あんぽん 孫正義伝 (小学館文庫)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (508ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094060843

作品紹介・あらすじ

異端経営者はなぜ生まれたのか

今から一世紀前。韓国・大邱で食い詰め、命からがら難破船で対馬海峡を渡った一族は、豚の糞尿と密造酒の臭いが充満する佐賀・鳥栖駅前の朝鮮部落に、一人の異端児を産み落とした。

ノンフィクション作家・佐野眞一が、全4回の本人インタビューや、ルーツである朝鮮半島の現地取材によって、うさんくさく、いかがわしく、ずる狡く……時代をひっかけ回し続ける男の正体に迫る。

在日三世として生をうけ、泥水をすするような「貧しさ」を体験した孫正義氏はいかにして身を起こしたのか。そして事あるごとに民族差別を受けてきたにも関わらず、なぜ国を愛するようになったのか。そしてなぜ東日本大震災以降、「脱原発」に固執し、成功者となったいま、再び全米の通信業界に喧嘩を売りにいこうとするのか――。飽くなき「経営」の原点が本書で明らかになる。

文庫版では、本誌取材チームの一人であるノンフィクションライター・安田浩一氏の解説を収録。「取材舞台裏」と「佐野眞一論」が綴られる。

感想・レビュー・書評

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  • この本で読んでふと思ったことは、
    孫正義と言う人は、
    自分が在日であることに、
    異常なまでの「コンプレックス」を抱いて生きているんだな思った。

    また、その「コンプレックス」を隠すのではなく、原動力としている。
    原動力というか、感謝といっても良いと思う。

    少なくない人間が様々なコンプレックスを持って生きている。
    それに押しつぶされてしまう人もいれば、それを利用して逞しく生きる人もいる。
    負の感情というのは、利用次第では、爆発的なエネルギーを生む。

    孫氏がITにこだわっているのも、その世界に差別がないからだと思う。

    個人的には、「何かを継続すること」にも、コンプレックスが深く関わっていて、
    その葛藤なしに何事も達成できないかもしれないと思った。

    佐野氏の筆致が、余計、孫氏のこれまでの「生き方」の凄みと、
    その負の面を喚起させる。もし、自分なら、佐野氏を名誉棄損で、
    訴えると思う。
    ただ、その孫氏は、自身の境遇に、
    「感謝してます」と言ってのける。

    これが、凡人と超人の差だと思う。
    見下せれ、差別され、泥水をすすってきた幼少時代、
    今でも、陰口を言われるが、何とも思っていない。

    凄い人間だと思う。

  • 凄まじい執念で描かれた孫正義伝。
    「人間を背中や内臓から描く」と言ってのける、この佐野という筆者にこそ興味をそそられた。

    日系三世の血と骨の物語はきっと事実。
    人間は面白い。素晴らしい。

  • 値が上がるとヤフーの株を売ったり、下がると買い戻したり。一方で巨大ソフトバンクグループを率いる孫正義。

    このずるい手法を用いる一方で、抜群の成果を上げてきた孫正義はいかにして生まれたかを深く解き明かした作品。

    川の氾濫で糞尿が浮くような豚小屋で育ったも同然な孫の出自を丹念に取材。これまでの軌跡を明らかにした。

    氾濫時には膝まで水に浸かりながらも孫正義は勉強したいたとか。

    人を果物ナイフで刺すほど気合の入った口がひたすらに悪い父親や、小学校時代の孫正義のませたポエム。

    入院中には本を3千冊読んだとか。1日10冊ペース?

    周囲に気を配るリーダーの中学時代。ビジネスを興そうとする高校時代や、ビジネスについてひたすら父親と議論していたエピソードや、喫茶店経営にも孫正義のコーヒー無料券で成功に至ったケース。

    たしかに片鱗を感じさせるエピソードばかりだった。

    頭がいい、人間味がある。そしてちょっとずるい。

    原発既得権益者に喧嘩を売り、NTTにもケンカを売る。

    めっちゃ面白かった。

    孫正義の人間性が好きになると同時に、佐野真一さんもすげえと思った。

  • 週刊ポストに2011年に連載された記事をベースにした、孫正義の評伝。在日コリアン三世としての孫氏の生い立ちを、朝鮮半島からなかば騙させるようにして日本に移り住み炭坑夫として働いた、祖父母の時代の出来事から丹念に描いた力作。「豚と糞尿と密造酒の臭いが充満した佐賀県鳥栖駅前の朝鮮部落に生まれ、石をなげられて差別された在日の少年」孫正義が、実業家として今日の成功を導き出せすことができた、その精神のルーツが分かったような気がする。
    強烈だったのは、その親族の気性の激しさ。お互い日常的に罵り合っていたようで、そんな環境下でぐれもせずに大成した孫氏の精神のタフさは尋常でないと思う。
    本書は、随所に著者の持論が熱く語られているなど、全体的に主観的で濃い文章になっている。もいちょっと押さえ気味の方がいいんだけどなあ。

  • 在日三世として貧困から身を起こした孫正義とそのバックグラウンドを描いたノンフィクション。孫正義の生い立ち、家族、これまで歩んで来た道が描かれ、興味深く読んだ。

    孫正義がたった一代でSoftBankをNTT、KDDIと肩を並べる通信キャリアに成長させた事は驚異である。方や官の天下りによる後ろ盾で通信キャリアの頂点に君臨していたNTTやKDDIも陰りを見せている。完全なる民のSoftBank、いや、孫正義の戦略、経営思想の勝利であろう。

    孫正義は在日という事で、Twitterなどでは酷い攻撃を受けているが、孫正義の飄々とした返しが面白い。常に世界に目を向けている孫正義と島国根性の塊の輩の人間の大きさの違いを見るかのようである。

