サラバ! (下) (小学館文庫 に 17-8)

著者 :
  • 小学館
4.22
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094064445

作品紹介・あらすじ

これは、あなたを魂ごと持っていく物語

姉・貴子は、矢田のおばちゃんの遺言を受け取り、海外放浪の旅に出る。一方、公私ともに順風満帆だった歩は、三十歳を過ぎ、あることを機に屈託を抱えていく。
そんな時、ある芸人の取材で、思わぬ人物と再会する。懐かしい人物との旧交を温めた歩は、彼の来し方を聞いた。
ある日放浪を続ける姉から一通のメールが届く。ついに帰国するという。しかもビッグニュースを伴って。歩と母の前に現れた姉は美しかった。反対に、歩にはよくないことが起こり続ける。大きなダメージを受けた歩だったが、衝
動に駆られ、ある行動を起こすことになる。




【編集担当からのおすすめ情報】
解説は又吉直樹さんが執筆くださいました。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、あなたの人生から逃げていませんか?

    この世は面倒な事ごとに満ち溢れています。家族、学校、そして会社と私たちは日々、他の人たちとの関わりの中に生きています。そんな人たちの考え方は多種多様です。あなたが当然に正しいと思ったことであっても、必ずしも他の人たち全員がそれを支持してくれるわけではありません。教室掃除を真面目に行う、一見正しい行為であっても、先生にいい顔をしていると捉える人もいます。上司と親しく会話をする、なんの意図なく行った行為であっても、媚を売っていると捉える人もいます。ある集団の中に生きるということは大変なことだと改めて思います。

    そんな中では、その集団の中で『完全に自分の存在を消す』という生き方も考えられます。『「自ら目立とうとする」ことによってプラスになることなど、ひとつも起こらなかった』という人生を生きてきたとしたら余計にその経験則がそんな生き方を後押しをするとも思います。しかし、集団の中で埋没するということは、自分自身の意思を消すということにも繋がります。他の人の意見にただただ追随し、自分の存在を消して生きていく、それはもしかするととても楽な生き方なのかもしれません。

    さて、ここに幼い頃から『いかにして自分の気配を消すかを身につけていた』という男性が主人公となる物語があります。そんな主人公は”奇行”を繰り広げる姉の身近に育ったこともあって、常に目立たないようにとばかり考える中に行動して生きていました。この物語は、そんな主人公がそんな生き方の先に何が待つのかを知る物語。そしてそれは、そんな主人公の人生を950ページにわたって読み続けてきた読者のあなたが、『何を信じるのかは、いつだって、あなたに委ねられている』という言葉の意味を噛み締めることになる物語です。

    『「ウズマキ」と呼ばれ』『アンダーグラウンドな世界で、着実にカリスマになってい』く姉のことを案じるのは主人公の今橋歩(いまはし あゆみ)。『ネットという箱の中で様々な論争を巻き起こし、どんどん祭りあげられ』る中に、『ウズマキは神だ』という書き込みを見た歩には、『サトラコヲモンサマ』の悪夢が甦ります。そんな風に姉を案じる歩の変化に『恋人である紗智子が、気づかないわけはな』く、『遠慮しないで言ってね… 言いたくなったときでいいから』と優しく声をかけました。『ほろりときた』歩は、『姉のこと』、『姉がウズマキであること…』を夜が更けるまで話します。『辛かったね』と、『僕が一番言ってほしい言葉を言ってくれた』紗智子のことを『女神だ』と思う歩は、『ありがとう』と礼を言い『話してよかったと、心から思』います。しかし、翌朝、『紗智子はこう切り出し』ました。『お姉さんに会えないかな?』、『お姉さんの写真を、撮りたいの』と『身を乗り出』す紗智子は、『人生で傷ついた女性が、芸術という表現方法を見つけて、新しい人生を歩んでいる、その姿を撮りたいの』と続けます。カメラマンでもある紗智子の申し出を断る歩。そして、『僕の姉を撮影することで、ステップアップし』『芸術的な名声を欲』する心の内を見抜く歩は、結局紗智子と別れました。ただ、それでも諦めない紗智子は姉にコンタクトを取り、結局『数百枚の写真』を取り『UZUMAKI、その渦に触れる』という特集で雑誌に掲載されてしまいます。『不吉』に写った『大きな巻貝の横に立つ、坊主頭の姉』は、ネットの世界で反響を呼びます。『傷ついた女性の再生』の写真家として名声を得た紗智子の一方で、『ただただ罵詈雑言にさらされる』姉の貴子。そして『ウズマキは活動をやめ』てしまいました。そんな時、『矢田のおばちゃん』が亡くなった報を受けた歩は、姉とともに帰郷します。そして、『矢田のおばちゃん』の家に着いた二人の前で猫が『ニャア。』と鳴きました。『その声を合図に』動き出した姉は『祭壇があった場所まで進み、そこにあった棚の扉を開け』、木の箱から『二通の手紙』を取り出します。『一通には「遺言書」、そしてもう一通には「貴子」と書かれて』あるその手紙。そして、そんな手紙の中に書かれていた言葉によって世界へと旅立つ姉。一方で仕事に戻った歩は、自身『の体に劇的な変化が生じ』始めていることに気づきました。30歳を迎えた歩。そんな歩の人生が大きく揺らいでいく下巻の物語が始まりました。

