世界から猫が消えたなら (小学館文庫 か 13-1)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094060867

作品紹介・あらすじ

感動のベストセラー、早くも文庫化!

世界から猫が消えたならは、脳腫瘍が見つかり、 余命わずかであることを宣告された、ちょっと映画オタクで猫とふたり暮らしの郵便局員の男性が主人公の物語です。
自分と全く同じ姿をした男がいきなり現れ、男は悪魔だと言い、奇妙な取引を持ちかけます。
「世界から1つ何かを消す。その代わりに1日だけ命を得ることができる」
生きる為に、消すことを決意した主人公と猫と悪魔の7日間が始まります。

感想・レビュー・書評

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  • 2024.2.9 読了 ☆9.0/10.0


    いいものは、月日が経っても色褪せない。
    この本にも同じことが言える。

    10年前に刊行された物語を、高校生の時に初めて読んだ。

    当時は自分に響かなかった言葉に、今読んだ自分は心動かされている。

    その差こそが、大人になったということなのだろうか。成長したということなのだろうか。

    本読むことの価値を改めて教えてもらった。


    さて、巻末の中森さんの解説にもある通り、


    “「何かを得るためには、何かを失わなくてはならない」
    そんな苦い哲学を含んだ寓話だった。
    そう、これは現代のおとぎ話なのだ。おとぎ話が何らかの教訓を含んでいるように、この小説にはハッとする言葉や、ためになるパンチラインがたくさん出てくる。”


    ハッとさせられる言葉がたくさん出てきて、未熟な自分に正直チクリと心に刺さって痛いのです…


    そんな、心地良くもある心の痛みこそ、この本の味わいなのだと感じます。


    “目の前のことに追われれば追われるほど、本当に大切なことをする時間は失われていく。そして恐ろしいことに、その大切な時間が失われていることにまったく気付かないのだ”


    全くその通りで、ぐうの音も出ません…


    何度でも読み返したい本です。




    〜〜〜〜〜心に響いた言葉〜〜〜〜〜



    ○世界から電話が消えたなら


    僕らは、電話ができることで、すぐつながる便利さを手に入れたが、それと引き換えに相手のことを考えたり想像したりする時間を失っていった。電話が僕らから、想いをためる時間を奪い、蒸発させていったのだ



    恋には必ず終わりが来る。必ず終わるものと分かっていて、それでも人は恋をする。
    それは生きることと同じなのかもしれない。必ず終わりが来る、そうと分かっていても人は生きる。恋がそうであるように、終わりがあるからこそ、生きることが輝いて見えるのだろう。



    電話そして携帯電話の発明により、人はすれ違わなくなり、待ち合わせをする意味を失った。でも、つながらないもどかしさ、待っている時間の温かい気持ちが、あの震えが止まらないほどの寒気と一緒に僕の中で力強く残っていた。



    そのとき僕は気付いた。この気持ちが、学生時代に彼女からの電話を待っていたときの、あの気持ちと同じであることに。すぐに伝えられないもどかしい時間こそが、相手のことを想っている時間そのものなのだ。
    かつて人間にとって、手紙が相手に届き、相手から手紙が届く時間が待ち遠しかったように。
    プレゼントは、物"そのもの"に意味があるのではなく、選んでいるとき、相手が喜ぶ顔を想像する"その時間"に意味があるのと同じように



    ○世界から映画が消えたなら


    「生きていくことは美しく素晴らしい。くらげにだって生きている意味がある」
    そう。くらげにだって意味がある。だとしたら映画にも、音楽にも、コーヒーにもなんにだって存在する意味があるのかもしれない。「あってもなくてもよいもの」こそがこの世界にとって重要なものだとさえ思えてくる。無数の「あってもなくてもよいもの」が集まり、その外形を人型にかたどって「人間」というものが存在している。



    もし自分の人生が映画なのだとしたら。僕はエンドロールのあとも、その人のなかに残る映画でありたい。たとえ小さく地味な映画だとしても、その映画に人生を救われ、励まされた人がいて欲しい。
    エンドロールのあとも人生は続いていくのだ。誰かの記憶の中で僕の人生が続いていくことを、心から願った。




