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Amazon.co.jp ・本 (496ページ) / ISBN・EAN: 9784094083347
作品紹介・あらすじ
ノーベル賞作家である父アクセル・ラグナーフェルトは、脳疾患で全身麻痺(まひ)となり施設に入っている。息子ヤン=エリックはその威光で尊敬を集めて生活しているが、家庭は崩壊し浮気三昧(ざんまい)の日々だった。
物語は、高齢で死んだ老女の身元確認から始まる。彼女はかつてラグナーフェルト家で家政婦をしていた。葬儀のために探し物をすることになったヤン=エリックは、事故死と聞かされてきた妹の死因に不審を抱く。やがて彼は、高潔なはずの父が何かをひた隠しにしていることを知る……。
人は、ここまで堕ちることができるのか――生きることの絶望と希望に迫る問題作。
みんなの感想まとめ
人は名声や栄光を持っていても、必ずしも幸せにはなれないというテーマが深く掘り下げられています。主人公ヤン=エリックは、ノーベル賞作家である父の影に隠れ、家庭の崩壊や自身の堕落と向き合いながら生きていま...
感想・レビュー・書評
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ノーベル文学賞を受けた作家の持つ光と影、その家族と、かかわった人々の人生。カーリン・アルヴテーゲンの5作目
カーリンの著作はシリーズになっていないので、順不同で手に入った順に読んできた。そしてここまできて、彼女の作品の拠り所というか底に見える形が分かりかけてきた。
☆
まず何か障害にぶつかった後にそれを乗り越え、読者を安心させる。
生きていれば訪れる大小の逆境と思われる時期、人生の闇に落ち、憎悪し、悲哀の淵に沈む、その絶望の時期を辛くも乗り越えてきた再生の過程などが作品ごとのテーマに形を変えている。
そんな繰り返しで、読者は主人公と共に悲喜こもごもの時間を過ごす。
ところが同じ作家を読み続けていて文章やストーリー運びに慣れてくると、ちょっと休みたくなる。
こんなことを言うと作品ごとに目新しい世界を作り上げるのは作家にしても苦しい仕事に違いない。よくわかっているが、そんなわがままでこの作家を一休みしていた。
図書館本の期限が来て、あとに誰も続いてないことで少し延滞しやっと読んで書き始めた。
「影」という題名もカーリンの世界だろうと想像した。
偉大なノーベル賞作家の持つ「影」だ。作家の名前を持つ家族、作家の栄光の陰で生きていく不自由な欺瞞の多い暮らし。そしてついに檻が崩壊して、落ちていく家族の姿がある。
子供の頃、田舎の家の物置に本がたくさんあった。ほとんど叔父たちの古い教科書や参考書、好みの文学書など。一冊だけ回し読みをしている月刊雑誌。そこには文豪作品の読みどころがあり、海外小説の翻訳本もあった。本は大切にし、床に置かず跨がず名文は覚えて朗読をする、そんな田舎暮らしだった。作家は見たことのない世界を作りだす偉大な創造主のように見え、成長して図書館の本棚に出会って驚き、少ない小遣いをはたいて溜めた本は、宝物のようだった。
作家が尊敬され、ましてノーベル文学賞を受けて世界に認められ、出す本は次々に売れてファンが群れ、生活は豊かになっていった、人々の想像通り偉大な世界を持つ偉大な作家になった時、人間離れをした実体が作られる。
現実の影はどんなものだろう。時が経ちそんな作家も作家でなくなる時がある。
影の真実の姿が出てくるとき、その顔は予想した通りもうすでに光を失ったしなびた老人だった。
作家の栄光の余波で生きてきた家族、息子、嫁。
孫は陰におぼれて死んでしまい、同じように年取って頑迷な老婆になった妻はまだいた。
世評を覆すような過去が、長く使えていた家政婦から引き出されてくる。彼女は作家を尊敬しあがめていたが、大きな秘密を抱えて孤独に亡くなった。そこに後始末をする管財人の女性が部屋を訪れる。
秘密の顔はそこから徐々に現れてくる。
栄光と影を持つ偉大な世界的な賞は尊敬を伴って輝く。しかしそれは広く照らす光のわずかな一隅かもしれない。
大きな世界を作り出す文学作家、創造主に近づこうとする科学者たち。
それを探り超えようとする人間の知恵が顕彰されるノーベル賞の、影を描き出した作品。
人間の卑小な一面を彩る濃い不幸を書いている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
なんとも救いのない…読ませます。
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著名であるとか栄光とか名誉とか、そういうものは必ずしも幸せには繋がらない、ということか。みんながアルコールの問題を抱え、それぞれに足掻くような悩みを抱え堕ちていくところはなんとも・・・!それでもやっぱり女は強いよなあ(生贄とされてしまった娘はともかく)、と思わずにもいられない。
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人はあっけなく、なんのひっかかりもなく、簡単に堕ちてしまう。
ノーベル文学賞作家は、脳疾患で全身麻痺になっている。その息子は、父の威光に頼って仕事をしている。そして家庭は崩壊しかけている。
かつてその家につかえていた家政婦の死によって、家族の闇がうかびあがってくる。
人と過去が交錯する手法が心にくいばかりです。
全ては絡み合い、もつれながら、それでも解かれていく。明らかになったとき、唖然としてしまう。何があったのか、読んでいく中で推察できるし、その想像を大きく超えたものでは決してない。けれど、あっけにとれてしまう。
人が堕ちていくとき、それはもっとためらいや躊躇があるものではないのか。こんなにあっさりと、滑り落ちるように堕ちていくそんな俗悪なものなのだろうか。
積み重なっていった悪意というものは、人をこれほどまでに愚鈍にさせるのだろうか。
…でも、一番醜悪なのは、その死によって静まった湖面に石を投げ入れた形になった家政婦なんだと、私は思う。
カーリン・アルヴテーゲンの作品
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