終りに見た街

  • 小学館 (2013年6月6日発売)
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本 ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784094088328

作品紹介・あらすじ

戦時下にタイムスリップしてしまった家族

東京近郊に住む平凡な家族は、ある朝、戦時中(昭和19年)の日本にタイムスリップしていた――信じられないようなSF的設定で始まる問題作。家族が投げ込まれた世界は、戦時下の「食糧不足」「言論統制」「強制疎開」「大空襲」の時代だった。憎むべき〈戦争〉の時代に、〈飽食した〉現代人はどう立ち向かうのか。太平洋戦争末期、敗戦へと向かう日本を鮮烈に描きながら、驚くべき結末が待ちうける戦慄の寓話。
解説、奥田英朗

感想・レビュー・書評

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  • 近い将来こうなるかもしれないという、過去を繰り返さないよう戦争の恐ろしさと普遍性を伝えて警鐘を鳴らしてくれる作品。こわい。SFって壮大すぎると少し苦手なんだけど、これは突飛もなくて非現実的なのにかなり現実味を帯びていてすっと話が入ってきた。感受性の扉を急いで閉めて逃げ続けなければ発狂してしまうような惨たらしいリアル。
    世代を隔てる見えない溝が、あり得ない有事に晒されることによって浮き彫りになる。国に従い周りに合わせて鼓舞することによって、置かれた状況に抗わず溶け込みたいという願望。過去を変えようと非国民のように行動することで、責務を放棄して放蕩しているかのような肩身の狭い思いをする。
    突如天地がひっくり返り、時代、世代がないまぜになり全てが引き込まれて近未来の風景が重く低くのしかかってくる。
    途中引用された荷風の日記"およそ、このたびの開戦以来、民衆の心情ほど解しがたきはなし。多年生活せし職業をうばはれ、徴集せらるるもさして悲しまず、空襲近しといはれても、また、さらに驚き騒はがず"という記述の様子が過去現在未来においてありありと想像できる。

  • 読んで良かった。他に戦争の小説をそんなに読んだわけではないが、なんだろう、地味なのにこれは凄い。

    出征や特攻や原爆などの詳細な記述があるわけでも、涙を誘うような場面があるわけでもない。
    それなのに、戦争の本当の怖さがヒシヒシと伝わってくる。

    現代から突如昭和19年にタイムスリップしてしまう話。
    と言っても、この本が書かれた元々の年は昭和56年である。
    つまり、現代=昭和56年に47歳である主人公は昭和9年生まれなので、タイムスリップした先の戦時中の状況にも何とか対応できる。
    それは著者の山田太一氏の年齢である。

    著者のあとがきも、奥田英朗氏の解説もとても重要に思う。
    著者は私の親世代。そして奥田英朗氏はおおよそ私世代。奥田氏のように私も親から戦争の体験談を聞かされた世代だ。
    しかし親の話ではわからなかった《当時の日本の「空気」》(←奥田氏の解説による)をここまでよくわかるように伝えてくれた本書は本当に意義深い。

  • 実際に戦時を生きた作者だからこその描写がリアルで生々しかった。(個人的には銭湯のくだりが1番生々しく感じた。)

    ラストの解釈に少し戸惑ったけど、伝えたいことは読み取れた気がしたので満足…!

    あとがきにて山田さんが「アメリカが原爆を使用するまでに道徳的葛藤があった。使用したことには全く擁護は出来ないけれど、日本ももし原爆持ってたら絶対使ってたと思います。」と記載されていたのは色々考えさせられる…
    反対というわけではなく、自分も同じ意見ではありつつ、アメリカの原爆使用について非難されるべきは「絶対に勝てる状況で使用した」という点で、これについてはどう考えてもおかしい。
    同じ状況であれば日本は使ってなかったのでは…と思いたい…

  • 目覚めたらカーテンの外は戦時中だった…
    戦争を知っている主人公は、自分の家を燃やし、空襲を受けない街を選び、妻子とリヤカーで逃げる。
    戦後生まれの子どもは、思いがけず簡単に軍国主義に染まってしまう。
    昭和56年から昭和19年にタイムスリップしていたはずが、実は…
    なんとも恐ろしいストーリー。
    知らない作品だったが、ブクログのランキングで見かけたことがきっかけで読んだ。
    平和教育は、こういう本を読むのもいいのではないかと感じた。

  • もしも、今タイムスリップしたら?
    今の記憶を持って過去に戻ったら、自分ならどうするだろうか?
    誰しもが一度ならずとも思ったこと、想像したことあるだろう、もしもの話

    この先の未来を知っていて、それでも自分は自分でいられるのか?
    そして、これは本当に過去なのか?
    それともーーー

    SFと恐怖が見事に重なっている
    ラストまで見逃せない

    本閉じた後、自分ならどうするだろう?どうなるだろう?
    と、考えたくなる余韻をくれる一冊です

  • 戦時中にタイムスリップした家族。
    ラストは現代に戻るのかと思いきや、、
    実はタイムスリップでもないような、
    知った顔や、知り合いがいっぱい出てきたらもっと違う物語だったかな。

    親も戦後生まれという時代に生まれ、
    戦争は昔の話
    な、自分たちにも比較的読みやすい。
    本自体は作り話だけど、
    戦争は本当にあったこと。怖い本。

  • ネタバレ注意

    今まで読んだ戦争モノは過去の戦争の恐怖を伝えるものだった。この本もそうだと思って読んでいたらまさかの衝撃のラスト。
    9条の改憲などが議論されている今の日本に必要な本だと思った。
    特に改憲賛成派の人には必ず読んで欲しい。自分たちがやろうとしていることがどういう結末を導くのか、よく分かると思う。

  • ある家族が昭和19年の太平洋戦争終結の一年前にタイムスリップし、その中で自分たちができることはないか葛藤し、東京大空襲の犠牲者を1人でも救おうと決意し行動するが…歴史は少し変わっていた…そんな物語だ。
    ちょっと最後はなんとも言えない無常感、そして未来への警鐘のような…名作ドラマだった。

  • ラストがとても、、怖かったが
    どんな教科書よりもこの小説を読む方が
    戦争のことを知れると思う。

    現代設定は1981年だが、果たして2025年だったらどうか
    突然1944年にタイムスリップしたらば
    きっと登場人物のように気が狂うと思う。

    この小説を読んでいる今も戦争をしている国がある。
    どうにかならんのか、と思うと同時に
    様々な国や性格や人種、貧富差、環境差がある人間たちが
    争いをするということは 人間という生物の性質なのだなとも思う。

    たとえ歴史として学んだとしても体験していない限りは
    戦争反対と口に出したとしても全く現実感のないことである。
    日本でも戦時中を生きていた人が減っている今
    いつ戦争が起こっても 巻き込まれても おかしくはない。
    果たして、私たちに何ができるか。

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著者プロフィール

1934年、東京生まれ。大学卒業後、松竹入社、助監督を務める。独立後、数々のTVドラマ脚本を執筆。作品に「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」他。88年、小説『異人たちとの夏』で山本周五郎賞を受賞。

「2019年 『絶望書店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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