わたしはあなたの涙になりたい (ガガガ文庫 ガし 7-1)

  • 小学館
4.19
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094530810

作品紹介・あらすじ

これは、涙で始まり、涙で終わる物語。 全身が塩に変わって崩れていく奇病「塩化病」。その病で母親を亡くした少年・三枝八雲は、小学校の音楽室でひとりの少女と出会った。美しく天才的なピアノ奏者であるその少女の名は、五十嵐揺月。鍵盤に触れる繊細なその指でいじめっ子の鼻を掴みひねり上げ、母親の過剰な期待に応えるべく人知れず努力する。さまざまな揺月の姿を誰よりも近いところから見ていた八雲は、我知らず彼女に心惹かれていく。小学校を卒業し、ますます美しく魅力的に成長した揺月は、人々の崇拝と恋慕の対象となっていった。高校に進学する頃、すでにプロのピアニストとして活躍していた揺月はイタリアへと留学してしまう。世界を舞台にする揺月と、何者でもない自分との間にある圧倒的な差を痛感した八雲は、やがて小説を書き始める。揺月との再会はある日唐突に訪れた――その再会が、自分の運命を大きく変えるものになることをその時の彼は知る由もなかった。これは、涙で始まり、涙で終わる物語。第16回小学館ライトノベル大賞にて、最高賞である大賞を受賞。ゲスト審査員を務めたアニメ監督・磯光雄氏は、「審査なんかとんでもない。美しい物語をありがとう」と、本作へ最大級の賛辞を送った。

感想・レビュー・書評

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  • 全身が塩に変わって崩れていく“塩化病”。その病で母を亡くした少年・八雲は、天才ピアノ奏者の少女・揺月と出会う。二人は心を通わせていくも、揺月はイタリアへ留学してしまい、運命は鳴り始める──。

    何かがあるべき場所にない“空白”に痛みを感じる八雲。結月はその感性を誠実に受け止める。親への悲しみを背負った二人の関係は寄せては返していく。留学後に訪れた再会の時。涙で海を創り、その波で心を削る展開に言葉を失った。しかし、悲しいだけの物語ではない力強さに溢れている。

    東日本大震災と大戦で破壊されたワルシャワの復興。ポーランド出身のショパンが音楽へ込めた感情。それを背景にしながら、二人のドラマが綴られていく。揺月の伴奏に、八雲が詞をつける。消費される物語を嫌悪する二人が、揺月の身に起こる悲劇すら超えて辿り着いた景色は涙で滲んで見えなかった。

    本気で泣きながら読み終えた小説。感動という陳腐な言葉で消費されるほど、この物語はその役割を果たすという構成が巧み。泣かせるタイトル、泣かせる物語、だがそれでいい。タイトルに込められた意味を知った時、これは血と魂で書かれていることを知る。涙が枯れるほどの愛しさも、流す涙で心の傷を拭う温かさも伝わってきた。花束の中に、ハートに火をつける導火線を隠している──そんな物語。最後に、デレ揺月が尊すぎる!!!

    p.39
    「きみが幾らつんだって、花は無くなることはないんだよ。きみが思うより、世界があたえてくれる愛はずっと大きいし、花はずっと強いんだから。バケツを海の水で簡単にいっぱいにできるのと同じ。きみひとりの心くらい、満たしたってどうってことはないんだよ。満ち足りないのは、バケツに穴があいてしまっている人だけ」

    p.62
    恋愛が好きになったほうが負けるようにできているように、いじめは優しいほうが負けるようにできているのだ。

    p.106
    “軽さ”と“軽やかさ”の違いについて、僕は思った。それらは似ているようで、全く違う。

    p.115
    ──美しい物語は、僕を救ってくれるのだと思った。僕のなかの救われない何かを救ってくれるのだと思った。
    花が本物でなくとも良かったように、物語もノンフィクションでなくて良かった。
    ちゃんちゃらおかしい荒唐無稽な虚構で良かった。空中から美しい何かを彫り出すには、嘘という鑿(のみ)が必要なのだ。大事なのは、それが本気で作られていることだ。血と魂で書かれていることだ。荒削りでも本物がほしい。よくできた偽物なんていらない。器用に作られた商品のような小説が、僕は大嫌いだった。完璧でなくとも、情熱が伝わるようなものがいい。それは子供にとっての良い親の条件と似たようなものだ。