    『姉はおかしな巻貝を作り続け、母は祖母が死んですぐに再婚し、唯一まともだと思っていた父は出家するなどと言い出す。この家族は、一体なんなんだ!』という主人公・歩の心の叫びの中に幕を下ろした中巻の物語。文庫本950ページの物語もいよいよ後半、大団円を迎える下巻に突入します。そんな物語は、姉の貴子に光が当たるところから始まります。上巻で自分の部屋の『壁や天井の一面に、巻貝を描』いた貴子、中巻では『巻貝に入って東京のあちこちに出没している』と”奇行”を繰り広げた貴子の『巻貝』の伏線が回収される下巻冒頭。そんな描写の中で興味深い記述が登場します。それが、『数年前にやっと手を染めたインターネット』という時代感を表す表現です。1977年に始まった歩の物語は、いよいよ30歳という節目を迎えます。そう、2007年という時代へと至り、『ネットという箱の中で様々な論争を巻き起こし』、『ソーシャルネットワークというものが、急速な勢いで広まっていた』という表現が、物語が現代近くまで進み、歩も随分と大人になったことを感じさせます。そんな大人な歩のことは後で触れるとして、時代を表す表現について先に見てみたいと思います。

    それこそが、『3月11日に、それは起こった』というあの事象です。『ぐら、と揺れたとき、最近の体調の悪さから、眩暈がしたのかと思った』『図書館にいた』歩。『机に積んだ数冊の本がガタガタと揺れ、地震だ、と思った頃には、立っていられないほど揺れていた』という表現で表される事象、そう”東日本大震災”です。『棚という棚から本がなだれ落ち、どこかで女の人が叫ぶ声が聞こえた』という図書館の中で歩が体感する”東日本大震災”。震災後のニュースで図書館の本が床に積み上がった光景は散々に目にしましたが、そんな場所で結果としての絵ではなく、進行する動画として震災を体験した歩。西さんはそこに、震災の光景だけでなく、歩の心にも大きな傷が残る様を描いていきます。思えば、”阪神・淡路大震災”と、”東日本大震災”というこの国に大きな傷跡を残した二つの震災を一つの物語の中で描いた作品は他に知りません。しかも、大阪から東京に引っ越してきたことで、このふたつの震災を実際に体験した主人公の歩。しかもその双方において、震災前と震災後に大きな変化が訪れてもいきます。史実の事象を上手く物語の中に落とし込んでいく西さん。なかなかに運命的なものさえ感じさせる物語展開だと思いました。

    そんな下巻の物語は、主人公の歩自体は、中巻のまま
    ⑤東京
    で30代という時代を生きていきます。上巻や中巻のように住む場所を大きく変化させることはありません。他の三人も姉の貴子を除いて住む場所に大きな変化はありません。しかし、その日常はそれぞれに大きく変化していきます。では、上巻・中巻同様、家族四人のそれからを整理しておきましょう。

