左京区恋月橋渡ル (小学館文庫 た 21-2)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094061246

作品紹介・あらすじ

とびきりピュアでキュートな初恋純情小説!

毎朝六時半のラジオ体操ではじまり、「いただきます」の声を合図に、ほかほかの朝食が食堂のテーブルに並ぶ。京都の左京区の学生寮で四年間なじんだ生活は、山根が大学院生になった春からもつづいている。寮には、生物学科の安藤や電気電子工学科の寺田、たまに顔を出す数学科の龍彦も含め、趣味と研究を偏愛しすぎるゆかいな仲間ばかり。山根も例外ではない。工業化学科でエネルギーを研究しつつも、花火をはじめ何かが燃える様子を見ているだけで気持ちがたかぶり、「爆薬担当」とからかわれるほどだ。当然、異性のことなんて頭の片隅にもなかったのだが――。
糺の森を訪れたその日、突然の雷雨に浮かび上がる満開の山桜の向こうに、白いワンピースを着た女のひとがいた。ずぶ濡れになった山根は熱を出し、熱が下がってからもなにやら調子がおかしい。そして、龍彦のガールフレンドの花にたやすく言い当てられる。「山根くん、もしかして好きなひと、できた?」。花は言う、もう一度“姫”に会いたければ、下鴨神社に毎日参拝すべし――と。
葵祭や五山送り火、京都ならではの風物を背景に、不器用な理系男子のみずみずしい恋のときめきを愛おしく描いた長編、初恋純情小説の決定版!




【編集担当からのおすすめ情報】
好きになった相手の一挙一動に心が大きく揺さぶられ、頭のなかのすべてがそれで満たされたあのときの記憶。初めて恋をしてしまった主人公・山根のぎこちなさは、きっと誰もが身に覚えのある初恋の記憶と重なるはずです。ぜひ山根くんのまっすぐな恋に、あたたかなエールを送ってください!
*本作は、「ダカーポ最高の本!2010」で“女子読み恋愛小説”第1位に選出された『左京区七夕通東入ル』の姉妹編で、どちらの作品からでもお愉しみいただけます。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『京都』という地名に何を思い浮かべるでしょうか?

    『京都』と一言で言っても、その地名に思い浮かべる景色は人によってさまざまです。いわゆる”寺社仏閣”の数々を思い浮かべる人もいるでしょう。まさしくそれは王道な『京都』のイメージです。一方で、『葵祭』や『祇園祭』、そして『大文字の送り火』といった古来より引き継がれてきた伝統行事の数々のことを思い浮かべる人もいるかもしれません。そしてまた、『夜明け前の鴨川は、しんと静まり返っている』というような『京都』の街が見せるさまざまな情景に『京都』を感じる人もいるかもしれません。そんな情景には『季節も重要である』と言う通り、同じ景色が季節の変化によってさまざまな姿を見せてくれるのを味わう楽しみもあります。

    そんな『京都』の街に人生のいっときでも暮らすことがあったなら、そこには通りすがりの身では決して感じることのできないディープな『京都』の魅力をさらに感じることもできるのだと思います。そして、そんな時代が、人生でも最も多感な青春時代であったなら、人生のさまざまなことが始まろうとする青春時代であったなら、そこには美しい『京都』の街並みが青春と結びついたままに記憶の中に深く記録されていく、一生忘れることのない想い出として残り続けていく、そういったかけがえのないものになるのだと思います。

    この作品は、京都大学にかつて学んだ瀧羽麻子さんが描く『京都』の魅力をこれでもかと詰め込んだ物語。そんな街の片隅で、大学生活に、実験室での研究に、そして仲間と暮らす寮での生活に青春の熱い日々を送る大学生たちの物語。そしてそれは、そんな大学生の主人公が『どうやったら距離は縮まるのだろう。そもそも縮められる距離なのか』と、彼女のことに思いを募らせていく様を見る恋の物語です。

