ヘビ学 毒・鱗・脱皮・動きの秘密 (小学館新書)

  • 小学館 (2024年12月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (216ページ) / ISBN・EAN: 9784098254811

作品紹介・あらすじ

2025年の干支は実に奥深い生き物だった

ヘビと聞くと、人々はどんなイメージを持つのだろう。
「怖い」「嫌い」という感情を抱く人もいるだろうし、「細長い」「ニョロニョロしている」「毒牙がある」といった生物学的な特徴を思い浮かべる人もいるだろう。
神話や伝承のエピソードから「ずる賢い生き物」を連想する人や、同様の理由から逆に「神聖な生き物」と考える人もいるかもしれない。
このようにヘビという生き物は、人間に様々な想像をかき立てさせる。

ところが、人間は「生き物としてのヘビ」のことをあまり知らない。
「手足がないのになぜ前に進めるのか?」
「ヘビの頭と胴体と尻尾は何が違うのか?」
「ペットとして飼ったら懐いてくれるのか?」
──そんな素朴な疑問に答えられる人は多くない。

本書では、日本で唯一のヘビ専門研究所「ジャパン・スネークセンター」の研究員たちが、この不思議で奥深い生物について、さまざまな角度から解説する。時には話がニョロニョロと脱線し、“蛇足”のような逸話も盛り込みつつ、ヘビの魅力を語り尽くす。

彼らが「主役」となる2025年を控え、必読の一冊!

感想・レビュー・書評

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  • 全世界で約4100種を数えるヘビの生態のあれこれを解説し、さらに全体の2割程度を占める毒ヘビのその毒の種類などについて深掘りし、それからヘビにまつわる事件(違法飼育事件、脱走事件、咬傷事件など)を紹介し、最後に神話や伝承などから人類がヘビに何を見てきたかを辿っていく構成です。

    著者名義の「ジャパン・スネークセンター」は群馬県にある蛇専門の動物園で、一般財団法人「日本蛇族学術研究所(蛇研)」が運営しているそうです。執筆には、研究者四名があたっていました。

    本書で得られる知識の一端を箇条書き的に少しだけご紹介します。

    ヘビには聴覚がない。道にヘビがいてどいてくれないときに、大声で「どいてー!!」などと怒鳴ったり叫んだりしても、ヘビには聞こえないので無意味。

    アオダイショウは50mほどもある鉄塔にもするするのぼっていき、高圧電線と接触してたびたび停電を起こしもするそう。どうして高いところにのぼっていくのかははっきりとはわかっていないとか。僕は北海道の田舎に住んでいますけれども、一年に数回は短い停電があります。これってもしかするとアオダイショウによるものもあるのかもしれないなあと思いました。

    昨今はペットとして買われるヘビですが「なつく」ことはなく「なれる」だけ。蛇にとって生物に対する思考の選択肢は三つしかなく、「餌かどうか(食えるかどうか)」「敵かどうか」「繁殖の対象かどうか」だそう。そしてどれにも当てはまらないと判断したものには無関心になります。ただ、実際は、人間に接したときは敵かどうかの判断になるでしょうから、そこには恐れや怯えが生まれます。でも、攻撃されない、敵視されていないとわかると、ヘビの感覚はどんどん鈍麻していき、人間になれていく。そうする触ることができますが、犬のようになつくことはないのだそう。

    ヘビ毒は大きく三つのグループに分けられる。「出血毒」「神経毒」「カルディオトキシン(心臓毒・循環障害毒)」がそれです。ハブやマムシは「出血毒」系で、この毒が回ると消化器官で出血が起きたり、筋肉や皮下で出血が起きたりする。コブラ科の毒ヘビは「神経毒」系で、毒が回ると呼吸ができなくなり、病院に搬送されて人工呼吸器につながれるケースがいろいろと紹介されていました。また、ブラックマンバというアフリカの毒蛇は、咬んだ相手の体内の神経伝達物質を大量に放出させる毒を送り込み、そのため、相手は神経伝達物質がすぐに枯渇し、麻痺状態になるんだそうです。ナショナルジオグラフィックのテレビ番組で、ブラックマンバに咬まれたライオンがけいれんを起こしているシーンがあったとありました。他、日本にいるヤマカガシは血液凝固作用を起こす毒をもっていて、メカニズムはよく飲み込めませんでしたが、出血が止まらなくなるそうです。

