夜を乗り越える(小学館よしもと新書)

著者 :
  • 小学館
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  • / ISBN・EAN: 9784098235018

作品紹介・あらすじ

芸人、芥川賞作家・又吉直樹 初の新書

芸人で、芥川賞作家の又吉直樹が、
少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、
「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」
「人間とは何か」を考える。

また、大ベストセラーとなった芥川賞受賞作『火花』の
創作秘話を初公開するとともに、
自らの著作についてそれぞれの想いを明かしていく。

「負のキャラクター」を演じ続けていた少年が、
文学に出会い、助けられ、
いかに様々な夜を乗り越え生きてきたかを顧みる、
著者初の新書。

感想・レビュー・書評

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  • 「小学館よしもと新書」の第一弾となる書で、又吉直樹さんがそれはそれは真摯に文学と向き合い、読書論を展開している。
    これまでこの方の作品を読んできた人でも、この真摯さには胸打たれるだろう。
    難しい表現をさけて、丁寧に言葉を選んで紡ぐ姿勢には尊敬の念さえ抱く。
    それが、冒頭の言葉によれば『本を読む理由がわからない方、興味はあるけど読む気がしないという方々の背中を、頼まれてもいないのに全力で押したい』という、本人の意思によるものだとしても。

    本当の自分と周囲からの評価とのギャップに悩みつつも笑いをとる快感を知った少年時代。
    その頃の内面の葛藤を和らげてくれた芥川や太宰の作品との出会い。
    『火花』誕生の舞台裏を振り返る章では、執筆状況を日々報告に行ったバーのマスターとの交流に、妙にじんとしたり。
    発表後、かつてのコンビ「線香花火」の相方が語った愛にあふれる感想も印象に残る。
    後半は近代文学のみでなく現代文学にもふれて、作家と作品の魅力を語っている。

    「登場人物の心情や世界観への共感だけが読書の喜びではない」と語るその部分は納得の章で、現在長くて苦しい夜を乗り越えようとしているひとの助けになると、読書はそういうものでもあると、最後までやさしく真摯に語り掛けてくれる。

    不思議なもので、読みつくしたはずの作品たちなのに、ここで紹介された文章を読むと今一度開いて読み返したくなってくる。
    うん、きっとそうするだろう。

    • nejidonさん
      mkt99さん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      言われる通り、繰り返し読み返すことによる良さも、説明されています。
      今ま...
      mkt99さん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      言われる通り、繰り返し読み返すことによる良さも、説明されています。
      今までなかった視点が自分の中に増えていくと。
      でも次々に読みたい本は出てくるし。他にもしたいことがあるし。
      そうです、私も時間がありません。
      私の場合時間の使い方が下手なだけかもしれませんが(笑)。
      何度でも読み返したくなる良い本との出会いを、無駄にしているような気もします。。
      mkt99さんに、ゆっくり再読出来る時間が巡ってきますように。
      2016/06/28
    • ruko-uさん
      nejidonさん、フォローとコメントありがとうございます!

      nejidonさんの本棚の名前「絵本と猫と…」
      絵本も猫も、当方大大大...
      nejidonさん、フォローとコメントありがとうございます!

      nejidonさんの本棚の名前「絵本と猫と…」
      絵本も猫も、当方大大大好きなのでもう本棚の名前を見ただけでもグッときました。アイコンの写真の猫ちゃんもすんごいかわいらしい!本棚のラインナップと言いもう、グッ!と来るとこばかりです(笑)

      こちらの本は私も気になっている一冊。nejidonさんの本棚には気になっている本がたくさん並んでいます。これからの参考にさせてくださいね!今後もどうぞよろしくお願いいたします(^^♪
      2016/07/30
    • nejidonさん
      ruko-uさん、ご訪問ありがとうございます!
      嬉しいなぁ、ruko-uさんも猫好きさんでしたか。
      アイコンの子は19歳で、我が家の長女...
      ruko-uさん、ご訪問ありがとうございます!
      嬉しいなぁ、ruko-uさんも猫好きさんでしたか。
      アイコンの子は19歳で、我が家の長女です。
      にゃんこを褒められると、とたんに舞い上がってしまうので(笑)お気をつけくださいね。

      私の本棚が何かのお役に立てたら嬉しいです。
      これからも楽しい本に出会ったらご紹介させていただきますね。
      ruko-uさんも、ぜひぜひ私に教えてくださいませ!
      2016/07/31
  • ある日母がこう言った。