    ○世界から時計が消えたなら


    時間という決まり事をもって人間は寝て、起きて、働いて、食べている。つまり時計に合わせて生きている。人間はわざわざ自分たちを制限する時間、そして年月、曜日という決まり事を発明した。さらに、その時間という決まり事を確認するために、時計を発明した。
    決まり事がある、ということは同時に不自由さを伴うということを意味する。だが人間は、その不自由さを壁に掛け、部屋に置き、それだけでは飽き足らず、行動するすべての場所に配置している。挙句の果てには自分の腕にまで時間を巻きつけておこうとする。
    でも、その意味が今はよく分かる。
    自由は、不安を伴う。
    人間は、不自由さと引き換えに決まり事があるという安心感を得たのだ。



    僕が何気なく過ごしてきた時間が、とてつもなく大切なものに思えてくる。僕はあと何回キャベツと一緒に朝を迎えることができるのだろうか。残りの人生、大好きなあの曲を、あと何回聴くことができるのだろうか。あと何回コーヒーが飲めるのか。
    ごはんは何回、おはよう何回、くしゃみ何回、笑うのはあと何回だ?
    果たして本当に大切なことをやってきたのか。本当に会いたい人に会い、大切な人に大切な言葉を伝えてきたのか。
    僕は母さんにかける一本の電話よりも、目の前の着信履歴にかけ直すことで目いっぱいになっていた。本当に大切なことを後回しにして、目の前にあるさほど重要ではないことを優先して日々生きてきたのだ。
    目の前のことに追われれば追われるほど、本当に大切なことをする時間は失われていく。そして恐ろしいことに、その大切な時間が失われていることにまったく気付かないのだ。ちょっと時間の流れから離れて立ち止まってみれば、どちらの電話の方が自分の人生にとって重要なのかはすぐに分かることだったのに。




    ○世界から猫が消えたなら


    世界から猫が消えたなら。
    猫が消えた世界は何を得て、何を失うのだろうか。
    「人間と猫はもう一万年も一緒に生きてきたのよ。それでね、猫とずっと一緒にいると、人間が猫を飼っているわけじゃなくて、猫が人間のそばにいてくれてるだけなんだっていうことが、だんだん分かってくるのよ」



    そもそも死の概念があるのは人間だけだという。猫には、死に対する恐術というものが存在しない。だから人間は、死への恐怖や悲しみを一方的に抱きつつ、猫を飼う。
    やがて猫は自分より先に死に、その死が途方もない悲しみをもたらすことが分かっているのに。そしてその悲しみは不可避なこととして、いつの日か必ず訪れると知っているのに。それでも人は猫を飼うのだ。
    とはいえ人間も、自分で自分の死を悲しむことはできない。死は自分の周りにしか存在しない。本質的には、猫の死も人の死も同じなのだ。
    そう考えると、人間がなぜ猫を飼うのか分かってきた。
    人間は自分が知りえない、自分の姿、自分の未来、そして自分の死を知るために猫と一緒にいるのではないか。
    猫が人間を必要としているのではない。人間が猫を必要としているのだ。



    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  • 読み終えて、とても温かい気持ちになりました。
    最後に家族旅行をしたいと言った母の想い、最後まで腕時計を直し続けた父の想いが伝わり、涙が溢れました。

    世界から、今あるモノが消えていったら?
    という発想には、とても考えさせられました。

    短めで優しい文体で読みやすかったです。
    小学生の娘にもおすすめしたいなと思いました。

  • すごく良い 話でした
    30歳の郵便配達員が脳腫瘍で余命がわずかであることを宣告され
    自分と全く同じ姿をした悪魔と出会い
    【この世界から1つずつ何かを消す。その代わり1日ずつ命を得る】
    という取引…
    そして色々消して 気付く事…
    すごい考えされました

    たしかに自分が生きてても、【人間が便利を手に入れる為に失う物が同じ数ある】
    現代で言うなら
    ○レコード屋
    ○本屋
    ○写真屋
    とか自分が好きなお店ですが、便利の変わりに大分失ったなぁ…
    それ以外でも、スマホが登場しただけで
    ○公衆電話
    ○カーナビ
    ○ゲーム機
    ○新聞
    ○映画
    などなど業界には影響与えてしまってる
    便利により進化してるのか退化してるのか分からない