    ヘビの抗毒素(血清)は、2000年ころではマムシが1万7000円で、ハブが3万8000円だったそうですが、近年値上がりしていて、現在ではそれぞれ9万円、24万円という高値だそう。医療保険適用になりますが、一般の3割負担だとしてもかなりの額面になります。しかも、ハブでは1~3本程度使っての治療となるので、そら恐ろしいですね。

    ヘビの人的被害について。種々のヘビについて個別の節で解説してくれていますが、かの有名なキングコブラにはかなり人間がやられているのかと思いきや、人里離れた区域に生息しているため、主な被害者はヘビ使いだそう。繰り返しますが、主な被害者はヘビ使い。

    最後の章では、神話などからヘビと人類の関係を考えていますが、インドの世界観ではヘビは世界を一番下から支えてるイメージがあるんですね。ヘビは宇宙に相当し、そのうえにでっかい亀がのっかり、その亀のうえに亀ほどではないですがでっかい象が何頭か乗って、その象が世界を乗っけている。この図は、検索するといくつもヒットするので、興味のある方は見てみてください。

    アダムとイヴのイヴに青リンゴを食べさせたのもヘビでした。人間の先祖、アダムとイヴは楽園を追われましたけれども、人間は「神様のように善悪を知る者」となりました。ヘビは人間に知恵を授けちゃった存在です。この話に限ったことではなく、ヘビは多様な文化圏で「善悪両面の性質」を持っている役割を担わされています。守護者や知恵の象徴でありながら、危険や誘惑の象徴でもあります。また、日本の一部地域では、「家にヘビが入ると運がいい」とされますし、昔からヘビの脱皮した皮は金運を上げるとも言われてきました。そのほか、再生や回復のイメージがあり、白ヘビとなると財運・知恵・芸術との結びつきを考える向きがあるみたいです。

    といったところです。自治体などからいっさい助成金をもらわずにスネークセンターを経営しつつ研究もしている研究者たちが書いた本です。本書を読んでみると、ここに列記したあれこれをもっと詳しく知ることができますから、興味を持たれた方はぜひ。

    著者たちの語り口がどことなく質実としているなかで、ところどころで素朴なユーモアを見せてくれもして、なごやかな気分で読み進めていくことができました。ときに日向ぼっこが必要な変温動物であるヘビたちは、研究のため、抗毒素のためなどで命をいただかれてしまうことは珍しくないようですが、そういった個体たちに対してはせめてもの温かさであり、展示されている個体たちには陽光のあたたかさにプラスした温かさであるような、研究者たちの熱意とともに個性ある気概のようなものがあたたかく宿る本だった、と最後に結んで終わりとします。