    ・父親 憲太郎: ドバイから帰国後に出家し、『山寺にこもっ』たままだが、結末に向けて歩の人生に大きな役割を果たすことになる。

    ・母親 奈緒子: 『還暦を迎え』、小佐田とも別れる。その後、貴子との関係に変化が生まれていく。

    ・姉 貴子: 『ウズマキ』をやめ、ある目的のために世界へと旅立つ。そして、その先に、歩が予想だにしなかった展開が…。

    ・歩: 『売れっ子のライター』として順風満帆な人生の中に生きていたが、30歳を迎え、体のある変化をキッカケとして堕ちていく。

    そう、圷家(今橋家)の30数年を描く物語は、結末へと向けて(笑)、家族四人それぞれに大きな変化が生まれます。その中でも激しいまでの浮き沈みを見せるのが姉の貴子と主人公の歩です。そんな二人の人生が劇的に描かれていく下巻の物語は、〈第五章 残酷な未来〉と、〈第六章 「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」〉から構成されています。そんな二つの章は対象的なまでに明暗を見せます。上巻、中巻ともに”奇行”とも言える行動によってある意味で物語を牽引してきた姉の貴子。上巻冒頭で『僕の家を、のちに様々なやり方でかき回す』と記された貴子は、そんな”奇行”の頂点とも言える『ウズマキ』によって『アンダーグラウンドな世界』で『カリスマ』へと上り詰めました。しかし、そんな状況も一過性のものであり、再び堕ちていく貴子。しかし、そんな貴子はあることで世界へと旅立った先にまさかの未来の姿を見せます。その一方で、上巻、中巻共に、『伝家の宝刀、存在を消すという技』も駆使し、四人の中では安定的な人生を歩んできた主人公の歩。そんな歩は、『売れっ子ライター』だったはずが、体のある変化をきっかけに、『自分の今が揺らぐなんて、露ほども疑わなかった』と人生が大きく揺らぎ始めます。そんな姉と弟の見事な対比を背景に、〈第五章〉の後半から物語は大きく動き出します。そんな中に自らの人生を振り返る歩はあることに気づきます。

    『僕は、あらゆることから逃げていた。』

    自身の人生を意識することから逃げてきた歩に、ついに冷静に目を向けざるを得ない現実が次々と襲います。そして、

    『あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。』

    “奇行”を繰り返してきた姉・貴子が歩に放つ言葉のまさかの破壊力。他の誰でもない姉・貴子だからこその破壊力が今まで逃げの人生を送ってきた歩に強烈な一撃を与えます。

    『姉に、そんな未来が待っているなんて思いもしなかった。そして僕に、こんな未来が待っているなんてことも。』

    衝撃的に展開していく物語は、〈第六章〉に入ってさらにスピードを上げていきます。小説を読むスピードは読者が決めるものです。小説が自分でページをめくったり、言葉が速度を変えて読者に押し寄せてきたりはしません。しかし、読書の中では、物語がスピードを上げていく瞬間を感じる作品に出会うことがあります。文庫本950ページにもわたる長編小説であるこの作品は、まさしくそんなスピードを上げる感覚を読者にもたらします。そして、そこに、主人公の歩が深く感じ入る瞬間が描かれていきます。

    『僕は、生きている。生きていることは、信じているということだ。僕が生きていることを、生き続けてゆくことを、僕が信じているということだ。』

    このレビューを読んでくださっているあなたがこの作品を未読であるなら、そこにはあなたの想像の三段上の結末が、そう、予想できるようでいて、その予想の三段上をいく感動の結末が描かれていきます。文庫本950ページのネタバレをすることは重罪だと思いますので、ここではこれ以上は触れません。「サラバ!」という書名に納得感を得るその結末を見るこの作品。主人公と同じ出自を持つ西加奈子さんのこの作品にかける情熱をふつふつと感じる読後には、長編小説を読み切った充実感と、深い感動が待っていました。

    『あなたは、あなたの信じるものを見つけてほしい』と思いを語る西加奈子さん。テヘランで生まれ、大阪、そしてカイロで暮らした主人公と同じ人生を歩んでこられた西さんが描くこの長編には、西さんだからこその文字の説得力の上に、その土地ならではのリアリティ溢れる人々の暮らしが描かれていました。文庫本、上・中・下巻950ページという圧倒的な物量の物語の中にどっぷりと浸れるこの作品。絶妙な伏線とその回収の絶妙さに最後まで飽きることなく読み通せるこの作品。

