名画に隠された「二重の謎」: 印象派が「事件」だった時代 (小学館101ビジュアル新書 23 Art 8)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 107
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098230235

作品紹介・あらすじ

「見ることの専門家」である「わたし」が美術館でみつけた、名画に残された「事件」の痕跡。その小さな痕跡を探ってゆくと、大きな謎の存在が明らかになる…。19世紀末、芸術の都パリを震撼させた「二重の謎」が、いま白日の下にさらされる。共謀したのはゴッホやマネ、ドガ、セザンヌなどの巨匠たち。西洋近代絵画に起こった一連の「変革」の意味について、推理小説仕立てで描き出す、新しいスタイルの美術入門書。美麗な図版と貴重な部分図、満載。

感想・レビュー・書評

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  • たっぷりのカラー図版と部分図だけでも興味が湧くのに、絵に隠された謎、と来たらもう矢も盾もたまらずだ。
    それにしても、人は見たいものしか見ない、とか、見るのと観るのとでは大違い、とか先人の言葉があるけれど、全くもってその通りなのが悔しい。

    マネの≪笛吹き≫に書かれたサインなんてしっかり観察したことがあったか?
    スーラの≪ブランド・ジャッド島の日曜日の午後≫の縁は?
    セザンヌの≪カード遊びをする人々≫の配色に興味を持ったことは?
    どれもこれも見ていなかったし気付かなかった。
    こんな見方で、絵が好き、だなんて笑止千万!
    でも、こうやって気付いてもう一度観ることができるから、絵画は奥深くて、面白い。

    ドガの≪男とマネキン人形≫、マティスの≪コリウールのフランス窓≫は暗澹とした雰囲気に引き込まれる。
    今の私に共鳴するのは虚ろなもののようだ。
    もちろんそれだけが心象風景の全てではないけれど、自分の心の奥の深い濁りを自覚する。
    色彩鮮やかな作品を見て、光を心に照らせば、対の影も必ず現れるものだ……。

  • 読んでいて、楽しくて、知的にも刺激があった。
    絶版なのが惜しい。
    捨て回がない、記述だった。

    特に、ドガ(マネキンと男)、ボナール(恋人とかがみ)、マティス(窓と漆黒)が考えさせられた。

  • 19世紀フランス近代絵画(印象派など)の作品9点を取り上げてその絵の内容の「謎」を参考カラー図版豊富に解説する新書。これで1100円は安いな。この小学館のアート系新書シリーズはいいかも。

    テレビの「美の巨人たち」がまだ海外アートを取り上げていたころ「絵画警察」というシリーズがあったけど、ちょっと似てるけど、著者が専門家なので内容が深い。

    一例はゴッホの浮世絵模写作品に書き込まれている日本語文字の解読とか。ゴッホは日本語は一切理解できないので「図」として他の浮世絵に書き込まれていた文字から美しいように切り貼りしていた。

    日本や中国では昔から絵画に文字が普通に書き込まれていたけど、西洋絵画にはそういうのはあまりない。

  • 本作では、
    "従来絵画は神話や現実の再現として捉えられていたが、印象派以降、平面に描かれる以上かかる再現が絵画には元来不可能であることが強く意識された。これにより、3次元空間の表現手段であった遠近法や、現実の自然科学的に正確な再現を重視する伝統的絵画が減少し、他方で種々の新しい表現が生まれた。"
    との仮説に沿って、近代フランス絵画が紹介、分析されている。

    平易な言葉とミステリー風の物語展開により読み易く書かれているものの、筆者の専門的知見が節々に反映されており、絵画鑑賞の視点の養成に資する良作である。

  • 個別のエピソードは何故かそこまで頭に入らなかったけど、画家があっちこっち行きながら、なんとか作品を完成させている状況が読んでて伝わってきた!図版が多いのも良かった!

