ウォールデン 森の生活 (上) (小学館文庫 ソ 4-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094062946

作品紹介・あらすじ

わかりやすく、見やすく蘇った『森の生活』

「人は1週間に1日働けば生きていけます」。ヘンリー・D・ソローは、1800年代半ば、ウォールデンの森の家で自然と共に2年2か月間過ごし、自然や人間への洞察に満ちた日記を記し、本書を編みました。邦訳のうち、小学館発行の動物学者・今泉吉晴氏の訳書は、山小屋歴30年という氏の自然の側からの視点で、読みやすく瑞々しい文章に結実。文庫ではさらに注釈を加え、豊富な写真と地図とでソローの足跡を辿れます。産業化が進み始めた時代、どのようにソローが自然の中を歩き、思索を深めたのか。今も私たちに、「どう生きるか」を示唆してくれます。

【編集担当からのおすすめ情報】
動物学者にして、山小屋歴30年という生粋の「自然の人」である今泉吉晴氏による翻訳とソローの歩いたウォールデンの地図、ソロー直筆のイラスト、ソローの愛した自然の写真など、わかりやすく多面的にソローの考えを伝えてくれる、現代の若い人にぜひ読んでほしい1冊です。

感想・レビュー・書評

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  • 上下巻通してのレビュー。
    各400ページ超、文字サイズは大きく行間も広い。注釈をページ下部に配置、全18章のはじめには章の概要説明があり、動植物のイラストも多い。ときおりページ全体を使って舞台となるウォールデンの写真も掲載される。訳者は自身も山小屋歴30年の経験をもつ動物学者であり、近年の出版ということもあってか翻訳にストレスを感じることはなかった。

    27歳の著者が1845年7月4日から二年と二か月のあいだ、マサチューセッツ州ウォールデン池のほとりで自給自足の生活を行った経験を振り返っての回想録、エッセイ。自然研究のパイオニアともされる。森での自給自足の生活とはいっても人里離れた地域ではなく、最寄のコンコード村からは3kmほどしか離れておらず、付近には開通したばかりの鉄道も通過する。

    カテゴリ別の構成の各章は、二年の経験を一年に見立て、四季の移り変わりとともに経過する。どちらかといえば上巻は人間社会に関係する項目が目立ち、下巻では自然への観察・動植物の描写が増える。詩情豊かな自然描写だけでなく、自身のによるものと引用を含め、詩そのものもところどころに現れる。箴言の引用も多い。

    文明や、大量生産・大量消費に代表されるような資本主義社会にたいする否定的な姿勢が明確で、とりわけ鉄道についてはその象徴としてたびたびやり玉にあがる。その対象は当時の社会だけではなく、例えばエジプトのピラミッドさえも支配によって成し遂げられた人間の愚かさを表すものでしかないと唾棄する。批判の矛先はキリスト教さえも例外ではなく容赦がない。本書に残された自給自足の試みも単なる自然礼賛ではなく、人間社会の負の側面の無意味さを証明するための思想的な背景があってのものと思える。そのような著者が訴えかけるのは、個々人の内面の追求である。

    150年以上前の著書だが、階級差による貧富の格差にも着目するような著者の問題意識は、現代にもその多くが当てはまり古さを感じさせない。現代のナチュラリストやアウトドアを愛好する人々たちのなかにも、直接間接、意識するしないを問わなければ、かなりの多数が本書の影響を受けているのではないだろうか。

    一貫して文明に批判的な態度をとるだけでなく、戦争に関する人頭税の支払いをも拒否して拘留され、黒人奴隷の脱出に協力もしていた著者の言動は徹底している。その主張も併せて考えれば、ナチュラリストであるとともにアナーキストともいえそうだ。同時代の多くの人々にとっては、胡散臭い変人・変わり者に映っていたのかもしれず、現代の読者についても、著者が単なる"痛い人"にしか見えないという読み手がいたとしても不思議ではない。個人的にとくに読みごたえがあったのは、1章、11章、終章など。印象的なフレーズも多さも魅力。

    「体に合わない服を無理に着れば、接ぎ目がほころびます。自分に合ったものだけが、真に役立つのです」
    「絶望に通じる事柄には関わらない姿勢こそ、私たちが身に付けたほうがいい知恵です」
    「一部の階級の贅沢な暮らしは、別の階級の貧困で支えられます」
    「私たちは分業をどこまで細分化したら気がすむのでしょうか?」
    「私には、人が家畜の飼い手ではなく、家畜が人の飼い手のように見えます」
    「悪しきを防ぐには、最初から手を出さないに越したことはありません」
    「私が言ってきた通り、前に進めるのは、何事もひとりではじめる人です」
    「人はみなそれぞれに、ひとつの王国の主人です」
    「私には、街の貧しい人こそ、誰よりも自立した暮らしができているように見えます」
    「余分なお金があれば、余分なものを買うだけです。魂が欲するものを買うのに、お金はいりません」
    「私たちはそれぞれに、内なる音楽に耳を傾け、そらがどんな音楽であろうと、どれほどかすかであろうと、そのリズムと共に進みましょう」

