- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094081527
作品紹介・あらすじ
二人には、どんな相手にも告白できないほど良心に恥じる過去があった-。母親の自慢だった、何もかも優秀な兄の死に囚われている完璧主義者の女医、三八歳。自分でからだを動すことができず、ヘルパーの手を借りずには生きていくことができない異常な肥満で部屋に閉じこもった皮肉屋、五〇代女性。深刻なトラウマのせいで、他人を信じることができないという孤独を抱えた二人が、人生の歯車を狂わせた先に出会った時…。ベスト北欧推理小説賞受賞実力派女性作家が描く、スリリングなサイコサスペンス、待望の第四弾。
感想・レビュー・書評
-
スウェーデンの作家カーリン・アルヴテーゲンの4作目。
過去を抱えた二人の女性の出会いがもたらすものは‥
モニカは38歳の有能な医師。
仕事で成功しているが、少女の頃のことで、いまだに深刻な罪悪感に苦しんでいた。
恋人も出来たのだが、心のうちを明かすことが出来ない。
ある事故に遭遇したモニカは責任を感じ、贖罪のために、ある行動に出ることに。
一方、ひきこもっているマイブリットは50代の女性。
過食で肥満体となり、ヘルパーの手を借りなくては身の回りのことも出来ない障碍者となっている。
ヘルパーにきつく当たる皮肉屋で、過去のことは忘れるようにして暮らしていたが、これまでと違うタイプの若いヘルパーが登場し、へこたれない彼女に戸惑う。
さらに幼馴染からの手紙がきっかけで、次第に過去の事実と向き合うようになる。
幼馴染だった女性は、終身刑で刑務所にいた‥
まったく違うタイプの女性の運命が、しだいに交錯するようになります。
実はある共通点があり、それは人に話すことすら出来ない過去を抱えていることだった。
不運もあるが、この場合、親の責任は相当に大きいですね。親本人は自分を貫いているだけで、わが子に悪かれと思っているわけじゃなかったにしても。
少し晴れ間の見える方向へ、二人共に向かったのが何よりです。
作者は1965年スウェーデン生まれ。
98年デビュー。
2作目の「喪失」で、北欧の推理小説賞を受賞しています。
この作品は、謎やスリルはありますが、殺人事件の解決といった展開になるわけではありません。
そういうミステリが苦手な人にも読んでいただけます。
重めなので、立て続けに読むってわけにはいかない作家さんですけど~
深く切り込んでも手際よくさばいていく手つきは確かで、読後感は悪くありませんよ。
感動と救いがあります。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
38歳の女医と、太りすぎで家から出ることさえできない50代の女性。出会うはずのない2人は、運命によって引き寄せられる。
親は、完璧な存在ではない。
けれど、子供にとって親は絶対なのだ。ゆえに、子供は深く傷つく。そんな風に2人は深刻なトラウマを抱え、人を信じること、愛することができずにいる。
しかしながら、肥満の女性マイブリットは幼馴染からの手紙をきっかけに、女医モニカはある事故をきっかけに、自分のトラウマを正面からとらえ、乗り越えていこうとする。
ただ、その方法はとても不器用だった。だから切ない。
アルヴーゲンは、彼女たちのトラウマに対して、親を断罪することはしない。ただ、こういうことがありましたと淡々と描いている。それは無意味なことだからなのだと思う。子供は親を選べない。自分の優しさが、親を増長させ自分の身を削ることになっても、子供はそれをやめることができない。
自分自身の力だけが、その呪縛から抜け出すものだ。
最後がとても印象的だった。
まるで、冬の陽だまりのようなちょっとしたぬくもりに心がいやされる感じがした。 -
秘密にしておきたい過去を持つふたりの女。
優秀で母親の愛情を一身に受けた兄を持つ完璧主義の女医モニカと、ヘルパーの手を借りなければ生きていくことのできない異常な肥満体の女マイブリット。
ふたりの人生が交錯したときに何が起きるのか。
この作品に出てくるふたりの女性は、過去の出来事によって心に傷を持っている。過去に対して極端とも言える向き合いかたをしたために、自ら生きにくくしてしまう。
こういう傾向はわたしにもあるため、主人公の特にモニカの気持ちが少しわかる。
もっと気持ちを楽に、自分を責めて自分に罰を与えてばかりでなく自分を赦すことをした方がいい。頭ではわかっても、それをすることが出来ない。
この作品はサスペンスなのか文学なのか。
わたしはサスペンスかと思って購入して読んだのだが、サスペンスという感じでは無かった。かと言って、つまらないということもなく読みながら思うことも多くあり愉しめた。
何かに分類する必要もない、面白い一冊だった。
ラストは救いをうかがわせ、すっかり肩入れして読んでいたわたしにとっても救われる思いだった。
いつかわたしも自分を赦せるような気がした。 -
スウェーデンの作家「カーリン・アルヴテーゲン」の長篇ミステリ作品『恥辱(原題:Skam、英題:Shame)』を読みました。
『罪』に続き、「カーリン・アルヴテーゲン」作品です… 北欧ミステリ作品が続いています。
-----story-------------
過去に囚われている二人の女性の贖罪の物語。
私ではなく、彼こそ生き残るにふさわしい人間だったのだ――。
母親の自慢でもあった、何もかも完璧な兄の死をトラウマとしている女医、38歳。
自分でからだを動かすことすらままならない異常な肥満で部屋に閉じこもった50代女性。
過去に囚われ、誰も信じることができず、究極の孤独を抱えた二人が人生の歯車を狂わせた先に出会った時……。
ベスト北欧推理小説賞受賞の実力派女性作家が描くサイコサスペンスの傑作!
