かすがい食堂 (小学館文庫 か 50-2)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094068917

作品紹介・あらすじ

駄菓子屋の奥に、子どもだけの食堂開店!

激務の末にロケ先で怪我を負い、心身ともにダメージを負った楓子は憧れて入った映像制作会社を25歳で退職した。実家で無為徒食の生活を過ごした後、80歳になる祖母が営んでいた東京・下町の駄菓子屋「かすがい」を継ぐことになった。

1ヶ月経ち、「おばちゃん」と子どもたちに呼ばれるのにも慣れ、常連の子の顔と名前も覚えて来た頃、ひとりの少年の存在に気がつく。夕刻にやって来てきっちり300円分の菓子を買って帰るのだ。その理由に気がついた楓子がとった行動とは──(第一話 その名も『かすがい食堂』)。

貧困、いじめ、摂食障害など問題を抱える子どもたちのために、楓子は店の奥の台所で食事を提供することにした。肉汁のあふれるハンバーグ、もりもりごはんが進む野菜炒め、みんなで囲む寄せ鍋……!!
楽しく温かい食卓を描く全四話。


【編集担当からのおすすめ情報】
児童の貧困やネグレクト、いじめや摂食障害など現代の子どもたちが抱える問題を扱いながら、メインはその食卓に並ぶお腹も心も満たされる楽しくて美味しい料理。子どもたちに寄り添う下町の人情味あふれる駄菓子屋を舞台に、20代の店主と子どもたちの触れ合いを描く意欲作です。

感想・レビュー・書評

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  • 映像業界で働いていた春日井楓子は、激務で仕事を辞めてから祖母が営む駄菓子屋『かすがい』を継ぐ。
    どうにか慣れた頃、ひとりの少年が来るたびにきっちりと三百円分のお菓子を買うのに気づく。
    まさか、これが晩ご飯とは…。
    これをきっかけに店の奥で、三百円の駄菓子の代わりにハンバーグを作っていっしょに食べる。

    シングルマザーで貧困家庭、時間もなく子どものことも見る時間がない状態では、晩ご飯も毎日作れていない。
    それでいいわけはないが、どうしようもないということだろうか…。

    楓子は、居場所のない子どもたちのために、みんなで囲む食事が美味しいことを気づいてもらえたらという思いもあるのかもしれない。

    押しつけることもなく、自然にいっしょに食事ができるように献立も買い物も料理もできる範囲でいっしょにすることで得られることもたくさんある。


  • 東京の下町にある駄菓子屋"かすがい"の奥の台所で、子供に食事を提供する"かすがい食堂"。提供するとは言っても、食べる子供も一緒に買い物したり料理をする変わり種の食堂だ。
    世にいう"子ども食堂"程規模の大きなものではなく、家庭や学校などで問題を抱えた近所の子供数人に、食事を共にすることで息抜きをさせてくれる場にもなっている。
    "かすがい"の店主・楓子が、子供を見下したり一方的に施したりするのではなく、常に同じ目線でじっくり向き合い寄り添う姿勢に好感が持てた。

    ネグレクト、摂食障害、貧困。現代の子供たちを取り巻く問題は複雑で、スッキリ解決できるものは少ない。
    様々な問題を抱えた生きづらさの中にあって、少しでも肩の力を抜き、何より自分たちで作った料理を美味しいと感じたりみんなと一緒に食べることが楽しいと思える気持ちが、やがて子供たちの救いになるといい、と願わずにいられない。

  • 駄菓子屋の楓子さんが助けを必要とする子どもたちに食べ物を通して、諦めたらいけないこと、自分を大切にすること、なりたい自分になれること
    を伝えていきます

    とても素敵なお話しでした!

  • この本ををきらいな人なんていないです!すごいいい本でした。

  •  主人公は楓子・25歳。会社を辞め、祖母から創業60年の『駄菓子屋かすがい』を引き継ぎます。ある日、300円分のお菓子を食事代わりに購入する少年を見るに見かね、集客や商売抜きに『かすがい食堂』を始めます。
     ネグレクト気味の母親と少年、摂食障害と少女など、困難を抱えている子どもたちに寄り添い、食べる意味をともに考えながら、人と未来を食でつないでいく展開です。
     店名の「かすがい」は苗字なのですが、「子はかすがい」の通り、楓子が暗に何かと何かをつなぐ役割を果たす例えでもあるのでは、と考えます。
     貧困などの難しく重い問題へ、少し楓子のお節介・介入が過ぎているようですが、一人でできることの限界を認識しながら、必死に居場所をつくろうとする姿勢に、教えられる部分もありました。
     絶品料理で子どもたちの胃袋をつかむのではなく、一緒に買い物に行き、料理を作り、皆んなで食べる行為は、実際に子どもを変容させ得るかもしれません。

  • まさかこんなにかわいいほのぼのした表紙の本が子どもの社会問題に切り込んだお話だったとは。
    摂食障害の子以外はシングル家庭の貧困問題。
    子どもに関わる問題はどうしても親が絡んでくるから難しいんだよね。
    親のプライドが邪魔をして支援の手を拒んでしまう。
    でも食べられなくて困るのも食に関しての正しい知識やマナーが得られずに困るのも子ども。うーん辛い。
    結局こんな時に一番早く気づいてあげられるのはかすがい食堂のような場所なんだろうなぁ。
    子どもだけでは得られる情報が少なすぎる。
    だから大人の力が必要なのよね。
    だから親のプライドなんて捨てて支援の手を掴んでもらいたいと思う。
    「人に頼ってもいい」これが実はすごく難しい。
    たぶん私の人生の永遠の課題。
    でも子ども達には知っていてほしい。
    偽善だと思うかもしれない。
    その時は理解できないかもしれない。
    でも自分から助けを求めたら助けてくれる人は必ずいると知っていてほしい。
    今を生きる子ども達がみんな幸せであってほしい。
    そんな風に思ったお話でした。

