月蝕 在原業平歌解き譚 (小学館文庫 し 16-1)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 117
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094062380

作品紹介・あらすじ

キャラ萌え必至!の平安王朝ミステリー

和歌の達人にして、宮中一の色男である在原業平は、生意気盛りの惟喬親王に懐かれ、親族として面倒を見ていた。しかし、権勢を誇る藤原良房の娘明子に惟喬親王の異母弟である惟仁親王が誕生し、皇位継承を巡って暗雲が立ちこめる。直に、惟喬親王や母の静子に身の危険が迫るようになった。
そのころ、惟喬親王に静子の縁者という香澄が仕えるようになった。ある日、香澄から藤原家の陰謀が隠されているという謎の和歌の秘密をあばいて欲しいと言われる。業平は、陰陽師の行貞とともに和歌の謎を解き明かすとともに、隠されていた書状を発見する。それは、藤原家が権力の中枢に食い込むためにしてきた、闇の歴史が記されたものだった――。
惟喬親王を亡き者にしようとする勢力から、親王を守ることができるのか。
在原業平と親友の陰陽師葛木行貞が活躍する、平安王朝ミステリー。
文庫オリジナル。

感想・レビュー・書評

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  • 「からころも」など万葉集にちなんだサスペンスものを書かれた作家さん。今回は『伊勢物語』の在原業平が主人公で、やはり歌が物語の中心となっている。
    副題は『歌解き譚』だが、こちらもミステリーと言うよりはサスペンスタッチだ。

    ここで描かれている在原業平はイメージ通り。女性にモテモテで常にいろんな女性の元に通っている。何と、十に満たない少女からも猛烈に言い寄られている。
    当然歌も上手くて、東宮・道康親王(後の文徳天皇)の子・惟喬親王の歌の指南もしている。
    だが軟弱な印象とは裏腹に武道や乗馬も出来る硬派な面もある。唯一の弱点は当時男子なら習得出来て当たり前な漢文が苦手なこと。
    そんな業平が、惟喬親王に異母弟・惟仁親王が生まれたことから皇位継承を巡っての暗闘に巻き込まれていく。

    個人的には主人公の業平よりも惟仁親王のキャラクターが好きだった。
    まだ七歳の少年なのに親子ほど年の離れた小野小町に恋心を抱き、業平に歌と恋の指南をせがむ。小野小町にけんもほろろな歌を返されても決してめげない。一方で少年らしく、座学よりも馬で駆け回るのが好きで業平も付き合わされる。
    ちょっとやんちゃで素直なお坊ちゃまなのだと思っていたが、中盤になると彼の本当の人柄が現れる。

    歌の飲み込みも早いし、勘も鋭い。
    父である東宮や祖父である仁明天皇、身分は低いが東宮に寵愛されている母親・静子を思う気持ちは深い。そして何より自分の立ち位置というものをよく分かっている。

    いくら東宮である父が母・静子を寵愛し賢い惟喬親王に皇位を譲りたいと考えていても、現在権勢を誇る藤原良房は娘・明子(あきらけいこ)が生んだ惟仁親王を天皇にするべくあらゆる手立てを企てるであろうこと。
    父がこれに反対し対抗すれば、良房は直接的な、危険な方法に打って出るかも知れないこと。
    たった七歳の少年がここまで考え、父母を思いやる気持ちがとても健気で切なかった。

    そんな不安はやがて現実のものとなる。静子が嫌がらせを受け惟喬親王は暴漢に襲われる。業平は暴漢を排除し助けるが、今後もこうした嫌がらせや危険は続くものと思われる。

    そんな時に惟喬親王の新参女房・香澄から、怪しげな和歌の謎解きを託される。藤原家の秘密が隠されたという三首の和歌はそのまま読めば全く意味をなさない。一体どんな謎が隠されているのか。

    業平が様々な女性を口説きながら情報を集め、友人の陰陽師・葛木行貞が陰陽道で潜入捜査をする。いざ荒事となれば武道が得意な業平が務める。なかなか良いコンビだ。
    彼らと良房側との駆け引きはなかなか見応えがあった。それにしても陰陽寮のリーダーすら簡単に制圧してしまう行貞は凄腕陰陽師だ。なのに血筋のせいか身分は低い。彼が出世に全く興味がないためでもあるのだが、そこが清々しい。
    女難の相が出ていると行貞に注意されても女性の元へ行く業平もまた清々しい。

