サラバ! 下 (小学館文庫)

著者 : 西加奈子
  • 小学館 (2017年10月6日発売)
4.18
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  • レビュー :82
  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094064445

作品紹介

これは、あなたを魂ごと持っていく物語

姉・貴子は、矢田のおばちゃんの遺言を受け取り、海外放浪の旅に出る。一方、公私ともに順風満帆だった歩は、三十歳を過ぎ、あることを機に屈託を抱えていく。
そんな時、ある芸人の取材で、思わぬ人物と再会する。懐かしい人物との旧交を温めた歩は、彼の来し方を聞いた。
ある日放浪を続ける姉から一通のメールが届く。ついに帰国するという。しかもビッグニュースを伴って。歩と母の前に現れた姉は美しかった。反対に、歩にはよくないことが起こり続ける。大きなダメージを受けた歩だったが、衝
動に駆られ、ある行動を起こすことになる。




【編集担当からのおすすめ情報】
解説は又吉直樹さんが執筆くださいました。

サラバ! 下 (小学館文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 歩が貴子のことをずっと「病的なまでに人の注目を浴びたいやつ」として認識していることに違和感があった。なぜなら、私からは(というか第三者的に見ると?)歩のほうが人(他人というより自分を「愛してくれるべき」人)からの注目に対する飢餓感が強いように見えたからだ。
    貴子は、子供のころはきっと母にまっすぐに見てもらえないことに対して飢えていたのだと思うけれど、父から離婚の真相を聞かされたことなどを経て「他者は自分に幸せを『与えて』くれるために存在しているのではない」と思うようになったのだと思う。それはきっと、他者と自分の「交じり合わなさ」を決定的に知ったことで行き着いた境地なのだろう。(歩に言った「あのふたり(両親)はふたりなりの生き方を追求しただけだ」という趣旨の言葉がそれを物語っていると思う)
    歩はずっと、大人になっても、他者を「幸せを与えてくれる」存在だと思っていた。だから、自分が最悪の精神状態のとき、須玖と鴻上に臆することなく「付き合うことになった」と宣言されて狼狽えたのだろう。

    貴子の言う「信じるもの」は「幸せ」と置き換えても良いかもしれない。
    あなたの幸せを誰かに決めさせてはいけない。
    そして、翻ってそれは、私にも向けられている。
    他人の幸せをあなたが決めてはいけない。

  • 以下ネタバレ含む。



    一気に読み終えた。
    最初は『舞台』を思い出した。
    『人間失格』の幼き日の葉三みたいに、誰にも見破られない完璧な仮面をかぶっている、と思い込んでいる自分劇場。

    狂気の塊のような姉、そして美に執着する母と、存在感のない父。
    そんな家族を「」の中に入れながら、自分は優等生の顔をしながら優越感を感じている歩。
    本当は家族が軋んでいく不穏から目を背けているだけの、ただの子供だった時代。

    なるほど家族の崩壊の話かと思いきや、個人が救済されることによって、新たな形で結ばれてゆく再生の物語だったことには驚き。
    お姉ちゃん巻貝に閉じこもっていたのに、、、と思いながら、自分が自分であることと一番激しく闘ってきた人でもあったんだな、と納得。
    そうして優越感を感じていたはずの歩の足場が、一気に崩れ始める下巻がすごい。

    歩の人生に、少なからず影響を与える『デミアン』的存在も面白い。
    エジプトのヤコブにしても、日本の須玖にしても。
    彼らは歩にとって、知恵であり、静寂であり、信仰者であったのだと思う。
    そして、その在り方は歩の父に繋がっていくようにも思う。

    信じるとは何か。

    つまりは、自分自身を信じているか。

    他人に依って自分自身を確認している限り、不穏からは逃げられないのだろう。
    結局は自分で自分を確認するしかない。
    自分のために負う傷に誇りを持てる自分になりたいと、結構強く思ったなぁ。

  • 下巻は一気読み。すごいものを読んでしまったなぁという感じ。小説の範疇には収まらない感じというか。
    この前読んだ「君たちはどう生きるか」にも通じるものがあるなぁと思いました。

