山之口貘 (永遠の詩 03)

  • 小学館 (2010年1月25日発売)
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本棚登録 : 87
感想 : 14
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  • 本 ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784096772133

作品紹介・あらすじ

●今日的に意義のある詩人を採り上げ、その代表作を厳選。
●現代仮名遣いによる本文、振り仮名付きで読みやすく。
●各詩には詩人(高橋順子・矢崎節夫・井川博年)による解説をつけ、作者の生い立ち、作詩の背景、詩のもつ魅力がよくわかる。
●各詩人の人生と詩集が一目でわかるビジュアル年譜(写真とイラスト入り)。
●巻末には魅力的な執筆陣によるエッセイを収録。

貧乏を愛した詩人、山之口貘の傑作詩を収録。

山之口貘は、沖縄生まれの天性の自由人。上京後は、今のワーキングプアさながらに、職を転々としながら住所不定の日を送り、貧乏を明るく、したたかに、詩にうたった。詩のことばは平易だけれども、誰にも書けないふしぎな魅力があり、人間存在の痛点を刺激する。

感想・レビュー・書評

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  • 山之口貘さんの詩集ですね。
    永遠の詩シリーズの三冊目です。
    貘さんの詩は、初めて読みました。そして驚きました。
    日本人の詩は、どちらかと言うと内省的で何かしら暗い影があるものなのに、貘さんの詩は明るさとユーモアに溢れていて1903年生まれの人とは思えない斬新さを持っています。
    ほのぼのとしているようにみえて、本質をついた鋭さがあり、スッキリとしたわかりやすい表現が魅力ですね。
    解説の井川博年さんは語ります。
    「貘さんの詩には、いまの日本の若者を惹き付ける魅力がある。貘さんの生き方に共感を覚える人も多いだろう。貘さんはいつも娘さんに語っていたという。『ほんとうの人間はそんなに多くないんだよ。僕は人間でありたい』。
     貘さんが命がけで書いた、人間味たっぷりユーモアたっぷりの詩は、時代を超えて輝き続けている。」

     ミミコの独立

     とうちゃんの下駄なんか
     はくんじゃないぞ
     ぼくはその場を見て言ったが
     とうちゃんのなんか
     はかない
     とうちゃんのかんこをかりてって
     ミミコのかんこ
     はくんだ と言うのだ
     こんな理窟をこねてみせながら
     ミミコは小さなそのあんよで
     まな板みたいな下駄をひきずって行った
     土間では片隅の
     かますの上に
     赤い鼻緒の
     赤いかんこが
     かぼちゃと並んで待っていた

    解説の山本兼一さんは
    「日々のつつましい暮らしを詠いながらも、読む者に、大らかな悠久の時間を感じさせてくれるのが貘さんの詩の真骨頂なのである。」と綴られています。
    仲間から家族から愛された稀有な詩人にめぐり会えて、とても豊かな心持ちをしました。

  • 「永遠の詩」シリーズは、まだレビューにはまとめていませんが、全巻、既読です。その中でおそらく誰もが親しみを覚える詩を書いているのがこの「獏さん」こと山之口獏さんです。
    社会のことを書いても、ユーモアと明るさがいつもあって、親しみやすい方です。
    むずかしい語法の詩はひとつもありませんが、「たった一篇ぐらいの詩をつくるのに/100枚200枚だのと/原稿用紙を屑に」するほど推敲を重ねているそうです。


    「ねずみ」
    生死の生をほっぽり出して
    ねずみが一匹浮彫みたいに
    往来のまんなかにもりあがっていた
    まもなくねずみはひらたくなった
    いろんな
    車輪が
    すべって来ては
    あいろんみたいにねずみをのした
    ねずみはだんだんひらたくなった
    ひらたくなるにしたがって
    ねずみは
    ねずみ一匹の
    ねずみでもなければ一匹でもなくなって
    その死の影すら消え果てた