    そんな便利っていい物か?
    でも自分(42)は今後も年下に何を言われても
    ◎本は紙で!!
    ◎音楽はCDで!!
    ◎映画はDVDで!!
    を貫きます。

  • 悪魔が出たり、脳腫瘍で死ぬ日を延ばすために、電話や映画などを消すと言う設定に、楽しさを感じない自分に寂しさを感じる。なぜ、そのアイテムを消すのと思ったり、結果的に死ぬのに、と突っ込みたくなる。
    巻末の中森氏の解説中に母の死亡時に読んで、喪失感を強く感じたとあった。まさに同じように父の葬式に駆けつける新幹線の往復の中で読んだ私も、同様に感じて良いはずなのに、そうはならなかった。火葬場から骨壷を持った私に妹は、私には見せなかった父の優しい姿を教えてくれた。この主人公と父との間には確執があり、その確執を壊すためのストーリーとなっているが、父と息子との関係は娘との関係よりあっさりしたものに思うがどうだろうか。

  • 自分が余命を得る事と引き換えに世界から消していったものたち
    自らと同じ顔をした悪魔に選択を問われる最初から最後まで、猫は繰り返しフーカフーカと主人公の側に居続ける
    初恋の人と家族
    生きる意味、生きてきた過去から未来

    主人公の選択や葛藤を追いながら、自分にとっての大切なものや家族へ思いを馳せる作品だった

  • 世界から猫が消えたなら…
    どうなんだろう、別に困らないひともたくさんいるのでは?
    地域猫に困らされている人はむしろそれを望んだりして。

    脳腫瘍で余命幾許もない「僕」は悪魔と、1日寿命を伸ばすことと引き換えに世の中からものをひとつ消すという取引を交わす。

    生命と引き換えるものは悪魔が決める。
    一日の生命と引き換えに世の中から消えていったものは、電話、映画、時計…

    そして、いよいよ僕の愛する「猫」が提示される。
    果たして「僕」の選択は?

    うーん、僕は犬派なんで…
    じゃあ、犬と自分の一日分の生命、どちらをとるかということだけど…
    これ、なかなかリアルに考えるのは難しいな、と。

    回答保留。

  • これは余命宣告された主人公「僕」の幻想、或いは長い夢かと感じた。絶体絶命の窮地に陥ればこういうことあってもおかしくない。僕の前にアロハ(悪魔)が現れ、なにか一つ消せば一日命を延ばすと提案する。なにを消すか。
    例えば、電話(他にも色々消してみる)。消す前に誰か一人に電話をかけられるという。私なら誰に(?)とか、ひとつひとつ辿ってゆくと、自分の様々なこと、甲斐なさや後悔まで胸に刺さってくる。
    ストーリーそのものより、人生の指南書のようでもあり、人が生きる上で大切なことが沢山詰まっていると捉えた。
    もう少し若いとき読んだら、感じ方は違っていたと思う(美しい切ない話と受け取っただろう、かつて見たセカチューのように)。
    少しは年齢重ね、自分なりに紆余曲折もあり、これはただ悲しいお話ではないと感じた。喪失に向き合ったときの心の持ちよう。
    最初に持った本のイメージ(タイトルとか冒頭のくだり)とは、違った。読むごとに気持ちが深くなっていった(自分的にはそのギャップにやられた)。読みやすくて一日で読めた。映画も見てみたいと直ぐ思った。アマプラで見てみます。

    <大切なものは失って初めて気づく>
    <人間というのはとかく、選んだ人生から選ばなかった方の人生を眺めて、うらやましがったり後悔したりしている生き物ですから>

  • H30.1.6 読了。

    ・死の間際に死神から自分の命と引き換えに世界から○○を消したら、自分の命を1日延命してもらえるって、言われたら自分だったらきっとあまり必要じゃないものと引き換えになんて言うんだろうなと考えながら読んでみた。
    私にとってテーマが思ってたよりも重くて、あまり感動できず・・・。

