サマータイム・アイスバーグ (ガガガ文庫 ガし 6-1)

  • 小学館
3.67
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094530803

作品紹介・あらすじ

その恋心だけは、あの夏で凍ったままーー 真夏に突如現れた巨大な氷山が騒動になる中、三浦半島にある高校に通う進たちは、鬱屈とした夏休みを送っていた。かつては仲の良いグループだった進と羽と一輝だが、一年前のある事故が原因で、今はぎこちない関係が続いている。幼馴染を一時的に失い、無力感に苛まれる進。外見は美人で男子からも人気があるが、弱く、ずるく、そしてそれを人のせいにしてしまう自分が好きになれない羽。秀才で文武両道の優等生だが、自身ではどうすることもできない悩みを抱える一輝。ある夜、氷山の現れた海岸で進は一人の少女と出会う。身元の分からない謎の少女は、一年前の事故以来、昏睡から醒めない進の幼馴染とそっくりで……。少女の正体が分からないまま、「楽しい夏を過ごしたい」という少女の希望を叶えるため、進たちは奔走することに。しかし、氷山出現の秘密が明らかになるにつれ、進たちの手には負えない大きな力が少女に迫る。少女を元いたところに帰すためーー。それぞれの淡い恋心や悩みを抱えたまま、進たちは氷山を目指す。第16回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞。煌めく夏の青春の輝きを閉じこめた、宝石のような物語! 【編集担当からのおすすめ情報】 ガガガ文庫のライトノベル大賞受賞作と言えば夏、そして青春!!というくらい名作が多い、夏をテーマにした青春物語。爽やかなイラストと普遍的な青春のテーマを扱った本作は、是非映像化してほしい清涼感の漂う作品となっています!

感想・レビュー・書評

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  • 真夏の三浦半島沖に現れた巨大な氷山が連れてきたのは、運命を変える一度きりの夏だった。一年前の事故で友人・天音が昏睡になって以来、高校生の進(すすむ)、羽、一輝(かずき)はぎこちない関係を続けていた。そんな彼らの前に天音そっくりの少女が現れて──。

    夏と氷山という取り合わせがまず魅力的!ロマンを感じるし、謎への期待も膨らむ。それを背景にしつつ、凍っていた青春を走らせて溶かしていく群像劇となっている。高校生三人だけじゃなく、関わる大人たちも不器用でもどかしすぎる!氷山も人間も見えない部分にこそ大きな問題を秘めているのだ。

    氷山が出現したという奇妙な事態は国を揺るがす非常事態に。青春物語だけで終わらず、科学的な解説や国としての対処なども丁寧に描かれているのが面白い。様々な立場の人物がこの夏をどう生きるのか。視点がぬるっと入れ替わる文章はかなり戸惑った。ただ、主人公は特定の誰かではないってことを意図していたのかな?それと「夢の残滓が頭蓋の底に」「脳幹を楊枝で突き刺されたような衝撃」とかじゃなく、もっと平易な文章の方がいいのでは?とも感じた。

    あえて一人上げるなら、羽が主人公か。羽が天音へ抱く劣等感や、素直になれない恋心、進との同族嫌悪などが終盤までがちゃがちゃしていて読み疲れた。ツンデレならともかくツンギレというか、人に当たってばかりいるのがしんどかった。でも、母の代わりにやさしくしてくれる祖母への感謝と大人になれない自分への葛藤は、ぼくも共感できる部分があってそこはよかった。

    「お腹空いたら、冷蔵庫にスパゲッティ作ってあるから」
    羽にそっと耳打ちして、祖母はくしゃくしゃと皺の寄った笑みを作る。「片手で作ったやつだから、変だったら、捨てちゃっていいからね」そう言って、また笑う。
    「今まで苦労かけてごめんね。おばあちゃん、もう羽ちゃんの邪魔しないからね」
    このあたりのやり取りは泣けてきた。祖母はきっと全部わかってて愛情を注いでくれていたんだよなあ。羽はだからこそその愛情を受け取ることが難しかったんだろうけどね。

    謎の少女・日暈(ひかさ)に振り回される夏休みはあくまで触媒で、それぞれの家族とのドラマが重かった。設定は出したけど何も解決してないよね?って問題がいくつかあって(進の両親、羽の母、一輝の弟との関係など)、そこをもうちょいキリがいいところまで書いて欲しかった感はある。モチーフが面白いだけに惜しい作品。

    p.181
    「つまりだ。結局のところ、正しい答えなんて誰にもわからないってことさ。わかるのは、自分がどうしたいかってことだけなんだよ」

    p.412
    未来が来る時、それはいつも痛みを伴っている。親に叱られた時、誰かの葬式に参列した時、人を疎ましく思った時、人に疎ましく思われた時、恋をした時、恋に敗れた時。それらは心に、胸に、頭に、自身を構成するすべてに、淡く、かけがえのない痛みを残して、ひとつの季節を終わらせていく。

