雪国 (新潮文庫)

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感想 : 812
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001012

感想・レビュー・書評

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  • 二月はじめの頃、雪を見て思わず再読していた本

    十代終わり頃に一度、たしかに読んで
    良かった印象があるのですが、ほぼ忘れてまして…(笑)
    また、すっかり忘れないようにと…
    レビューしておきます(笑)

    東京で暮らす島村という
    妻子持ちの男性が
    雪国に訪れ
    そこで出会う芸者の駒子や、
    健気な葉子にも惹かれる様子が
    描かれる作品ですね

    島村の目を通して
    二人の女性の立ち居振る舞い、美しさの描写や
    それぞれの会話の様子や…心理描写などや
    雪国の情景描写なども繊細に美しく綴られています

    登場人物達の関係性は複雑微妙で、
    それぞれにやるせない人間模様を感じさせられます…

    いろいろ詳しく語られていない…
    読者の推察にまかせているような部分も多いので…
    それで想像をかきたてられてしまって
    気になってしまうような幻想的な世界観の作品です…

    そしてこの作品は
    文章がとても、美し過ぎなんですよね…!
    こんな表現するんだぁ…と惹き込まれてしまいます

    有名な書き出し部分の文章も印象深くて好きですが
    気になるような文章が
    たくさん散りばめられてます!

    「夜の底が白くなった」
    「石の多い川の音が、円い甘さで聞こえてくる」
    「しーんと静かさが鳴っている」
    「彼女の眼は、夕闇の波間に浮かぶ
    妖しくて美しい、夜光虫であった」
    「一心込めた愛の所業は、いつかどこかで
    鞭打つものだろうか」
    「なんとなく好きで、その時は好きだとも言わなかった人の方が、いつでも懐かしいのね。忘れないのね。
    別れた後ってそうらしいわ」 等々…

    ストーリー的には
    夜空の中の火事のシーンが
    衝撃的で印象深いですね…!
    あまりにも唐突に始まり、いきなり終わるような感じも、とてもあとを引かせます…

    天の河と冬の村の描写があまりにも美しく
    映画を観ているかのようで…

    「この子、気がちがうわ、気がちがうわ」
    と、いう駒子の叫び声…
    … さあと音を立てて、天の河がしまむらのなかへ 流れ落ちるようだった…

    きっとしばらくの間…は
    この場面、私の頭から離れない気がします…

    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      つくねさ〜ん、こんばんは♪

      うちの方はあまり雪降らなくて
      積もるのも珍しいだけに…
      一面の銀世界って非日常で、
      神秘的で幻想的な世界に思え...
      つくねさ〜ん、こんばんは♪

      うちの方はあまり雪降らなくて
      積もるのも珍しいだけに…
      一面の銀世界って非日常で、
      神秘的で幻想的な世界に思えて
      心惹かれてしまいます…(笑)

      雪山といえば、私の場合は
      スキー場に少しだけ行った位!
      小6頃から20代前半位までの
      少しだけしか…行ってませんけど
      雪山って綺麗で好きですね…

      〈雪国〉名作ですよね…
      機会があれば…
      良かったら……是非 (笑)
      2024/03/04
    • つくねさん
      青空文庫にあるかと思ってたんですけど
      まだ著作権切れてないのですね。
      青空文庫にあるかと思ってたんですけど
      まだ著作権切れてないのですね。
      2024/03/04
    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      そうみたいですね、
      著作権切れてないみたいですね…
      そうみたいですね、
      著作権切れてないみたいですね…
      2024/03/04
  • 古典的な書き方でないとこのような繊細さは表せないと思う。
    雪国の寒さや寂しさが、女性の温もりや滑らかさを際立たせていて、その中にある光を頼り、縋り、不安定ながらも身を預けたくなる。

    彼女らが傍にいない時の心の穴が空いたような気持ちが、とても心細くて不安でたまらなくなる。
    いないと寂しいくせに、いる時はいたずらしたくなる。本当は離したくないけれど、一緒になると自分は迷惑をかけてしまうのではないか…。
    島村の、不器用な性格と情景とが似合っている。