    『夜明け前の鴨川は、しんと静まり返っている』と、河合橋で自転車を降り『デルタ』へとやってきたのは主人公の山根。そんな山根は『ぶらさげていたビニール袋をおもむろにひっくり返し』、一人花火に興じます。『研究室での実験が深夜にまで及んだとき、まっすぐ帰らずにこうしてデルタへやってくる』という山根は、花火の後、『デルタ』の上で『大の字にな』ります。そして、空が白みはじめたのを見て『やば、はよ帰らな』と寮へと帰ります。『早いな、山根』と安藤に声をかけられ『うん。今、帰ってきた』と返す山根。そして学生寮の食事が六時半に始まりました。安藤をはじめ、『個性あふれる面々に囲まれつつ、しかし寮の居心地は決して悪くない』と思う山根は一方で『女の子はよくわからない』と、『中学のときから』実感してきました。そして、仮眠をとった後、研究室へと赴いた山根は実験を繰り返して一日を過ごす中、『チャイムの音で』『はっとして壁の時計を見』ました。『五時だった』という時間を見て『少し休憩を挟んでから』と考えた山根は実験室を後にし、『行き先を思案』します。そして、『北門を抜けて今出川通を横切り、知恩寺の脇に延びる路地を北へと』自転車を走らせる山根は、『糺の森は、いつもの通り静かだった』と、『下鴨神社』へと辿り着きました。『実験に疲れて息抜きしたいときに重宝する』という境内で、『くたびれた心身がじわじわと浄化されていく』のを感じる山根。そんな時、『雨が降り出して、山根は傘を開』きます。『数分のうちに豪雨になった』という中、『なんだか愉快な気分になってきた』山根は『楼門の手前、左のほうに、なにかがぼうっと白く浮かび上がっている』のに気づきます。『薄闇の中に現れたのは、満開の山桜だった』という光景に『神聖な迫力』を感じる山根は、『真紅の楼門の、太い柱に寄り添うように、誰かが立っている』のに気づきました。『あの』と声をかけた『山根は彼女のもとに駆け寄』ります。『思考回路は完全に停止していた』という山根は『薄暗い中で、白いワンピースが光を放っている』という女性に『これ、使って下さい』と傘を差し出しました。『卵形の輪郭の中に、すべてがバランスよくおさまっている』という彼女。そんな『彼女が口を開きかけたとき』雷が轟きます。『彼女が空を見上げ』、『山根は彼女を見つめた』というその瞬間、そんな山根は『傘を彼女の足もとに置いて、一目散に駆け出し』ました。そんな二人の運命の出会いから始まる恋の物語が京都の街並みを背景に描かれていきます。

    瀧羽麻子さんの代表作でもある「左京区七夕通東入ル」の続編となるこの作品。瀧羽さんが大学時代を過ごされた京都の街並みを背景に青春真っ只中を生きる主人公たちの姿が鮮やかに描かれていきます。まずは前作同様にこの作品の一番の魅力とも言える京都の街並みの描写です。京都という街は日本の中でも特別な位置づけにあると思います。他の作家さんの作品でも綿矢りささん「手のひらの京」、七月隆文さん「ぼくは明日、昨日の君とデートする」など京都が舞台だからこその味わいを感じられる作品が多々あります。綿矢さんは京都出身ですが大学は早稲田大学へと通われていました。それに対して七月さん、瀧羽さんは京都生まれではないものの京都の大学に通われたという共通点があります。そんなこともあってか、七月さん、瀧羽さんの作品では大学生主人公の目を通した京都の風景が生き生きと描かれるのが何よりもの魅力です。そんな瀧羽さんの作品で度々登場するのが『デルタ』です。『賀茂川と高野川がまじわるこの三角州』、『ちょっとした公園のよう』という『デルタ』。恐らくご自身も何度も訪れられたであろうその場所をこんな風に記述される瀧羽さん。一年の中で『川の中に足を浸して蒸し暑さをやり過ごす夏』、『川面をわたる涼しい風を受けつつぼんやり考えごとにふける秋』とそれぞれの季節の良さを『折々に魅力があって甲乙はつけがたい』と書く瀧羽さん。しかし、『他の時季に比べて人影が減る冬も、きりきりとしめつけられるような寒さがかえって潔く、心地よい』と、冬の良さも捨てがたいと書いた上で、『しかしあえて選ぶなら、山根は春先に一票を入れたい』と、春の『デルタ』の素晴らしさを挙げます。その理由を『なにかがはじまる予感に満ちている』と書く瀧羽さん。まさしくそんな四月の『デルタ』からスタートする読者の期待度最高潮にスタートする物語を京都の街を代表する景色とも言える『デルタ』を舞台に描く瀧羽さん。『顔に当たるそよ風はほのかに薄甘い草のにおいをはら』むという生命が躍動を始めるまさにそのタイミングの『デルタ』をとても上手く取り入れた絶妙な描写だと思いました。