    p.126
    シューマンはショパンの作品を、『花々のあいだに大砲が隠されている』と表現したらしい。一見、華やかで優美な音楽の陰に、情熱や悲しみ、反骨精神が潜んでいるという意味であろう。
    僕らは可憐な花々に目を奪われるが、ショパンが本当に表現したかったのは大砲のほうなのではないかと僕は思う。大砲を大砲のまま差し出しても、人々はそれを受け取らない。だから花で覆い隠し、花束にして手渡したのだ。そこに人間らしいいじらしい美しさが生まれる。

    p.204
    繊細すぎるほど繊細なのが、僕だと思っていた。けれど揺月はあまりにも鮮やかに僕の鈍感さを浮き彫りにした。ワルシャワ旧市街の銃痕を見て涙した人間と、揺月の家族の微妙な問題に土足で踏み込もうとした人間が、同じ人間である──それは恐ろしく奇妙でありながら、至極自然なことなのだ。人間の想像力など、高が知れている。それはきっと、どんな偉大な人間でもそうなのだ。昨日誰かを慰めたのと同じ言葉で、今日誰かを傷つける。そんなことは世にありふれている。だから僕らは想像しなければならないのだろう。自分に想像力がないことを。誰にも完璧な想像力がないことを──

    p.232
    遠くの青空を見に行くことではなく、心のなかにいちばん美しい青空をひとつ仕舞ってあることが、本当の自由なのだろう。

  • 本屋さんでオススメされていたこの本
    福島に知人がいるということもあり読んでみました
    胸がぎゅっとなって涙がこみ上げるシーンがいくつもあり‥それでいて決して切ないだけでは終わらない素敵なお話でした
    なんとなくだけど、福島の事まだまだ忘れちゃいけないと感じました
    機会があれば舞台の地にいってみたいです

  • 【その涙が哀しみではなく、暖かな物に変わりますように】

    塩化病による運命に抗う少年達の物語。

    己の人生が運命に支配されるならどうすべきだろう?
    母の病による死によって心に欠落を抱えた八雲は、圧倒的にピアノの才能に秀でた揺月との出逢いにより、孤独だった心象風景が彩りを帯びていく。
    時が経ち、プロピアニストとして外国に留学した揺月と並び立てるように小説家として活動をし始める八雲。
    運命的な再会を果たした二人は、揺月の病によって蝕まれた時間を共有する。

    哀しみで溢した涙がいつしか暖かな涙に変わるように最期まで寄り添うのだ。

  • タイトルや表紙から受ける印象通り、泣ける系小説でした。
    中高生で本をあまり読んでいない人にはお勧めします。読みやすいし、いろんなことが起こるのですらすらと読めると思います。
    ただ、いろんなこと盛りすぎて「一人の周りでありえないこと起こりすぎだよー」って突っ込みたくなるから、普段たくさん読書している人には勧めません。

  • 今年の小学館ライトノベル大賞(5年ぶり)
    舞台は福島県郡山市
    幼なじみの少年と少女の人生を語る物語
    一本の映画をみたような深い読了感と脱力感。ページの中にこれ以上ない生命力を感じる作品はいまだかつて読んだことはない、傑作。
    タイトル回収の時、本当にがち泣きした。
    審査員はこう言った。
    『一つだけ不満があった。タイトルがダサい。なんかどこかで聞いたようなタイトルで、ストイックな作風の作者が、この作品の主人公のようになにか読者に媚びた妥協をしたのだろうと思っていた。思っていたのに、ラストまで読んでその意味がわかって泣いた。最後まで読むとこのタイトルしか無かった。』
    しばらく読みなおす事はないだろう。決して分厚い本ではないのだがそのくらい疲れた。また数年後に会おう。映画館で
    これは涙で始まり、涙で終わる物語。

  • ぱっと見の「よくある難病もの」というコーティングを剥がしてみれば、根底にあるのは感動を消費することへの批判と、世の中に溢れる「泣ける作品」への肯定。
    特に災害や病気を当事者の意志関係なく勝手にお涙頂戴として軽く消費することについての否定は、揺月だけじゃなくて著者自身の気持ちでもあるんじゃないかなって思った。
    (著者さん、地元郡山でなんかそういう嫌な目に遭ったのかな……)

    もちろん素直に難病ものとして読むのも正しい楽しみ方だと思う。
    この小説自体が「泣ける作品」のガワを纏っている以上、読み手が感動したならそれもまた「アリ」な読み方なんじゃないかなって。