    川端康成さんの作品、他も見てみたくなる。
    この時代の空気感というか、多くは語らない雰囲気、とても好き。

  • 1968年10月17日、川端康成のノーベル文学賞受賞が決定(文豪今日は何の日? より)
    ってことで『雪国』を。
    ざっくりとしか…というより、ラストを知らなかった自分に気付く 笑

    まず読み終えて思ったのは、私ごときの持ち得る語彙ではレビューを表現しきれないということ。
    確かに強く受け取ったこの気持ちがあるのに、上手く言葉にできない。
    いやこれ、凄いぞ!

    「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」はあまりに有名だけれど、そのあとに続く短い文章も味わい深い。
    「夜の底が白くなった」が、それだ。

    「悲しいほど美しい声」と「徒労」が数多く繰り返されているのに気付き、付箋紙を立てる。

    島村が、はっきりとこの女(駒子)がほしいだけなんだと自覚するシーン、風景描写が印象的だった。
    「蝶はもつれ合いながら、やがて国境の山よりも高く、黄色が白くなってゆくにつれて、遥かだった」
    とても清々しく、何か吹っ切れたような島村の心の動きを絶妙に捉えている。

    「嘘のように多い星は、見上げていると、虚しい速さで落ちつつあると思われるほど、あざやかに浮き出ていた」
    鳥肌が立つほど美しい表現に思えた。

    この小説、本当に冒頭から凄まじい表現力に圧倒される。
    「二人は果てしなく遠くへ行くものの姿のように思われたほどだった。……夢のからくりを眺めているような思いだった」や
    「山の感傷が女の上にまで尾をひいて来た」など。

    登場人物たちの内面にも通ずる風景描写が美しい。
    容姿や仕草の魅力を伝える美しい表現。
    風景描写に、作中ではあまりハッキリと伝えられることの無い島村・駒子の内面が滲み出る。
    読者は、文字の並びからではなく持ち得る心で、島村や駒子の内面の変化に揺さぶられてゆく。
    詳しくは描かれていないが、島村は妻と子がおり、親の残した財産で駒子の居る地にも足を運べる。
    駒子は芸者。
    島崎にとって、国境のトンネルが異世界への入り口のような役目を果たしているように感じられる。

    島村の言った「いい女だね」を駒子が聞き間違えるシーン。
    これは聞き間違いというより意味を取り違えたということか?
    駒子は、性的に都合のいい女のような意味合いに受け取ってしまったということか?

    蚕のシーンが暗示するものとは何か。
    蚕は蚕部屋で黙々と桑を食べ、糸を吐き出す。
    幼虫のうちに一生分の餌を食べ、ふ化して成虫になると交尾をして卵を産むと数日で死んでしまうらしい。
    私には、駒子も閉ざされたこの雪国で、芸者という役割を果たし、この地で朽ちてゆくことの暗示に思えた。
    「蚕のように駒子も透明な体でここに住んでいるかと思われた」

    駒子・葉子・行男は三角関係にあったのか。
    こちらについてもはっきり書かれていないけれど、あったのだろうと思えた。
    しかしそれを島村は徒労だと考える。
    「駒子が息子のいいなずけだとして、葉子が息子の新しい恋人だとして、しかし息子はやがて死ぬのだとすれば、島村の頭にはまた徒労という言葉が浮かんで来た」

    それに、駒子と葉子は写し鏡のような存在にあると感じられた。
    冒頭、列車のガラスに映る葉子の妖しく美しい夜光虫のような眼に射抜かれ、悲しいほど美しい声に惹かれるが、
    そもそも、久方ぶりに女に会いに来たのだ。
    時折いじらしさを見せたり、お酒に飲まれたり、それでも芸者として凛とした生き方の駒子。
    川端は島村が惹かれる駒子に対し「清潔」という言葉を幾度も使う。
    葉子はというと、妖しげな魅力を放つ不思議な存在だ。読者にも、なかなか内面まで読み取れない。
    その一方で、病に伏せる行男に対し献身的に世話をしている。
    冒頭のガラス越しの葉子のシーンといい、作中にある鏡越しの駒子のシーンといい、鏡が印象的に使われている。
    葉子は不思議な存在だ。
    思うに、この土地では、いびつであっても3人のトライアングルがきちんと形成されていたのではないか。
    他者を寄せ付けない、3人にしか分からないバランスで成り立つトライアングル。
    私には、別の地から訪れた島村がひびを入れたように見えた。

