「中国の正体」を暴く (小学館101新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098251247

作品紹介・あらすじ

中国は、米露がすでに全廃している準中距離、中距離の弾道ミサイルを増強し続けている。それはアジア・太平洋全域を目標とし、それら地域に駐留する米軍を標的としているのだ。目的は、中国がアジア地域の覇権を米国から奪うことである。中国の軍拡は止まるところを知らない。秘密のベールに隠された軍事戦略、本当の軍事力、そして動きはじめた米中の世界制覇競争-中国軍事動向について抜群の情報収集力を持つアメリカから、ベテラン記者の古森義久氏がレポートする。

感想・レビュー・書評

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  • 7年前に出版された本であるが、特に軍事面における様々なアメリカの専門家がどう中国を見ているかについて書かれている。すでにこの時点でアメリカの専門家達が今の中国のような覇権主義を振りかざすことになることを予見している。また予見内容によっては、彼らが予測したより早くその状況が起きているのではないか。分かっていながら米国の政策に組み入れ、防ぐことが出来なかったのは、やはり現代中国が理解されていなかったということか。その当時の戦力等の分析に関しては、今となっては古くなってしまっていると思うが、ところどころに今を予見している箇所がある気がする。

    P.56
    ちなみにヘリテージ財団は保守本流といえる研究機関である。1973年の創設以来、ワシントン中心部のアメリカ議会のすぐ隣にビルを構え、国内、国外の政策を広範に研究してきた。その結果は政府や議会に直接ぶつけられる。とくに共和党とのきずなが太く、ここで研究員たちは共和党政権が登場すると、どっと政権入りして各省庁の高官となる。民主党政権のときにはまたヘリテージ財団へと戻って、政策の提言や批判を活発に続ける。いわゆるリボルビングドアのシステムである。

    P.62(ヘリテージ財団ディーン・チェン氏)
    おもしろいことに、中国政府は公式には「宇宙の軍事化」への反対を表明している。この点をチェン氏はどうみるのか。
    「自国のために嘘をつくのは外交官の職務でしょう。中国はとくにその種の外交が上手です。ロシアも同じことを主張するが、ロシアの宇宙計画でも軍事に無関係な部分はないといえます。宇宙利用の現実としてGPSでさえ、軍事計画として始まったことを認識しておくべきです。中国の宇宙軍事化反対というのはきわめて効果的なプロパガンダです」

    P.73(海軍大学校中国海洋研究所所長ピーター・ダットン氏)
    日本にとってまず気になるのは中国の東シナ海や南シナ海での海洋戦略である。その戦略の目的はなんなのか。
    ダットン氏が開設した。
    「まず第1に中国にとっての安全保障は緩衝地帯を拡大することです。海洋の防衛線をより遠方へ広げたいわけです。第2は、黄海、東シナ海、南シナ海などの『近海』での自然資源のコントロールです。石油関係だけでなく魚類などの水生資源も含まれます。第3は地域統合です。自国の南にある諸国を中国主導でまとめようとする。朝鮮半島や日本への影響力を拡大するという目標です。海洋での動きはこれらの目標を動因にしています」
    2005年ごろまでに海軍軍人でパイロットでもあったというダットン氏は、まだ若さを感じさせるたくましい人物である。法学博士の経歴で海軍の法務官も勤めていた。
    だが彼の発言の中の「地域統合」という言葉は穏やかではない。その点を問うと、「中国が政治、経済、商業などの次元で、アジアの近隣諸国を自国の主導を受け入れる、結束力を持った集まりへとまとめようとする意図」だという説明が返ってきた。

    P.78
    中国の海洋戦略野心的な目的の達成手段について問うことにした。
    前述の中国海洋研究所、ピーター・ダットン所長はその手段として3つをあげた。
    「第1はまず軍事力増強で制海権を握り、紛争を中国の望む形で解決しようと言う手段です。この手段は単に海軍力だけでなく、人工衛星での情報収集、サイバー攻撃の能力強化に加え、ミサイルの増強を含み、多次元にわたります。第2は中国が近海と呼ぶ海域での管轄権の強化を法的次元で進めることです。とくに南シナ海や東シナ海で標的とする島嶼や海域の領有主張を強めるためにまず国内法を変えて、その主張に合法性を与えるような措置をとります。そのうえで今度は国際法を中国独自の異様な方法で解釈し『合法性』を強めようとするのです。そして第3はそれら管轄権を実際に物理的な方法で強化していくことです」

