- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094082272
作品紹介・あらすじ
2020年初夏、映画化!
ヒーローだった兄ちゃんは、二十歳四か月で死んだ。超美形の妹・美貴は、内に篭もった。母は肥満化し、酒に溺れた。僕も実家を離れ、東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾にピンク色の花びらをつけていたことから「サクラ」と名付けられた十二歳の老犬が一匹だけ。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏に薄い鉛筆文字で書かれた家出した父からの手紙が握られていた-。二十六万部突破のロングセラー、待望の文庫化。
感想・レビュー・書評
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昔、実家で犬を飼っていた。
母親が動物嫌いで、ずっと外飼いだった。
一度、その犬が逃げてしまって、不安で、寂しくて、悲しくて、何をしていても落ち着かなかった。
シロ、今どこにいるのかな。
そんなことを思いながら、「ちょっとトイレに」と、廊下を通ったその時!
なんと!
シロが!
窓の外、座って、尻尾を振って、こちらを見つめているではないか!
おかえり、シロ…!
帰ってきてくれてありがとう。
シロが亡くなってからも、他の犬を飼ったけれど、やっぱり死に立ち会うのはしんどくて。あまりにも犬の死を悲しむわたしに、近所の人が「子犬が産まれたんだけど、どう?」と訪ねてきたのを、家族がこっそり「あの子が悲しむのを見ていられないの」と、そっと断った。部屋から出て階段を降りようとした時、思いがけず聞いてしまった。
それ以来、わたしはペットを飼っていない。今でもやはり、失った悲しみの方を先に考えてしまって、ペットを飼うことには躊躇いがある。
長谷川家に迎えられたサクラは、家族みんなから、愛されている。
ヒーローでイケメンの兄ちゃん、誰もが振り返る美人で、ぶっとんだ行動をする妹のミキ、その真ん中に挟まれた次男坊の僕、薫。どんどん太っていく母と、どんどん細く小さくなっていく父、そして愛犬のサクラ。
サクラは、彼らに、猛烈に愛されている。
家族はとにかく幸せだった。この幸せがずっと続くものだと思っていた。
ああ、神様。
神様が投げるボールはもともと決まっているのでしょうか。
あの時、あんなことをしなければ、ここで変化球を投げてくることなんてなかったのでしょうか。
それとも、もとからこのタイミングで、変化球を投げるつもりだったのでしょうか。
もしくは、いつだって投げるボールは直球で、それをわたしたちが、時に変化球のように感じてしまうだけなのでしょうか。
そして、一番教えてほしいのは。
なぜ、その「変化球もどき」は、こんなにも幸せな家族を直撃したのでしょうか。
西加奈子さんの作品は、人間の醜い部分も、美しい部分も、全てを丸ごと包み込んでくれる。そして、この作品の中で、その役割を果たしているのが、愛犬のサクラだ。サクラにとっては、神様から投げられるボールは、直球も変化球も、全て軽やかに跳ねるおもちゃ。そんなサクラと共に、家族は年を越す。
生きているとたくさんの幸せも悲しみもあるってこととか、遺伝子レベルで刻み込まれた人との違いとか、それを打ち明ける人がいることといないこととか、好きな人に好きだよって伝えることの大切さとか、そういうことをぎゅうーーっと詰め込んで、全部包み込んでくれる。そんな、とてつもない愛にあふれた一作。
2020年秋、映画化されます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本日午後、東京靖国神社の桜の標本木が十一輪開花し、気象台職員の方が手話を交えて開花宣言をしていました。いよいよ春本番ですね。
というわけで、本書タイトルは『さくら』です。西加奈子さん20代の初期作品(本作が第二小説)で、初読みでした。