    ある日 往来に出て見ると
    ひらたい物が一枚
    陽にたたかれて反っていた

    <解説より>
    フランスで翻訳・紹介されたこともある、獏詩の中でもポピュラーな作品である。この詩も先の詩と同じく戦時中に書かれたもので、同人誌「山河」に載った。あらゆる雑誌が検閲された当時、「検察官はこれをただのネズミの詩として見逃したらしく、あとで山之口獏は痛快がったという」が、この詩を単なる抵抗詩とみなすような皮相な見方には反対である。もっと実存的な詩ではないか。


    「鼻のある結論」「来意」「春愁」「求婚の広告」「結婚」「畳」「思い出」「博学と無学」もよかったです。


    山之口獏(やまのぐち・ばく)
    1903年(明治36)~1963年(昭和38)
    沖縄に生まれる。上京後は職を転々としながら住所不定の生活を送る。
    貧乏暮らしの中から、明るく、したたかで、ユーモアとふしぎな味のある、独自の詩を紡いだ。
    「獏さん」とよばれ、多くのファンに愛されてきた。

  • きわめて平易、明るく、なお、したたか。
    ただ明るいだけでなく、根っこには、冷静さ、したたかさが土台としてある。それが詠嘆にとどまらなき強さとなっている。
    嘆かない、憐れまない、ときどき照れて、はにかむけれど、卑下もしないし、世をすねることもない。自分と世の中とを、かなり突き放して、いたって客観的に眺めている。地球がたくさん出てくる。
    つまるところ、日々のつつましい暮らしを詠いながらも、読む者に、大らかな悠久の時間を感じさせてくれるのが貘さんの詩の真骨頂なのである。
    日本の詩歌の歴史のなかで、特異な詩世界を切り拓いた詩人であった。

  • 20180701 詩集を読み始めたばかりで内容の評価はできないが一編一編がわかりやすい言葉で述べれているので読むのは容易い。読後に意味を考えたとき立ち止まってしまう。もう少し色々ね詩集を読んで価値を再確認したい。

  • ユーモア、ノンシャラン、と形容されがちなこの詩人の内実には、強い反抗精神と深い政治意識があるのだった。
    ---
    「一日もはやく私は結婚したいのです/結婚さえすれば/私は人一倍生きていたくなるでしょう/かように私は面白い男であると私もおもうのです/面白い男と面白く暮したくなって/私をおっとにしたくなって/せんちめんたるになっている女はそこらにいませんか/さっさと来て呉れませんか女よ/見えもしない風を見ているかのように/どの女があなたであるかは知らないが/あなたを/私は待ち侘びているのです」(求婚の広告)

  • 生活の柄

  • イライラして心がトゲトゲしい時に読みたい作品。

  • 【詩をたのしもう(日本編)】
    日本の近・現代詩史に燦然と輝く詩人たちの作品を選り抜きでご紹介します。
    新学期、新生活にお気に入りの詩人をみつけてみませんか?

    <閲覧係より>
    山之口獏(1903-1963)。
    職を転々とし貧乏ながら自由を愛した獏さんの詩は、ユーモラスで愛嬌たっぷりです。
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    所在番号:911.568||エイ||3
    資料番号:10205739
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  • 最初はすわりが悪く、読んでいてもガタガタしていましたが、だんだんと調子がなれてきて、ひとつひとつがぴったりと自分の中に収まっていく感じがしました。「無学と博学」なんていいですね、面白かったです。

  • 獏さんの詩には、ユーモアや哀愁や皮肉が漂うが、底抜けに明るく自分を笑い飛ばしながら、誇り高く、したたかである。力が抜けているように見えて、推敲の鬼であったというから、その眼は鋭く、こわかったのかもしれない。

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著者プロフィール

山之口貘(やまのくち ばく)
1903年~1963年。沖縄生まれの詩人。1938年、第1詩集『思辨の苑』。1940年、第2詩集『山之口貘詩集』。1958年、『定本 山之口貘詩集』で第2回高村光太郎賞受賞。1963年、59歳で永眠。死の直前、詩業に対し沖縄タイムス賞が授与される。1964年、遺稿詩集『鮪に鰯』刊行。1975(~1976)年、『山之口貘全集』(全4巻)刊行、近年では、2013年に『新編 山之口貘全集』が刊行されている。

「2019年 『すごい詩人の物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山之口貘の作品

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