  • 一枚の絵をどのように鑑賞しようが、その絵を見るひとの自由であるのはもちろんなのだが、でもやはり絵を鑑賞するうえでのさまざまな知識やポイントを身に着けておいた方がより楽しさが増すことが分かった。ところで、わたしは展覧会では、一度作品をさっと観てから気になった作品を、解説文もまじえても一度じっくり観るという鑑賞スタイルである。

  •  マネが好きになった。

     でも、敢えてあのサインを復活させる必要は無かったのではないかと思った。

     革新者と呼ばれるマネ。わたしは「オランピア」や「草上の昼食」に見る内容に関してのことかとばかり思っていたけれど、それだけではないのね。

     悩み、ためらい、戸惑いながら、ジャポニスムに影響された平面性への探求。ただの安物の版画に陥らない、「絵画」として、どこまで平面性を獲得できるかとしていったゆえのあの「サイン」ならば、一つ目のサインはあってはならないんじゃないかなんて、思う。何で復活させちゃったのかなぁ。


    あと、マティス、いいなぁ。あの窓の作品。色といい、外の暗さといい。わたし、好きだなぁ。

  • うーん・・・いまいち?
    なんでいまいちなのかわからないけど・・・
    中途半端なのかな。絵の解説本なのか美術史論なのか。
    もっと真面目なものの方が面白いのかな・・・

  • 今年のべスト。

    オルセーに入っているような近代画家(=印象派前後)の9人の画家を取り上げ、技法をベースに作家の真意に迫っていく。

    マネは署名から、アングルは腕の可変性から、クールベは少年の絵画への挿入から、ドガは、情感のないマネキンから、ボナールは鏡という客観性+別世界から、マティスは窓という異界への入り口から、ゴッホは、じゃポニズムへのあこがれと模写の西洋文化の反映から、スーラは絵画内の縁取りから、セザンヌは現実離れした構図と色彩の調和の手法から、それぞれの意図を読み解く。近代美術はどちらかというと技法的なものと思ってむしろルーブルに入っているような伝統的モチーフの方がその制約のなかでどれだけできるかという観点から面白いと思っていたが、近代絵画もそれとは異なる幅広さと奥深さがある。

    印象派及びその前後の派は単なる写真に対するアンチテーゼだと思っていたが、考えが浅かったことを痛感。平面に考えを映し出すということに紳士に向き合い始めた時代だということを理解した。ボナールがこんなにすごいがかとは知らなんだ。セザンヌもするめとしか言いようのない味わい深い画家ということを認識。マネは職人でありながらそれ以上の働きを残した偉大なる印象派の先陣という教科書通りの認識を深く認識。

    マネ、アングル、クールベ、ドガ、ボナール、マティス、ゴッホ、スーラ、セザンヌ

  • マネの「笛吹き」の二つの署名、アングルの「パフォスのヴィーナス」の二本の左腕等、絵の上に見つけたちょっとした痕跡をたどってその謎(意味)を解いていくミステリー仕立ての美術解説書。印象派前後の9人の作家が取り上げられている。いずれの謎解きも鮮やかで素晴らしい。特にセザンヌの「カード遊びをする人々」の画面の解説は、具体的でセザンヌの革新性が良く理解できた。ボナール作品の新しさを鏡により解く章等他の作家達を取り上げた章も楽しめた。図版もすべてカラーで必要な部分が拡大されており充実している。

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著者プロフィール

1957年、島根県に生まれる。1981年、東京大学教養学部卒業。1990年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。1997年、パリ第4大学にて博士号取得。2015年、フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエを受勲。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。著書、『まなざしのレッスン1 西洋伝統絵画』(東京大学出版会、2001年)、『近代芸術家の表象』(東京大学出版会、2006年、サントリー学芸賞)、『名画に隠された「二重の謎」』(小学館、2012年)、『まなざしのレッスン2 西洋近現代絵画』(東京大学出版会、2015年)、『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』(KADOKAWA、2018年)、Histoires de peinture entre France et Japon(The University of Tokyo, UTCP, 2009)他

「2021年 『移り棲む美術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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