ヒトは「いじめ」をやめられない (小学館新書)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098253081

作品紹介・あらすじ

「いじめ」を脳科学する

「子どものいじめ撲滅」に向けて、大人たちが尽力している一方で、大人社会でも「パワハラ」「セクハラ」などの事件が後を絶ちません。しかし、「脳科学的に見て、いじめは本来人間に備わった“機能”による行為ゆえ、なくすことはできない」と、著者である脳科学者・中野信子氏は言います。ならば、いじめに対するアプローチ法を変えて、その回避策を考えていくことが、良好な人間関係を維持するためには得策です。本書では、子どもの仲間はずれやシカト、大人のパワハラ・セクハラなど、世代を問わない「いじめ」に関して、その回避策を脳科学の観点から説いていきます。


【編集担当からのおすすめ情報】
子どもはもちろん、大人社会でも多発している「いじめ」にどのように対処すればよいのでしょうか。脳科学から考えたヒントが満載です。

感想・レビュー・書評

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  • 脳科学者による、「いじめ」についての考察。
    いじめが起きるのは本能的なものだから、完全になくすことは出来ない。
    だからこそ、対策が必要という内容。

    人間が進化する過程で、集団を作ろうとし、そこから外れてしまう人間のことを排除する傾向が生まれた。
    ある基準から外れるといっても、別に集団にとって害がない内容もありうる。
    そのあたりに過剰反応してしまう場合があると。

    同じ集団でいる時間が長くなればなるほど、排他的な傾向が強まる。
    愛情がある関係でも、軋轢はかえって起こりやすい。
    こうした場合に、ホルモンがどう働くかという説明がなされています。

    日本の場合、同調圧力が高いことは、皆ある程度わかっていますよね。
    農耕民族であることや、江戸時代に村から離れられず、集団で作業してきたことなどが影響していると考えられます。
    日本人に多い遺伝子があるとは、初耳でした。

    かって、いじめが問題になり始めた時、「いじめられる側にも原因がある」と最初は言われました。
    これって、そもそもそういうこと、ですよね。
    いじめっ子本人や擁護者の理屈はそうだったし、教師の指導が子供の喧嘩?にどこまで踏み込むべきかという問題でもあったかと。
    でも、誰でも標的になるような教室の荒れっぷりが目立ってくると、「いじめに理由はない」と言われるようになった。
    やがて、「社会で許されないことは、学校でも許されない」と言明されました。
    このあたりの成り行きも、若い人はもう知らないだろうけど。

    最初にこのタイトルを見た時、「ああ、そうそう」と思ったタイミングでした。
    自分が受けたいじめのような言動の理由を長い間考えていて、相手は「自分が世間の側にいて正しいのだ」という感覚(勘違い)を抱いているのだろうと感じたのです。
    恥ずかしいと思うこともなく?不当なことを言える理由がそこにあるのじゃないかと。
    大した内容じゃなかったんですが、こちらを傷つける意図を込めて強く言われたので、謎だったものです。

    この本の提言で、学校のすべての教室にカメラをつけるというのがありましたが。それでは、監視社会になってしまうし、現代ではそれが流出するようなこともありうるので、無理があるでしょう。
    でもそういう、密室性を減らす対策をいくつか考えておく必要はあるのかもしれません。
    カウンセラーを増やすだけでも、効果は出ているはず。

    集団というのは、個性が違う人間が集まり、様々な形で協力し合うものだということも、生き伸びるための基本なんじゃないかと。
    伝え損なわないようにしたいものです。

  • おかしいな〜これいじめじゃないのかな〜て思いながら働いてたこと、ずっとなんとなくもやもやしてたのがちょっとなくなった
    類似性と獲得可能性が高かったんだなぁ、、
    みなさまのドーパミンがバンバン出てるのわかったし、正義感を押し付けられてるのもひしひしと伝わってきてた