    文庫化にあたり、改めて加筆したようだ。

  • 2014年刊(底本2012年刊。週刊ポスト連載初出2011年)。
    解説は、著者の本件取材の協力者たる安田浩一。


     「孫正義伝」と銘打たれると内容との間に多少の乖離を感じてしまう。すなわち、本書は在日朝鮮人三世の孫の出自を定点に、彼の家庭環境の実、家庭環境を基礎づける両親や近親者の境遇、幼少期の孫自身の生活環境を描き出すことで、稀代の起業家孫正義の背景を開陳してみせる書だ。

     戦後日本の在日朝鮮人の生活環境ということをテーマにした時点で、著者お得意のアンダーグラウンドに叙述の焦点を合わせられ、これが本書の強みである。
     つまり、本書は「孫正義」を素材にした著者の戦後在日朝鮮韓国人問題へのアプローチと捉えた方が相応しい。
     具体的に言うと、貧困、社会上昇に関するガラスと可視化できる天井、小規模金融業に遊戯業、炭鉱労働生活と実にらしいテーマで叙述される。

     そして、ここから炙り出されるのは、在日朝鮮人への差別待遇とそれが極北化した現在のヘイトの愚。それらへの孫自身の静かなる反骨に加え、既得権障壁への激越なる反発。
     他方、日本国民としての自負を殊更行動で示そうとする悲哀だ。

     そういう意味では、正義よりも一層辛酸を舐めた孫の父安本三憲の生き様の書との評も的外れではない。

     最後に孫の逸話からは離れるが、「独裁政権が革命政権を恐れるように、エスタブリッシュメント…既存勢力は自分の地位を脅かす情報革命を基本的に歓迎しない」。
     しかし、「皮肉なことに、その保守性が結果的に社会の片隅に生きる無名の人々のひたむきな努力を保護してきた」という既存勢力優遇の愚賢両面を記した箇所である。
     この著者の見解の当否は置くが、おそらくは孫を含むマイノリティに対するヘイトを助長する情報革命の負の側面を念頭に置いたものというのは間違いなかろう。

  • 言わずと知れた有名人、孫正義の生い立ちからいまに至るまでを、本人、家族等に取材し、書き上げたルポ。
    孫正義にも、ソフトバンクにも正直あまり興味がなかったのですが、好意的なイメージよりは、胡散臭い、ネガティヴなイメージだったので、ちょっと彼に関する本を読んでみようと思い。
    以前、どこかで「おすすめ本」として紹介されていたのもうっすら記憶にあったので、本書を読んでみることにしました。

    しょっぱなから、「本当!?」と訝しんでしまうような情報が次々と紹介され、面白くて惹きつけられる反面、読むのにすごくエネルギーを消費したように思います。
    孫正義は「在日」であることのコンプレックスを力に変えて、がむしゃらに突っ走って来たのでしょうか。
    以前は氏の「日本が好きだから」を胡散臭く聞いていましたが、本書を読んだ後では、なんとなく、本心であるような気がしてきました。

  • 在日への差別や、孫正義のルーツ、そして筆者の癖の強さが伝わってきた。
    日本の歴史について、学び直すいい機会でもあり、実際に東日本大震災を福島で経験した自分だからこそ、なにかできることがあるのではないかと、強く感じさせられた本だった。
    孫正義の正直な、そして、好奇心旺盛で行動するが、ダメだと思ったらすぐに引き上げられる部分は見習っていく部分であると思った。

  • 佐野眞一と言えば、数年前、橋下徹をハシシタと呼び出自を侮蔑する事で悪名を上げたが、本来はバリバリの実力派ルポライターで、私は里見甫を取り上げた戦前の満州阿片利権の書により、彼の取材力の高さ、その魅力に取り憑かれた。その彼がハシシタ騒動以前に書き上げたのが、この孫正義伝。ライター大御所としてのプライドもあろう、他の著者による孫正義伝の取材不足を折々引き合いに出しディスりながら、如何に自分が優れたジャーナリストかを誇示する様はやや興ざめではあるが、しかし、実力は間違いない。孫正義が育った部落の航空写真を手土産にするなんて所作は、一流商社マンでも中々思いつくまい。彼の垣間見る我欲の強さは、これは取材への厚かましさ、執着心に繋がり、だからこそ読み手の目を楽しませてくれると考えれば、多少の傲慢さなどご愛嬌である。

    さて、孫正義であるが、出自や発想の独創性、それに加えた本心が見え難い部分も助長し、アンチも多い。本著でも佐野眞一が何度も、いかがわしさという言葉で評しているが、つまりは、孫正義自身の腹の中が分からず、どうしてもビジネス優先のコマーシャリズムに通じて、彼を見てしまうのだ。ズバ抜けた行動力が、却って浅薄な動きにも見えてしまい、情緒が落ち着かないような印象を残す。こうした道理で、いかがわしさを生むのではなかろうか。しかし、本著で西和彦(元アスキー社長)が語るように、そもそものスケールが違うのだから、我々には理解できぬ部分はあるのだろう。

    後半、著者により書かれるが、本著は、孫正義の家族を掘り下げての在日の生き様を描く事にも主眼が置かれている。正直、孫正義の家族の表し方は、遠慮なく、語られる本人が不快に感じる箇所も多いだろう。全然関係のない私などは、迫力のある取材に興味をそそられるが、やはり、この手法がハシシタ騒動の序曲となった感は否めないのである。

  • ソフトバンク前身の日本ソフトバンク立ち上げ時、銀行から融資を拒否された際に、シャープの佐々木氏が自身の退職金額と自宅の評価額を算出した上で孫さんの融資の保証人になったエピソードは、他の優れた経営者を支援する

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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