    • ますく555さん
      おびのりさん、ありがとうございます。
      実は年男なので……笑
      というのもあるのですが、長編創作の資料として読んだというのがいちばんの理由な...
      おびのりさん、ありがとうございます。
      実は年男なので……笑
      というのもあるのですが、長編創作の資料として読んだというのがいちばんの理由なんですよ。
      おびのりさんが読まれたヘビがでてくる小説が気になりますねー。
      僕はもう一冊、ヘビの資料的読み物を読み、さらにヘビの出てくる海外小説を読む予定です。
      ヘビに聴覚がないのは意外でしたよね。
      2025/02/05
    • おびのりさん
      白いへび眠る島には 生きているへびは出てきませんでしたʅ(◞‿◟)ʃ
      へびの海外小説全く思いつきません
      レビューお待ちします
      白いへび眠る島には 生きているへびは出てきませんでしたʅ(◞‿◟)ʃ
      へびの海外小説全く思いつきません
      レビューお待ちします
      2025/02/05
    • ますく555さん
      三浦しをんさんの初期作品なんですか。海外作品は古い時代のものです。5,6冊あとになりますが、どんなふうだったか、ご紹介しますね。
      三浦しをんさんの初期作品なんですか。海外作品は古い時代のものです。5,6冊あとになりますが、どんなふうだったか、ご紹介しますね。
      2025/02/05
  • ヘビというと、WHOのロゴマークの医療の象徴にもなれば、イブを誘惑したり、イタリアのアルファロメオやスフォルツァ家の紋章にも登場したり、はたまたヤマタノオロチ伝説もあたったり、と古今東西いろんな意味を背負ってきた生き物だ。この本は、そうした象徴的な“ヘビ像”の背後にある、実際の生き物としてのヘビのリアルを見せてくれる。面白い本だった。

    手足を捨てた構造の中にどんな合理性があるのか、あの滑るような動きがどうして可能なのか。アコーディオン型など3パターンあること知り、進化って「削る方向にも働くんだな」としみじみする。毒にしても、単に攻撃の道具じゃなく、生き延びるための戦略のひとつとして見えてくる。あの静かな目つきの奥にずいぶん理にかなった知性があるものだと感じる。かつ世界で4100種あり、大きさも様々。ヘビと一括りにはできない。

    ジャパン・スネークセンターの人たちが語る口調も妙に温かくて、単なる博物学ではなく、ヒトが共に生きるための観察記のように読めた。ヘビを擬人化せず、でも敬意をもって見つめている姿勢がいい。動物倫理が重視される時代なのでなおさらだろう。あと、ヘビ毒のための抗毒素をつくる苦労はよくわかった。牛で抗体をつくる過程は初めて知り、牛にも感謝せねばならない。

    最後に、ヘビってやっぱり不思議な生き物だなという感想より、「人間のほうが勝手に神話や恐怖を重ねてきただけなのかもしれない」という納得感が残った。ヘビの脱皮じゃないが、むしろ人間の想像力の“皮”を一枚むいてくれる。そんな一冊だった。ダジャレで終わってしまった……

  • とにかく、現場のプロの視点で項目は網羅しておこうという意志を感じる。

  • 1位のヒト、2位の蚊に次いで3位となる。ヒトを殺した生物ランキング。毒を持つのは全体の2割。恐れるのは本能なのか。違法に飼育して、逃げ出す事件は過去に何度も。飼っても懐くことはない。それでもやっぱりこの生き物が好き。十二支の1つ。そして今年はその年。嫌われたり、好かれたり。当の本人は本能に従って行動しているだけ。知っているようで知らないヘビの世界。実は意外に奥深い。群馬県太田市にある”ヘビ専門”動物園。創設から50年以上の日本蛇族学術研究所が管理する。行ってみたい。そして、その魅力にとりつかれてみたい。

  • 巳年という事でお年玉使って購入しました。
    もともと蛇が好きで、飼育している方のYouTube見たりして癒されておりましたので、この機会に新たな一面を知ることができてもっと好きになりました。
    いつか飼育してみたいものです。

  • めちゃ面白かった。ヘビマニアの方からしたら物足りないかもしれないが、生物が好きな人や少しヘビに興味を持った人にはうってつけ。種類についての図鑑的な説明の部分もあれば、ヘビ毒についての分かりやすい解説もあり、読んでいて飽きなかった。医学的に科学的にもっと詳しくヘビ毒を説明すればむずかしいんだろうけれど、この本では理系知識がない一般の人でも理解できる範囲で且つ必要十分な知識を提供してくれている。やはりその生物が大好きな研究者の方が書いた本は面白い。愛に溢れている。

