誰も教えてくれなかった『源氏物語』本当の面白さ (小学館101新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098250028

作品紹介・あらすじ

今、明かされる、光源氏に託された平安貴族たちの怨念。

感想・レビュー・書評

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  • 「どうして顔も見たことがない女を熱烈に愛せるのか」
    林真理子さんの大きな謎だったらしい。
    〈専門家の方はご存知ないだろうが、現代の読者はまずこのハードルをとび越えることが出来ないのだ〉と、林さんはいう。
    へぇー、そうなんだ。そこがハードルだったとは意外だな。とび越えられない現代の読者層って、「顔も見たことがない女」を愛する側の男性読者が多いのかな。それとも「顔も見られていないのに」愛される側の女性読者かしら。

    作家・林真理子さんと平安文学研究者・山本淳子さんとの対談で構成された「『源氏物語』本当の面白さ」は、おふたりのキャラがそのまま文字として表れており、とても面白く読めた。
    わたしとしては、林さんのぐいぐい迫りくる迫力に、山本先生吹き飛ばされるんじゃないかしらと、ハラハラしながら見守っていた感じなんだけど 笑

    当時の男性にとって、一緒に暮らしていない女性たちに関する情報は、筆跡などからしか得られなかった。仲が進んで、御簾を隔てて声を交わすところまでいって、ようやく話し方や声などの情報が入ってくる。
    そして部屋の奥から御簾近くに出てくるようになってはじめて装束に目が行く。
    顔や体型については、本当に深い仲にならなければ知ることができなかった。
    歌をやり取りしているうちに、筆跡や焚き染められたお香のセンス、きものの襲の色目などをきっかけにして相手に惹かれていく。
    それだけの要素なのだが「それらの端々に、心が表れているわけだから」と山本先生はおっしゃる。見た目よりも先に、女の人のゆかしさを知って愛することは素晴らしいことだと、林さんは理解される。

    そのなかでも惹かれていく要素が大きいのは、やっぱり歌のやりとりだろうな。
    おふたりも、手紙を交わしているうちに、相手の性格や教養の度合いというものは、どうしても文面に表れてしまうもの、ほんの短いメッセージにも、惹かれ合うというのは、書き手の個性が反映されているからだろうねと語っておられる。
    書き手の想いがそっと滲み出る手紙は素敵だなぁと思う。その素敵だなぁと思う気持ちって、書き手の心に惹かれていることにもなるはず。
    そう思うと「顔も見たことがない女を熱烈に愛せる」というのは、なにも大それたことではなく、ごく自然なことなんじゃない?

    とはいっても、わたしは『源氏物語』を挫折している。根気のなさが、わたしのとび越えられないハードルとなっているのだ。
    それでもこうやって、何かしら『源氏物語』を知りたいと願ってしまうのは、この物語には、どうしても抗えない魅力があるから。それと、山本淳子先生の著作を読むようになったことが大きい。
    じゃあ、わたしにとって抗えない魅力とはいったいなんなのか。
    今までなんとなく感覚的だったものが、形となって表れたのが「『源氏物語』の主役は光源氏ではない。」というくだりだった。
    〈この物語において特筆すべきは、いずれも生き生きと描かれた女性たちの姿。まるで紫式部はこの女性たちを描きたいために光源氏を登場させたのではないか〉
    わたしにとっての『源氏物語』の魅力はこういうことだったのだ。

    また『源氏物語』の素晴らしいところは、古より脈々と受け継がれてきた感性が隠されているという原文にある。
    「声を出して原文を読んでいくと、明らかに違う世界に入り込んでいくことを感じる」と林さん。
    ほんの少し載せられている「賢木」の原文を、わたしも声に出して読んでみたのだが、たしかに気持ちがいいのだ。言葉って美しいなと素直に感動した。そして文の内容を理解することができたなら、よりいっそうの感動を『源氏物語』は与えてくれるのだ。
    こうなると、『源氏物語』にもう一度向き合おうと気持ちが昂って仕方がない。

    最後に、山本先生がテスト作製された「あなたはどのタイプ?『源氏物語』女君テスト」が掲載されている。
    わたしの中に眠る女君の部分はなんと朧月夜。
    あらま、どういたしましょう。

    〈照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜にしくものぞなき〉

    • ペンさん
      地球っこさん、はじめまして。
      平安時代などでは顔の見えない相手とのわずかなやりとりに相手の心を感じとっていましたが、SNSから始まる恋愛が現...
      地球っこさん、はじめまして。
      平安時代などでは顔の見えない相手とのわずかなやりとりに相手の心を感じとっていましたが、SNSから始まる恋愛が現実化しだした現代では新たな恋愛の形として古き良き方法が繰り返されてるのかもしれませんね。
      2020/10/10
    • 地球っこさん
      読者家のペンギンさん、はじめまして!