    直木賞受賞作にして、本屋大賞第2位という結果論が伊達ではない、これぞ傑作だと思いました。

    • まことさん
      さてさてさん。こんばんは♪

      『サラバ』は、単行本が出た時に、すぐに図書館に予約して、読んだのですよ~。
      初、西加奈子さんでした。
      でも、転...
      さてさてさん。こんばんは♪

      『サラバ』は、単行本が出た時に、すぐに図書館に予約して、読んだのですよ~。
      初、西加奈子さんでした。
      でも、転校生の男の子が主人公だったことくらいしか、全然覚えてないんですよ~。
      さてさてさんのレビューで、「え~っそんな話だっけ」とびっくりしています。
      最後の一文を拝読して、もう一度読みたいと思いましたが、文庫本950ページは、たぶん読まないと思いますが。
      改めて記録をつけることの重要性を感じました。
      ありがとうございます。
      2023/02/08
    • さてさてさん
      まことさん、こんにちは!
      圧倒的なボリューム感に酔いました。文庫本950ページは伊達ではないです。感想は人それぞれなので違う意見の方もいる...
      まことさん、こんにちは!
      圧倒的なボリューム感に酔いました。文庫本950ページは伊達ではないです。感想は人それぞれなので違う意見の方もいるとは思いますが、上巻、中巻がちょっと辛かったかなあと。恐らくマラソンみたいなものでゴールが遠すぎてめげるところがあったのだと思います。ただ、下巻は凄かったです。えええっ、そうくるの!っという感じでページを捲る手が止まらなくなり一気に読み切りました。ページ数的には一日一冊の分量なので、結局トータル三日で読み切ってはいます。いずれにしても夢中になった下巻だけは★印五つにしました。読んで良かったー!という読後です。しかも読み終えてしまえば、950ページの達成感だけが残るので今は再読したい!です。ただ、まことさんの意見と同じで、実際には…だと思いますが。
      お書きいただいた通りで、レビューを書かないと流石に記憶の中に埋もれますよね。手間と感じる時もありますが、やはりコツコツレビューは大切だなあと。
      登録されているレビューを見せていただいていたら、あの方、この方…といつもお世話になっている皆々様もたくさん読まれていらして、やはり人気作なんだなあとも思いました。西加奈子さん、やっぱりいいなあとも思いました。次はまた一年以上先になると思いますがコンプリートしたい作家さんだといつも思います。
      ありがとうございます!
      2023/02/08
  • 修行僧のような父親、自分の幸せを追い求める母親、奇怪な行動が多かった姉、30代半ばとなっても、何かに惑わされ流されるように生活する歩。この家族の未来はあるのかと思うところで、姉が自分の根幹を得て、家族のすくいぬしとなる。
    彼女の「信じるものを誰かに決めさせてはいけない」という言葉を納得させる為の自叙伝となる。
    次のページで何が起こり出すのかわからない、少年の30年以上を書き切ったパワーがある。
    読んでいるうちに、登場人物が自由に動いていくように感じる。ただ、自由すぎて整合性とかは求められないかな、でもいいや、と思いました。

  • 劇的に落ちぶれていく歩。
    須玖やヤコブとの再会。
    姉の結婚。
    そして、父と母の離婚の秘密。

    下巻も怒涛の展開だ。最後まで一気に読ませる。

    歩が34歳で辿り着いた答え。
    それは「小説を書く」ということ。
    少年時代にヤコブとの別れの際に出会った「白くて大きな化け物」それは自分にとっての神様、さらにいえば、出会った人や出会ったものすべてなのだと気づき、それを書き留めたいと切に願う。

    「あなたの信じるものを、誰かに決めされてはならない」
    大切なのはどの神を信じるかではない。自分が主体的に信じるものを決めること、さまよいながら見つけ出すことなのだ。

    またしても、人生って辛いものだ、と思い知らされる。

    しかし、この小説は「ホテル・ニューハンプシャー」と同じく家族の物語でもある。幸せだった家族が崩壊して、さらに再生していく姿を描く。

    歩は家族に振り回されるが、結局のところ家族に救われるのだ。


    面白かった。
    自分にとって大切な小説にまた出会えた。
    惜しむらくは、もっと若い頃に出会いたかったかも。

    でも、僕は若い頃に「ホテル・ニューハンプシャー」に出会えた。「サラバ!」を読んで、「ホテル・ニューハンプシャー」を再読して、この本が今でも心の支えになっていることに気づいた。幸せなことだ。