  • わたしはあなたの涙になりたい
    著作者:四季大雅
    発行者:小学館
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    facecollabo home Booklog
    https://facecollabo.jimdofree.com/
    小説家。福島県出身2022年「わたしはあなたの涙になりたい」で第16回「小学館ライトノーベル賞」の大賞を受賞しデビューを果たす。

  • 舞台は福島県郡山市。
    福島、、、、となると、タイトルとあいまって震災が題材かなと思った。ピアノを弾く少女が表紙なので、あの「奇跡のピアノ」かな、と思った。
    ダイビングシーンがプロローグにあるので、
    震災で沈んだものを連想して、なおさらそう思った。(震災の物語、ではなかった)
    2022年、今年の夏の高校野球。ベスト4まで勝ち進んだ聖光学院の野球部が実名で出てくる。
    主人公八雲の母が、塩化病という難病にかかってしまうところから物語は始まっていく。
    震災や聖光学院、太宰治の『トカトントン』や、
    ショパンコンクール、ワルシャワ侵攻、という本物が出てくるので、塩化病がなんかポーンと突き抜けた不思議な感覚だった。
    天才ピアニストの揺月との出会いと成長。
    母を失い、心のよりどころを揺月に見出していく八雲。揺月もまた、八雲は心の支えだったようで。。。その後イタリアに留学した揺月は、塩化病になってしまう。。

    私としては、清水のエピソードと、ポーランドワルシャワ(ショパンの物語)がいいなと思った。
    軽さと軽やかさの違い、という文章があって、
    揺月の魂は軽やかだけど軽くはない、と書かれていた。なるほどなと思った。

    たまたま重なってしまったのだろうが、
    戦禍のワルシャワは現在のウクライナを思わせ、
    さらに聖光学院が出てくるので、それら「現在」と
    震災という「少し前の過去」が、実生活の時間の経過という妙なリアリティを持って、
    病でも戦でも災でも、愛するもの(人も街も、腕や足も)が失われるということ、を私に突きつける気がした。それらを何か別のことに利用する是非も。

    ただ、あちこちに小さな違和感があって、ん?と、ひっかかると、スッと引き戻される気がした。
    たとえば、母を失ってひとりになった小3の八雲が
    ひとり暮らしをしてる違和感。これは父のところに行くか施設に入るとこだよなと思ってしまう。
    (児童相談所に保護される案件だわ)
    揺月を失って家に引きこもるにも、大量の食料を買い込んでいるところも違和感。
    憔悴してたら食べることなんて考えないと思うが、、、と思ってしまった。
    連絡がつかなかったら心配して家に来そうなものなのに、2年もの間、清水も父さえも来ないのかという違和感。とか。。

    ともあれ、読んでいてピアノの調べが聴こえる気がしたし、
    あの義手や義足は本当に出来ればいいなと思うし、
    揺月のビデオはすてきだった。ラストで初めてタイトルの意味がわかった。
    リアルとファンタジーを合わせた「濃い」物語だった。

  • 泣いた。涙で始まって涙で終わるって書いてあったから2回も泣くのか…と思ってたけど最後だけ泣いた。揺月ちゃんの優しい、でも自分の芯がちゃんとあるっていうところがかっこよかった。八雲くんはとてもダメダメだけど素直な所もあって優しいんだなぁ~。と思う所が多かった。柚月ちゃんが死んでしまうときの八雲くんの優しさが包み込まれるようで優しい涙になった。どんな人でもこの本を読んでいるときは優しくなれるような気がした

  • 紛うことなき名作。
    「ラノベ」の枠組みで、ここまで大いなる感動を味わえる作品は他に無いと思う。誰もが絶賛することが納得の、素晴らしい作品でした。
    時間が飛び飛びに展開する作品で、各時間軸におけるエピソードが終盤に向かって収斂してゆく様は見事。
    奇抜な展開は無く、正直ほぼ予想通りの展開であったのだが、それにも関わらず感動を得られたのは、ひとえに、登場人物への共感しやすく描かれているからであろうか。
    塩化病から、塩の街(有川浩)を連想し、なーんとなく避けていたのだが、正直、勿体なかった。

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著者プロフィール

第29回電撃小説大賞《金賞》を受賞。でデビュー。第16回小学館ライトノベル大賞《大賞》を受賞し『わたしはあなたの涙になりたい』でデビュー。

「2023年 『ミリは猫の瞳のなかに住んでいる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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