-----------------------
2005年(平成17年)に刊行された「カーリン・アルヴテーゲン」の4作目にあたる作品です、、、
ミステリ的な要素は少なかったですが… 人間の内面の描き方の巧さが「カーリン・アルヴテーゲン」らしさを感じさせる作品でした。
二人には、どんな相手にも告白できないほど良心に恥じる過去があった――。
「モニカ・ルンドヴァル」は、医師として働く38歳の女性で、23年前に愛する兄「ラッセ」を喪い、その痛みを未だに引きずって生きている… 兄とともに事故に遭い生き残ったことへの自責の念をぬぐえず、生を謳歌することなく淡々と日々を送っている、、、
母親は、誇りとしていた息子の墓参りを今も病的なほど頻繁に行い、常に「モニカ」を墓所までの運転役として付き添わせる… 母娘の関係は良好とは言い難く、父親は「モニカ」が生まれる前に家族を捨てて家を出ており、家族関係は崩壊していた。
「モニカ」は、「トーマス」という男性と出会うことで、そこに救いを見出すのだが、兄の事故を想起させる事件が起こり、「モニカ」の精神は、またもや不安定な状態に陥っていまう… 自らの負の心理を断ち切ろうと、「モニカ」は身分を偽り、ある女性に接触する。
「モニカ」の物語と交互に描かれるのは、自分でからだを動すことができず、ヘルパーの手を借りずには生きていくことができない異常な肥満で部屋に閉じこもった皮肉屋で50歳代の女性「マイブリット・ペッテション」の物語… 家族はおらず、一匹の犬と暮らす「マイブリット」は、椅子から立ち上がることさえ困難なほどに肥大した体躯ゆえに、ヘルパーの介護なしでは日常生活が送れない、、、
だが、そのひねくれた性格はヘルパーとの関係をいつも悪化させ、これまでに担当者は何人も交代してきた… そんな「マイブリット」のもとに、若いヘルパーで正義感の強い「エリノール」がやってきて、「マイブリット」の生活に影響を与え始める、そして、時を同じくして「マイブリット」のもとに、旧友で夫と子どもを殺した罪で投獄されている「ヴァンニャ・ティレーン」から手紙が届き、「マイブリット」はシャットダウンしていた過去を呼び起こしてしまう。
深刻なトラウマのせいで、他人を信じることができないという孤独を抱えた二人が偶然から出会い、お互いの人生に干渉することになる… 二人に共通しているのは、人に言えないほどの良心に恥じる過去があるということ、、、
その罪悪感が引き金となった二人の行動は、いつの間にか交差し、ぶつかり合い、そして融合していく… という過程が愉しめる作品でした。
「モニカ」と「マイブリット」の行動は、共感し難いものの、理解せざるを得ない感じですよね、、、
自らの内なる感情が、どのような行動として表現されるのか… 興味深く、読むことができました。
以下、主な登場人物です。
「モニカ・ルンドヴァル」
医師
「ラーシュ(ラッセ)」
モニカの兄
「トーマス」
モニカの恋人
「マイブリット・ペッテション」
犬と暮らす肥満女性
「ユーラン」
マイブリットの元夫
「ヴァンニャ・ティレーン」
マイブリットの幼友だち
「ウーリャン」
ヴァンニャの夫
「エリノール」
ホームヘルパー
「オーセ」
セミナー参加者
「ブリエ」
オーセの夫
「マティアス」
セミナー参加者
「パニラ」
マティアスの夫
「ダニエラ」
パニラとマティアスの子