  • 凄惨な殺人現場だの、少女監禁虐待だの、おどろおどろしい本を続けて読んだので(^ ^; ちょっと「一休み」したくてチョイス。

    主人公は、映像業界で働いていたが、心折れて実家に戻り、祖母の経営していた駄菓子屋をついでのんびり商売している女性。ひょんなことから、恵まれない環境で暮らす子どもとの縁ができ、何かできることを、と格安で食事の提供を始め、その和が徐々に広がっていき...というのが大きな流れ。

    正直、割とありがちな設定だし、訳知りのおばあちゃんも割とステレオタイプのキャラクターとも言える。が、そんな「普遍的」であるが故に、作者の筆力や心遣いが光る、とも言える。

    貧困やネグレクトなど、どうしてもテーマは重くなりがち。だが決して暗い話にも「お涙頂戴」にもなっていないのはさすが。主人公もスーパーマンではないので、常に悩む。自分が大したことをできる訳では無いし、干渉しすぎないよう自らを律している。

    逆境にいる子供たちにも、それぞれ言い分があるし、子どもなりに周りに気を遣ってもいる。その様がけなげであり、また涙を誘いもする。誰も「悪い人」がいなくても、不幸というのは起きてしまうものだ、という現実。その中で生きるしかない子供たちに、温かい食事を差し出す「駄菓子屋のおばちゃん」は、問題を解決することはできなくとも、子供たちが前向きな一歩を踏み出す手助けにはなっている。確実に。

    世の中、大きな理想論を広げるだけで、結局何もできない...ということの方が多いように思う。が、目の前の一食を提供する、その小さな「行動」こそが、人に「一歩を踏み出す勇気」を与えてくれるに違いない。

    連作短編集の、最終話でおばあちゃんが言う「何でも一人で抱え込もうとするのが、あんたの悪い癖だ」という一言にハッとして、周りを「巻き込む」ことを学ぶ主人公。「巻き込まれた」子供たちも、目覚ましい活躍を見せる。人は、誰か他の人から「必要とされる」ことが、無条件に嬉しいものなのだ。

    これから十年、二十年経っても、この駄菓子屋が「世界から貧困を無くす」ことは絶対にできまい。それでも、関わった人々の、それぞれの小さな一歩は、着実に世界を明るい方へと導く力になる、と信じたい。

  • 続きが読みたい。
    自分の仕事にも多少関わりのある事だから、尚更。
    かすがい食堂、これかどうなるのか知りたい。

  • 親の事情で食に恵まれない子供達に、食事の一助とすべく手を差し伸べる駄菓子屋の楓子。夫々の子の置かれている立場、環境に配慮しながら何が出来るのか、試行錯誤しながら共に成長していく様が清々しい。

  • 仕事の激務により3年間働いた映像制作会社を退社した楓子は、駄菓子屋を経営する祖母に誘われ、営むことになった。
    仕事に慣れた頃、店に300円を手に持った少年を目撃する。その子は、数日に1回のペースで、いつもきっちり300円を使っている。不審に思った楓子は、その少年に事情を聞いた。


    王様のブランチで特集されていたので購入。作者の伽古屋さんはミステリーを多く出版されていますが、今回の作品は新たなジャンルとして挑戦したそうです。

    題名の「かすがい食堂」ですが、「かすがい」は母方の姓が春日井ということです。「食堂」は、普段は駄菓子屋として経営していますが、ある出来事がきっかけでこども食堂のような食堂を作ることになりました。

    全4話の連作短編集で、貧困やイジメ、拒食症といった社会問題を扱いながら、食堂を通じて、人との交流や食事のありがたさ・楽しさが描かれていました。

    1話ごとに何かしらの事情を抱えた少年少女が登場しますが、ミステリー作家ということもあり、何か過去に起きたのでは?と匂わせるような文章で想像を掻き立ててくれました。

    いじめなど重いテーマでしたが、そんなにシリアスさはなく、気持ちを軽めにしてくれるような文章でした。
    また、食事のシーンでは、美味しそうなメニューや楽しそうな登場人物たちに気持ちを温かくさせてくれるので、全体的に比較的読みやすい印象でした。

    なかなか子供の問題には、スッキリ解決‼︎とまではいきませんが、良い方向へいくよう、努力している姿が描かれています。楓子はプロではないので、スマホから得られる情報を基にして、対応していますが、真摯に向き合う姿には感銘を受けました。

    また、祖母の存在感も良かったです。経験を重ねてきたからこそ、出てくる言葉も印象的で、スカッともさせてくれました。

    昔よりは減ってしまった近所付き合い。人との交流で、助かることもあります。改めて人との交流がいかに大切であるかということを感じました。みんなで食べる食事は、読んでいてほっこりした気持ちになりましたし、「食事」の大切さ・ありがたみを改めて感じさせてくれました。

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著者プロフィール

1972年大阪府生まれ。公務員退職後、『パチプロ・コード』で第八回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し2010年にデビュー。

「2017年 『散り行く花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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