    ラストは怒涛の展開。
    暗示的に天の川が用いられて、ラストは終始天の川と火事の描写だが、天の川といえば結ばれることの無い彦星と織姫。
    それは島村と駒子に重なる。
    毎年限られた季節だけ合瀬を重ねていた二人だ。
    「島村も振り仰いだとたんに、天の河のなかへ体がふうと浮き上がってゆくようだった。天の河の明るさが島村を掬い上げそうに近かった。………恐ろしい艶かしさだ。島村は自分の小さい影が地上から逆に天の河へ写っていそうに感じた。」
    ここでもまた鏡効果が用いられている。
    「しかも天の河の底なしの深さが視線を吸い込んで行った」
    山深い土地であるから普段から星は多いが、先に出てくる星空の描写とは明らかに違う。
    先にも挙げた、「嘘のように多い星は、見上げていると、虚しい速さで落ちつつあると思われるほど、あざやかに浮き出ていた」(P37)が、それだ。
    そして繭倉が火事だと知り、「天の河が垂れさがる暗い山の方へ駒子は走っていった」のだ。
    平然と「天の河?きれいね」と言う駒子に対し、
    島村は「駒子の顔が古い面のように浮かんで」、「天の河はまたこの大地を抱こうとしておりて来ると思える」のだ。
    燃える繭倉を見ながら駒子は島村の手を握るけれど、駒子につと手をやりそうになった島村は指先が震える。
    島村の震え。
    これは、戦きだ。
    燃え盛る火の粉も「天の河のなかにひろがり散って、島村はまた天の河へ掬い上げられてゆくようだった。煙が天の河を流れるのと逆に天の河がさあっと流れ下りて来た」
    そして島村はなぜか、「別離が迫っているように感じ」るのだ。
    凄いシーンだ。
    天の河は美しいのに、島村には恐ろしい。
    そして火事。
    頬に炎の熱風を感じながら、ぞっとして寒気さえ感じそうだ。

    緊迫のシーンは更に続く。
    繭倉の2階から葉子が転落するのだ。
    「この子、気がちがうわ。気がちがうわ。」
    葉子は気がふれてしまった。
    葉子を胸に抱える駒子。
    その一方で島村は、葉子を抱き取ろうとする男達に押されてよろめく。
    気圧されて近付けないといった感じか?
    「踏みこたえて目を上げた途端、さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった」
    怖い描写だ。
    宇宙の闇が自分の中に落ちてきたような大きな不安感、虚無感、ひんやりとした冷たさと"ぼっち感"。

    作品を通して暗示が幾重にも重なって、
    物凄い作品に思えた。

    物語は火事のシーンで終わり、2人の行く末は書かれていない。
    けれど多分、決定的な別れだと思う。
    駒子の生き様が凛々しい。
    二度と島村と会うことがなくても、葉子の面倒を見なければならなくても、駒子には芸者として大成して欲しいと願ってしまった。

    • おびのりさん
      驚いたことに、文庫本の写真が、私が登録した時と変わっています。
      (内容に触れないでごめんなさい。忘れちゃったの。)
      そして、私は伊豆踊り子を...
      驚いたことに、文庫本の写真が、私が登録した時と変わっています。
      (内容に触れないでごめんなさい。忘れちゃったの。)
      そして、私は伊豆踊り子を再読した時、ラストを忘れていてびっくりしました。
      2023/10/17
    • 傍らに珈琲を。さん
      あ、ですよね!?
      これ積ん読山から掘り返して読んだのですが、
      私が持ってる文庫はまさに雪国!っていう、深々と降り積もる雪の風景です。
      だから...
      あ、ですよね!?
      これ積ん読山から掘り返して読んだのですが、
      私が持ってる文庫はまさに雪国!っていう、深々と降り積もる雪の風景です。
      だから私も今、登録してびっくりです。
      2023/10/17
  • 美の表現が極まり一つの美しい芸術作品であった。終始感嘆させられた。

