悪の指導者(リーダー)論 (小学館新書)

  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098253104

作品紹介・あらすじ

なぜ世界の首脳は独裁者ばかりなのか

イスラエルへの強い親近感を就任演説に織り込んだトランプ。ユダヤ人強硬派が望むようにアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移せば、中東戦争の危機に! 祖父や父の呪縛を逃れ、自由に采配する金正恩。核兵器を使うとすれば標的は日本。それを避けようと協議に持ち込めば、最大16兆円にのぼる北朝鮮への援助金を、日本が払わされる可能性も。各国首脳の中でも屈指の知性を持つプーチンは、絶対的な独裁者ではなく、現在はメドヴェージェフ失墜に力を入れている――。
そのほか、エルドアン(トルコ)、ハメネイ(イラン)など、強くて独裁的な「悪の指導者たち」について、歴史学の泰斗とインテリジェンスの第一人者が徹底討論。世界の強き指導者を動かす宗教、論理、思想とは? 彼らの内在的論理がわかれば、混とんとした国際情勢の裏側が見えてくる!

【編集担当からのおすすめ情報】
この新書をつくるにあたり、トランプ(米国)、プーチン(ロシア)、金正恩(北朝鮮)、エルドアン(トルコ)などの指導者について、合計十数時間、山内昌之さんと佐藤優さんに語り合っていただきました。しかし、原稿の完成近くになって急遽、緊急対談をお願いすることになりました。それは、ある独裁的指導者の動きがあわただしくなったためです。その指導者とは金正恩のこと。Jアラートは鳴らす必要がなかったことや、金正恩がただの「マッドマン」ではない理由など興味深い話をしていただきました。日本のメディアによる北朝鮮報道の問題点もわかります。まさに目から鱗の話ばかりを序章や最終章などに詰め込みました。ぜひご覧ください!

感想・レビュー・書評

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  • 元外交官の佐藤優と、歴史学者で中東事情に詳しい山内昌之による対談。

    日本人は特に「独裁者=悪」というイメージがあるが、実際には彼らなりの理論や支持基盤があり、そこに日本がどう対応していくかということを強く考えさせられた。

  • 2017年1月末~9月末、およそ月に一度のペースで佐藤優さんが歴史学者の山内昌之さんと対談したもの。

    ここに登場する悪の指導者とは、次の通り
    第一章 歴史の「必然」が生んだ大統領トランプ
    第二章 祖父と父の呪縛をはねのけた指導者金正恩
    第三章 歴史家にして希代の語り手プーチン
    第四章 軍を排除する男エルドアン
        終身最高指導者ハメネイ

    この本で問うてきたのは独裁者によるリーダーシップの意義を再考してみようということだったと思います、と山内氏。
    ちなみにプルタコスの考え。
    「ペルシア人は責任を問われない君主の独裁を選び取り、
    スパルタ人は度し難い貴族の寡頭政を好み、
    アテナイ人は混じり気なしの自治の民主政を受け入れたというのです。
    それぞれ失敗すると、
    独裁政ではその無責任さが暴力を、
    寡頭政ではその図々しさが横柄さを、
    民主政ではその平等が無秩序を生み出す」

    「確かに世界史では、ある国の指導者層の思慮分別が欠如すると、
    極端な姿勢や政策が生まれ、
    しばしば深刻な政治危機をもたらしていますね」と山内氏。

    そして佐藤氏に言わせると
    「ハメネイも、プーチンも、金正恩も、習近平も、
    『自分たちのグループの利益を満たせる』
    このような構造になっています。
    よほど強固なイデオロギーのようなもので、
    みんなが凝り固まっている体制でない限り、
    独裁者などということはありえないのです。
    ヒトラーもそうですよね。
    いくつかのグループ的な利益が周囲にある。
    そのうえでヒトラーを独裁者として見せることによって、
    それら周辺のグループにも利益があったわけです。
    おそらく独裁者と見なされ人物は、
    このような体制でないと存在しえないと思うのです」。