    読書って本当に深いものだ。
    本を開けば、別の世界に旅立てる。
    改めて、もっとたくさんの世界に出会いたい、と思った。

    • ひろさん
      先日読み終えたところで、たけさんの感想が胸に刺さりました。
      読書って本当に深いですよね。
      私ももっとたくさんの世界に出会いたいです。

      どう...
      先日読み終えたところで、たけさんの感想が胸に刺さりました。
      読書って本当に深いですよね。
      私ももっとたくさんの世界に出会いたいです。

      どうぞよろしくお願いします。
      2022/03/06
    • たけさん
      ひろさん、はじめまして!
      コメントありがとうございます。
      うれしいです。

      「サラバ!」は読書の深さを感じされてくれる小説ですよね。
      こちら...
      ひろさん、はじめまして!
      コメントありがとうございます。
      うれしいです。

      「サラバ!」は読書の深さを感じされてくれる小説ですよね。
      こちらこそ、よろしくお願いいたします!
      2022/03/06
  • 壮絶、壮大な家族の物語。インターナショナルでもある。

    ひとは独りでは生きていけないことがひしひしとわかる。
    大事な出会いが、人生の要所要所にあり、それが自分の人生を大きく変えている。
    勢いに乗っているとき、それは自分の力だ、と歩は思ってしまう。
    うまく物事が進まないのは周りに原因がある、と。

    そして大きく形勢が逆転し、元に戻らないことがわかったとき。
    歩は殻を作り、外界を締め出してしまう。

    方向性を示してくれたのは、やはり家族だった。
    そして、ともだちはみんな信じて待っていてくれた。

    乱雑な家族なように思えるかもしれないが、父は家族のことを思い、支えていて、家族を心から信じていた。家族愛を体で示す、大きな父だ。

  • 文庫で読んだが、上・中・下巻の長さがあるからこそ下巻で心が動かされる 主人公の家族とじぶんの家族とはぜんぜん違うがどこか重なる部分もあるのかどんどんとじぶんのことのように感じてしまうのは著者の腕なのだろう 小説の形式をとった哲学書ともおもえる

  • 『もっと早く読んでおけばよかった。』

    そんな言葉でしか、表現できない自分が、薄っぺらく感じてしまうほど、この物語は、深いのだー。


    主人公である、歩の37年の自叙伝的な物語形式で、話は、生まれた瞬間まで遡る。

    イラン、日本、エジプト、大阪、東京…。
    うらやましくなるほどに、家族とともに住む場所を変え続ける歩。
    いつまでも美しくありたい母。静かなる父。マイノリティに憧れる姉。
    そんな家庭で育ったら、自分も歩みたいに、普通でありたい、と思ってしまうだろう。

    だから彼も、処世術のごとく、自分らしさをうまく消すことを身につけて、それが無意識のうちに価値観に結びついていく。
    「目立ちたい姉」と、それを疎んで「目立ちたくない弟」。知らず知らずのうちに、姉と比較することで、「自分はまともだ」と安心する。
    でも、その居場所は、邪魔だと思っているはずの姉がいることで成立してるんだよね。

    (いつもそうではないにしても、「あいつよりはマシだ」と思うことで、地に足ついたような気になって。そんなぬるま湯の中に浸かっていた自分をこの中に見た。
    そしていざ、環境を変えてみると、その時になってようやく目を覚まして、はっ、と気をつけるようになるのだ。)

    この物語は常に対比が存在し続ける。
    「姉」と「自分」、「父」と「母」…。
    強く感じた対比は、「目まぐるしく変化する環境」と「それでも変わらない日常」。