    母「ほら、テレビ、見てみ」

    ...テレビにはお笑いコンビ、ピースの又吉の姿。
    あれ、でも、いつもと様子が違う...。
    トレードマークの長いウェーブヘアをアップにしている。
    後頭部は大きく刈り上げられていてうなじが丸見え。

    私(おお(嬉))

    ...はっきり言ってかっこいい。男っぽい色気。気骨がありそう。ネクラなだけに思えた独特の表情も思慮深さと優しさを湛えているように思える。

    母を見るとうつ向いている様子。
    ...ん?もしかして、照れている?
    ...親子揃って又吉直樹さんにプチ一目惚れした瞬間でした。

    その後すっかり又吉さんのことはどうでもよくなっていましたが、ブクログでフォローしている方の楽しそうなレビューにココロほぐされ、図書館で借りてみることに。
    あ、前に『火花』を読もうと思ったのですが、読書を再開したばかりで活字慣れしてなかったためか、密度と熱量が高そうな文章に「無理無理無理」と一ページ目でギブアップ。

    今作も警戒しながら、でも期待しながら読み始めました。
    そしたら冒頭の文章の出来事を思い出したわけです。
    髪をアップにした姿=芸人の顔だけではない又吉さん。...戸愚呂兄みたいなウェッティなウェーブヘアの下にいろいろ隠してましたね。又吉さん。

    彼の真摯な言葉にいちいちココロを打たれながら読み進めたため、読むのに時間がかかってしまった。
    特に『共感』のくだりは「そーだそーだ」と首を縦にぶんぶん振りたくなりました。

    もちろん、『共感』だけではなく『新たな視点』もいただけて実りある読書体験でした。

    太宰治への思いを語る又吉さん。
    こういう風に惚れ込んだ人やモノを語る人に弱いのです。
    問答無用に応援したくなります。

    中学生の時「だから、何?」という感想を持った『人間失格』をもう一度読み直したい気分です。

    • 5552さん
      nejidonさん、こんばんは!
      コメントありがとうございます☆

      nejidonさんのレビューを拝見させていただいて、読んでみようと思った...
      nejidonさん、こんばんは!
      コメントありがとうございます☆

      nejidonさんのレビューを拝見させていただいて、読んでみようと思ったんですよ。
      でも、書かれたのは二年前なんですか。
      最近、‘友達のタイムライン’に上がってきていて...どなたかがいいね!を押されたのですねー。
      レビューを書いてくださったnejidonさんはもちろん、いいね!を押してくださった方にも感謝です(^-^)
      読めて良かったです。
      自分の中だけで、誰にも同意してもらえないかも...と思っていた事を又吉さんの文章で肯定されていてとても心強かったです。

      太宰も‘若い内に読み損なった感’があったのですが、『人間失格』今なら分かるかもしれない!という期待を持っています。

      又吉さんは...ブクログの自分の本のレビューなど見ない!という事をとりあえず信じて今回のレビューを書きました。(ちょっと恥ずかしい)

      母には秘密です(^_^)/

      2018/05/25
    • GMNTさん
      5年ぐらい前に思った(気づいた)ことなんですが、太宰を『人間失格』から読んでしまって「?」となり、あと読まない人って多いんじゃないでしょうか...
      5年ぐらい前に思った(気づいた)ことなんですが、太宰を『人間失格』から読んでしまって「?」となり、あと読まない人って多いんじゃないでしょうか。
      たぶん新潮文庫の100冊フェアのせいなのかなって思います。太宰を好きな人のおすすめを見ると、中期の作品であることが多いんですよね。
      又吉くんなんかは新潮文庫の『きりぎりす』や『お伽草紙』を推薦してました。その影響か、新潮の100冊の方にも『きりぎりす』が入りましたね。僕が人に勧めてるのは、新潮文庫の『走れメロス』と『きりぎりす』です。
      2018/05/30
    • 5552さん
      GMNTさん、コメントありがとうございます。

