東京帝大叡古教授 (小学館文庫 か 44-1)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (518ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094062823

作品紹介・あらすじ

日本初! 文系の天才博士が事件を解決!

物語の主人公・宇野辺叡古(うのべえーこ)は、東京帝国大学法科大学の教授である。大著『日本政治史之研究』で知られる彼は、法律・政治などの社会科学にとどまらず、語学・文学・史学など人文科学にも通じる”知の巨人”である。
その知の巨人が、連続殺人事件に遭遇する。
時代は明治。殺されたのは帝大の教授たち。事件の背景には、生まれたばかりの近代国家「日本」が抱えた悩ましい政治の火種があった。
他を圧倒する「知の巨人」が開示していく事件の真相は、まさに予測不能。ラストは鳥肌モノ!!
第153回直木賞候補作、早くも文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • 1905年8月2日。
    19歳の私が、熊本の第五高等学校から東京帝大の法科の宇野辺叡古教授(文庫解説によると作者の好きなウンベルト・エーコをもじった名前だそうです)を頼って上京してきます。
    私と叡古教授が待ち合わせた大学の図書館で、いきなり高梨力衛教授が何者かに殺されてしまい叡古教授が犯人かと疑われてしまいます。叡古教授の周りには国民新聞の松崎天民、徳富蘇峰などもいて事件の真相を探っていきます。
    そしてまた、二度目の殺人が起こり東京帝大の元教授の鳥居久章が殺されます。犯人は東京帝大英文科講師でホトトギスに『吾輩は猫である』を連載していた、夏目金之助(漱石)であるという噂が流れます。
    そして三つ目の殺人で中倉金吾博士が殺され、殺しをやった実行犯はすぐに元旗本のおちかという女性の係累(母と弟たち)だということが判明しますが、一連の事件は日本に日露戦争をさせた七博士を殺そうとしている事件であると断定されます。
    叡古は、この事件には黒幕がいると睨みます。
    最初は、盛岡弁から原敬が怪しいと思われましたが、どうも違う方向へ事件は展開します。
    巻末の文庫解説では「歴史を知らなくても楽しめる」とありましたが、私は全く無知だったので、どこまで真実でどこからフィクションかわからず困りものでした。少し検索してみたら七博士はすぐ出ましたが、殺されたというようなことは出てきませんでした。
    しかし、主人公の阿蘇籐太(叡古のつけた仮名)と叡古の娘のさくら子との関係が『三四郎』のモデルであるとか、ありえない小話は面白く楽しめました。
    最後に明かされた、籐太の本名の検索をしたら、かなり有名な実在の人物で、日本史に詳しい方には面白い作品ではないかと思います。

  • 熊本から東京帝大の叡古教授を訪ねるために上京した高校生、19歳の「私」は、長旅の後宿で教授からの、「翌朝大学の図書館で会おう」旨の手紙を受け取る。ところが翌日、図書館で教授らしい人を見つけ声をかけたところ、その人はすでに亡くなっていて、叡古教授と対立している教授だった。駆け付けた叡古教授と対面した「私」は、その場で阿蘇藤太と名付けられ、彼とともに事件の解決を試みる。

    数々の事件を解決しながら、当時の日本を震撼させる出来事も絡ませていく政治ミステリー。




    *******ここからはネタバレ*******

    素晴らしい頭脳の持ち主でありながら、ユーモアと温かさを備えた教授と、発展途上ではありながら明晰さと素直さを併せ持つ藤太との掛け合いが楽しい。

    一つ一つの事件がホームズやコナンのように着々と解決されていきながら、またそこから別の大きな事柄への糸が見つけられていき、飽きさせない。
    教授や藤太、さくら子や蘇峰、天民という知識階級の人たちだけでなく、おはつやおちかという庶民も存在感があって、物語に厚みを与えている。