      コメントありがとうございます。
      そうですよね、この本にもそういうことが書かれていました。
      コ...
      読者家のペンギンさん、はじめまして!

      コメントありがとうございます。
      そうですよね、この本にもそういうことが書かれていました。
      コメントをやりとりさせていただいたマリモさんも書いてくださってました。
      とどのつまり恋愛って妄想ですから!(究極すぎる…笑)

      読者家のペンギンさんが興味を持ってくださって嬉しいです。
      これからもよろしくお願いします♪
      2020/10/10
    • ペンさん
      地球っ子さん、未読だったのですがそういったことも書かれているのですね、読んでみたくなりました✨
      恋愛は妄想だからこそ楽しい部分もありますしね
      地球っ子さん、未読だったのですがそういったことも書かれているのですね、読んでみたくなりました✨
      恋愛は妄想だからこそ楽しい部分もありますしね
      2020/10/10
  • 「枕草子のたくらみ」以来の、山本淳子さんによる本。
    今回は林真理子さんとの対談で源氏物語についてお話がすすむというつくり。
    登場人物の関係図などもいくつか織り込まれ、大変読みやすい一冊になっている。
    「はじめに」の部分を林さんが執筆され、若干の軽さに不安もあったが読み進むにつれ楽しさに変わってしまた。

    面白さはやはり、林さんの女子高校生のような視点で、それに対して山本さんが(おそらくは困惑しながら)真摯に受け止めて答えるという、対照的なふたりの会話につきる。
    例えば林さんは、源氏物語の最大の疑問は「顔も見たこともない女をどうして愛せるのか」だと言われる。「恋愛=妄想だもの。そんなこと思わないけどな」と思わずツッコミを入れてしまう私。
    それに対する山本さんの答えで古の人々の想像力の高さを知り、現代に生きる私たちこそ「あさましい」のかなと考えさせられる。

    ひとつずつのテーマに沿ってふたりの対談があり、いつの間にかこちらも林さんと同じ生徒の気分になって、たくさんの学びを与えられた。
    千年もの間この物語が愛されたのはなぜか。
    紫式部の人生とはどんなものだったのか。誰のために書いたのか。
    サイドストーリーの面白さは。そして光源氏の年収はどのくらいか。
    鎌倉時代や江戸時代のひとびとも読んだのか。
    そもそも、なぜこんなに面白いのか。
    わずか192ページとは思えないほど中身は深い。

    最後のお楽しみに「あなたはどのタイプ?源氏物語女君テスト」というのが載っている。
    イエスorノーで進んでみたら、なんと夕顔タイプだったのがいとおかし。
    そして「あとがき」はやはり山本さん。
    対談では及ばなかった源氏物語の魅力を、真摯に語っている。ここがとても良い。

    古文の特徴で主語が省かれるため、誰が誰に言っているのか曖昧で分かりにくく、いつも中途挫折してきた源氏物語。今度こそ読破しようと、今画策中。
    ブク友さんのレビューに触発されて読んだ一冊。とても楽しく読めたことに感謝です。

  • フォローしている方たちのレビューを読んで、図書館で借りる。

    すぐにレビューを書かなかったので、かなーり記憶がおぼろげになってしまった。

    源氏物語といえば、中・高時代にはまった大和和紀さんによる「あさきゆめみし」。
    それ以前、中学時代に氷室冴子さんの平安朝少女小説「なんて素敵にジャパネスク」や「ざ・ちぇんじ」にもはまっていたのを思い出す。
    そのおかげで、古文のハードルはかなり下がって楽しく学べた思い出も。

    この対談を読みながら、そんな過去の自分を思い出しつつ、見た目よりセンスの良さが重視された彼の時代への憧れが再燃した。
    2021.3.28

  • 林真理子さんが訳された「源氏物語」を近いうちに読んでみたいと思いつつ
    源氏物語に纏わる様々な書物を模索している中で本書に出会いました。
    「源氏物語」の研究家でいらっしゃる山本淳子氏と、林真理子さんのお二人が
    対談しながら「源氏物語」の世界を紐解いていくといった内容です。