  • 「科学道100冊2021」の1冊。

    著者、ヘンリー・D・ソローは、19世紀、産業が発展していく時代にあって、ナチュラリストのはしりであったような人物である。
    マサチューセッツ州コンコードに1817年に生まれ、ハーバード大学を卒業、というからエリート階級であろう。いくつか仕事も経験はするが、定職に就くことはなく、27歳のときに森に家を建て、2年2ヶ月をそこで、「自給自足」的に過ごす。
    本書はその間の暮らしについて述べたものである。とはいえ、特に最初の部分では、実際の暮らしぶりというよりも、彼が森の生活をするに至った思想や、「(当時の)現代社会の進歩」への疑念といった点に重点が置かれている。
    要は、彼は、社会の歯車に組み込まれてあくせく働き、社交に汲々とするよりも、「自分の生き方」を追求したかったのだ。それが、まずは「森の生活」であった、というのが27歳のソローの結論であった。

    ソローの代表作であり、アウトドア愛好者のバイブルでもあるような本書は幾度も邦訳されているが、小学館版は、動物学者の今泉吉晴が訳を手掛けている。山小屋歴30年で、長年のソローの愛読者でもある訳者により、読みやすい瑞々しい訳になっているのが売り。注も丁寧で、写真や地図も多く収録。ソローが日記に記した絵や、他のナチュラリストによる動物のスケッチが添えられ、理解を助けている。底本は1854年刊行の初版本("SALDEN; OR, LIFE IN THE WOODS" HENRY D. THOREAU)。ところどころに著者の日記が差しはさまれるが、そもそも原著がそういった形式だったものと思われる。

    さて、含蓄に富む部分もあるのだが、時代背景に思いを馳せないといまひとつ理解が困難なところもあり、咀嚼しにくさを感じる本でもある。
    社会の規範に盲目的にしたがうのでなく、疑ってみる、自分の足で立とうとして見る、その「場」として自然を選ぶ、というのは魅力的で説得力もある。自然描写も読ませるところだろう。一方で、社会生活を完全に捨てたわけではなく、コンコードの村には、ソローが訪れればいつでも歓待して食事でもてなしてくれる家が何軒かあったというあたり、「結局はいいとこどりなんじゃないの」と思わなくもない。この「森の生活」自体は2年余りで終えているわけで、その辺もすっきりしないところである。下巻にはなぜ森の生活をやめるに至ったかが述べられているとのことなので、もしかしたらなるほどと納得させられるのかもしれないが。

    「自然回帰」をいち早く唱えた点で先駆者であり、この流れは後のヒッピーやノマド(『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』)の生き方ともつながっているように思う。先年ベストセラーになった『ザリガニの鳴くところ』が熱狂的に受け入れられたのも、あるいはこのあたりと通じるのではないか。

  • 名著です。何か、『隠遁生活のススメ』みたいな捉え方をされている向きもありますが、ソロー自身が

    『僕が森に行ったのは、思慮深く生き、人生で最も大事なことだけに向き合い、人生が僕に教えようとするものを僕が学びとれるかどうか、また死に臨んだときに、自分が本当に生きたと言えるのかどうかを、確かめるためだった。』

    と、本書で述べており、決して厭世思想ではありません。積極的に生きるための哲学として読まれることをおすすめします。

  • 今読みたい、私たちはどう生きるか、の本。

    チョボスキー『ウォールフラワー』で出てきて、ずっと読みたいと思っていた本。なかなかすっと読み切れるものではなかったけど、興味深いことがたくさん書いてあった。ソローの実践した生活は、到底できないとあきらめてしまう都会の私だけど、心の持ち方として、この考えに出会えたのはよかった。

    森の中で独り、自然の声に耳を傾け、自分の生きる分だけの生産をおこない、読書と思索にふける。産業化が進み始めたソローの時代からかなり世界は進んでしまったけど、持続可能社会やSDGsが言われる今だからこそ、これからの私たちの生活を考えるために、読むべき本なのでは。

  • 心に、まさに今の自分にとても響く内容だった。
    ここ最近で一番スッと心にしみた本。
    近いうちにもう一度じっくり読み込みたい。
    以下、心に残った内容。