    また、前作では『祇園祭』の描写によって京都ならではの熱狂と興奮の中にある躍動感を感じさせる物語が展開しました。それに対してこの作品では、『「大」の字を構成する火床は全部で七十五か所…』と説明され、『いよいよ点火の時間が近づいている』という緊張感の中に始まる『大文字の送り火』が描写されていきます。私たちは、テレビの中継映像などで『大文字の送り火』を見ることがあると思います。もちろん現地で生でその光景を目撃された方もいらっしゃるかもしれません。それは、『やっぱ、送り火には焼鳥とビールやな』という見る側の視点です。この作品では、見る側に回る者がいる一方で、『かんじーざいぼーさーつぎょうじんはんにゃーはーらーみっーたー』という『般若心経』の読経から始まり、『リフトで運ばれてきた護摩木や割り木を、バケツリレーの要領で金尾近くまで運ぶ』、『男性陣が中心となって、護摩木や割り木の間に麦わらや松葉も挟んで組んでいく』…とその『大文字の送り火』を施行する側に回る主人公が体験するドラマティックな舞台裏が結末に向かって描かれていきます。テレビの中継映像の裏側に沢山の人々の熱い思いがあることを知るこのシーン、京都を描くこの作品のクライマックスとして、これから読まれる方には是非期待いただきたいと思います。

    そんなこの作品の前作は、”花と龍彦、文系女子と理系男子の間に生まれた恋模様”が描かれた”恋愛物語”でもありました。花は東京で就職し、大学院へと進んだ龍彦は寮を出て一人暮らしをスタートするという形で主人公二人が物語の舞台から降りることで前作は終了しました。しかし、大学というものは誰かが卒業していなくなっても後輩へとその舞台は引き継がれて回っていきます。寮だって、物理的に取り壊されない限り連綿とそのコミュニティは受け継がれていきます。続編となるこの作品では、前作で『花火奉行』として独特の立ち位置で物語を演出してくれていた『ヤマネくん』が、主人公の『山根』となって、また寮での共同生活の雰囲気感そのままに恋の物語のど真ん中に登場します。

    そんな山根の恋の相手として登場するのが『下鴨神社で、雨宿りしている女のひとに、傘を渡した』というきっかけで出会った女性です。『あの、お名前は』『ああ、すみません。野々宮です。野々宮美月』という年上の彼女。『綺麗なひとは、名前まで綺麗だ』と思う山根は『世界が違うっていうか、ものすごい遠くにいるひとやねん。でも会ってるときは、ほんまに楽しくて。せやけど逆に会えへん間は、なんや知らんけど、ずっと苦しい』と恋の悩みに苦しんでもいきます。そんな山根の姿は前作の『ヤマネくん』とは別人のようでいて、それでいていかにも『ヤマネくん』が恋をしたら…という延長線上に描かれていきます。この絶妙さは、とにかく微笑ましく、応援したくなるような初々しさに満ち溢れていると思います。意を決して再会の約束を果たしても『発見だ。歩きながら会話するのは、難しい』、『こうして誰かとふたりで目的もなくそぞろ歩くという経験も、山根にははじめてである』と初々しい限りを見せてくれる山根。『もうどうしたらいいんか、自分でもようわからん』と思い悩む山根は、そんな美月のまさかの正体を知って愕然とします。しかし、それでも『美月さんと一緒にいられるなら、なんだってやる』と苦難に立ち向かっていく山根の姿は、少々場面設定の出来過ぎ感を感じないではありませんが、それよりもこの作品の全体としての雰囲気感の説得力が勝ります。そう、この作品は大学生主人公の青春を京都の街を舞台に感じる物語!雰囲気感を優先に楽しむという前提ではこれ以上ない場面設定だとも感じました。

