もうおうちへかえりましょう (小学館文庫 ほ 4-2)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094085365

作品紹介・あらすじ

正義の味方はもういない。金利はなったくゼロに近い。高度成長期に育ち、バブル期に青春時代を過ごした四十代独身男は、デフレとスタバとケータイに囲まれて、ぼろぼろの二十一世紀を生きている。永遠の女性は、きらきらした「今」は、いつ目の前に現れるのか?故郷も、家族も、夢も、希望も、志も、野望も、立身出世も、革命も、維新も、なにもかもなくなってしまった「今」という時代。白馬に乗ったお姫様がいつか現れて、俺を幸せしてくれるはず、なのに。衝撃的なダメッぷりで話題を呼んだエッセイ『世界音癖』に続く、人気歌人・穂村弘のエッセイ集第二弾。

感想・レビュー・書評

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  • 「世界音痴」に続く、穂村弘さんの二作目のエッセイ。

    元の単行本は2004年発売(かろうじて結婚前)ということで、お姫さまは来ないかもしれないと思い始めた穂村さんが、自力で何とかしようとした、「ボールペンで生まれ変わる」のエピソードに、さっそく爆笑。実際に零時零分零秒ちょうどに、それをしているところを想像すると・・もうダメだ(笑)
    そもそも、何故それで新しい素晴らしい〈私〉に生まれ変わっている筈だと思ったのか、考えなくていいのに、考えれば考える程、余計に面白くなってくる。

    前作は、穂村さんのカミングアウト的な、本人にその意図が無くても、自然と笑えるような内容が多かったが(それにしたって、背表紙の『衝撃的なダメッぷり』はひどい)、本書はそれだけではなく、穂村さん独自の視点からみた考察も興味深い。

    例えば、八十年代が、『高度に洗練されたイメージと自意識の時代』であった事について、コカコーラのキャッチコピーを一つの例に取っていることに、なるほどと。

    当時は全く気にもしなかったが、確かに「アイ・フィール・コーク」って意味不明だし、『意味の明確さとは無関係に支配力を持つところがイメージの怖さ』という、穂村さんの文章にも納得させられるものがあって、感じることにも信頼性のようなものがあるのですね。はたまた、センスの良し悪しを判断するのが困難な時代だったのか。

    そんな中に現れた、「ドブネズミみたいに~」で始まる、あの曲の衝撃も共感でき、当時の音楽番組でのMCとの噛み合わない遣り取りは、ある意味、痛快で面白かったなあ。

    また今回は、穂村さんの古書好きというか、本好きなエピソードが多く、改めて短歌だけの人ではないことを実感し、またその話のひとつひとつに、想いの深さを感じ取ることができて、他人事ながら、私まで嬉しくなり、読みたくなった本が増えました(特に往年の女性作家の漫画作品)。

    それからやはり、素敵で面白いエピソードを拾い上げる、穂村さんの素晴らしさは今回も変わらず、特に、「恐怖的瞬間」の、漫画家、吉野朔実さんの完璧な三点セットや、ストライクが出てしまったらどうしようと心配する「ボウリング砂漠」に、『お砂糖はエネルギーのもとなのよ』とキツネっぽい母親が、子供たちに云っている商店街のポスターに、胸が締め付けられる「壊れた笑顔」は印象的でした。

    また、更に印象的だったのが、ナンパをしたことがないことから生まれたような、告白的小品の「林檎」で、最初、くすくす笑いだったのが、次第に切なさを帯びてくる展開に、詩的で素朴な感動を覚えつつも、これを素で書いているのか、狙って書いているのか、分かりづらい感じが、また穂村さんのミステリアスな一面なのかもしれないと思いました。

  • 『世界音痴』から2作目のエッセイ(2004)の文庫版。2010年発行。表紙はカプセルホテルに居るジャージ姿の穂村さん。
    表題は一斉放送の文言からのようです。あとがきの不穏なほむほむワールドが癖になります。時々文末にある短歌がいいアクセント。

