評伝 大村はま: ことばを育て 人を育て (単行本)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (575ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098401192

作品紹介・あらすじ

時代の波にぶれることなく、子どもに本当のことばの力をつけることに渾身で取り組んだ、小さな巨星・大村はま。99年に及ぶ、研鑽と創造、信念と情熱の日々を、その教え子が、いま初めて描き出す。生涯、一国語教師。

感想・レビュー・書評

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    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/54954

  • 大村はまがなぜ伝説的国語教師たりえたのか、そして、それにもかかわらず、なぜ彼女の実践が「例外」扱いになってしまうのか。その理由がここにある。

    「いいと思って真似るなら、丸ごと真似てほしい」。

    大村はま単元学習の実践が全国に広がり、失敗例も増えだした時、大村はまはこう嘆いたという。睡眠を削り、結婚もせず、老いた母の世話も充分にせず、授業に惜しみなく時間と私財を投じた努力家・大村はまの、授業への覚悟のほどと、周囲への妥協のなさがうかがえるエピソードだ。なまじっか意欲と能力のある教員が、可能な範囲で中途半端に大村の実践を真似ることを、彼女は決して許さなかったらしい。

    この評伝では、大村はまの授業に対する取り組みの「鬼」ぶりと、それゆえに彼女が招いた度重なる同僚教員との対立・孤独が描かれる。

    読みながら、もし自分が大村の同僚だったら、後輩だったらどうだろうかと考えていた。自分もそれなりに努力する人間だと思うが、大村のそれには遠く及ばない。育児も家事もあり、時間にも限度がある。おそらくは、大村の要求水準の高さについていけず、挫折し、心の平安を守るために、この人を敬して遠ざけてしまうのではないか。少なくとも自分には、大村を嫌った同僚たちの心情がわかる気がする。単純に「出る杭を打つ」とか「ねたむ」というレベルではなく、大村の存在自体が、多くの同僚にとって教員としての自己を脅かすものだったのだと思う。

    著者は、大村はま国語教室の教え子であり、晩年の著者の世話を手伝っていた人物。その筆致は温かだが、冷静さも失っていない。この評伝自体が、大村はま国語教室の大きな成果と言えるだろう。国語教師の人はもちろん必読。授業についての考え方だけでなく、大村はまの生き方からも、色々考えさせられることが多い。

  • 伝説の国語教師・大村はまの波瀾に満ちた生涯と教室での取り組み。非常な能力を持つ人が非常な真摯さで向き合う迫力に打たれるが、それを受け入れられない現場の気持ちも理解できてしまうのが哀しい。

    ともあれ、あざやかに描かれる教室の様子を読むにつけ、たとえこの地点に到達できないとしても、国語教師として生徒にことばの力をつけさせることに本気で取り組んでいこうという思いを新たにした。教え子である著者がこのような本を書いたという事実が、大村教室のひとつの成果なのだと思う。

    「仏様の指」の話には深く共感した。私もそのようにありたい。

  • 大村はまの98年の生涯を見事に描いた力作。子どもたちの生きる力を国語力に託して、本気で、一心に身につけさせようとした大村の実像が、心を打つ言葉で語られている。
    こういう向上心に富んだ一生懸命に生きる人は、日本から消えて久しい気がする。そういう資質をもつ現代の子どもたちを絶滅危惧種にしないためにも、多くの人に本書を一人静かに読んでもらいたい。勇気のDNAが引き継がれるだろう。

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