本書は、ちょっと厄介だけど幸せな長谷川一家の大河物語です。父さん、母さん、兄ちゃん(一)、僕(薫)、妹(美貴)、サクラ(犬)や恋人などが、僕の視点で描かれていきます。
一人一人が丹念に描かれ、その視点はあくまでも肯定的で、絶望感や閉塞感を包み込むような温かさを感じます。家族だからという理由を超えたものがあるような気がします。そして、犬のサクラがとってもいい緩衝材以上の存在です。
文章の端々に、僕の視点を通した西さんの多様性への理解の深さがあるような気がしました。西さん自身、テヘラン→カイロ→大阪という来歴もあるためでしょうか、欠点や弱音などマイナス面を否定せず、認める姿勢を感じます。
生きることへの肯定は、「生まれてきてくれて、ありがとう」の言葉に尽きますね。
生きることの意味や人と人との関係性、成長過程で必ず直面する葛藤や模索‥。幸せから暗転、そして再生への軌跡が緻密に描かれた作品でした。この未来へのエネルギーを感じる本作で、若き西加奈子さんが大きな支持を得たことに頷けました。 -
通勤時にオーディブルで桜を見ながら聴いた。
東京の桜もこの雨で散ってしまいそうですねぇ…
「さくら」は本編の主人公・長谷川薫の飼い犬の名前。優しく人懐っこい性格で、家族をつなぎ止める接着剤のような存在だ。
直木賞受賞作の「サラバ」の原型のような作品だと思った。もちろん全く違う小説だけど、両作とも家族小説でジョン・アーヴィングの「ホテル・ニューハンプシャー」に影響を受けている。
人生の過酷さと美しさを余すところなく綴ろうとした野心作で、無謀さが漂う不穏な小説と感じた。
幼い妹・美貴に前夜の夫婦の営みが発する音について聞かれた時の、母親のセックスの説明が素晴らしい。これから自分の子に性教育をしなくてはならないカップルはぜひ参考にするといい、と思った。
2020年映画化。東京事変の「青のID」が主題歌で、この曲もとてもいい。 -
aoi-soraさんお勧めの泣ける本のひとつ。
読み終えた後、胸に込み上げる熱いものが。
この気持ちはどう言葉にしたらいいんだろう。
悲しくも深い愛を感じる物語でした。
絵に描いたような幸せだった家族。
かっこ良く人気者の兄ちゃん。美しく無鉄砲な妹のミキ。ごく普通の弟の薫。明るく朗らかな母に、静かに家族を見守る父。
西加奈子さんの力強く瑞々しい表現力により、家族の皆が生き生きと描かれる。
しかし、ある日突然兄ちゃんを襲った不幸な事故により、それまでの家族の日常が一変してしまう。
計り知れない家族の悲しみ。
変わってしまった日常。周囲の目。兄ちゃんの心。
それでも家族の兄ちゃんへの愛は変わらなかった。
家族にとって、どんな兄ちゃんでも兄ちゃんでしかなくて…
そんな家族の一員として、いつも変わらず傍にいてくれた犬のサクラ。
真っ直ぐな瞳で見つめるサクラだけが、兄ちゃんにとっては救いだったんだね。
運命とはなんだろう。神様が与えるものなのか。自分で切り開くものなのか。わからないけど、どちらにしても、運命のすべてを受け入れることは容易ではない。
だから「生まれてきてくれてありがとう」の言葉がより心に刺さる。
そうだよね。それがすべてだよね。
あおちゃん、この本を教えてくれてありがとうございました!!
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ひろちゃん、おはよう
読後の熱い気持ちがストレートに伝わってくる、素敵なレビューですっ!!
サクラの存在がね。:゚(;´∩`...ひろちゃん、おはよう
読後の熱い気持ちがストレートに伝わってくる、素敵なレビューですっ!!
サクラの存在がね。:゚(;´∩`;)゚:。
また泣けるのよね
色んな感情の涙が溢れる作品で…
桜満開の今日、この本の感想をありがとう(灬º‿º灬)♡2023/03/24 -
あおちゃん、おはよう♪
ほんと、いろんな感情が込み上げてきて、涙なしには読めなかったよ~!
そうそう、サクラの存在がね゚゚(*´□`*。)°...あおちゃん、おはよう♪
ほんと、いろんな感情が込み上げてきて、涙なしには読めなかったよ~!