    すごく参考になりました!
    ありがとうございます。

  • 【由来】
    ・比較的早く借りられて、しかも北大の図書館には小学館新書がないので。加えて山内先生だったし。

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • サクサク読める、良書

  • [図書館]
    読了:2018/7/31

    3章が特に面白かった。プーチンの教養や知性や知識に対して、日本の政治家は足元にも及ばないというのがつくづく分かった。

    序章 ミサイルパニックの何が問題か
    p. 18「佐藤:小野寺防衛大臣の会見が、非常に重要になります。8月29日の朝の会見で、小野寺大臣は次のように述べています。「北朝鮮西岸より一発の弾道ミサイルが北東方向に向けて発射されました。わが国の北海道襟裳岬”上空”を通過し」「わが国”領域”における被害の有無の確認」「日本”上空”を通過すると言う事、これは大変危険な行為」「わが国に対する安全保障上の懸念がいっそう強まった」
    これが、あの朝のパニックの原因だったと思います。要するに日本政府は、北朝鮮が日本の領空を侵犯したと勘違いしたわけです。「上空」と言う言葉を使っていますが、「領空」との違いを理解していたとは思えない。
    山内:日本政府は、領土・領海・領空の定義を正確に理解していないということですね。
    (中略)
    佐藤:発射されたミサイルの高度は550キロと報じられています。550キロと言う高さからすると、どこから見ても領空の侵犯ではありません。北朝鮮は、宇宙空間を利用しただけと言う話になります。ところが、ミサイルの高度について説明をしないまま、わが国の頭の上を通ったのはけしからんと言うメッセージを発してしまい、Jアラートを鳴らしてしまう。これは防衛省の能力低下です。初動の段階で領空侵犯と勘違いしたことが大きな判断ミスにつながったと思います。防衛大臣ともあろう者が、領空侵犯と宇宙空間の使用の区別がついていない。この点が露呈したことは、由々しき事態です。」

    第1章 ドナルド・トランプ
    p. 44「佐藤:20世紀以降の大統領で長老派に属しているのはウィルソン、アイゼンハワー、トランプの3人です。この3人の人物像は決して偶然の一致ではありません。長老派としての共通項を持っている。つまり、生まれる前から自分が選ばれていると言う刷り込みがきちんとある。だから打たれ強い。逆境に対して強いわけです。加えて、長老派は絶対に反省などはしません。自分がしたことについて。何がまずかったと反省するような発想は全くない。
    山内:自分が神から選ばれているのだから、成功が約束されているという意識が非常に強い。あとは、いかに大きな仕事を成就させるかという信念のみに腐心するわけです。」

    p. 87「北朝鮮は資金がない。だけれども、弾道ミサイルを打ち上げて、核開発ができるわけですから。今持っているカードであれだけの力を出せるのは、金正恩に非常に強いリーダーシップがあるということです。」

    第3章 ウラジーミル・プーチン
    p. 171「プーチンの考えが端的に出ている文章だと思います。ロシアと言う国は他民族の国であるにもかかわらず、そこに単一ロシア民族の利益と言う考えを持ち込むからおかしくなる。ソ連の崩壊もそうして起きたのだと指摘しています。」

    p. 173「佐藤:以上の引用部分を読んでいて改めて思うのは、やはりプーチンの面白さや重要さと言うのは、知的能力の高さだということです。ティシュコフの執筆した学術論文の中で言われている脱民族主義的な考え方を、プーチンはきちんと消化できているのです。
    山内:その通りです。ティシュコフの水準はかなり高いのですが、プーチンは理解しています。」

    p. 241「佐藤:プーチンについて2冊の本から引用してきましたが、これらの書籍を読んで驚いたのは、ジャーナリズムがアカデミズムへ著しく接近していると言うことです。アメリカのジャーナリズムで少なくともロシアを研究している書籍に関しては、アカデミズムにおいても対応できる水準のものが求められています。少なくとも脚注をきちんと書き、裏付け取材だけではなく先行研究叢書にもあたって、理論と実践を突き合わせながら書いていく、そうしないと、到底受け入れてもらえないという1つのスタンダードができつつあります。
    山内:そう思いますね。失礼ながら、このレベルの本を書けるジャーナリストが、今の日本にはどれだけいるだろうかと思います。」

    第4章 レジェップ・タイイップ・エルドアン、アリー・ハメネイ
    p. 241 「イランは底力のある国です。穏健派も底力をもち、バランスのとれたインテリもおり、イスラム革命を輸出する革命防衛隊もいる。人的バラエティにはまったく事欠かないイランという国に対峙するのは、並大抵の国にできることではありません。おそらく日本人やアメリカ人も含めて、西側諸国はこの強味がわからないのです。」

    p. 240「ところが、中東地政学の重要なファクターであるエジプトには、いま存在感がありません。1つの原因は、基本的にはエジプト国民としての主体的責任意識の欠如だと思います。いつ何をやっても無責任で持続性と粘りがなく、誰かが何とかしてくれるだろうと思っている。「私たちは偉大なエジプト。他の人間たちが全部始末をつけ、全部段取りをしてね。そうしたら、私たちが力を発揮してあげる」と言う受け身の感覚にいつまでもとらわれています。(中略)結局事態を収束するのは、かつても今も、そして未来もそうなのかもしれませんが、軍しか存在しないわけです。ムバラクを失脚させておきながら、ムバラクの後継者であるタンターウィーやシーシーといった軍人を大統領に引っ張り出す。これがエジプトです。要するに歴史に教訓を求めると言う意味での進歩がないのです。」

