その手をにぎりたい (小学館文庫 ゆ 5-1)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094063998

感想・レビュー・書評

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  • 名店は、常連客によって育てられるということ。単なるお金のやり取りを超えた関係。ホスト側だけでなく、ゲストも一緒になって、お互いを尊敬しあい、高め合うことで、よりよい空間が形成されるものなんだなあと。

    澤見さんはきっと、青子の恋心に気づきつつ、その学習意欲と成長を評価し、お店の将来を託したのだろう。まさにメンターの役割を果たしている。

    青子が早い段階から、一ノ瀬を「大本命」にして、通常の恋愛を超えたプラトニックな関係になっていた。一ノ瀬は、祐太郎や広瀬とは次元の違う存在だったのだろう。

    恋人さえも連れて行かない、誰にも邪魔されたくない、とっておきの神聖な場所として、「すし静」を毎日想い続ける生き様を応援したくなる。

    自分と向き合い、背筋を伸ばし、好きな食べ物と尊敬する人を通して、人生の機微を学べる場所があることは、その人にとって財産だと思う。本当に羨ましい。

    私にとって、襟を正して臨むことのできる食べ物と空間は何だろうか?思い出を辿りながら、じっくり考えてみると面白い。

  • 昭和~バブル期を駆け抜けた女性の物語でしたが、主人公の青子さんの駆け抜ける速度と東京の目まぐるしい変化、そして美味しそうなお寿司を食べる時の描写、何もかもを体感しつつ読みました。

    痛いぐらい強く踏ん張っている青子さんにハラハラドキドキして、青子さんと一緒に寿司職人である一ノ瀬さんにドキドキして、とにかく感情が忙しく、でもそれが人の時間の経過を見ることなんだと感じれば、より楽しめました。

    生きていればきっかけ一つで変わってしまうことばかりで、それは良いことも悪いこともある。何かに固執して傷ついて、でも前に進まないと自分の価値や存在が無になる気がして。そんな焦りにも意地にも似たものを、柚木先生らしく重たくなりすぎることなく、どこか軽さと明るさを持ち合わせた文体で読ませてくれて、読了後の余韻が「はぁ~~」という深いため息と共に出ました。
    単なる飯テロ小説かな?と思って読み始めたので、最高の裏切りをされてよかったです!!笑

  • 一気に読み終わった。寿司職人になる話かと思ってたけど、全然違った^^; 懐かしい言葉がいっぱい。

  • 青子と一ノ瀬さんの行方が気になって夢中で読みました。青子の華やかな生活も、バブルが弾けて暗い未来が来ると分かっているからこそ、読んでいて切なく、辛かった。最初から最後まで面白かったです。久々の読み終わりたくない作品でした。

  • 最初から最後まで面白かった。
    物語は1983年から1992年に渡り、一年ごとのある場面を切り取りながら話が進んでいく。平成元年産まれの自分にとって、その頃の日本の街の様子や空気感なんてわかるはずも無いが、この小説を読んで自分なりに想像することができた。今はコロナウィルスで世間は自粛ムードの渦中にあるが、天皇が崩御された年にも自粛ムードが漂っていたなんて知らなかった。
    主人公達の年代も自分の親とピタリと重なり、親も物語の登場人物達のような楽しさや苦しさを感じながら生活していた時期もあったのかなとふと思った。
    バブル崩壊前後を経験した社会人がどのように仕事をして、何に価値を置いていたのか。物語として読めたことで、興味を持ちながら当時の日本について知るきっかけを貰えました。

  • 恋愛小説かと思いきや、人生の物語でした。
    濃く深い内容に手が止まらず一気読み。
    目まぐるしく変わる時代の背景とともに青子さんの印象も変わっていき、年齢を経るごとに逞しく強い女性に。

    小さな期待をかき集め自分に都合よく解釈して舞い上がり、地べたに叩きつけられるのを繰り返すことに疲れた。

    ずしんときました。

  • 失礼ながら予想外に面白く一気に読んでしまいました。バブル期の東京は経験ありませんが、平成の後半ごろに高級なグルメのお店によく行きました。残念ながらここまで常連になるような通い方は出来ませんでしたが、あの頃が一つの人生のピークだったかも知れないと思うくらい良い時間を過ごさせてもらいました。記憶が蘇り、懐かしい読書となりました。

  • 好きー!この優雅で甘美な食への表現力は流石としか言い様がない。
    食に重きを置きながらも、時代の移り変わりと変化、揺るぎない時間そのものの価値、そこに付随する絡みあった人情が清潔に書かれていてとても良かった。
    自分が生きる時代と全く入れ替わりの世の中だけれど、言葉で聞く「バブル時代」を体感できたような気持ちになった。だけどいつの時代もそこにあり続ける、世間からの「女」としての目や評価への違和感。30を目前とした女性の「自分が自分で居ることの証って何だろう」の疑問。忙しい日々に揉まれ誤魔化し続けている不安が、ふとした瞬間に攻めいでくる。果たして自分は何が掴めているのだろう?と。その疑問に一つの、とても清潔で、或いは見方によってとても官能的な恋愛を通して向き合っていく青子の姿に共感しかなかった。
    派手で自由、そして孤独な生き方を経て、とうとう答えを見つけたのね、と安堵するのも束の間。ドキドキするような余韻を残して物語は終わる。落ち着いたハッピーエンドともとれるような、まだまだ青子やん!と突っ込みたくなるような。どちらだろう笑
    どちらにしても、青子の生き様はとても清々しくて好きだなあ。

  • 柚木麻子の表現力にひたすら圧倒、魅了され続けた一冊。
    バブル期を生きたわけでもないのに、なんとも生々しく、でも、瑞々しく感じる。

    ただただ面白かった。

  • なるほど私やっぱり柚木麻子が好きだ。

    バブル期の東京を、ある銀座の鮨店とともに駆け抜けた不動産業OLのお話。

    主人公はやっぱり青くて、イタイ。(それでも氏の他の物語とくらべると全然やさしいほうだとおもう。もっともっと皆こちらが穴に入りたくなるくらいイタイ。)

    出来事のひとつひとつが切なくて苦しくて、青子はどんどんひとりになっていくようだけれど、そうではない。

    鮨屋の一ノ瀬さんとのやりとりが質感というかもはや肉感溢れすぎて苦しい。

    どれだけ傷ついても、貶められても、ひとりぼっちになっても、毅然と前を向いていく登場人物たちに救われるなあといつも思う。

    p146
    それでもいい。他人の幸せな家族の風景を思い浮かべ、自分をすり減らすのはもうやめよう。

著者プロフィール

1981年生まれ。大学を卒業したあと、お菓子をつくる会社で働きながら、小説を書きはじめる。2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。以後、女性同士の友情や関係性をテーマにした作品を書きつづける。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞と、高校生が選ぶ高校生直木賞を受賞。ほかの小説に、「ランチのアッコちゃん」シリーズ(双葉文庫)、『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』(どちらも新潮文庫)、『らんたん』(小学館)など。エッセイに『とりあえずお湯わかせ』(NHK出版)など。本書がはじめての児童小説。

「2023年 『マリはすてきじゃない魔女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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