津軽百年食堂 (小学館文庫 も 19-2)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094085822

作品紹介・あらすじ

百年の刻を超える「こころ」の物語

ふるさと「弘前」を離れ、孤独な都会の底に沈みように暮らしていた陽一と七海。ふたりは運命に導かれるように出逢い、惹かれ合うが、やがて故郷の空へとそれぞれの切なる思いを募らせていく。一方、明治時代の津軽でひっそりと育まれた賢治とトヨの清らかな愛は、いつしか遠い未来に向けた無垢なる「憶い」へと昇華されていき……。桜の花びら舞う津軽の地で、百年の刻を超え、営々と受け継がれていく<心>が咲かせた、美しい奇跡と感動の人間物語。

【編集担当からのおすすめ情報】
2011年4月2日公開の同名映画になるほか、舞台化も進行中。著者の青森小説の続編「青森ドロップキッカーズ」は、ある種、「津軽百年食堂」の続編にもなっているので、2冊併せて読むとより楽しめます。著者は、現在、青森3部作目を執筆中。

感想・レビュー・書評

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  • 2024.2.13 読了 ☆8.6/10.0



    時代が変わっても変わらないものがある。
    それは、親が子を想う気持ちです。

    故郷を離れてがむしゃらに頑張る我が子への心配や愛情、それが本書ではとても温かく描かれています。


    この物語は、青森の弘前市に三代続き、百周年を迎える津軽蕎麦のお店「大森食堂」を舞台にした、明治時代と現代が交錯するお話です。

    初代の大森賢治とそのお嫁さんのトヨ、二代目の哲夫と妻の明子、そして主人公は三代目店主になる息子の陽一と大学時代の知り合いで恋人の筒井七海です。

    陽一は、本当は大森食堂を継ごうと思っていたのに父の反対があり、一度は修行のため中華料理店に就きましたが、そこの店長に父親のことを馬鹿にされたことに我慢できず歯向かってしまい、それによりクビになってしまうのです。

    陽一は父に対しとても申し訳なくなり、父に合わせる顔が無くなってしまいます。食い繋ぐために姉に縋って頼り、姉の紹介で都内の制作会社に勤めますがそこも辞めてフリーターになってしまい、趣味で得意だったバルーンアートを教えるピエロの仕事に就きます。

    そんな時陽一が同じ弘前の高校の三つ後輩で、フォトグラファーを目指す七海と出逢い、同郷の二人は当たり前のように惹かれ合います。

    東京でフォトグラファーとして独り立ちしたい七海と実家の大森食堂を継ぎたい陽一。
    二人の未来は果たしてどうなるのかというのがすごく読んでいてむず痒いのです。

    二人の恋の行方は…応援せずにはいられないめちゃくちゃ爽やかな恋物語なのです。
    そして、それに並ぶ家族愛と師弟愛も素敵です。


    また、特に惹かれたのは陽一と七海の恋愛における壁となる実家の家業の問題。


    お互い実家の家業があり、いつかは継がなきゃいけない、実家に帰らなきゃいけない
    そんな境遇にあるカップルの恋愛の難しさやもどかしさを綺麗に描いてると感じました。


    いつかは離れるし、遠距離になる覚悟も必要
    自分たちの都合だけで決められない、人生の幾つもの分かれ道を前にして、お互いの夢ややりたいこと、実現したいこととやらなければならないこと、いつか向き合わなくてはいけない問題に対してどう折り合いをつけていくのか。


    そんな、二つのことに挟まれて身動きが取れなくなりそうな、息が詰まりそうな状況に自分もいつかなるのだろうか


    そう考えながら読んでいくと、二人の恋愛やその周りの人たちの温かさにすごく心動かされるのです。


    登場する人全てが“粋な”物語。最高でした!