    どちらも正しいんだと思う。「一日一日を大切に生きること」も「変化に身を置くこと」も。

    どっちかに重きが置かれるのは、きっと「考え方」にも流行があるからであって、大切なのは、今、自分の立ち位置を考える時間を持つことだと思う。

    そして、頑なに片方に寄りかからなくてもよくて、時間の経過とともに、そこはゆらゆらと変えていってもいい。自分が決めたことであれば。

    これがきっと姉である貴子が、歩に向けて言った、「あなたが信じるものを誰かに決めさせてはいけないということ」なんだと、自分は思う。


    文末とか、構成とかを考えずに、一気に感想を書きあげてしまいました。それほどに、「書くこと」を衝動的にしたくなる読後感でした。
    思ったことをうまくまとめ切れていないし、両手ですくった水のように、漏れていることもたくさんある気がします。
    ただ、一度に全て書き切れなくとも、重ね塗りのように、継ぎ足していいと思ってます。

    • やまさん
      各位

      昨年ブクロクに登録した本の中からベスト7を選びました。
      なお、平成31(2019)年3月27日に読み終わった本からブクロクで管...
      各位

      昨年ブクロクに登録した本の中からベスト7を選びました。
      なお、平成31(2019)年3月27日に読み終わった本からブクロクで管理するようにしています。
      ① なんとなく・青空 / 工藤直子 / 詩 / 本 /読了日: 2019-12-11
      ② 螢草 / 葉室麟 / 本 / 読了日: 2019-12-16
      ③ あなたのためなら 藍千堂菓子噺 / 田牧大和 / 本 /読了日: 2019-04-10
      ④ 甘いもんでもおひとつ 藍千堂菓子噺 / 田牧大和 / 本 / 読了日: 2019-05-04
      ⑤ あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇 / 田郁 / 本 /読了日: 2019-09-14
      ⑥ てらこや青義堂 師匠、走る / 今村翔吾 / 本 / 読了日: 2019-08-27
      ⑦ ひかる風: 日本橋牡丹堂 菓子ばなし(四)  / 中島久枝 / 本 / 読了日: 2019-07-23
      ※もしよろしければ、皆様の昨年感想を書かれたものの中からベストの順位を教えて頂けたら嬉しいです。

      やま
      2020/02/07
  • 上中下と加速して面白くなっていったように思う。

    自分を押し殺して周囲を気遣って、譲って、空気を乱さず平穏な空間を生きる。なんて人間が生きてくのには不可能だ。自分の心の内なんて意外に周囲にダダ漏れだったりして、本人だけが気付いてなくて、私はこんなに周りの事を思って行動してるのに…なんて更に生きにくい環境を作ってしまいがち。

    貴子が歩に伝えた言葉、私にも響きました!
    自分が信じられないのに人を信じるなんて出来る訳がないのだ。うん!

  • 感動した! この下巻に全てが終結されていた!

    いろんな教訓を含んでいる。
    私が感じとったのは、若さや見た目で得をするのには期限があり、努力や真剣に生きてきたか否かが、その後その人から滲み出る。

    貴子「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない」は章題、感慨深い。

    歩は信じるものをみつけられるか⁈
    思い出という化け物を抱えながら、生きていること、生き続けていくこと、各々の信条を問う。魂の言葉「サラバ!」

  • 全3巻とも読みやすかったです。
    二週間ほどで読み終わりました。

    上巻、中巻と打って変わって、下巻の歩はずっと暗い闇の中にいるような感じで、特に姉の貴子が帰国してからは、一気にどん底という雰囲気でした。

    いつも誰かと自分を比べて生きてきた歩。
    あいつは自分とは釣り合うか、釣り合わないか。
    かっこいい自分なら、美人なあの子と付き合うのが相当だろう。
    あんなビッチと付き合って、自分の価値を落としたくない。
    姉の貴子はあんなにも破天荒で周りに迷惑をかけているんだから、自分よりも愛される訳がない。

    容姿に恵まれ、周りからちやほやされていたときには考える必要もなかった、自分の『幹』となるものや『信じるもの』。
    本当にやりたいことを見つけること。
    自分自身の力で未来に歩いていくということ。


    胸にささる良い小説(自叙伝?かな)でした。
    いま感じたこの気持ちを忘れないようにしたいです。

  • この本は、もう少し、自分を信じてもいいのではないかと後押ししてくれるような本だった。

    自分が信じるものは、今までの自分が歩んでいた軌跡であり、その道を歩んできた自分自身である。

    小説の良さについても書かれていた。
    p276
    「何かにとらわれていた自分の輪郭を、一度徹底的に解体すること、ぶち壊すこと。」

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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