空に牡丹 (小学館文庫 お 27-6)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 95
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094066494

作品紹介・あらすじ

ご先祖に思いを馳せるファミリーヒストリー

私のご先祖様には花火に魅せられ、一財をつぎ込んで生きた静助さんという人がいる。
―――時は明治初期。江戸から東京になったが、地方ではいまだ江戸と呼ばれていた時代。その江戸から遠くない村で大地主の次男坊として生まれた静助は、ご一新で世間が大きく変わるなか、何不自由なく暮らしていた。
ある日、静助は母親と出かけた両国の隅田川で打ち上げ花火を見物し、ひと目で心奪われる。江戸の花火屋たちは、より鮮やかな花火を上げるため競い合っているという。
村に戻ってからも花火への情熱が消えない静助は、潤沢な資金を元に職人を雇い、花火作りに夢中になるが、富国強兵へ向かう時代の波が、次第と静助一族を呑み込んでいく……。


【編集担当からのおすすめ情報】
18世紀のヴェネツィアを舞台にした『ピエタ』(ポプラ社)で2012年本屋大賞3位に選ばれ、女性たちの心の交流を描いた作品でファンも多い大島真寿美さん。大島さんが初めて男性を主人公に、激動の時代を生きた市井の人々の姿をあたたかく描いた時代小説です。
装画は、山下清さんの名作を用いました。

感想・レビュー・書評

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  • コロナのせいで今年の隅田川をはじめてする花火は中止になった。なんて虚しい世界になってしまったのだろう。慰霊や疾病退散の意味をもつ花火には人の心を穏やかにする力があり、静助はそんな花火に見せられて一生を生き抜いた。
    ちなみに同時に読んだ瀬尾まいこの「戸村飯店…」と前半の舞台設定が非常に似通っていた。蔵書から適当に数冊手に取って読み始めるのに、何故かシチュエーションや世界観が似ている小説に当たってしまう。とても不思議だ。

  • 先祖の清助さんは大の花火道楽。金に糸目をつけず花火に費やし、かつては大地主だった家系を落ちぶらせてしまった。だけどそんな清助さんのことを悪く言う人はいない。彼の道楽のおかげで、何も無い普通の日にも花火を楽しめた村の人たち、彼ののんびりとした性格に癒され(時には困らされ)た家族、皆が清助さんを好きだったから。

    花火に魅せられた男の人生が時代の流れを反映させながら描かれています。読んでいて私も清助さんをどんどん好きになる。人生は本当に花火のようなものかもしれませんね。自分自身だけでなく周りの人から見ても綺麗な花火。そんな人生を送れたらいいなと思います。

  • 花火に夢中になった一人の男の一生。
    特にドラマティックな展開がある訳ではない。
    御一新からの激動の時代を感じながらも、田舎町での暮らしが淡々と語られる。

    それが却って新鮮で、よかった。

    親戚の話を聞くように、ふと気が向いたらまた読んでみよう。

  • 読み終わったときに,なんかホッコリするような,それでいてもの悲しいような,そんな感じのする作品.

    花火に入れ込んでしまったせいで身代を傾けてしまった,少し浮き世離れしたところのある,大地主(東京から遠くない村の元名主)の次男坊の静助さんのお話.
    こう書くと,ただの愚者の話と思われるかもしれませんが,さにあらず.
    静助さんは,ご一新のあと急激に変わっていく風潮やその流に乗って流されていく人々に違和感を感じる鋭い感性を持っているし,名主の代わりもある程度きちんと務めている.ただ,やっぱり何か(おそらく財産を守ろうとする執着心)が欠落していて,周り人たちの心を慰めようと思っていた花火に入れ込んでしまう.だけど,そんな静助さんだから,周りの村人からも,残された子孫たちからも悪くいわれないし,いつまでも親しみを持って思い出してもらえている.

    うーん,空に牡丹.読後感は,花火を見た後の気持ちかな.

  • 主人公の性格が良いと、読んでて気持ちがいいものだ。

  • 花火にかける人情物語

  • 山下清の表紙絵に釣られて買った。柔らかい文体なのでさらりと読める。本を通して淡々としていて山場とか、そう言うものは言われてみればない。でも人生、振り返ってみれば多くの人は本になるようなものでもないし。でも静助さんはみんなが覚えている。夏の夜に読むのに一興。

  • この本、なんで読もうと思ったのかなぁ。大島真寿美だったからとは思うのだが、他には何かなぁ。

    明治初期、旧名主の次男・清助が、東京で観た花火に魅せられ、花火作りに身代かけて夢中になっていくという物語。
    しかし、何だかあっさりしているな。大きな事件が起こるわけでもなく、時代の波に翻弄されるわけでもなく、花火作りにのめり込んで傍から狂人扱いされるわけでもなく。
    東京で妾に焦れ込む長男に代わり曲がりなりにも家を守る次男に対し、周囲はその心情に寄り添うでもなく唯一の道楽には仕方なく目を瞑るといった体で進む話に、読者の私も同じような心境で読み進めてしまう。
    清助も悪い人間ではなく、読んだあと口も悪くないので★★★にしたけど、あまり深みもなく、本音は2.5といったところ。

    表紙の山下清を見れば、コロナのせいで花火大会がない夏の寂しさがより募る…。

  • 戦時中の焼夷弾を思い出すから花火は嫌いと言う人がいるのは聞いたことがありますが、大抵の人は花火はが好きですもんね。静助さん、本当に花火のように人々の心の中に良い思い出として残っているんですね。

  • ★3.5
    時は明治、江戸時代から続く大地主の次男坊で、花火に魅せられ花火と共に生きた静助。金持ちの道楽と言えばそれまでだけれど、華やかさと儚さを合わせ持つ花火に魅了される気持ちは分からなくもない。静助が語った通り、花火はまるで人生のようで、失われていくものにこそ人は惹かれるのかも。そして、家族の死別や一家の凋落があるものの、淡々とした文体で危機感はほとんどなし。ただ、静助を気遣って寄進する村人たち、静助の死に対する弔い花火に、古き良き時代の優しさを感じた。当主としては難ありだけれど、静助は愛すべき愚か者。

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著者プロフィール

1962年名古屋市生まれ。92年「春の手品師」で文学界新人賞を受賞し同年『宙の家』で単行本デビュー。『三人姉妹』は2009年上半期本の雑誌ベスト2、2011年10月より『ビターシュガー』がNHKにて連続ドラマ化、2012年『ピエタ』で本屋大賞第3位。主な著作に『水の繭』『チョコリエッタ』『やがて目覚めない朝が来る』『戦友の恋』『空に牡丹』『ツタよ、ツタ』など。2019年『妹背山婦女庭 魂結び』で直木賞を受賞。

「2021年 『モモコとうさぎ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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