    p. 243「佐藤:ロシアでは銅像の下に来て詩を読むということは、日常の生活で普通にやっていますから。
    山内:ロシアとイランは、そういう根本的な文明が社会に根付いているところが強みなのです。ところが、イランに対してもそうですが、ロシアに対しても日本人は誤解をしています。プーチンと言う為政者はすぐに荒っぽいことをやるから、日本人はロシア国民も暴力的であると誤解を重ねる。」

  •  独裁者が国際社会で影響力を持つ内在的論理を解き明かそうとする。普段あまり取り上げられないトルコやイランの情勢が興味深い。

    北朝鮮
    ①9月3日核実験
     広島型の10倍以上の出力の水爆、核融合の度合い変更なら数倍の爆発もいつでも可能
    ②北が軍事パレードで集めるジャーナリストは人質
    ③金日成・金正日主義
     スターリンがマルクス主義をマルクス・レーニン主義と改め解釈権を独占したのと類似
    ④「成分」という差別
     100以上の階級の成分表、高句麗起源の金日成民族
    ⑤在韓米国人20万人は危機迫れば中国へ大量出国
    ⑥北が欲する「体制の保障」をできるのはアメリカのみ、欲するものを与えられる者しか交渉はできない
    ⑦米朝ディールの可能性
     核と中距離弾道ミサイルは認めICBMは破棄

    トランプ
    ⑧独裁的指導者を出せない国は国際交渉力を持てず生き残りが困難になってきている
    ⑨長老派は予定説で自分の勝利を確信、精神的にタフ
    ⑩クリスチャン・シオニズム
     ユダヤ教徒のイヴァンカ・クシュナー夫妻
    ⑪米大使館エルサレム移転なら第五次中東戦争も
    ⑫南スーダンは中国進出を抑えるための米の傀儡国家

    ハメネイ
    ⑬イランの担任地域
     ペルシア帝国の復活
    ⑭サウジ・イスラエル対イランという構図
    ⑮文明国家イランは穏健派・インテリ・革命防衛隊を擁する底力のある国
    ⑯イランの国家元首は終身最高指導者ハメネイ、大統領は行政府長
    ⑰終身最高指導者だが独裁者でない、ただの遊泳術に長けた世渡り上手

    プーチン
    ⑱独裁者の周囲には利益集団がいる
    ⑲歴史的事例を引き出す天才、優れた語り手
    ⑳ユーラシア主義
     ロシア国民はヨーロッパ人・アジア人でなくユーラシア人
    ㉑ロシア文化中心の多民族国家、理想は共産主義なきソビエトというロシア観
    ㉒社会主義とは何か、ソビエト権力プラス電化だ(レーニン)
    ㉓絶対的独裁者ではない
     クレムリンは厳格な指揮命令系統で動いている訳ではないが、その成果を自分の意思で成し得たように見せかけている

    エルドアン
    ㉔軍やエリートが支持の世俗主義(政教分離)≠民主主義
     反対派台頭時は軍によるクーデター、エルドアンの改革
    ㉕トルコの経済格差
     ブラックターキッシュとホワイトターキッシュ
    ㉖新オスマン主義外交
    ㉗ロシアの出先アルメニアは過激化しやすい
     産業構造がなく崩れる心配がないうえ武器ビジネスの出稼ぎで豊か

    エジプト
    ㉘人口の10%が非カルケドン派キリスト教徒(コプト教会が主)
     木津川市にコプト教会
    ㉙シナイ半島が拠点のISはコプトを攻撃
     エジプト国内分裂を画策

    習近平
    ㉚中国共産党の派閥
     太子党・習近平、共青団・胡錦濤、上海閥・江沢民。 習近平が中共内で別格指導者「核心」に位置づけ、人治主義回帰の可能性
    ㉛中国は一つの共和国と位置付けるために中華民族という概念を利用
     共通する敵として日本敵視