  • このレビューは単行本時の上下巻について書いたものです。ご了承下さい。<(_ _)>

    (単行本時の上巻レビュー)
    冒頭───
     僕はこの世界に、左足から登場した。
     母の体外にそっと、本当にそっと左氏を突き出して、ついでおずおずと、右足を出したそうだ。両足を出してから速やかに全身を現すことはなかった。しばらくその状態でいたのは、おそらく、新しい空気との距離を、測っていたのだろう。医師が、僕の腹をしっかり掴んでから初めて、安心したように全身を現したのだそうだ。それから、ひくひくと体を震わせ、皆が心配する頃になってやっと、僕は泣き出したのだった。
     とても僕らしい登場の仕方だと思う。
    ──────

    僕の中学生時代、12クラス一学年600人もいた生徒の中で堂々と手を繋いで帰宅していたカップルは、覚えている限りたった一組だった。
    告白したくてもできない、男同士でつるみながら「お前、誰が好きなんだ」とからかっているだけで楽しいと信じ込んでいる、勇気のない“ガキ”がほとんどだったのだ。
    もちろん、向こう側のまだ経験したことのない“男女交際”という世界への願望が全くなかったと言えば嘘になる。
    それでも、男同士の付き合いのほうが、皆の注目など浴びずに、気楽で楽しいと思っていたのは事実だったろう。

    イランで産まれ、日本、エジプト、再び日本へ。
    子供時代の歩は様々な環境の下で人生の航海を始める。
    家族には、常人とはかけ離れた行動をし続ける姉。
    いつまでも子供のようで、自己中心的な母。
    その母に抗わず、ひっそりとおとなしい父親。
    歩は姉を嫌い、何処にいても、どんな時でも、“自分を消す”という処世術の下で、上手く生きていこうとする。
    幼稚園、小学校、中学校と大きくなってもその考えは変わらない。
    その間、両親の離婚をも経て、歩は少しずつ成長していく。
    ご神木と呼ばれ、引きこもり、サトラコヲモンサマにすがりつく姉。
    エジプトでのヤコブとの出会い。
    帰国し、高校生になり、須玖との出会い。
    大学に入り、鴻上との出会い。
    歩の人生に大きな影響を与える友たちとの出会いと別れを繰り返し、物語は進んでいく。

    (単行本時の下巻レビュー)
    阪神淡路大震災との遭遇。
    サトラコヲマンサマと離れた姉は“自分で、自分の信じるものを見つける”ために、父と一緒にドバイへ。
    大学入学をきっかけに上京した主人公歩は、チャラい大学生になって女の子と片っ端からやりまくり、野生が理性を凌駕した最初の一年を過ごす。
    二年生になり、映画サークルに入部し、下半身が奔放な鴻上との出会い。
    父と姉の帰国。
    姉の奇妙な行動。
    父の出家。
    母の再婚。
    姉の唯一の心の支えであった矢田のおばちゃんの死。
    三十代になった歩に起こった肉体的異変。
    歩はそれまでいろいろなものから逃げていた自分に気づく。
    葛藤、自戒。
    そんな中での須玖との運命的な再会は大きな希望だ。

    父と母の離婚の本当の理由を知ることになる歩。
    毅然とその話をする姉は、昔と同じような自分勝手のようでありながら、どこか違っていた。
    そして、生涯の伴侶を得てサンフランシスコに住む姉から届いた手紙。
    274P
    “ そして歩、あなたの名前は、歩よ。
     歩きなさい。
     そこにとどまっていてはだめ。あなたの家のことを言ってるのではない。分かるでしょう。
     あなたは歩くの。ずっと歩いて来たのだし、これからも歩いてゆくのよ。
     お父さんに会いなさい。話を聞きなさい。
     そして、また歩きなさい。自分の信じるものを見つけなさい。
     歩、歩きなさい。”

    自分は何がしたかったのか?
    何をしたいのか?
    家族に何を望んでいたのか?
    そして、これから何を信じて生きていけばいいのか?
    自分の周りで起こる事件に出会う度、歩は葛藤し、もがき、苦しみ続ける。
    そんな歩の最後に向かうべき場所は───。

    341P~342P
    “ 僕は禿げていた。僕は無職だった。僕は34歳だった。
     僕はひとりだった。
     信じるものを見つけられず、河を前に途方に暮れている34歳の僕は、きっと幼い頃の僕よりも、うんと非力だった。
     僕が手放したものは、どこへ行ったのだろう?
     輝かしい僕の年月は、どこへ行ったのだろう。
     涙は止まらなかった。”

    345P
    “ 僕は生きている。
     生きていることは、信じているということだ。
     僕が生きていることを、生き続けてゆくことを、僕が信じているということだ。
    「サラバ。」”