  • 百年も続く食堂が青森にはいくつもあるんだ…絶対に行ってみたい、そして津軽そばを食べたい!!読後にまず、そう思わずにはいられませんでした。
    そんな美味しさと人の温かさがいっぱい詰まった作品です。
    物語は主人公の陽一とヒロイン七海を軸に進んでいきます。夢に向かって進み、迷い立ち止まりながら、自分の道を探していきます。かつての自分もそうであったように二人に共感してしまうのです。
    また、曾祖父から続く百年食堂の物語も徐々に明らかになっていきます。それが、陽一と七海の周囲の人間模様にぐっと深みを与えています。
    青森って実はあまり知らなくて、行ったこともなくて、本書を読んでとっても行きたくなりました。春の弘前城跡の桜、とても素敵な描写でした。随所に出る食べ物の数々も。
    読後感の爽やかさ、温かさはさすが森沢明夫さんでした。

  • 青森の弘前市に三代続き、百周年を迎える、津軽蕎麦のお店の四代目を巡るお話です。
    百年前の初代の賢治が蕎麦屋を開こうとして、お嫁さんのトヨを迎える感動的場面もありますが、主人公は三代目店主の息子の陽一です。

    陽一は本当は店を継ごうと思っていたのに、父の反対があり、東京の制作会社を辞めてフリーターになってしまい、バルーンアートを教えるピエロの仕事をしています。

    そんな時陽一が同じ弘前の高校の三つ後輩だったフォトグラファーを目指す七海と出逢い、同郷の二人は当たり前のように惹かれ合います。

    東京でフォトグラファーとして独り立ちしたい七海と実家の大森食堂を継ぎたい陽一。
    二人の未来は果たしてどうなるのかというお話です。

    私も青森には住んでいたことがあり、懐かしく読みました。東京で同郷の人と出会ったら盛り上がってしまうのはよくわかります。
    大森食堂は津軽蕎麦の店ですが、青森はお鮨が美味しかったのはよく覚えていますが、お蕎麦は知りませんでした。食べ損ねてしまいましたね(笑)。

    結びの文章が「だってそれが女将の粋ってものだから」という陽一の母の明子の言葉で終わっていますが、全体を通してポンポンと出てくる女性たちの軽口がちょっと控えめな男性陣より粋に思える物語でした。
    そしてとても温かいものがこみあげてくる物語でした。

  •  森沢作品は、悪人が登場せず、先も見通しやすいので「安定・安心の〜」などと云われますね。本作も同様、人物描写が優しく、温かい気持ちになりました。

     百年受け継がれた大衆食堂の人・味・歴史を描く人間ドラマです。明治時代の黎明期パートを挟みながら、平成の現代パートで故郷を離れ都会で暮らす若い2人の恋愛物語が展開します。
     弘前を中心とした津軽地方の気候風土、伝統文化、言葉などをふんだんに散りばめ、食の味だけでなく物語の上でもよい味を出しています。

     そもそも「百年食堂」には、「三代四代と受け継がれ、町民に慣れ親しまれたメニューがあり、生活に溶け込み愛されている」などと、種々定義があるようです。
     青森県では、「三代、約100年続く大衆食堂」とし、百年食堂を観光の目玉の一つとすることで本作が生まれたそう。"青森三部作"その1です。

     15年前の刊行ですが、おそらくこの間に(コロナ禍は特に)多くの飲食店が廃業の憂き目にあったはず‥。受け継がれ愛され続ける"味"の価値、そして不易と流行を再認識させられます。
     本作は、過疎・シャッター街などの負のイメージを払拭するだけでなく、未来に向けた明るい話題を提供し、地域活性化につなげる一作になり得ると思いました。
     巻末に著者が取材で訪れた「津軽百年食堂」10軒が紹介されています。粋ですね。

  • 久し振りに中断することなく、一気に読んでしまった。登場人物が温かく、やはり幸せな物語は良いものだ。中華料理屋さんの料理長の心無い言葉も、自分でも気付かなかった心の奥にある大切な物を思い出させてくれたのだから(ありがとう)だったのかもしれない。
    余談だが、東京人の客が津軽蕎麦にクレームを入れた一件。もしかしたら伊勢うどんと、似通った感想だったのでは…。食文化は奥が深い。そして次の代にバトンタッチしていくことの困難さも感じる。