  • 巳年の出版。ジャパンスネークセンターのスタッフが執筆。ある意味身近だが謎の多い生態に迫る。さかなクンのようなヘビをオチに使う文章も面白い。

  • 大変勉強になる一冊で、ヘビに対する解像度が高まり、ヘビへの興味を一層掻き立てられた。特に毒と血清の事情のところについては学びが多く、実際の現場に携わっていなければ知ることが中々難しいであろうことを知られてとても良かった。

  • 序章
    - ジャパン・スネークセンターの紹介:
    - 群馬県太田市にある日本唯一のヘビ専門動物園。
    - 日本蛇族学術研究所(蛇研)が運営、50年以上の歴史を持つ。

    - ヘビに関する研究の重要性:
    - ヘビの生態や咬傷に関する研究を行い、人命救助や害獣対策への貢献。
    - スネークセンター訪問者にヘビの生態について深く説明できる専門家が集結。

    - ヘビのイメージ改善:
    - ヘビのイメージを変えるための活動を行い、来館者に「本当の姿」を知ってもらうことが使命。

    ヘビの生態と特性
    - 一般的なイメージと実際の性格:
    - 多くの人がヘビを「攻撃的」「凶暴」と思い込んでいるが、実際は「神経質」で「臆病」な性質を持つ。
    - 攻撃的に見える種も、実際は逃げることを優先する。

    - ヘビの飼育と展示:
    - スネークセンターには約200匹のヘビが展示され、専門的な管理が行われている。
    - 飼育には手間がかからないため、動物園としての経営が成り立ちやすい。

    ヘビの分類と種
    - ボア科とコブラ科の紹介:
    - ボア科のオオアナコンダやボールパイソンなどが人気。
    - コブラ科はフードを広げる種類と広げない種類に分かれ、威嚇行動の違いがある。

    - ヘビの繁殖行動:
    - オス同士が絡まり合う「ヘビ玉」や、複雑な交尾行動についての説明。

    ヘビの感覚と生理
    - 感覚器官の役割:
    - ヘビは視覚よりも地面の振動や赤外線感知が優れている。
    - 聴覚は発達していないが、地面の振動を感じ取ることで危険を察知する能力がある。

    - 交尾の生理学:
    - ヘミペニスの構造や交尾にかかる時間、クチバシの役割について。

    ヘビの毒と咬傷
    - ヘビの毒の種類:
    - 出血毒と神経毒の違い、咬傷時の影響について詳細に解説。
    - 咬傷後の症状や治療方法についての情報。

    - 咬傷事故の現状と対策:
    - 日本におけるヘビ咬傷の実態、特にマムシやヤマカガシの危険性。
    - 医療機関での治療の重要性、抗蛇毒血清の供給状況。

    社会貢献と研究活動
    - スネークセンターの役割:
    - 社会貢献として、ヘビに関する教育・啓発活動を行っている。
    - 収益の一部を研究活動に充て、ヘビの保護や研究を促進。

    - 未来への展望:
    - ヘビの生態研究をさらに進め、社会に貢献するための取り組みを続ける。

    結論
    - ヘビに対する誤解を解く:
    - 本書では、ヘビの生態や生活習慣の正しい理解を促し、誤解を解くことが目的。
    - ヘビの魅力を伝えることで、訪問者の理解と興味を深めることを狙う。

  • 巳年にちなんで令和7年に出版された本で、ジャパンスネークセンターに属する方(蛇研)が執筆。

    一般向けで新書であるため、内容は幅広く薄い。各テーマ、今ひとつ消化不良。とは言え、毎日蛇に触れている方によるトピックスは新鮮で、唯一無比であり、意外に惹き込まれた。

    読了50分

  • 487-J
    閲覧新書

  • マムシ酒を制ぞy販売する陶陶酒本舗の毬山利久社長が1965年に陶陶酒蛇族研究所を創立(一般財団法人)
    その研究施設としてのジャパンスネークセンター

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