    「源氏物語」そのものはまだ読み始めたばかりなので、今の段階で
    こちらを手にするのはまだ早いのかもと少々不安になりながらも
    超初心者のこんな私にも何か得られるものはないだろうかという期待もあって
    少しドキドキしながらページを捲っていくと....冒頭から
    "「源氏物語」を読む前に知っておきたいこと"としての山本氏からの解説があり
    もうそれだけで気持ちは大いに安堵。それと共に嬉しさも増して
    楽しく読み進めることができました。

    「源氏物語」の物語そのものの解釈と解説に触れていることはもちろんですが
    著者である紫式部は当時どんな人物であったか、なぜこんな物語を描くに至ったのか
    当時誰が読んで楽しんでいたのか、ベストセラーとなった所以は?等々..
    物語の内容以外で疑問に思っていたことや不思議に感じていたこと
    些細だけどもなぜだか気になっていたことなんかにも、応えがするすると出てきて
    今読んでいてよかったと嬉しい気持ちになれた一冊でした。

    今後「源氏物語」を読み進めていくにあたっての読み取り方の参考になりました。
    未読部分についてのあらすじを浚っていくのにも役立ちます。
    意味理解の参考書としてもまた開くことになりそう。

    • nejidonさん
      yumiieさん 、こんばんは(^^♪
      ご紹介いただいたこの本、おかげさまでとても楽しく読みました!
      小さなトリビアもいっぱいあって、源...
      yumiieさん 、こんばんは(^^♪
      ご紹介いただいたこの本、おかげさまでとても楽しく読みました!
      小さなトリビアもいっぱいあって、源氏物語に対する眼が変わりましたよ。
      yumiieさんのように品良くまとめられませんでしたけど・笑

      ところで、本棚を非公開に設定しました。
      タイムラインというものにどうにもこうにも疲れてしまって。
      ずっと悩んでいたのですが、ひとりコツコツと記録する方を選びました。
      せっかく仲良くして下さったのに、申し訳ありません。
      でも、これからも時々のぞきに来させていただきますね。
      これまでありがとうございました。
      2018/12/06
    • yumiieさん
      nejidonさんこんにちは♪
      まぁ嬉しい!さっそくお読み頂いたんですね♪^^
      こんなふうにして素敵な本に巡り合っていけることは
      ブク...
      nejidonさんこんにちは♪
      まぁ嬉しい!さっそくお読み頂いたんですね♪^^
      こんなふうにして素敵な本に巡り合っていけることは
      ブクログさんで出会ってお互いにフォローしあって
      お友達になって頂けたおかげ。私もnejidonさんと出会えたおかげで
      読みたい本の視野が広がってわくわく度がずいぶんアップしました。
      ほんとうに嬉しい限りです。いつもありがとうございます。
      だけどその一方で管理してくのに疲れてしまうというのもありますね。
      私も体調を崩してからは自身のレビューを書くことすら追いついていかず
      たまる一方で、やはりもうやめようかと思ったことが何度かありました。
      それでも本読みがやめられないのなら、ブクログもできれば続けていきたいし
      ならばのんびり行こう、ぼちぼちゆっくりマイペースでいいといいきかせ
      これからは(今までも?笑)身勝手気まま気長に投稿していこうと思っています。