    白馬に乗ったお姫様が現れるのを夢見て、お互いに高めあう恋愛を試してみようと四苦八苦
    運命の女生との出逢い妄想世界は読んでる側も悶絶してしまう
    吉野朔美さんとの恋愛トークエピソード、こじらせてます
    「愛はいつも」はだいぶホラーな背筋が凍る話

    くわえろといえばくわえるくわえたらもう彗星のたてがみのなか(穂村弘)

    バブル世代とその後の世代の歌の比較を「八十年代最大の衝撃」「言葉の戦後性」「言葉の金利」で解説していて読みごたえがある

    惑星別重力一覧眺めつつ「このごろあなたのゆめばかりみる」(穂村弘)

    防腐剤無添加ですが腐ってもいます冷蔵庫って風が冷たい(兵庫ユカ)

    もともと青春の文学と云われる短歌は、早熟の優れた才能が生まれやすいジャンルらしい メディアとの相性の良さを指摘している
    古本屋愛が半端ない。「いいところ」センサーが一致した時の興奮度、共感しちゃう。
    大島弓子さん、高野文子さん好きが溢れている。
    穂村さんの寮に入りたい。

    立ち読みのアリスの版数確かめていたら真夏が笑って死んだ(穂村弘)

    • 5552さん
      ベルガモットさん、111108さん

      ベルガモットさん、ラジオ聴かれたんですね。
      アナログのラジオって予約録音できるものもあるんですね...
      ベルガモットさん、111108さん

      ベルガモットさん、ラジオ聴かれたんですね。
      アナログのラジオって予約録音できるものもあるんですね〜
      私は111108さんが書かれていた『らじるらじる』のサイト?で聴きました。
      朝4時15分くらいにハッと目が覚めて、そのまま生で。
      生放送が苦手なので、最初は緊張してたけれど、徐々に慣れ、心地好い、落ち着く空間に漂うようにリラックスして楽しめました。
      『短歌のガチャポン』の掲載歌を紹介されていましたね。
      やっぱり、短歌って面白い、と、思いました。

      私も今日ダヴィンチ買ってきました。
      今回も掲載ならずでした。残念―――!
      皆さんの発想、新鮮ですよね。
      チョコレートの歌は5、6首できました。いまいち納得できない歌が。
      チョコ食べながら詠むのもいいですね。
      ちょうど、アルフォート買ってあるので、明日食べつつまた考えたいです☆
      あ、アルフォート五文字だ〜



      2023/02/06
    • 111108さん
      ベルガモットさん、5552さん

      お二人とももうラジオ聴いたんですね。
      ベルガモットさん、アナログラジオの録音機能いいですね!
      5552さん...
      ベルガモットさん、5552さん

      お二人とももうラジオ聴いたんですね。
      ベルガモットさん、アナログラジオの録音機能いいですね!
      5552さんなんて早起き!素晴らしいです。
      私は昨日夕飯後聴き始めたら寝落ちしそうになったので、今晩再挑戦します。穂村さんのお口をあまり開けないような喋り方、とても眠りを誘うんです。

      ダ・ヴィンチは本当に狭き門なんですね。チョコレートのお題、簡単そうで難しい気がしますね。
      2023/02/07
    • ☆ベルガモット☆さん
      5552さん、111108さん
      ラジオ録音は雑音が多くてマックス音量でも時折聞き取れないです…
      まだちょっとだけですが、7歳の方の作品紹...
      5552さん、111108さん
      ラジオ録音は雑音が多くてマックス音量でも時折聞き取れないです…
      まだちょっとだけですが、7歳の方の作品紹介で「お布団でママとしりとりしていたら夜が入ってきて眠くなる」という作品で幸せな気持ちになれました♪
      5552さん、チョコの作品もうそんなにできたんですね、すごい!アルフォート私も好きです、買ってこようっと!歌がおりてくるかも♪
      111108さん、「穂村さんのお口をあまり開けないような喋り方」わかります!眠りを誘います~お昼休みにこっそり聞いていたらうとうとしちゃいました☆
      2023/02/07
  • 穂村さんのエッセイがとても好きです。やはり歌人は言葉の使い方が上手いし、なんなら楽々操っている気がする。特に初期のエッセイがいい。社会不適合者みたいな自分を晒しながら、結構上手く人生を泳ぎきっている気配を感じる。これは褒め言葉です。

