羆撃ち (小学館文庫 く 8-1)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094086911

作品紹介・あらすじ

北海道の大地で一人羆を追う孤高のハンターと比類無き才能を持つ猟犬フチとの迫力と感動に満ちたノンフィクション。大学を卒業後、就職せずに狩猟のみで生きていくことを決意した著者。猟銃と僅かな装備だけを手に山を駆け巡る生活の中で体感した自然の驚異と現実を瑞々しい感性で描く。

感想・レビュー・書評

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  • 最高に感動した。

  • 一万円選書で選んでもらった作品の中のひとつ。ノンフィクションで自伝的作品。北海道で狩猟を仕事として生活を営む猟師の人生。簡潔な文章にも関わらず、一つひとつの描写が目に浮かぶようだ。ハンターとしての自身の成長、優秀な猟犬フチとの出会い、狩猟に生きる人間の真髄を楽しむことができた。動物嫌いなんだけど、犬の飼い方をネット検索してしまうくらい、作者と猟犬の友情にはあこがれを持った。しかし、やっぱり動物は苦手だった。

  • 自然と共に生きるドキュメンタリー。ライフルで熊を撃ち殺すことを残酷だとも思うが、そのような感想を抱く事自体が自然の中で生きるとはどのようなことか理解していないということなのだろう。都市圏の中で人生が完結する私達には非現実的な生活だが、ハンターのリアルが描かれている。

  • 今話題のクマ問題。人間と熊はどう共存していくべきなのか。
    正直勝手ながらハンターという人種に対しては血も涙もない、只々殺戮を好む人たちというイメージを持っていたのですが、主人公の獲物に対する敬意や猟犬フチとの絆は見事なもので、命を自然を誰よりも大事にする人なんだなと思いました(例外もあるかもですが)。
    共存に対する明確な解がこの本にある訳ではないですが、五感で大自然を感じ、山と一体化するかの様な気分を味あわせてくれるような素敵な小説で、一人一人が自然との共存を考える材料としてこれ以上ない作品だと思います。

  • 凍るように冷たい川の飛沫がすぐ横に跳ね上がり、睫毛を凍らさんばかりの冷気の中に放り出されたような感覚になる。 生を維持するために餌を求める野生動物とその生命を奪う者との凌ぎ合いに息が詰まる。 特に羆を追跡しライフルを構えて対峙している時の描写には息を飲む。 作者の自然と山の生き物の生命の畏敬の念が強く感じられる作品だった。 都会の喧騒に疲れた時に再読したい。

  • 北海道の凍てつく自然。その中で猟に生きる人の話。

    猟にかけて生きていくということ。経済では測れない価値を彼は有していたのだと思う。心底憧れる。

  • 面白かった。ドンドン引き込まれて読むのが楽しかった。ただ、熊や鹿を撃ちとる描写は少し抵抗があった。でもそう言う場面に出くわさずに、スーパーで売っている食肉を食べる我々よりよっぽど命の尊さを分かっているのだと思う。自然に畏敬の念を持って接し、自然に溶け込んでいる。本来人間もこうして生きてきたんだろうに、すっかり分業に慣れてしまっている。読み進めるとアメリカから帰ってきたら自然が開発している場面に出くわす。こうするとそこに生活していた生物が根こそぎやられる。こちらの方がより残酷なんだろうなと思う。でもそうして便利になってきたんだし、それの恩恵を被って生きている。そう言う犠牲の元で生きていると言う意識を片隅に持たないといけないんだろう。フチとの絆も良かった。アメリカ修行も良かった。生活の匂いがしないなと思ったらあとがきを読んで理解した。

  • 普段は都会に住み、気候のいい時期にだけ登山を楽しむ自分には知り得ない世界。この本を読んで知らなかった価値観に出会えた。やはりノンフィクションは良い!

  • 冬の旭川に仕事で行った日、ホテルで通読した書。
    これを読んでから、羆に対しとても興味が湧き、次々と羆やマタギに関する本を読むようになった。
    この本は、わかりやすく涙を誘うのだけど、自分と犬一匹だけで羆に立ち向かう情景が素晴らしい。

  • よほど優秀な編集がついていたのかな、と勘繰るぐらいの構成力と文章力で、出だしの一章、初めて羆の母仔を仕留めた場面を回想する克明かつ凄惨な描写にいきなり引き込まれる。
    それにしても、この微に入り細を穿つ書き込みはなんだ、まるで今起きたばかりのことを説明しているかのようじゃないか。
    洗練されたプロの書き手によるものとはまた違う、当事者しか語り得ないダイレクトでシヴィアな現実が、鮮やかな筆致で全編に渡り描かれている。

    山を主な生活のステージとし、狩猟や野営などの実態を市井に伝えんとする人たちの著作を目にする機会はこれまでも少なからずあったが、中でもこの久保俊治氏の生き様、そして彼を包む世界観はまるで別格であるように思う。
    既に物心ついた時から猟や銃といった存在が身近にあったという環境もあろうが、山に生き暮らすという、我々にとってはとてつもなくハードルの高いサヴァイヴァルスキルが、まったく何でもないこととして、実にさらりと綴られている。
    極寒の北海道の山中にベースキャンプを設営し、そこからさらに奥深くへとビヴァークを繰り返しながら獣を追って何日も道なき道を歩き通す…、それが著者にとってはただの日常に過ぎない、という事実に思い至り驚愕するまでに少しタイムラグがあるのだ、それがさも当たり前のように書かれているので。
    獲物に気取られにくくする具体的な技術、手負いの鹿を最後まで幾日も追い続ける執念、羆を視界に入れながら状況の好転をじっと待つ数時間、藪の中で五感を駆使して姿の見えない羆に立ち向かう恐怖、捕らえた獣を掻っ捌きあるいは食用に適する植物を採集して得る日々の糧、行き当たりばったりではなく根拠を基にした推論を積み重ねて獲物の居所を探り当てる知性…もちろん一つ一つ心に残るトピックスを挙げていけばきりがなくて、例えば山中でコンタクトレンズ1枚失っただけですぐに野垂れ死んでしまうであろう、動物として圧倒的に劣った存在である私にとってみれば、すべてが超人的な所業である。
    縦横無尽に人跡未踏の山を広範囲で移動しながら、遭難しないという単純な事実一つとっても、驚異だ。
    1970年代に単身、アメリカに武者修行に赴いた行動力と対応力にも感服。

    本書の後半は、久保氏と愛犬・フチの物語である。
    フチと出会い、年月と経験を積み重ねて互いに成長していく様が、ありありと脳裏に浮かぶ。
    死期が迫ったフチに向かってライフルを構える場面では、当時の著者の心情と同期してともに涙に濡れた。
    別れは避けられないものだが、このような相棒と今生で巡り合うことができた久保氏は幸せだな、と思う。

    山奥深くで命を懸けて獣と対峙した経験がない私は、決して著者の感覚すべてに無条件で寄り添うことはできないが、殺して喰って生きるという動物の原点が余すところなく表現された本作は、紛れもなく大自然の賛歌である。

    「自然は人間が考えるよりはるかに深遠です。」

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