    後の歴史を知っている者からすれば業平や惟喬親王にとっても苦々しい結末になることは分かっている。しかしこんな汚らしい政争に巻き込まれ、最悪命を落としてしまうくらいなら、政治から距離を置いて自由に生きてほしいとも思う。
    もちろん実際の人となりは分からないが、こんなに素直で優しく聡明な惟喬親王をこれからも業平と行貞で守って欲しいとも思う。

    余談だが先に揚げた<万葉集歌解き譚>シリーズに出てくる陰陽師も葛木性。ということは、この作品に登場する陰陽師・葛木行貞の子孫になるのだろうか。両方とも『隠形の術』が出てくるのも意味深。

  • 惟喬親王の世話をしている在原業平の女たらしぶりがなかなかいい。惟喬親王に異母兄弟が生まれたために、いろいろな怪しげなことが起こり始める。在原業平と親友の陰陽師の行貞は惟喬親王のために奔走することになる。業平が剣の達人だったり、行貞が隠形の技を使えたりと、結構面白い。小野小町の颯爽ぶりや藤原高子の気の強さなども、読んでいて楽しい。連番状というのは唐突だけどなあ。

  • 先に読んだ『桜小町 宮中の花』つながりでこちらも手に取ってみた。本作の在原業平は武力自慢のイケメン歌人として駆け回っているが、正直なところ主人公の業平より惟喬親王のほうが魅力的だった。陰陽の術が入ることでややチープな印象になってしまった感はあるし、政争が絡んでいるわりにどこかあっさりした流れになっているので、内容的には少々物足りないが、読者を7歳の男の子に惚れさせる小説って、そうそうない気がする(笑)。

  • 和歌に隠された暗号と政争。つまらなくはないのだが、業平のチャラ男ぶりが苦手。

  • 在原業平と惟喬親王、もっていたイメージは業平も壮年となりそれぞれが思い通りにならぬ世の中に対してサロン的な交わりをしている、そんなイメージです。サロンでは分別の着いた大人たちが風流を讃えながら世を嘆くような。
    業平と高子と言えば、世慣れた十分に大人の業平が深窓のご令嬢に外の世界の美しさを手ほどきしていくような。
    そういうイメージからすると、この物語はエピソード0なのだろうと思います。
    後々の業平と親王の親交を思うと、こんなエピソード0があっても悪くないと思いました。
    業平自身の屈託のなさもエピソード0なら納得。
    在原業平歌解き譚と表紙にあったので、もっと歌が登場してくるのかと思ったら、そんなに多くはなかったです。業平を含め、小町の歌も、少なめ。だから、歌集に残っている歌のお話と思って読むと、ちょっと期待と違うところに連れていかれます。
    最も印象的だったのは小野小町の使い方がとてもよかったことでしょうか。
    陰陽師の使う隠形の術が、落ちというか種というか、解釈によるものかと思っていたら、本当に種のない術だったのにびっくりしました。
    続編、う~ん、高子の使い方が難しいかなあ。

  • 応天の門を読んで在原業平や菅原道真に興味をもち読んでみた。

  • 冒頭にある「関連系図」、桓武天皇から惟仁親王(清和帝)まで、更に橘氏まで、やたら詳しいんですが、あー、これも伏線だったんですね!暗号トリックと言うほど手の込んだものでもなく、陰謀のほうも周知されている歴史的事実なんで、ミステリ的要素は少ないですが、聡明なる惟喬親王のビルドゥングスロマンっつーことで。

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著者プロフィール

篠綾子/埼玉県生まれ。東京学芸大学卒。『春の夜の夢のごとく 新平家公達草紙』でデビュー。主な著書に『白蓮の阿修羅』『青山に在り』『歴史をこじらせた女たち』ほか、成人後の賢子を書いた『あかね紫』がある。シリーズに「更紗屋おりん雛形帖」「江戸菓子舗照月堂」など。

「2023年 『紫式部の娘。 1 賢子がまいる!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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