    この二カ所を引用しただけで、私は再び涙が止まらなくなる。
    私たちは何かを信じて、生きることを諦めてはならない。

    今、生きることや、人生に問題を抱え悩んでいるすべての人々にこの本を読んでもらいたい。
    ここには、今後そういう人たちに優しく手を差し伸べてくれる何かがきっと詰まっているはずだ。

    直木賞受賞作は数多あれど、これほどの傑作は類を見ない。
    読んでいる間、特に後半に進むにつれて胸が震えた。
    読み終えるのが残念だとさえ思った。
    こんな素晴らしい小説に出会えた私は幸せものだ。

    私の読書人生の中でも三本の指に入るほどの心に残る名作。
    これほど素晴らしい作品を書いてくれた西加奈子さんに感謝したい。
    ありがとう───。

  • なんだかんだで下巻も読んでしまいました。

    読んだ人にしかわからない
    なんとも言えない達成感や清々しさ
    があるのではないでしょうか。

    上巻や中巻とは違うジャンルの本になっている気がします。
    ビジネス書...教典...教科書...
    どのような表現が正しいかわかりませんが
    僕は上記の3つのような感じかな
    と思っています。

    最後に問いかける形で終わる小説も
    珍しいのではないでょうか。
    だから最後にグッとくるのかもしれません。

    ※全ての作品としては★★★です。
    登場人物の性格や主人公の生い立ちを知った上での
    最後の問いかけ
    なのかもしれませんが
    自分にとっては少し長く感じました。
    それらはたしかに必要なのは間違いないのですが
    最後の方向転換で少し戸惑いはありました。

    あと一回は通して読みたい作品です。
    その時は自分が何か壁にぶち当たった時に読みたいと思います。

  • 本屋大賞2015年2位。直木賞受賞作品であり100万部突破の話題作。文庫本では上中下の3分冊の大作。上巻は登場人物の奇異で痛い行動がいっぱい出てきてかなりつらい。他の本でもそうだったんだけど、この人の表現するそういった心地良くない異質感があんま好きじゃない。でも、この本はそういったのが繰り返されるなかで、さらに深いところに入っていって乗り越えていくとこまできちんと書かれてて、必然性を感じたし、ぐいぐい読み進めさせる力強さもあって、中巻の途中からは一気読み状態に入りました。凄く考えさせられ久々にのめり込む小説に出会った。太宰治の人間失格読んで受け狙いで鉄棒から落ちるのを見透かされるところでショック受けたように、自分の行動、考え方について考えさせられた。

  • すごい小説に出会ってしまった。
    その一言に尽きる。
    登場人物それぞれに嫌悪感を抱いたと思ったら、しばらくすると愛おしくてたまらなくなったり、なんなんだこれ、って感じ。これってリアルな人間に対する感情と同じだよね。小説なんだけど、登場人物がまさに目の前にいるような感覚にとらわれる、そんな感じ。ああ…もう、なんでこれを単行本で出ていた時に読まなかったんだろう(^^;;

    西加奈子さんの小説、他にも読まなきゃな。

  • 私はこれまで生きてきたから、これからも生きていっていいのだと思った。
    これまで生きてきたこと、背負ってきた化け物全てを愛おしく思って、安心して生きていていいのだと思った。

    生きていることの喜びを感じさせてくれる表現、人を表現に駆り立てる表現ほど素晴らしい、真実はない。又吉もいいことを言う。

  • 2018年、1冊目の本。

    34歳、無職、ハゲ。
    主人公の歩がどうなってしまうのかと、まるで親しい友達を思うように心配してしまった。
    主人公を転落させてしまう作者に拍手を送りたい。勇気がいっただろうな。ハゲは特に勇気がいりそうだ。

    矢田のおばちゃんの辞書の話が素敵だった。『あなたが選んだ言葉を、私のものにしたい』
    なんと強烈な言葉。

    信じることが出来る人はやはり強い。
    それが目に見えるもの、目に見えないものだったとしても、心の中にそれを感じることが出来る人は強い。

    自分が大切にしている事は何だったっけ、と、ふと振り返ることが出来る一冊。
    2018年も良い読書生活がスタートできそうです。

  • 私的、西加奈子史上一番刺さる本で、一番好き。
    両親の話で泣きそうになった。
    自分の歩んできた人生を信じる事。一人で立つ事。
    皆に一人ひとりの人生があり、他者を尊重する事。
    弱った時に読み返したい。

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