    集団でいればいるほど倫理感が低くなっていくからこそ、いろんな人と関わって刺激を受けて、メタ認知力を高められる環境にいられるような努力が大切だとわかりました

    • workmaさん
      かなこさんの、「集団でいればいるほど倫理観が低くなっていくからこそ、いろんな人と関わって刺激を受けて、メタ認知力を高められる環境にいられるよ...
      かなこさんの、「集団でいればいるほど倫理観が低くなっていくからこそ、いろんな人と関わって刺激を受けて、メタ認知力を高められる環境にいられるような努力が大切…」という言葉に共感しました。
      2021/05/23
  • 大四章 いじめの回避策 より抜粋~ p.157~
    「友達がいないからといっても悪いことではない」「みんなと違う考えが悪いことではない」という別の価値観を教えることがあってもよいのではないでしょうか。
    そして子どもたちにも、集団を作れば、考え方や行動が違う人に対して、どうしても許しがたいという気持ちが生じてしまうものだということを意識してもらったほうがよいと思うのです。
    「いじめてはいけないよ」と教えるだけではなく、「人間というものは、本当はズルをしていない人に対しても、「ズルをしているかもしれないから懲らしめてやろう」という気持ちが生じるものなのだ、そしてそれはとても危険なものなのだ」ということを教えることは必要だろうと思うのです。
    もしそうした人間の特性を知っていれば、「あの子を懲らしめてやりたい」と心が揺らいだときに、「ああ、この感情がサンクション(懲らしめてやりたいという感情)なのだ、これは強くなると危険なことになる感情なのだ」と気づかせ、より自分の感情を客観視する力を育てることができるのではないでしょうか。
    p183~
    「メタ認知力を高めて、自分をコントロールする」
    p187~
    学校では、人間関係の流動性を高め、子どもたちがさまざまな人に接し刺激を受けることで、狭い人間関係で裏切り者を検出する必要がなくなり、体験的にヒトという種についての知識が蓄えられるでしょう。
    そして、そこから自分自身を見返し、成長に合わせて自分をコントロールする「メタ認知力」をつけられるような環境作りも、いじめの防止・抑止には役立つのではないかと考えます。

    ここからは、自分の感想です。作者は、脳科学者の立場から、脳のメカニズム、ホルモンを説明し、「いじめ」を分析、回避策を述べてくれました。どこにでもある「いじめ」ですが、著書は本書で、成長過程のヒトがたくさん集まる「学校」に焦点を当てて解説してくれたのだと思いました。
    ヒトがヒトである以上、集団では、「いじめゼロ」ではなく、「いじめは存在するもの」。「じゃあ、どうするか」「どうやって回避するか」そのことを、大人も子どもも、ひとりひとりが考えて行動する。「そのきっかけが、教育現場で実行できるといいな~ 校内で、ロールプレイング、ワークショップみたいに」…著書の願いはこんな感じかも。
    本書を読んだ感想は、今、導入されたばかりの、「プログラミング教育」等よりも、学校では、「メタ認知力を高める」教育に期待したい。学校の現場は忙しいと思いますが、大人数に、「いじめ予防」教育を効果的に伝えられる、「学校」など、教育機関の果たす役割は大きいと思います。教育関係者の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。

  • いじめについて、脳科学の視点から理論的に分析している一冊。
    今までになかった視点で、とても面白かった。
    また、「いじめは起こる。仕方ない。」で片付けるのではなく、脳科学の視点から「では、どうしたらいじめを避けられるか」を書いているのがとても良かった。

  • 「仲間を守ろう」「社会性を保持しよう」という、集団を維持するための「向社会性(反社会性の反対)」が高まりすぎると、その反動として排外感情が高まり、それに伴うサンクションという行動が発動すべきでない時にも発動してしまう。
    これをオーバーサンクション(過激な制裁)と言い、いじめが発生する根源にあるメカニズムなのだそうです。

    愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシン。
    この脳内物質は、仲間意識を高めすぎてしまうと、「妬み」「排外感情」も同時に高めてしまうのです。
    集団の中で逸脱した人を排除したいという気持ちも同時に高まっていく。
    これが仲の良い集団ほど、いじめが起こりやすいというジレンマ。
    一方、外敵をつくり出すことで内なる結束を高めるという手法、
    先日読んだ「北朝鮮がロケットを発射すると安倍さんへの期待が高まる」ことを思い出しました。