    長期にわたる過酷な労働環境は、人の精神的自由を奪い、人間性の成長を妨げている。
    心が自由でなければ、「人は見ても見えず、聞いても聞こえず、食べても味わえない」(曾子)

    ソローが森の中で強烈な孤独感におそわれた時、全てに平等である自然の大らかな温かさに気づく。鳥や花といった自然物も人間のパートナーとなり得ると悟った。
    大自然が磨き上げた水と新鮮な空気さえあれば、心地よくいられる。自然との深いつながりがもたらす深い充足感を大切に。
    「この生活スタイルしかできない」などと型にはめ込み窮屈に生き方をしないように。
    自分にとって本当に必要な物を見極め、それに必要な最低限の物資と資金を得る手段を逆算すればよい。
    「簡素に簡素にさらに簡素に。」
    普段の生活をシンプルにし、抱える問題の数を減らしておくこと。問題を減らすことで、自分の頭が正しく働く状態をつくる。シンプルに質高く。
    シンプルに賢く生きる。
    問題解決はひき算で考える。 
    何事にも感覚ではなく数学的アプローチで。 

  • 森の暮らしと記録

  • 最近森の隠遁生活系の本をたくさん楽しんだので(前から好きなメイ・サートンもその筋か)、その元祖とでもいうべき本としてよく引かれている「森の生活」も読んでみることにした。しかし、良くも悪くもパイオニアの本であり時代の違いもあって、私が好んで読んできたような隠遁生活とはちょっと違うなと感じた。暮らしというよりは、ソローの思想を記録したものだ。

    ソローが森で生活するのは本人が個人的に必要としているためではなく(その住処は実は大して村から離れてもいないが)、人間は本来そうすべきだからそうするのだ、という論調である。
    「私が森で暮らしてみようと心に決めたのは、人の生活を作るもとの事実と真正面から向かい合いたいと心から望んだからでした」とソローは語る。「私の目にはほとんどの人は、生活のあり方を考えない、不思議で曖昧な暮らしをしながら、神のもの、悪魔のものと、少し性急に結論を下すだけだからです」と。資本主義と、そのころ盛んに建設されていた鉄道(鉄道は良いものと言ったりもしているが)と、働きづめの人々を厭い、税金も払わないので投獄されたりもする。本当はぜいたく品どころか服も家具も家すら最小限で十分で、自然があれば楽しく生きていけるはずなのになぜ皆あくせく働いたりするのか、というナチュラリスト的な意見を語るのだ。
    当時の資本主義と産業改革が爆速で膨らんでいったであろうアメリカで、一人で質素に森に住むソローは相当変人扱いされたろうと思う。冒頭100ページくらいがその弁明に充てられていることからもそれはよくわかるし、普通の人々に対し少し当たりが強いのもしょうがないのだろう。まだ資本主義から引き返せる、という思いも当時は感じられたのかもしれない。だけど200年くらい離れた現代日本人が読むと無責任な脱成長論と重なって見えてしまってちょっと微妙な気持ちになるのが正直なところだ。
    ただソローが自然の中の暮らしを本当に楽しみ、動植物のことを愛していたのは伝わってくる。鳥たちの鳴き声、ちょっとした仕草の描写、植物や木々の成長など、読んでいて楽しい。もっと暮らしのこまごましたことをたくさん読みたいなと思った。

  • なかなか一気に読める本ではないので、少しずつ、今日はソローの森の家に寄ろうかなという感覚で読んだ。

    自然の描写が多いので、イラストを見ながら想像した。ソローの考えから学ぶことは多いが、まだ私は全部理解できていない。

  • つ、疲れた〜…こんなに面白くない小説が名作だなんて驚きです。好きな方はすみません。

    自然の中で生活することの教訓やヒントを読みたかったから手に取ったところがあるんだけど、内容はソローの暮らしぶりをダラダラと綴られていて、その中に社会風刺があり、自分以外の人のことを下に見ている心の中がダダ漏れの小説だった…

    疲れるなぁ、そういうの。

    ソローさん、お金持ちになったから不自由なく自然に入って暮らせたんだもんね、仕方ないか…

  • 宇野重規推薦
    大自然の中で暮らし、思考を鍛える。
    黒人奴隷制度、帝国主義に反発し、納税を拒否。
    静けさ。

    小学館文庫が読みやすい。

    文明を批判し、豊かな自然で暮らし、人生について考えた本。
    “考える以外に何もしない時間を、生活の中に必ずもとう。”
    自然の美しさと静寂を背景に描かれた、思考の記録。

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