      確かに『人間失格』だけ読んで太宰とはそれきりって方多そうですよね。高校の時の同級生は「ム...
      GMNTさん、コメントありがとうございます。

      確かに『人間失格』だけ読んで太宰とはそれきりって方多そうですよね。高校の時の同級生は「ムカついた。もう読まない」と言ってました。私も『人間失格』しか読んでないのですが、一冊読んだだけでその作者を見切ってしまうのももったいないですよね。本との出会いはタイミングとかありますし。又吉さんとGMNT さんおすすめの『きりぎりす』を読んでみようかなと思います。
      おすすめありがとうございました(^-^)
      2018/05/30
  • 又吉さんがなぜ本を読むのか、本の魅力について語った本。
    『本に無駄な文章はない』というのが印象的だった。作者が意図を持ってその表現をしているのだ、と。
    私は風景描写などはサラリと流し読みしてしまうところがあるので、勿体ないことをしたなと少し反省というか後悔した。きっと何気ない風景描写にも主人公の心理が反映されていたりするのだろうな。


    又吉さんの本への愛と、作者への尊敬の念が感じられる面白い本でした。

  • 又吉さんが考える、読書論。本との付き合い方が上手い方だなと思う。
    自分の感覚にハマらない部分の発見こそが、読書の面白さ、という内容の言葉にドキッとする。
    共感をもって理解を示すことは簡単だし、心地いい。特にエッセイなんかを選ぶ時、私はつい似たような感覚を持つ人のものを手に取ってしまいがちだ。それも決して悪い訳ではないが、共感以外の楽しみ方も徐々に広げていきたい。
    又吉さんが様々な分野の研究者の人と対話をする、「又吉直樹のヘウレーカ!」というTV番組がある。どのような分野の人に対しても、誠実に話をきこうとする又吉さんの姿勢が大好きで、あの姿勢、様々な視点を面白がること、たくさんたくさん読書することで得てきたものなのかもしれないな、と感じる。
    人が一生のうちに体験できる物事は、そう多くはないが、本の中で擬似体験することは可能で、その積み重ねで、自分の感覚の、その外側に挑んでいける。読書って、シンプルにすごい。

  • 軽い読物のつもりで借りたら、意外にずんずん心に響く内容で驚いた。少年時代の事や『火花』や他の本の執筆までの経緯、太宰の魅力や近代文学の案内など。「こんな気持ちで読書したい」と思った。

  • これも「図書館司書オススメの本」にあった。

    本を扱うプロ中のプロが、読書の秋に読んでもらいたい思いは確実に伝わった。

    読書好きで知られ、芥川賞作家にもなった芸人でもある彼は、「なぜ本を読むのか?」と聞かれることが多いという。

    まずは「面白いから」と答える。
    その上で本が好きな人にも、本を読まない人にも、誠実に答えていったのがこの本だ。

    本を読むことは対話に似ている。

    時には、話を聞いてもらっている感覚になることもある。

    そして、話をただただ聞くこともある。

    話をするだけですっきりすることがある。

    体験を聞くだけで、暗闇に明かりが灯るようなことがある。

    人は人と関わることで、良くも悪くも変わっていく。

    家族。仕事。ご近所さん。
    一冊の本を手にすれば、その自分をベースに古今東西の人たちと交わっていくことができる。
    感覚を共有していくことができる。

    とてもわかりやすく、読みやすく書かれている。
    そして考え抜かれて書かれた文章なので、良い意味で読むのに時間がかかる。

    秋の夜長をもっともっと長くして、良い本をたくさん読みたくなる渾身の一書。

  • 「よしもと新書」なるものがあるのを初めて知った。

    本書「夜を乗り越える」のほかには、トレンディー・エンジェルの斎藤さんの「ハゲましの言葉」(笑)や、レーザー・ラモンRGの「人生はあるあるである」等がラインナップを飾っていた。お笑いは好きだが、本を買って読みたいとは・・・正直のところ・・・。

    本書も図書館で借りたのだが、ハッキリ言って、コレはめちゃめちゃ面白かった!!!