  • 少し未来を舞台にしたSF。こういう本は久しぶりに読んだな、という感じ。ただ、なんというかアクチュアルな印象を受けた。ここ二年、三年で、失ったものは大きいなとふと思ってしまう。

    筆致、というか語りか視点か、やや独特だったので、一語一語をしっかり読んだ。振り返ればそんな読み口も味わいだったなと思う。
    終始不在の天音の存在感が凄まじい。

    後半のたたみかけるような展開がよかった。
    あと、あれだけ小難し(褒め言葉)くて登場人物も少なくないのに、登場人物や相関図がごっちゃにならなかったのはすごいと思った。

  • サマータイム・アイスバーグ(ガガガ文庫)
    著作者:新馬場新
    発行者:小学館
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    facecollabo home Booklog
    https://facecollabo.jimdofree.com/
    美人で男子から人気もあるが、自分の好きなれない羽。秀才で文武両道の優等生だが、ある悩みを抱える一輝。

  •  不意に現れた氷山。波打ち際で倒れる幼馴染によく似た少女。高校二年生の進に訪れる人生を左右する夏。二度と戻ってこない夏。
     とても難しくて、素晴らしい物語でした。色々な闇や、多種多様の悩みを抱えた少年少女たちが、懸命に抗う様が素敵でした。近未来の日本を舞台にしたSF×青春小説。オリジナリティ溢れるストリートラインは目を見張るものがあります。それぞれの人間関係を把握したり、謎を整理したりするのが大変で、一回読んだだけですとちょっと把握し辛い作品のように感じました。全体が分かってからもう一回読んでみると納得できたり、なるほどって頷けたりしそうな部分が多い気がしますね。

  • 1巻完結。
    2022年に出た小説。この時点からの近い未来(ほぼ13年後)の日本の三浦半島が舞台にしてる小説で、2022年までに日本で起こった事、コロナ感染症や震災のこととかが盛り込まれていて、リアリティーがあった。後半の城ヶ島公園安房崎灯台のエピソードも調べたら形が書いていることと一致していて、そこを妙に強調しているから、現実の2023年日本とこの話の日本が地続きなのか違う世界なのかモヤモヤする。
    そう、この話はモヤモヤする。読み終わって一応あの人はあれでとか明らかになるけど、羽と○○のシーンや一耀の○○への気持ちとかが、ワカラナイ。一回読んだだけではワカラナイ。読み終わって、詳しくネタバレ、考察したブログとか読みたいようなモヤモヤ感が残る作品でした。
    登場人物も皆、何らかの隠し事をしているし、文体もとてもユニークな比喩を使っていて、そこがまたモヤモヤ。特に安庭羽、デレ無いツンの見かけの内面ぐちゃぐちゃ美少女、プロローグとエピローグはこの娘の独白なのか。
    "誰が何のために"がこの作品の核だと思っ
    た。
    近所に氷山が突如現れるという大事件なのに、登場人物達が自身らの微妙な関係に関心が終始向いていてる前中半の盛り上がらない進みかたに難儀したけど、後半の進みは良かった。

  • 一人の少女を中心に巻き起こる、一度しかやってこない夏休みのお話。家庭だったり、恋愛関係だったり、多感な時期に湧き起こる感情っていうのは、すごく複雑で、素直になれない少年少女は自分自身ですらその正体を掴むことはできない。だから物事の原因を他に押し付けたり、勝手に自己完結させて諦める。ただ素直になれないのは大人も同じで、子供から見た大人っていうのは、本当はもっとちっぽけなもので、案外大したことないのかもしれない。でもいくら立ち止まって前を見なくても、時間だけは勝手に過ぎて行っちゃうし、そこに立ち尽くしてる人間を置いてけぼりにしてしまう。だからこそ最後に決めるのは結局自分自身で、一歩を踏み出すのは自分。そうやって苦しんで、悩んで、葛藤した末に踏み出す一歩っていうのは、物凄く価値があるものだなと、この小説を読んで思った。
    そんな安庭に、俺は一度でいいからお尻を蹴って欲しいと思った。

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著者プロフィール

1993年、神奈川県生まれ。明治大学法学部卒業。学生時代にバックパッカーとして世界各地を訪れ、帰国後はゲーム会社に就職。『月曜日が、死んだ。』にて第3回文芸社文庫NEO小説大賞の大賞を受賞し、作家デビュー。

「2021年 『【文芸社文庫NEO】 町泥棒のエゴイズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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