兵士に聞け (小学館文庫 (す7-1))

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  • 小学館
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レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (800ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094081879

作品紹介・あらすじ

25万もの兵力を擁し、核兵器以外のあらゆる兵器を有する巨大組織でありながら、軍隊として存在することは許されない自衛隊。戦う相手も見えない中で「日蔭者」として生きることを強いられた隊員たちは、日々何を思い過酷な訓練に従事しているのか。様々な基地を訪ね歩き、訓練にも同行し、彼らの生の声に耳を傾けた渾身のルポ。日本を守る存在ながら、日本人があまりにも知らない自衛隊の実情に深く迫る。'96年新潮学芸賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  •  笑福亭鶴瓶さんが吉田茂を演じたドラマに、本書『兵士に聞け』からの引用がありました。即ち、

     ......君たちは自衛隊在職中決して国民から感謝されたり歓迎されることなく自衛隊を終るかもしれない。きっと非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。言葉をかえれば、君たちが「日蔭者」であるときの方が、国民や日本は幸せなのだ。耐えてもらいたい。

     といふ吉田茂の言葉であります。杉山隆男氏の「兵士シリーズ」は存在は知つてゐたものの、恥かしながら一頁も読んだ事がなかつたので、手に取つてみました。

     まづ驚くのは、その「日蔭者」としての自衛隊を取り巻く周囲の視線であります。自分の娘が防大生とつきあつてゐることを学校に抗議する親とか、自衛隊とは決して本にならない(日の目を見ない)原稿をせつせと書き続けるやうな組織であると説く「元将軍」、或は防大生を「同時代の恥辱」とまでこき下ろすノーベル文学賞作家(無論川端康成ではない)とか、あまりにも立場がありません。わたくしなぞは単純なので、自衛隊員=ヒーローの図式が脳内にあるのですが。

     取材時は勿論既に平成の世になつてゐるのですが、一般の人々の認識はこんなものだつたのでせうか。やはり未だに憲法との整合性を指摘する意見が多いからでせうか。どうみても軍隊なのに、自衛隊は軍隊ではない事になつてゐて、海外派遣の際は政治家たちが責任逃れの「解釈変更」で送り出す。有事の際の判断は現場に任せるといふ無責任さであります。左側陣営の恰好の標的となるのでした。令和となつた今、少なくとも国民の拒否反応は薄らいでゐると思ふのですが。

     で、当の自衛隊員たちは何を思ひ、どんな日常を過ごしてゐるのか、体当たり取材を試みたのが本書なのですね。レンジャー訓練への体験参加、護衛艦「はたかぜ」乗船、「自衛隊の島」奥尻島で起きた巨大地震の被害と救出劇、PKO法によりカンボジアに派遣された隊員たちと、派遣されなかつた隊員たちの物語......涙なしには読めぬエピソオドもあります。
     
     戦後日本が抱へてきた矛盾が象徴された存在が自衛隊なのかと思はせます。読後、これまで漠然と抱いてゐた自衛隊像がガラガラと音を立てて崩れてゆく、そんなイムパクトを与へられた一冊と申せませう。

  • 微妙な立ち場で奮闘している自衛隊のルポ。当たり前だが、人間味あふれる話が中心となっている。塩野七生の自衛隊に贈る言葉には納得だが、それを受け取る自衛隊側の人間が複雑な思いでいることに気づくことができた。そろそろ自衛隊アレルギーも消えるだろうか。独立国家には軍隊は必要なことが世界の認識であると思う。この生きていかなければならないのだから、自分勝手な論理を振りかざしているばかりでなく、世界の論理を踏まえていく必要があると思う。けっして、鵜呑みにするのではなく。

  • 自衛隊のことってよく知らない。特に嫌悪感もないけど、興味もなく、だったけどよくないよなあ、と。自分の無知さに沈思、著者の真摯な姿勢に心打たれる。

  • かなり面白いノンフィクション。題材は自衛隊、従って、題名「兵士に聞け」の「兵士」は自衛官のことである。レンジャー訓練・護衛艦・奥尻島の部隊・カンボジアでのPKO活動等がテーマになっている。
    筆者は個々のテーマに関する丹念・丁寧な取材と、そこで働く自衛隊員への、これも丹念・丁寧な聞き取り、インタビューにより、自衛隊・自衛官のその場その場での行動・働き方を記録している。自衛隊と言えば、特に本書でも扱っているPKO活動への参加をめぐって、その活動が憲法に違反するのではないか、といった議論が盛んに行われたことを思い浮かべることが出来るが、筆者はそういったことに対して、一言も私見を述べていない。ただただ、丹念にそこでの個々の自衛官のあり様を記録するのみである。
    考えてみれば当たり前のことなのだけれども、自衛隊という組織は個々の自衛官の集合体である。組織としての役割や、左右両派からの政治的な言説や評価、あるいは上述した憲法の観点からの位置づけ、といった視点で自衛隊を論じることは可能であるし、むしろ自衛隊を論じる場合には、そういったやり方で論じられることの方が多いように感じる。この本で筆者は、そういう観点からの論じ方をいっさいしておらず、ひたすらに個々の自衛官の個々の場面での行動や考えを記録するのみである。大上段にふりかざした「あるべき論」的なものではなく、個々人の集団である自衛隊の「かくある論」を、それも出来るだけミクロな視点で記録している。そういった微視的な視点で個々の自衛官を見れば、これも当たり前のことなのであるが、個人個人は個性を持ち、自衛隊の仕事を職業と考え一生懸命に努力をしあるいは手を抜き、喜び悩み、という具合に、他の例えば会社組織に勤める個々人がそうであるのと同じ仕方で働いている人たちなのだということがよく分かる。それはもちろん全体を現しているわけではないし、自衛隊に関しての言わば形而上学的な考察を与えてくれるわけでもない。それでも、この方法論は、自衛隊というものに対する深い理解を与えてくれる優れた方法のような気がする。

  • おすすめ。シリーズ第1弾。

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著者プロフィール

1952(昭和27)年、東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を 受賞。1996(平成8)年、『兵士に聞け』(小学館文庫)で新潮学芸賞を受賞。以後、『兵士を見よ』『兵士を追え』(ともに小学館文庫) と続く「兵士シリーズ」を刊行。七作目『兵士に聞け 最終章』(新潮文庫)で一度完結したが、現在雑誌『マモル』にて、「兵士シリーズ 令和伝『女性自衛官たち』」を連載中。ほかに小説『汐留川』『言問橋』(ともに文藝春秋)、『私と、妻と、妻の犬』『デルタ 陸自「影」の兵士たち』 (ともに新潮社)など著書多数。

「2020年 『OKI――囚われの国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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