    そんな恋の物語には応援団が欠かせません。『かわいいデートコース、わたしが考えてあげるよ』と助け舟を出すのは前作の主人公・花。そして、そんな花の彼となった龍彦も『そうや、がんばれや』と後押ししてくれる物語。続編もので、前作の主人公を登場させる場合にはその立ち位置をどうするかは一番の課題です。表に出しすぎると続編でも引き続き主役を張ってしまいかねません。逆に裏に回りすぎると前作ファンとしては寂しい限りで、続編感が薄まりもします。この作品はその意味でも、前作で恋の物語を繰り広げた主人公たちに、続編では恋の物語を繰り広げる新たな主人公をバックアップさせるという絶妙な立ち位置を用意することで、万人が納得できるような最高の舞台演出がなされていたように思います。続編ものを多々読んできて、ここまで絶妙に主人公の交代が上手くなされている作品を読むのは初めてかもしれません。瀧羽さんの構成の上手さと、このシリーズにかける想いを強く感じました。

    青春真っ只中の大学生・山根が、『世界が違うっていうか、ものすごい遠くにいるひとやねん』と、野々宮美月への恋の思いに突き進む様を見るこの作品。雰囲気感たっぷりに描かれる京都の街の美しい四季を感じるその物語は、同じように大学生活を京都の街で過ごされた瀧羽さんがかつて見たリアルな京都の街を読者の目の前に再現してくださるものでもありました。

    どこから切り取っても、”ザ・青春”という読んでいて恥ずかしくなるほどの煌びやかな青春の一ページが凝縮されたこの作品。前作に魅了された方には、あの雰囲気感そのまんまに展開されるこの続編を是非とも読んでいただきたい、青春の煌めきを共に感じていただきたい、そんな風に感じた素晴らしい作品でした。

  • 左京区シリーズ第二弾は、大学院生になった山根くんが主人公。
    相変わらずの寮生活が続いています。
    バイオを専攻している、食べ物が大好きな安藤くんに加え、三次元ゲームの開発に携わっている後輩の寺田くんや、ダニを研究している川本くんも登場します。

    工学部工業化学科、花火が大好きで、小柄でメガネをかけた艶やかな黒髪のおかっぱ頭の山根くんが、白いワンピースの可憐な乙女に人生初の恋をするのです。
    花ちゃんのアドバイスを受け、下鴨神社に毎日参拝したかいあってか、名前も知らない例の姫とようやく再会を果たすのですが、なにしろ女性慣れしていない山根くん。お茶をするにも、デートの待ち合わせやランチをするにも失態続きで、笑っちゃいけないけれど、面白すぎます。

    瀧羽さんの文章はクセがなくて読みやすく、一癖も二癖もありそうな理系男子をこんなにも楽しく描き上げて、愛情を注いでくれているところに好感が持てます。
    葵祭や五山送り火など、京都ならではの伝統行事が盛り込まれていて、とても読みごたえがありました。

    恋のお相手は正真正銘の姫だったけれど、山根くん、「姫」に出会えてよかった。楽しい時間を一緒に過ごせて本当によかったです。

  • 姫 美月ちゃん登場までの時間がだいぶあります。それで花とか前回登場人物の思い出話を見られたと思う。出会いから失恋する迄の淡い恋でした、不器用な経験値がない山根の風邪じゃない恋煩いがとてもよいですね。なんか花とたっくんの様にハッピーエンドになるのが当たり前だと思っていたね。寮のお助けとリンクして、なんかいい感じで終わった。電話でお互い感謝して終わるのも、味があっていい感じ、にしても6時30分起きのラジオ体操に朝ご飯にそれを当たり前になってしまう身体はどうなのか、経験者しかわからないですね、羨ましいってこと