    • りまのさん
      あや子さん
      2021.1.7. フォローに答えて頂き、ありがとうございます!よろしくお願いいたします。
      あや子さん
      2021.1.7. フォローに答えて頂き、ありがとうございます!よろしくお願いいたします。
      2021/01/07
    • あや子さん
      りまのさん
      はじめまして、こんにちは。
      こちらこそ、いいね!とフォローありがとうございます。とても嬉しく思います。またレビュー拝見させて...
      りまのさん
      はじめまして、こんにちは。
      こちらこそ、いいね!とフォローありがとうございます。とても嬉しく思います。またレビュー拝見させて頂きます。どうぞ宜しくお願い致します。
      2021/01/07
  • 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」は、日本文学史の中でも屈指の書き出し。余談ながら、富山から東京へ新幹線移動の場合は、越後湯沢で乗り換えなので、越後湯沢の雪深さが現実感としてあらわれてきました。(笑)
    実は物語らしい物語はなく、背景や経緯も読んでいてあまりよくわからないのですが(笑)、情感たっぷりに雪国の風景を描写した中で交わされる島村と駒子の会話が、しっとりとした面白い風情を感じさせ、ぐいぐいと引き寄せられました。駒子が島村にまとわりつく様子も嫌味でなく、本来は鬱陶しいはずの言動も(笑)、雪国の景色の中へとけこんでいくような感じ。
    四季のうつろいと蛾の生死の有様の対照化や、女性の美を鏡に反映させて描く筆致は見事です。
    ラストは余韻がかなり残る終わり方ですが、その後を描いていくよりはむしろ、大舞台の中、情感を最高潮に達したところで終わりにする心憎い演出ではないかな。(笑)しっとりとした美を描く日本映画、といった趣の作品でした。

    • だいさん
      >女性の美を鏡に反映させて描く筆致は見事です。
      私も川端の女の描写はすごいと思います。
      >女性の美を鏡に反映させて描く筆致は見事です。
      私も川端の女の描写はすごいと思います。
      2013/05/26
    • mkt99さん
      先日、「川端康成 ・東山魁夷コレクション」という展示会を観てきました。川端コレクションを観ていますと、川端の審美眼を通した「女性像」というも...
      先日、「川端康成 ・東山魁夷コレクション」という展示会を観てきました。川端コレクションを観ていますと、川端の審美眼を通した「女性像」というものがあるのかなと思いました。
      2013/05/26
  • 『作家の本棚』で角田光代さんの本棚にこちらの本があったので読みたくなった。
    親の遺産で生活、妻子がいるのに他の女性に現を抜かす体たらくな島村と駒子との悲哀の伴うやりとり、美しい声の持ち主葉子の登場で一層せつなさが募る。
    紅葉を赤錆色とし、「紅葉の錆色が日毎に暗くなっていた遠い山は、初雪であざやかに生き返った」叙情的美しさを引き立てる文章を何度も読んで味わう。
    雪の季節でモノクロの風景の中に、女性を特に赤で表現する鮮やかさでひと際美しさが際立つ。「白い陶器に薄紅を刷いたような皮膚で、首のつけ根もまだ肉づいていないから、美人というよりもなによりも、清潔だった。」
    「肉の盛り上がった肩に黒い襟巻を巻いて、娘は全く燃えるようにみごとな血色であった」
    「背に吸いついている赤い肌襦袢が隠れた」
    舞台となった越後湯沢へいつか行ってみたい。