    最後に「私」が、あの重光葵だと明らかにされるが、国歌斉唱中だから爆弾が投げ込まれた時に逃げなかったというエピソードも、この物語を読むと納得できたりする。

    何のために勉強するのか?と思っている子どもたちには、ぜひ読んでもらいたい。

  • 時は明治三十八年の夏。
    熊本第五高等学校に学ぶ秀才で、将来は政治家を志す“私”は、東京帝国大学法科の新進博士・宇野辺叡古教授への紹介状を手に上京した。
    待ち合せに指定された東京帝大附属図書館で、“私”は殺人事件に遭遇し、被害者としばしば論を戦わせていた叡古教授は殺人犯の疑いをかけられてしまう。
    さらに第二、第三の教授殺しが…


    門井慶喜さんの著書は、『おさがしの本は』に続く2冊目。
    『文系の天才博士が事件を解決(中略)ラストは鳥肌モノの衝撃』という文言につられて貸出したものの、ミステリとしてはそこまでの面白さはなかった。
    むしろ、日露戦争の勝利に沸き立つ激動の時代に、多くの傑出した才能を持つ著名人たちと出会い、政治の裏表を見聞きし、やがて外交官となる一人の青年のオロオロ青春記といおうか。

    実在の人物があちこちに顔を出すので、こういう時代にこの人たちは活躍していたんだ、という興味深さはあったが…なんとなく、全体にアンバランスで中途半端な印象が残った。

  • 連続殺人事件に遭遇した東大教授宇野辺叡古が、事件を推理し、犯人を明かすまでを描いた直木賞ノミネート作。
    時は、日露戦争前後の物情騒然たる近代日本。
    架空の人間と実在の人物とを見事に融合させた歴史ミステリー。
    事件の容疑者に夏目漱石が疑われたり、当時の著名人が次々と出てくる。
    徳富蘇峰、原敬、桂太郎、嘉納治五郎、野口英世、森鴎外、西園寺公望等々、錚々たるメンバーが。
    語り手は、阿蘇藤太なる人物。
    そして最後に、この人物の本名が明かされると、近代日本史に興味ある読者は、アッと思うこと間違いない。

  • 明治時代の連続殺人ミステリー。
    歴史ものは、その時代ならではの事情や常識があるから面白い。
    全然知らなかったけど、ファクシミリってそんな昔からあったのか。わたあめもこの時代なのかと少し驚いた。

  • 日露戦争の終結間際の頃、日比谷界隈は、東京帝国大学は、徳富蘇峰や、桂太郎や原敬は何をしていたのだろうか。未来の日本のエース外交官は何をしていただろうか。ああ、こういう絵柄だったのかもしれないな、と門井の「画力」に賛嘆。



  • 日露戦争前後。
    ポツダム宣言受諾に調印した重光葵の話。
    日露戦争、ポーツマス条約、日比谷焼き討ち事件、帝都大学教授殺人事件。
    フィクションではあるが、史実に限りなく近い。さすが、門井慶喜氏。相変わらず、その博識ぶり、徹底ぶりには舌を巻く。
    彼の作品はどれも、学ぶこと、知ることの楽しを教授してくれるものが、実に多い。
    本作は前知識なくても、まぁ面白いが、歴史が頭に入ってる方が何倍も楽しいだろうな。

  • 明治時代を舞台に、東京帝大の宇野辺叡古教授が大事件に挑む時代ミステリー。
    化学探偵のように理系の先生が活躍するミステリーは多いが、文系の先生ものは珍しいように思う。そして登場人物が、徳富蘇峰、夏目漱石、桂太郎、西園寺公望、原敬とスケールが大きい。ポーツマス条約やら日比谷焼打事件やらの史実も交えて、明治から昭和にかけての東京の雰囲気を味わえる。
    事件の謎と、助手の学生さんは誰なのかという謎。この2つを楽しみながら読んだ。

  • 面白かった!

    明治時代の天皇に対する畏敬の念の描写が、
    神々しく美しくて、心に残りました。

  • 物語の世界観が独特で引き込まれていった。なぜ学ぶのかとの問いへの回答は、忘れずにいようと思う。

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著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年に咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。近著に『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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