八月の光・あとかた (小学館文庫 く 11-2)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 101
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094061802

作品紹介・あらすじ

ヒロシマを生きた人々の、「命」の物語

一瞬の光が広島の地を覆うその瞬間まで、あの場所にいた人々にどんな時間が流れていたのか。そして、生き残った人々は、苦しみと哀しみの中でどう生き抜いてきたのか――。被爆二世の著者だからこそ書ける、真実をモチーフにした物語です。 児童文学作品として発表されながらも、幅広い年代の読者の心を揺さぶった『八月の光』。戦後70年の節目を迎えたいま、書き下ろし2編を加えて待望の文庫化です。
巻頭の『雛の顔』は、その日勤労奉仕をさぼって命拾いをした女性と、それを責めた女性、それぞれの心の変化とその後の人生が、続く『石の記憶』では、広島平和記念資料館に展示され、原爆の悲惨さを伝える「白い石段の影」にまつわる物語が描かれます。『水の緘黙』では、苦しむ人を助けられずに一人逃げた少年の自責の念が救われるまでの物語。『銀杏のお重』では、戦争で女性だけとなった家族が、戦争を、原爆をどう生き抜いたか。ときに悋気にもならざるを得なかった女性たちの悲しみと強さが描かれます。『三つ目の橋』は、原爆で父と弟を、そして原爆による放射能症によって母を失った姉妹の物語。「ピカに遭うたもんは、たとい生きても地獄じゃ」。本作品に出てくるこの一文が、生き残った人々のその後の苦しみを集約しています。
決して特別な人の特別な物語ではなく、私たちと同じ市井の人間の物語。あの日の光が、あの場所に生きた人々の魂の声が、いま再び届く――。


【編集担当からのおすすめ情報】
『八月の光』という表題は、すでにおわかりの通り原爆投下による“光”のこと。被ばく2世である作者の丁寧な取材と、巧みな筆致によって、戦争記録としてだけではなく、誰の心にも響く魂の物語になっています。
いつもと同じ朝が来る幸せ、未来への希望を語れる今を感謝させてくれる一冊。世代を超えて、いつまでも長く読み継がれて行ってほしい名作です。

感想・レビュー・書評

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  • 繁内理恵さんの『戦争と児童文学』でくわしく紹介されていて、まだ読んだことがなかったので。
    さまざまなバージョンがあるようなのだけど、単行本に2編足したこちらの電子版を読みました。

    その日に起きることはだれもが知っているけれど、そこにはひとりひとりの事情があり、状況があり、けれどもそれがすべて「○十万人」という数字で述べられるだけの圧倒的な暴力の前になぎ倒されていく。すさまじいことだ。

    生きのこった者がまるで加害者のように自分を責め続ける「水の緘黙」がいちばん胸に迫ってきて何度も涙がこみあげた。

    「あなたでも私でもよかった。焼かれて死んだのも、鼻をもがれたのも、石に焼きつけられたのも。あなたでも、私でもあった。死ぬのは誰でもかまわなかった」
    「だからこそ、あの日を記憶しておかなければと思うのです。あの日を知らない人たちが、私達の記憶を自分のものとして分かち持てるように」

    「サバイバーズ・ギルト」は、『アリとダンテ~』にも描かれていた。あちらはベトナム戦争。悲惨しかうまない。

  • 原爆に命を奪われたのは、ささやかな日常を生きているふつうの人たちでした。多くの命が一瞬で奪われることの恐怖、そしていつまでも消えない苦しみを静かに描いた連作短編です。10代に強くおすすめしたい、大人までみんなに読んで欲しい1冊。

  • 単行本に二編追加されて文庫本として出版されたもの。
    単行本を読んだ時感じた気持ちがさらに深くなった。
    何回も読み直して読み続けて、決して忘れてはならないと思う。

  • 五つ作品で、8月に読むべき。真摯、静謐というのがいつもこの著者の作品の読後感。まっすぐ深いところに届く物語。

  • 何度も何度も書き継がれてきた、「あの瞬間」だから、どの描写にもどうしても既視感がある。
    方言は、去年観たあの映画ののんの柔らかい語り口で再生されてしまう。

    新しい衝撃はなかった。

    あと、吝嗇と悋気を間違ってるような…。


  • ラジオドラマを聞き、購入。

  • 広島の原爆投下に居合わせてしまった人々の哀しい物語の短編集です。「石の記憶」は中でも印象に残りました。

  • 夏が来るたびに、八月が来るたびに。
    今まで何冊の戦争の本を読んできただろう。何冊読んでもこの身体に、この心に、目に見える傷は残らない。けれど繰り返し本を読み、声なき声に耳を傾け、そして次の世代に手渡していかなければならない。それはもうこの世界に生まれた一人の人間としての定めだと、そう思う。
    一瞬で何万もの人の命を奪い、その後何十年とその身体と心を痛め続けている原爆という悪魔を二度とこの世に生まれさせないために、私たちは何冊でも本を読み、何度でもその声を伝え続けなければ。生き残ったことが苦しみとなるような、そんな世界が二度と来ないように祈り続けていかなねば。

    • kyocooさん
      はじめまして。
      突然のコメント失礼します。
      私も全く同感です。
      毎年8月に出来る限り戦争の本を読んできましたが、それは今の時代に生きる...
      はじめまして。
      突然のコメント失礼します。
      私も全く同感です。
      毎年8月に出来る限り戦争の本を読んできましたが、それは今の時代に生きるものとして最低限しなければと8月が近づく度に強く思います
      2016/11/17
    • べあべあべあさん
      kyocooさま
      コメントありがとうございます。
      8月が過ぎるとすぐに忘れてしまうこの気持ちですが、それでも一年に一度でも思い返すことが...
      kyocooさま
      コメントありがとうございます。
      8月が過ぎるとすぐに忘れてしまうこの気持ちですが、それでも一年に一度でも思い返すことが大切なのかも、と、そんな気もします。
      2016/11/21
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著者プロフィール

広島出身。被爆2世。
デビュー作『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞受賞。その後『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社)で日本児童文芸家協会賞受賞。『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞受賞。『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞、福田清人賞受賞。『あひるの手紙』(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞受賞。ほかの著書に『引き出しの中の家』(ポプラ社)、『月白青船山』(岩波書店)、『八月の光 失われた声に耳をすませて』(小学館)などがある。
近年では、『光のうつしえ』が英訳刊行され、アメリカでベストブックス2021に選定されるなど、海外での評価も高まっている。

「2023年 『かげふみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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