  • 別に世界を駆け回る仕事をしているわけじゃなし。仕事や日常生活にそれほどかかわるとも思えないんだけど、興味をひかれ面白く読んだ。もちろん、世界情勢というのは、日常につながっているというのはわかるんだけどさ。でも、それって直観的な理解とはちがうと思うんだよね。理屈でいわれて、まぁそうだね、というような。でも、本書は面白い。なんだろうな。ひとつには、そこに人間同士のポジショニングというかなぁ。悪の指導者という一個の個人が、どのようnまわりに影響を与え、権力を得て基盤を作り、ひいては国を動かしていくか、という構図がみえるからだろうか。うん。個人の単位からスタートしているから、面白いのかもしれないな。プーチンといえど、スーパーマンではなく、実は集団間の利益調整によって存在が固められている、みたいなね。そういうのって、日常でもあるのかもしれない。

    よく知らない中東の話や、あるいはニュースでよくみるトランプ、北朝鮮情勢もまた、別の意味で興味深く読んだけどね。

  • トランプ プロテスタント長老派(カルバン派)
     長老派 スイス、スコットランド、オランダなどが有力で、ドイツにもそこそこいる。アメリカではマイナー
     特徴 予定説 神はあらかじめ選ばれる人と滅びる人を定めている 長老派の人間の成功は、生まれる前からあらかじめ定まっているという考え 勝つと確信しているので恐れがない。それどころか勝つことは自明の理で、どうやって圧倒的に勝つかを常に考えている
     生まれる前から自分は選ばれているという刷り込みがきちんとある。だから打たれ強い。逆境に対して強いわけです。加えて、長老派は絶対に反省などはしません。自分がしたことについて、何がまずかった反省するような発想はまったくない

    過去の大統領で長老派 28 ウィルソン 34 アイゼンハワー

    イランは、シーア派大国であると同時に古代ペルシャ帝国からの歴史をもっている。ベーゲルの歴史哲学講義についてふれると、最初に始まるのが東洋、次がペルシャ、その文明を経てギリシャに入る。時系列でなく構造で見た場合、インド文明、中国文明、ペルシャ文明は並列してある

    三代目の金正恩は、母親が在日朝鮮人

    影武者 あちこちの表舞台に出て来るが、写真を比べてみると、どうみても顔が違う

    金正恩著作集

    在韓アメリカ人の動向に注目せよ

    ロシア政府を批判するネット番組 プーチンが糸を引いている

    プーチンの世界 皇帝になった工作員

    トルコ エルドアン
     世俗主義 イスラムと政治、ならびにイスラムと教育を分離する

    トルコ 1960,1980,2016の3回軍事クーデター

    ウクライナ問題で西側と歩調を合わせていないのは、イスラエルとトルコ

    トルコによるアルメニア人への虐殺と侵略という歴史に対する失地回復運動は根強い

    ディアスポラのアルメニア人が従事している仕事に武器ビジネスがある

    エジプト 人口の約10% 非カルケドン派のキリスト教徒(コプト教会) ISによるコプト教徒襲撃

    1979年にイラン革命を起こしてから、もう40年近くになる。その間、アメリカや西側諸国の制裁に耐え抜いて、イランは自前で安全保障を維持してきている

    イランという国ではほとんど不愉快な経験をしません。

    ハメイニというリーダー
     最高指導者だが、最も位の高い宗教者ではない。本当に優秀な最高宗教者は、テヘランの南に位置する、ゴムという宗教都市にいる
     ハメイニはホメイニ支持していたがホメイニが弾圧されていた時も行動をともにしており、一緒に投獄もされている。逆にいえば、ハメイニには勉強する時間がなかった ハメイニはゴムにある宗教学校をでていない ラフサンジャニの庇護をうけた

    NPT体制下では、核を保有しない国が「自国で核兵器を持つ」と宣言すれば、自国で採れないウランやプルトニウムを返却しなくてはならないのです。そうなれば原発も止まります。ウランなどの資源を持たない日本が核武装するというのは非現実的です

    ソ連共産党の書記長が一度も訪問しなかった社会主義国は、北朝鮮だけ

    私たちの思想は、第二次大戦後の日本とアメリカとヨーロッパの要素が統合したものです。一つは個人主義、2つめは合理主義、3つ目は生命至上主義。この3つの要素が合わさっています。北朝鮮の場合、そのうち生命至上主義と個人主義がありません。

    トランプ 大陸間弾道ミサイルの開発はやめさせる。核は黙認する。中距離弾道ミサイルも黙認する。

     

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著者プロフィール

一九四七(昭和二二)年札幌に生まれる。
現在、東京大学大学院総合文化研究科教授、学術博士。中東調査会理事。
最新著書として、『岩波イスラーム辞典』(共編著、岩波書店)、『歴史の作法』(文春新書)、『帝国と国民』(岩波書店)、『歴史のなかのイラク戦争』(NTT出版)など。

「2004年 『イラク戦争データブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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