  • 歌人穂村弘が今から20年くらい前に書いたエッセイ。1章は恥ずかしさや情けなさ、恋愛観や悲壮感、妄想、よく考えるとホラーを感じる瞬間など微妙な感情の機微を深掘りし、2章はカフェやパスタの呼び名の変化、短歌で見るバブル崩壊や金利変動が世間にもたらす空気感の変化、ダイヤル電話からケータイ電話、同棲や婚前交渉に対する価値観の変化、名前の変化などからノスタルジーを味わい、3章は読書や本、古本屋、文体に関するエピソードを語る。20年前くらいのエッセイの中で20年くらい前を語ったりするのをいま読むと、トータルで40年くらいの時代の変化を味わえるので、この本はもはや近代日本の歴史の参考書的な読み方も出来る。全体を通して感じたことは、個人の感性はあまり変わらないけど、世間の価値観は思ったよりも早いスピードで変化しているということ。いったい価値観っていつどんな風に変化してるんだろうと思う。誰かグラフかなんかで価値観の変化を可視化してくれないだろうか?もしそんなものが作れるのならば、政治家や芸能人もスキャンダルを避ける事が出来るのかも知れない。歌人ならではのデリケートな感受性や思考の深掘りの仕方はとても勉強になるし真似してみたくなる。読んで良かった。

  • 穂村弘さんの文章に共感できる側の人間はみな友だち。
    noteで穂村さんの文章の素敵さについてエッセイを書くくらい穂村弘さんが好きです。「マイナス星人だからこそ生み出せるものがある」という文章が私の仕事、生活、人生を支えています。
    作中に出てくるガールフレンドたちと穂村さんのやりとりが私の永遠の理想。自分の中の「これ」ってものに自分と同じ熱量で惹かれている相手とのくらし。想像しただけでクラクラする〜。あこがれ。

  • 共感出来る所も出来ない所も、筆者の飾らない文章が何か優しさを感じる。

  • 分かる!分かるよ穂村くん!と、勝手に心の友達になって肩を組みたくなる。
    特に、次の日の仕事が辛いあまりお休みの前から憂鬱な気分になってしまうところとか、リアクションが上手くできるか心配でボーリングでストライク出したくないところとか!
    非常に分かりみが深いエッセイ集です。

    素朴な疑問なんだけど、このエッセイは誰の心にもこんなに響くんだろうか。
    もしかして、私が陰キャの塊みたいなヤツだから震えるほど共感してしまうのか。

    例えば陽キャの塊みたいなヤツが読んだら、「きも…」で終わるのかな。
    そうだったら少し寂しい。

  • なんか、分かるわ

    ほむらさんの好きそうなもの
    なんか、分かるわ

  • 世界の真ん中を歩いていけない、
    不器用なのか変人なのか、そんなマイノリティの悲哀。

    年も性別も何もかも違うのに、ヒリヒリする部分がとてもよくわかる。
    面白くて仕方ないんだけど、ちょっと悲しみが残るような。


    それにしても毎度のことながら、
    過去の恋愛の話は奥様や当時の恋人が読んだらかなりイラっ賭するんじゃないかと思う。

    でもこれが男のリアルな意見だよね、と納得してしまう私も哀れだ。

  • 天才。爆裂。だてめがね。
    エッセイ集。

    曇天の午後四時とか、いきなりでもう泣きそうだよ!

    よぼよぼというかだめだめというかほむほむなんだけれども、使われている言葉はさすが歌人。
    なんかねえ、いきなりさしこんで来よるな。
    バブル世代ではないので、きらきらとか松任谷由美とか村上春樹とか、ふーんと思う部分はなんだか不思議。


    現実がいちばんおそろしい。

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著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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