      だけどnijidonさん、体調をお悪くされたのではないようなので安心しました。
      くれぐれもご自愛くださいませね。風邪ひかないように。
      そしてこんな私の本棚でも何かnejidonさんのお目に留まる本がありましたら
      いつでもお立ちより(コメント)ください。
      遅れてしまうこと多々ですが(ごめんなさい)必ずお返事いたします。
      2018/12/08
  • 源氏物語、敷居が高いなぁ…と思っている方にはおすすめである。私が今まで読んだ源氏本の中では、割とライトなノリでとっつきやすく読みやすかった。
    というのも、林真理子が「源氏物語」に対して抱く疑問が、読者目線というか…今まで聞きたかったけど聞けなかったようなものだったから。その疑問の中でも、やっぱりこれは最も気になるでしょう!?というのが「どうして顔も見たこともない女を熱烈に愛せるのか」ということ。女性の気持ちも何もあったもんじゃない平安時代の強引な「結婚」に、正直、「ありえない!」「無理!」と思っていた私なのだが、当時の恋愛重視ポイントを知ると、むしろ現代の方が視覚的な要素に大きく左右されすぎなんだということに気付く。
    これ以外でも、「林さん、よくぞ突っ込んでくれました」ということ多数。時々は林さんの鋭い突っ込みに噴いてしまったり(笑)そんな鋭さのおかげで、ライトに楽しめるだけではなく、今まで知らなかった源氏の新しい面白さや作者・紫式部の素顔を知ることができた。
    平安文学研究者の山本淳子さんによる「源氏物語女君テスト」なるイエス・ ノーチェックはユニークだったな、私が挑戦したら畏れ多くも「藤壺」だったんですけど(笑)山本さんの源氏解釈も、とてもわかりやすくかつ斬新だった。「物語」といえど、実は歴史の一部と重なるところもあり…とはいってもリアルすぎずにうまくフィクションであり。これをきっかけに、モデルとなった人物らについても知りたいと思ったり…。
    そして、近いうちに「林」源氏も読んでみたいなと思っている。林さんが描く六条御息所、すごそうだな…。

  • 「だれも教えてくれなかった『源氏物語』の本当の面白さ」
    2023年1月28日読了

    作家の林真理子さんと研究者の山本淳子さんの対談をメインとした本書。
    「顔を見ないで恋愛をするってどういうこと?」といった素朴な疑問や、現代人の感覚に基づく感想をおりまぜながら進むため、とても読みやすい。

    当時の知識人が紡ぎ上げた最高のエンターテイメントであり、わかる人にはわかる教養を惜しげもなく取り込んだ古典文学。
    だからこそ、1000年という年月を経ても色褪せないのだろう。やはり原点にして頂点といったところか。

    源氏物語って古典で読みにくくて、すごく敷居が高いイメージがあったけど、恋愛小説としの面、政治ドラマとしての面など、さまざまに読み解くことができる源氏物語をきちんと読んでみたくなった。

  • 『源氏物語』の面白さを知っている人は、更に面白くなるような内容もあったが、初歩的な導入にとどまったものだった。林真理子✖️山本淳子の対談形式の部分が多かったのは飽きるところもあったので、もう少しバランスよく編集してほしかった。

  • 借りたもの。
    時代を経ても愛され続ける――日本人のアイデンティティとも言える――『源氏物語』の魅力とは何か。対談形式と簡潔な解説により、多角的な視点から解説する。
    『源氏物語』が紫式部ひとりの手によって全て書かれたわけではないこと……不本意ながらも散逸し、平安当時でも2つのバージョンが存在したこと、最古の源氏物語は鎌倉時代の写本であること等、成立の話からも興味深いものだらけだった。
    また、『源氏物語』が宮廷文化を今に伝える文学、長編恋愛小説といった物語的な部分だけでなく、楊貴妃を彷彿させる桐壷、『伊勢物語』の行のオマージュ、家臣に下りながらも天皇に返り咲いた宇多天皇を想起させるといった、当時の教養を刺激するものであること、実際、宮中で行われた摂関政治の権力闘争などの政治小説とも読めることなどを紹介。
    対談形式で当時の宮廷文化がどのようなものであったか、細かい描写に込められている「何故その描写が必要だったか」を解説している。

  • 対話形式の源氏物語のレビュー。
    林真理子さんの小説家側のコメントがなかなかおもしろくまた逆に
    平安時代の恋愛方法の関する対話で、
    「顔を見ずに好きになれるって不思議」から「顔を見て恋をするのが現代人の感覚」と変化してるところは読者目線でもあり、
    非常に読みやすかった。

  • 物語を楽しむヒントがたくさん

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著者プロフィール

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍する。1982年、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を刊行し、ベストセラーとなる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で「直木賞」を受賞。95年『白蓮れんれん』で「柴田錬三郎賞」、98年『みんなの秘密』で「吉川英治文学賞」、13年『アスクレピオスの愛人』で「島清恋愛文学賞」を受賞する。18年『西郷どん!』がNHK大河ドラマ原作となり、同年「紫綬褒章」を受章する。その他著書に、『葡萄が目にしみる』『不機嫌な果実』『美女入門』『下流の宴』『野心のすすめ』『愉楽にて』『小説8050』『李王家の縁談』『奇跡』等がある。

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