  • いいお話でした。
    相変わらずぐいぐい引き込まれます。

    「虹の岬の喫茶店」
    「津軽百年食堂」

    共通点として、アイテム(芸術品)が出てきます。
    陶芸作品(カップ)、絵画、津軽塗の引き出し(貝細工あり)、こぎん刺。

    実にいい味を出しています。粋です。
    japanと小文字で始めれば、これは漆塗り。
    日本の伝統工芸ですな~

    私は職人になりたかった。
    こんなに日本が疲弊し、苦しい30年を送ることになるとは思わなかった。
    そこで伝統工芸がきらり、と光るのです。
    (どうして銀行員をやめてフォトグラファーになったのか。人のためになっているかどうかは、金額で判断できるものではない、というようなことが書いてありました。たしか。共感します~。いくらお金もらっても、人を苦しめるのはどうかと、そう思ったということでした)

    出会いがあり、別れがあり、そんな出会いを後押しする友人たち。ひとつの決断、勇気が未来をつないでいます。勇気を出してよかったです。

    ↑支離滅裂なこと書いてるとおもうでしょ?
    両方読んでみてください~。

  • 青森県が定める「百年食堂」の定義は「3世代、70年以上続く大衆食堂」とのこと。そもそも「百年食堂」という用語があること自体、私は本書で初めて知ったが、著者の森沢さんは10軒の青森にある「百年食堂」を取材した上で本書を執筆された由。10軒あれば、10軒分の「後継者」に纏わるドラマがあるのだろうと推察する…さらにそれが少なくとも3世代となると最低でも20回の「代替わり」のストーリーがあるということ。そんな取材を経た上での小説となると重みを感じる。小説の舞台は弘前にある3世代続く津軽蕎麦屋さん。その蕎麦屋を継ぐとしたら4代目に当たる20代男性・陽一が主人公。蕎麦屋の後を継ぐことへの思いを抱えながら弘前から東京へ出た陽一。森沢さんの書く小説はどうしてこんなに温かいのだろう。特に陽一の父と陽一の遣り取りから分かる息子を思い遣る父の姿にぐっと来る。周りへの感謝の気持ちを改めて持つ大切さを実感しながら、優しい気持ちにさせられた。

  • 応援せずにはいられないめちゃくちゃ爽やかな恋物語。そして、それに並ぶ家族愛と師弟愛の物語。
    登場する人全てが“粋な”物語。最高でした。

  • 森沢明夫さんの作品はどれを読んでもただただ楽しかったです。
    弘前の食堂を舞台にした四世代の物語です。
    二代目がちょっと問題のある人のようでしたが、それは何故なのかももう少しお話が書かれていたらもっと面白かったのではと個人的には思いました。
    こんなに引き込まれるように読み終えてしまうのは、目の前で登場人物を見ているような気持になるからでしょうか。
    やっぱり森沢明夫さんの作品は好きです。

  • ☆4.5

    「青森三部作」の一作目。

    三代にわたり、名物食堂の暖簾を守り続ける家族がつむぐ奇跡の物語。
    とても心温まる素敵な作品でした❁⃘*.゚
    いつか実際に「さくらまつり」に行ってみたいです。

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著者プロフィール

1969年千葉県生まれ、早稲田大学卒業。2007年『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。『虹の岬の喫茶店』『夏美のホタル』『癒し屋キリコの約束』『きらきら眼鏡』『大事なことほど小声でささやく』等、映像化された作品多数。他の著書に『ヒカルの卵』『エミリの小さな包丁』『おいしくて泣くとき』『ぷくぷく』『本が紡いだ五つの奇跡』等がある。

「2023年 『ロールキャベツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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