    安心ホルモンのセロトニン。
    セロトニントランスポーターを少なく作ろうとするS型遺伝子というものが、日本人にはとても多いのです。
    その結果、先々のリスクを予想し回避しようとする「慎重な人・心配性な人」さらに他人の意見や集団の空気に合わせて行動しようとする「空気を読む人」が多くなる傾向に。
    その理由は江戸時代を過ごしてきたことによるのですが、
    ともかく「この人は将来的な不安の種になるかもしれない」ということを検出する能力が高くなると言えます。
    セロトニンを増やす努力をしようと思いました。

    快楽物質と呼ばれるドーパミン。
    いじめると楽しいということ。
    これはサンクションというものが、非合理的な行為であるにもかかわらず、
    「快感」を与えなければならないほど、人間という種が生き延びるためにも、
    根本的には重要な行為だったことがわかります。

    男性の方が女性より妬みを感じやすいそうです!
    女性はオキシトシンそのものが多く、「集団を作る」ことに発揮されます。
    男性は「派閥を作る」など、ヒエラルキーによる力でなりたっている。
    男性は社会的報酬を感じやすい生き物であり、それによってドーパミンが前頭前野を興奮させ、意欲的になります。
    しかしそれがネガティブな行動につながると、政党や企業の派閥抗争や暴力団の抗争につながる。
    またその制裁行動が過激化し、いじめ、体罰、モラハラ、パワハラといった行動になるというのが、まさにレスリングの栄さんではないでしょうか?
    一方女性の場合はセロトニンが少なく不安になりやすいので、リベンジを受けて返り討ちにあわないよう、巧妙に匿名性をもって行われます。

    人間は不寛容になってしまうものなのだ、
    不寛容は克服できないものなのだと認めること。
    この自己を認めること、認識する力が“メタ認知力”です。
    脳をだますことや、その機能をコントロールすることは可能です。

  • 社会秩序を維持するために、本能的に異分子を排除するという話は面白かった。
    ただ、そうなると一方ではなぜ弱者を救済する社会が出来上がっていったのかの説明が不十分な感じ。
    苛めはやめられないのは楽しいから。
    戦争も楽しいからと書いてある社会学の本のことを思い出した。

  • 子供社会でも大人社会でもいじめがなくらならない。なぜいじめが起こって、なぜいじめがらなくならないのか、それを脳科学の観点から探っているのが中野信子先生の本書。いじめをなくすことが難しいのなら、いじめの回避策が重要というお考えに賛同します。全ての教育関係者に読んでほしい良書。でも、学校におけるいじめ対策として中野信子先生は防犯カメラを全教室に設置する案を掲げているけれど、それは現実的ではないし、教員や学校関係者をあまりに信用しなさ過ぎ、疑念にかられすぎでは。教員や学校関係者はプライドを傷つけるし、教員や学校関係者からは絶対に受け入れられないでしょう。

  • いじめは快楽を伴うからやめられないことには納得感があった。小学校の時にいじめほどではないが揶揄われた経験と揶揄ってしまった自分の実体験と、本書の科学的な視点からいじめを紐解いた理論が重なった。
    いじめは確かにやめられない構造なのかもしれないが、辞められないからといって立ち向かっていくのを諦めるのは違う。科学的な視点も踏まえて、さまざまな場面で起こるいじめにどう対処していくかこれからも考えていきたいと思った。

  • いじめがなくならない理由を「社会的排除が人間が進化の過程で生存するために身に付けてきた『進化』」に求め、脳科学の観点から説明し解決方法を示している。エビデンスはきちんと示されていないが筋道立てた説明は現実と符合する。説得力あり。

  • 悲しいけど、いじめを防ぐためにはここまでやらないといけないのか。本能なんだもんね。

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著者プロフィール

脳科学者、医学博士、認知科学者。1975年、東京都に生まれる。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学教授として教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を活かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。著書に『サイコパス』『不倫』(ともに文藝春秋)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『脳の闇』(新潮社)などがある。

「2023年 『賢くしなやかに生きる脳の使い方100』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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