    P.86
    中国の海洋戦略はこうみてくると、国際的には異質であり、野心的であることはどうにも否定できない。そこには無法性という表現さえ浮かんでくる。
    では主張がぶつかる他の諸国との関係はどうなるのだろう。この点、ダットン氏は「永遠の摩擦」という表現で険しい展望を語った。
    「中国は海洋戦略では勝つか負けるかという姿勢を崩さず、同じ地域の他の諸国の長年の利害を認めようとはしません。他国との協調や妥協を一切、考えないようにみえます。このままでは中国の海洋戦略をめぐっては『永遠の摩擦』が続くことになります。中国は絶対に自国の主張を引っ込めない。
    紛争がたとえ中国の要求どおりに解決されても、他の諸国の利益は犠牲になるのだから、それら諸国の不満が続きます。そして大きな対立や摩擦が起きる。中国が今の戦略を変えない限り、『永遠の摩擦』システムが存在するのです」
    ダットン氏はさらに、過去の歴史の版図を現代に過剰に適応するという中国の傾向は、他の諸国にも同様の「歴史利用」の風潮を生み、今の国際秩序が大きな危険にさらされるという点も協調した。ブルーメンソール氏も厳しい総括を述べるのだった。
    「中国は慣習的な国際法の修正主義的な解釈をとり、結果として国際合意に背を向けています。たとえばEEZ内における合法的活動の定義など、大多数の国は国際法を完全に順守しているのに、中国はそのルールを無視しています。やはり中国は海洋に限らず、現在の国際秩序に基本的な不満があるということでしょう」

    P.218
    アメリカ側の学者の中には、10年前には『人民解放軍は米軍より30年も遅れているから、懸念は無用だ』と主張していたのに、現在では『もう人民解放軍の膨張を止めることは危険だから、その強大さを受け入れるべきだ』と述べる人がいます。別の学者は『東アジアのフィンランド化』受け入れを提唱しています。台湾や日本を含む東アジア地域での中国による支配権、主導権を認めよう、というのです」
    冷戦時代にソ連が隣の小国のフィンランドを骨抜きの属国のようにしてしまった経緯はよく知られている。

  • レビュー省略

  • 中国軍部は米軍の活動や能力には一貫して最大限の関心を払ってきたが、注目してきたのは米軍の遠隔地での兵力ビルドアップ(集結)。米軍が外国での軍事大作戦に兵力をどのように動かし、集めていくかへの関心。中国にはその能力がまだない。
    米軍のコンピュータ依存、中国は有事にはその部分を早めにたたくことに注目した。

  • 日米同盟のあり方,今後の中国とのつきあい方について,かなり考えさせられます.そもそも,日米同盟自体の是非もあると思いますが,アメリカとの連携強化を解消すれば,中国の属国になることは目に見えている訳で・・・.

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著者プロフィール

産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。
1941 年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。米国ワシントン大学留学。毎日新聞社会部記者、サイゴン、ワシントン特派員、政治部編集委員を歴任。87 年に産経新聞に移り、ロンドン、ワシントン支局長、初代中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員を歴任。ベトナム報道でボーン・上田記念国際記者賞、「ライシャワー核持ち込み発言」報道で日本新聞協会賞、東西冷戦終結報道で日本記者クラブ賞、『ベトナム報道1300 日』( 講談社) で講談社ノンフィクション賞などを受賞。主な著書に、『ODA幻想』(海竜社)、『モンスターと化した韓国の奈落』『米中激突と日本』『アメリカの悲劇』(以上、ビジネス社)など多数。

「2022年 『米中開戦前夜 習近平帝国への絶縁状』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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