いんだけど、なにしろ馴染の薄い、17世紀初頭の対外貿易船舶などの話なので、よくわからない。
だから、序盤は、ただたんに「俺知ってるもんね。俺勉強したもんね」というレポートを読んでいる気分になってしまう。
何しろ、末次平左衛門が出てきてしばらくしないと、「あ、この人を軸に話が進むのね」ということすら分からない。
序盤、暗闇の海を航行する心細さ。
まあ・・・あとは・・・平左衛門さんという主人公の信念が、
「長崎の町の人々を、守りたい」という、なかなか利他的な正義感なんですが。
そこのところが、ちょっとある種、月光仮面すぎるかなあ?・・・と思ったりしましたが。
行動は地味でリアルなんですけどね。心情的に。
・・・と、いう苦情がありつつ、でも、かなり、面白かったんですね。
●一回出てくれば、末次平左衛門さんは、主人公という魅力十分に君臨してくれます。
また、火消の頭の才介さんとの友情物語も、感情移入できます。
(ただ、その才介さんが半分くらいで死んじゃう。あれはどうなんだろう)
●状況描写、背景描写が執拗で、熱がある。客観性が高い。
知らず知らず、17世紀序盤の長崎の街に、読んでる側も降り立った気分になれます。
貿易の利、切支丹の弾圧、まだまだ完璧に盤石ではない徳川の支配。
ポルトガルとイスパニアとオランダの利害関係。
鎖国へと大きくゆるやかに舵を切っていく時代の圧力。
●描写力とかぶりますが、「長崎」という町の魅力ですね。
南蛮文化が入り混じり、町人と経済の合理性、切支丹の平等主義が根にある。
一方で船乗りの街、船の町。海に生きる男たちの魅力。
●「町」ということと通じますが、群像劇性ですね。
①平左衛門②火消の才介、その弟③元切支丹の鋳物職人④その職人を連れてくる、商人⑤平左衛門配下の名船乗り・・・
などなど、その章その章に応じて様々な人が出てくる。一人一人、執拗な筆力で人柄が、輪郭がはっきりしている。
その多様性が長崎の魅力であり、それが全て悪奉行に迫害されていく。全てが平左衛門の戦いに収斂されていきます。このあたり、見事です。
●ご都合なところがほとんどなく、全くない。
(末次さんが、長崎の奉行を告発した、というのは史実なんですね)
政治状況、経済状況を踏まえたリアリズムが盤石です。
なので、安易なヒロイズムや情緒的な盛り上げ場がある訳でもないのに、ぐいぐいと引き込まれます。
そのあたり、大人な娯楽性。渋いです。
一方で、どうしても痛快突破感の高い突き抜けたカタルシス、というのは無いんですが。
と、いう感じで、非常に完成度のある、重厚な読み物。
当然寡作な作家さんなんですが、また他のも読んでみたいな、と思います。
(序盤だけもっと上手く読ませて欲しいけど・・・)
しかしこの、本格的で執拗な筆力と、外連を拝した渋み。感傷性にも恋愛にも頼らない。
よほどひねくれた?ベストセラーが嫌いな?・・・確信がある作家さんなんでしょうねえ。
あと、最後に。
長崎が好きな人、長崎を良く知っている人、長崎の歴史に関心がある人・・・。
そういう人には、タマラナイ小説だと思います。 -
長崎を基点とした海外貿易がもたらす富と権力がどれほど人の心を狂わせたのか、知識や技術、物品と共に渡来したキリスト教が当初は有り難がられたもののやがて弾圧へと舵を切った背景など、江戸時代の長崎の様子をここまで深く描いた作品に初めて出会いました。
しかも幕府の権力者の立場ではなく、地元の人間からの視点であるところが良い。
かなりのボリュームですが、それだけの価値があると思います。 -
私自身がこれまで読んできた時代小説とは一味違う小説だった。戦国時代や江戸の人情もの、幕末、と言った小説とは違い、鎖国前の長崎の短い一時代を描いた小説。
どの程度、史実に基づいているのかは、知識がないので分からないのだが、この時代に、これだけ広い視野と高い視座を持ち、正義感に溢れた人がいたのか、と熱い気持ちになるストーリーだった。
ただ、読み終わってのこの読後感(満足感)と矛盾するようなのだが、読むのにけっこう時間がかかってしまった。自分の歴史の知識が無さすぎることも一因なのだが、
漢字(にカナのルビ)の地名を現在のどこのあたりなのか変換するのに、一瞬頭の中でタイムラグがあったり、各国の事情・パワーバランス・事件の順番や経緯を把握するのに少し手間取ったりし、
本来のこの物語のメインであろう、魅力的な登場人物の思考や言動に入り込んで、ぐんぐん引き込まれていくのに、時間がかかってしまったのだ。
正直、エンジンがかかってきたのは、第4章に入ってから、と言う感じだった(苦笑)
著者の描く日本人像、特に権力者は、ある意味、現代にも通じるもので、著者の本音(と言うか嫌なタイプ)の権力者像であり、平左衛門には理想を託しているのかもしれないが、
私自身も共感してしまうところがいくつもあり。今の国の中心、官僚や政治家も、こんな感じだよなあと思うと、ため息が出てしまう。人間の本質と言うものは、数百年経っても、そう簡単に変わらないものなのかもしれないな、と。
『日本人は自分の縄張りや仲間内では偉く尊大でありながら、オランダ商館へ単独で来た時には別人のごとく卑屈なものだった。個人がどこにもなく、いったいそれは誰の考えなのか誰の意志なのか、いちいち確かめるのに苦労させられた。しかも返ってくる答えは「みんながそう思っている」などという訳のわからないものばかりだった』
『大げさな大義などというものを平左衛門は持ち合わせてはいない。むしろ平左衛門は、馬鹿げた大義には憎しみすら抱いている。大愚を行う者は必ず大義を振りかざし、結果最も弱き者が悲惨を見ることとなる』
「どうか上様の御政道におかれましては、打ち出されましたる御法は、その時勢のいかんにかかわらず、是非に厳正なるお運びをたまわりたく願う次第でございます。わたくしども下々におきましては、その時々に応じまして恣意的に御法を運ばれますことが、何よりも動揺と不安を招くものとなるのでございます」 -
「2005本屋大賞 8位」
九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1379386 -
キリシタン弾圧が始まり、鎖国が本格化し始めた頃の長崎を舞台にした歴史小説。内容は面白かったし、よく調べてあるのだろうとは思うのだけど、正直読みにくかった。話がうまく流れてくれない感じ。それが残念。
著者プロフィール
飯嶋和一の作品