そうそう、サクラの存在がね゚゚(*´□`*。)°゚。
サクラが家族を繋いでくれたのかなぁって思った
この季節にも合ってるよね♪読めてよかったよ~❀2023/03/24
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私も人生を振り返る年になりました。
今までの人生で何が喜びだったかと思い返すなら、家族との時間でしょう。
寝る前にせがまれた絵本、それはそれは娘は毎日楽しみにしていました。寝る前に喜々として絵本を選ぶ姿、今でも思い出します。
もう時は戻ってきません。
その時の思い出は何でしょう。明るい陽射しだったり、雑草の中、森の中を駆け回る子だったり。そう、光やじりじり照り付ける暑さだったります。
そんな家族の時間を共有しているさくらが重なります。
とぼけたようなしぐさ、わかっているのでしょう。
自分が支えになっていることも、きっとわかっているに違いありません。
きっかけは時計の電池切れでした。
その時も戻ってきません。戻せるなら。。。家族はみんな思ったことでしょう。
たった一つ、電池切れなんですよ。そこから家族が、流れが、そう、全てが変わってしまいました。
産まれてきてくれてありがとう、きてくれてありがとう。 -
西加奈子さんの作品は直木賞受賞作の『サラバ!』の印象が強いのです。『さくら』とは順序が逆ですが、本作の作風はその『サラバ!』に近いと感じました。家族の物語なのもいっしょです。
子ども時代だとか、まだ言語化がうまくないじゃないですか。その頃の空気感や感じたこと、そして出来事なんかは、たとえされても淡い言語化くらいで済んでしまって、それから日々を過ごしていくうちに記憶の果てへと少しずつ退場していくもの。本作品を読んでて思うのは、西加奈子さんという作家はそういった、言語化が淡いまま過ぎ去っていったあれこれを眼前によみがえらせながらその時期の感性を損なわない形で柔らかくなんだけどある程度しっかり再言語化して軟弱な意識の基盤みたいなものの強度をあげてくれるかのようだということ。
自分自身の物語じゃないのに、読者は西さんの作品を読むことで、自分の内深くに眠っている、過去に淡く言語化したのちに心の押し入れの奥深くで忘れ去られたような記憶を「再定義」とまで堅苦しくはないけれど、その質感をありありと「再体験」できて意識の地盤が豊かに戻る経験ができる感じがする。言語化がうまくなかった稚拙な頃は、でも感性では受け取っていたあれやこれやの豊かさの土壌を踏みしめて生きていた頃でもあって、西加奈子さんの作品は、その生命力みたいなものを復活させて、言語に長けるようになった大人の自分とをつなぐみたいな力があるなあと思いました。
以下、ネタバレあり。
フェラーリとあだ名された、近所の公園にいつもいる精神障害があるふうな人物を、子どもの頃に主人公と兄はバカにしていて、のちに兄は自分がフェラーリと同じように差別される人間になったことを悟る。そして、そのあと時を経ずして兄がギブアップしてしまう原因をつくったのが、兄を愛してしまった美しい妹・ミキ。彼女は、兄と離ればなれになった兄の恋人から届く数多の手紙を隠し続け、仲を引き裂いていた。こういうところの、稚拙な頃に犯してしまう罪のどうしようもなさの描き方が僕にとっていちばんの物語の深みであり、刃先のようにぐっとささってくるところでした。
ラストはちょっとどたばたしていて、そのどたばたの仕方があまり好みではなかったのですけれども、それでも、出だしからずっと生命力が湧きで続けるかのような、心のどこかを良い意味で共振させられる作品でした。ストーリー展開のおもしろさもあるのですが、それよりも豊かな感性による語り方とでも言った方がよいものがこの物語の強みのような気がします。
他にも西加奈子さんの作られた小説はいっぱいありますから、またちょっと間をあけてから手に取りたいです。 -
主人公の僕と、ヒーローだった兄ちゃん。美人の妹。自慢の母さんと父さん。お喋りな犬のサクラ。
「ヒーローだった兄ちゃんは二十歳四か月で死んだ」あらすじのこの一文で購入を決めました。初、西先生である。
自分でも他人でもない人、それが家族。理解できないことも多々あるけれど、喧嘩しても一緒に住んでなくてもずっと家族。その事実がたまらなく嫌になる時もある。そしてその後、たまらなく愛おしく思う時もきっとくる。家族って不思議だなぁ。
何気ない日常にも複雑な想いや経験があって、上手くいかない時は何しても上手くいかないし、誰にも打ち明けられない悩みに眠れない夜を過ごしたり、ある日突然きょうだい児になったり。人生何があるか分からない。
兄ちゃんは最初から最後まで神様へのボールを真正面から投げ切ったのかな。
「ギブアップ」苦しすぎた。
うちにも若い犬が何匹かいる。
後悔しないように毎日声を聞いてあげようと思う。
家族が改めて大好きになる本!
最後の父さんかっこよかったー!
サクラも死んだ兄ちゃんもずっと家族!!! -
犬ころが家族の鎹(かすがい)になっているの、わかるな。
もの言わぬが語りかける瞳で、そこにいてみんなを癒してくれる。すきに放っておかれ後回しにされがちな存在なのにね。家族と、すべてを受けとめることと、そして、戻らない日々の愛おしさを、さくら色にみずみずしく味わえた作品。
「~みたいな」という直喩がたくさんあって、どれもしっくりくる素敵な喩えで、読んでいて気持ちよかった。直喩の多使用は故意にかな。子どもは直喩で世界を表現しがち。この表現の初々しさが、これまた「さくら」というタイトルと相まって春っぽかった。今、この桜の開花前に、読んでよかった。