    ・「どうして人は、自分でもできないことを他人に期待してしまうのだろうか。」・・・言い得て妙ですね。これをしなくなったら、もっと楽に生きられそうなのにね。

  • 世界から猫が消えたなら」えっどういうこと?
    なんのこと、相変わらずこの作品ずっと目にするので、いつかはという感じでやっと読んだ。

    川村元気作品
    「億男」「百花」に次ぐ三作目
    川村元気独特の世界。
    自分は
    まず猫が消えたら生きていけない。悲しい、辛い、さびしい、
    家族だし、相棒だし、守られるものだし、守られるもの。 
    いつも前置きが長い〜

    舐めてた、深い。かなり奥行きある
    しかしタッチは軽い。タッチに比べてまあ深い。
    前半、中盤までは買う。

    もし〜がなければ  それは生命と引き換えにできるか?
    もし〜がなければ  それは生命と引き換えにできるか
    ここまで究極に自分と向き合い、生きることと対峙することは大切なことだ。
    生きることで何が大切かーこれもテーマの一つと思う。
    即答できない人に問い、答え、問いと繰り返すと必ず何がその人にとって大切なものが見えてくる
    生命より重いものは?

    本文よりー
    僕の心にはそんな小さな小さな痛みが沢山ある、
    その小さな痛みを人は後悔と呼ぶのだろう。ー

    もう一つの
    テーマはここだろう。
    どんなに後悔しないようにしたって、なんらかの後悔はつきものだ。

    本文よりー

    人は水と食べ物、寝床があれば死にはしない
    この世界にあるほとんどのものは
    あってもなくても良いものなのだ。ー

    人生最後の映画、何を選ぶ?
    映画『マトリックス』より〜選ぶ?
    「道を知っていることと、実際に歩くことは違う」



    『スパイダーマン』を選ぶ?

    「大いなる力には、大いなる責任が伴う」

    『ライフイズビューティーフル』ですか?
    (確かにこれも素晴らしい映画だ)

    「考えるな、感じろ!」ー『燃えよドラゴン』から

    『ライムライト』
    「生きていくことは美しく素晴らしい
    クラゲだって生きている意味がある」
    「逆にあってもなくてもよいものとかない。」

    本文よりー
    生きること、泣くこと、叫ぶこと、恋すること

    バカバカしいこと、悲しいこと、嬉しいこと
    全てが人間の希望や絶望を繋ぎ
    紡いでいく、そして一つの必然となっていくー

    読んでいるうちに何か、スルスルとわかることがある、多分長く生きてるからだろうが〜
    すべてにうなづける。

    ここら辺がピークで
    後半は納めてしまうことが見えてきて
    どうでもよくなった、
    ずっと最後はこうだろうなぁーと読めてた。「導入」

    いつもドラマの「できの良くない」最終回は好きでない
    たぶん他の人は感動ものかもしれないがー
    バタバタとまとめにかかるし、
    先が読める
    納めてしまう。結構最終回は見ないことが多い。

    やはり映画監督もされ?
    映画に精通してる作家だから
    場面、シーンが見えてくる
    映画化されてるらしい、たぶん映画は素晴らしいだろう〜。


    ベストセラーらしい。がそうかな?

    確かに名言だらけであった。
    「人生は近くで見ると悲劇だけれど、遠くから見れば喜劇だ」

    「死と同じように避けられないものがある。それは生きることだ」

  • 柔らかくて、温かい。フーカフーカした感触。生きている感覚。

    この文章、特に良いです。
    自分も消せないです。

    ただ、既視感は拭えないかな。
    こういう物語って、一度はどこかで出会っているから。

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著者プロフィール

かわむら・げんき
1979年、横浜生まれ。
上智大学新聞学科卒業後、『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『君の名は。』などの映画を製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、’11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。’12年に初の小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞にノミネートされ、佐藤健主演で映画化、小野大輔主演でオーディオブック化された。2作目の小説にあたる本作品『億男』も本屋対象にノミネートされ、佐藤健、高橋一生出演で映画化、’18年10月公開予定。他の作品にアートディレクター・佐野研二郎との共著の絵本『ティニー ふうせんいぬものがたり』、イラストレーター・益子悠紀と共著の絵本『ムーム』、イラストレーター・サカモトリョウと共著の絵本『パティシエのモンスター』、対談集『仕事。』『理系に学ぶ。』『超企画会議』。最新小説は『四月になれば彼女は』。


「2018年 『億男 オーディオブック付き スペシャル・エディション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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