    お笑いのノリで面白かったというのではない。芸人又吉直樹の独白として、芥川賞作家又吉直樹の文学論、読書論として、いや読み物として本当に面白かった。

    最近、本書に類する本として、読書論を展開しているものでは、丹羽宇一郎氏の「死ぬほど読書」という本を読んだ。また、文学の読み方を展開しているものでは村上春樹氏の「若い読者のための短編小説案内」というのを読んだ。個人的には、これらの本より断然、又吉氏の本のほうが面白かった。

    丹羽氏の読書論には教養人の最高レベルを感じたが、又吉にはそれを超える非凡さを感じてしまった。村上春樹の文学の読み方にはプロを感じたが、又吉の読み方には未知数の非凡さを感じた。ここまで語れる彼自身を知って、失礼ながら、やっぱりホンモノの芥川受賞者なのだと改めて納得した。

    発想の自由度が非常に高くて、彼の読書論を読んでいると、読書に対する魅力がどんどん拡張されてくる。とらわれない発想がとても魅力的だ。

    例えば、読んだ本が「面白くなかった」と感じたら、それは本のせいでも著者のせいではないという。読んだ自らの読み方に問題があったり、読んだ自分のキャパに問題がある可能性があるととらえ、つまりは自分次第ですべての読書を面白くすることができると断言する。

    読書の楽しさの総合点は、「本+自分」で決まるという発想に、まったく共感してしまった。

    さらには自分にマッチしないと感じた本ほど、自身のキャパを広げてくれるという自由度の高い発想にも。彼の読書には無駄という文字はないようだ。

    太宰治、芥川龍之介、夏目漱石らの近代文学をおもっくそ語っている。よく読んでいるし、その読み方が深い。というより、本当に著者を愛し、読書そのものを愛しているという感じが1000%伝わってくる。

    本書を読むと、彼の読んだ本が無性に読んでみたくなり、彼の語りを検証してみたくなり、自分なりの読み方を感じてみたくなる。

  • 『火花』の何十倍も面白かったです!
    でもそのことは「又吉さんが小説家よりエッセイストに向いているのではないか」
    という話ではなくて、
    私自身が小説に馴染んでいないということが原因かと思います。

    太宰治、芥川龍之介、夏目漱石、三島由紀夫、谷崎潤一郎…
    「読みたい」「読まなきゃ」…という気持ちは常々もっているのですが、
    なにしろその前に次々面白そうな本が障害物のようにはいってきてしまって。
    どんどん遠くに行ってしまうのです。

    でも、約束します。
    中村文則さんの『何もかも憂鬱な夜に』は、年内に必ず読みます!

  • 生きていると、ただ夜が明けるという時間の経過が「乗り越える」という程の重みを持つことが誰にでもあると思う。長い人生を振り返ればただの一瞬でも、その一瞬を一人で乗り越えることはとても辛い。それを、会ったこともない、もしかしたら今は生きていない他人の言葉が支えてくれることがあるということ。本の存在、読書という行為の持つ力を様々な角度で、色んな言葉で伝えている本でした。又吉さんの36年の来し方、執筆の過程、そして何よりも受賞後の怒りにも似た葛藤が如実に書かれていて、それはこれまでの又吉さんからはとても珍しいことだと思います。
    これからも沢山の夜を乗り越えて、これからの時代で抱えるであろうより複雑な葛藤を、近い未来に、新しい作品として世に出してくれることを、何よりも楽しみに応援し続けます。彼の素直で複雑な文章は、ずっと味方でいたくなるような、不思議な気持ちになるんです。

  • 「なぜ本を読むのか?」
    「文学の何がおもしろいんだ?」
    という疑問に又吉さんならではのアドバイスを提示してくれる本。
    冒頭の父親との忘れられないエピソードが既に私も忘れられそうにありません。

    太宰、芥川、三島、谷崎潤一郎に夏目漱石などの近代文学や遠藤周作、古井由吉、町田康、西加奈子、中村文則らの現代文学の紹介を、又吉さんの読書体験になぞらえて紹介してくれます。


    「文学は、本は、賢い人達のためにだけあるものではありません」と彼が言うことがしみじみよく分かります。

    本が友達になったり、答えを教えてくれるわけではないけれど、確実に、そこにこれまで誰にも理解されなかった自分の気持ちがある、と思えたりまた、全く思いもしなかった視点に出会えたり、同じ本でも読む時期によって刺さる箇所が違っていたり、自分自身と出会える、向き合える、そんな役割が読書なのかな、何よりも楽しい、そうだよねって思える本でした。

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著者プロフィール

又吉直樹(またよし・なおき)
1980年、大阪府寝屋川市生まれ。2003年より、お笑いコンビ「ピース」として活躍。2015年『火花』で第153回芥川賞受賞。代表作に『東京百景』『劇場』『人間』など。

「2021年 『林静一コレクション 又吉直樹と読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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