  • 京都の大学に通う理系男子の初恋の話。
    読んでてすごく応援したくなった!ただ、個人的には女性目線の前作の方が好きかな。

  • 左京区シリーズ第2弾。

    国立大学とは思えない建築計画とか、ちょっと箱入りすぎる美月さんのキャラクターとか、どうして美月さんはデートに来たのかとか、気になるところがいくつかあった。

    でも、とにかく初恋らしさがよかった。
    初恋は、経験値が少ないせいで、思いの強さに比べてできることができることが少ない。
    だから実際に相手といる時間は少なくとも、それ以外の時間に相手のことを考えて、勝手に愛情が育って行ってしまう。

    山根は一人で悶々としていてまさにそんな感じだった。
    やっとデートにこぎつけたと思ったら、お茶に誘ったのにお金がないとか、スケジュールを分刻みで立ててしまうとか、スケジュールを書いたメモをなくしてしまうとか、失敗ばかり。
    かと思えば一人で突っ走って、いきなり「寺に入ります」なんてところまで行ってしまう。
    ここまで奥手なのも極端だが、見ていて面白かった。

    初恋は実らないとよく言うのに、さらに相手は良家のお嬢様で、難しそうな恋だと思いながらも二人の結末が気になった。

    ラストの送り火のシーンは五感で感じられてとても印象的だった。
    送り火が始まるわくわく感、電話から聞こえる美月さんの澄んだ声、目の前に広がる火の勢い。
    「うさぎパン」、「ネバーラ」、「白雪堂」と読んできたが、これまでで一番素敵な描写だった。

    滝羽麻子の文章は優しいけれど、描写としては良くも悪くも淡々としたところがあって、盛り上がりに欠けるところがあった。
    でも、こういうシーンが要所で出てくれば、心に残る作品が増えてくるのではないかと思う。

    早速シリーズ3作目を読もう。

  • 知っている地名が出てくるので想像しながら読めた。

  • 工学部大学院生 理系男子の淡い初恋の物語。

    「人間も元素の集合体ですから、
    組み合わせ次第でなにかが起きるのは、
    ある意味、自然なのかもしれません」

    恋をしたときの
    しあわせな気持ちや緊張感、
    あーいいなと思いました。

    せつないけど、まるくおさまる
    後味すっきりでした。

  • この物語は、京都でなければ描けない。

    葵祭の斎王代に抱いた山根のはかなく切ない恋心も、歴史ある学生寮の取り壊し計画とその阻止のエピソードも、壮大な送り火も、賀茂川の花火も、この作品にはすべてがなくてはならないものになっている。

    積み重ねた歳月に磨かれることでしか生まれない光沢を纏う古都の美しさと気高さが、学問に埋もれる生き方を選ぶしかなく、そうすることでしか輝けない山根をやんわりと拒み、その背中を押す。

    このはんなり加減は、京都そのものだ。

    ラストシーンはこの切ない恋の終わりを飾るにふさわしく、山根にとっての何よりの救いだったと思う。

    古都の恋の終焉には、送り火がよく似合う。
    過ぎ去るものへの挽歌に、合掌。

  • 東入から、内にエネルギーを溜め込んだもどかしさを感じさせていた山根の物語。姫の登場でどうなる山根。懐かしさと共に山根の物語、周りの面々との日常を楽しみました。

  • 共感できる色恋に対する不器用さと左京区という舞台に親近感が湧いて、滞ることなく読んだ
    自分の大切なもの(使命や情熱を注いでいるもの)を捨ててもあなたと居られるならいいと思うことを必ずしもあなたは望んではいない

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著者プロフィール

1981年、兵庫県生まれ。京都大学卒業。2007年、『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、デビュー。
著書に『ふたり姉妹』(祥伝社文庫)のほか、『ありえないほどうるさいオルゴール店』『女神のサラダ』『もどかしいほど静かなオルゴール店』『博士の長靴』『ひこぼしをみあげて』など多数。

「2023年 『あなたのご希望の条件は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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