    • なおなおさん
      ベルガモットさん、こちらでもこんばんは。1年ぶりでしょうか。
      ここ最近はこの時期に湯沢に行くのですが、今年は行けず。まず子どもの学校が明日ま...
      ベルガモットさん、こちらでもこんばんは。1年ぶりでしょうか。
      ここ最近はこの時期に湯沢に行くのですが、今年は行けず。まず子どもの学校が明日までありますし…(T_T)
      今年は、「トンネルを抜けるとそこは……」のリポートができないのが残念(-_-;)(笑)
      「雪国」も読まなきゃ!
      2023/12/24
    • ☆ベルガモット☆さん
      おおお、なおなおさんコメントありがとうございます!
      メリークリスマスヾ(*´∀`*)ノ
      1年ぶりになるのですね、時が過ぎるのは早いですな...
      おおお、なおなおさんコメントありがとうございます!
      メリークリスマスヾ(*´∀`*)ノ
      1年ぶりになるのですね、時が過ぎるのは早いですなあ
      お子さんの登校は明日までなんですな、湯沢旅はおあずけだなんて…
      北陸旅、妄想で楽しんでます。いつか桜か紅葉の時期に行けたらいいなあと思ってまーす。
      2023/12/24
    • なおなおさん
      ベルガモットさん、メリークリスマス!
      ほんとに1年経つのが早いですよね。
      湯沢に行けない代わりに、スキー場情報を見ております。天気とか積雪状...
      ベルガモットさん、メリークリスマス!
      ほんとに1年経つのが早いですよね。
      湯沢に行けない代わりに、スキー場情報を見ております。天気とか積雪状況、スキーライブカメラとか。かえって悲しくなりますが、私も妄想で旅を楽しんでおります(^^)
      2023/12/24
  • 日本人初のノーベル文学賞を受賞した作家の初期の代表作。
    情景描写が美しく、昭和初期の湯沢に自分もいるような感覚でした。
    あえて細かく描写されない部分もあり、理解するのには少し時間がかかりましたが、世界観を感じることはできました。
    読み終わると、冒頭の一文の意味の深さを感じました。

  • ・2002年に通読したという備忘録が残っているが、たぶん中学生で挫折し、高校生で通読したはいいがよくわからず、大学生で再読してなんとなくわかった気がしたのだと思う。今回は、よりひしひしと。
    ・時系列でいえば3段階なのだ。この点もおそらく中学当時にはわかりづらかったのだろう。

    ・そして、左手の人差し指の記憶、というエグいエロスをさらっと書くことの憎さに、たぶん20年前もピンと来なかったのではないか……童貞だったし!
    ・また、「こいつが一番よく君を覚えていたよ」とよりにもよって再開時の一言目が臆面もなくそれかという非道さは、笑うしかない。「友だちにしときたいから、君は口説かないんだよ」という嘘の非道さも、また。
    ・そりゃ「あんた笑ってるわね。私を笑ってるわね」と詰られても仕様がない。また、199日目と数字で訴えられても、仕方ない。
    ・汽車、夕景色、窓ガラスが鏡になって、映画の二重写し……については、その後自分が通勤電車に揺られるときに思い出していたので、二十年弱川端の視点と共にあった、と言える。
    ・「徒労だね」というキーワードがあるみたいだが、視点人物が自らその言葉をキーワードに設定していた節があると思う。若さを喪い、かといって家庭人として成ることもできない、無為徒食というやはりモラトリアム的な……今風にいえば「大二病」なのだと思う。
    ・それに対して駒子、日記をつけて文化的であろうと噛り付く気概があったり、妊娠を想ったり(199日目というのも、日記上で数えていたのだろう)、帰ってと言ったかと思いきや、いてよと言ったり、酒で我を失ったり……、視点人物よりよっぽど「生きている」「もがいている」と感じた。少年にはまったく見えなかった魅力が、中年男性になって見えてきたが、中年女性はどう見るんだろうか。この女性に「一年に一度でいいからいらっしゃいね」と言わせる作者の鬼畜。行男の死に目に遭いたくないという思いは、半分はわかるけど半分は全然わからない、その点を全的に感じ取れる読者が、世の中にいると考えると、いつ誰がどんな状態で読むかによって生起する読書が異なるという現象が、面白い。
    ・で、中年男性として視点人物にも(愛憎半ばで)わかるっ/酷いっ、と思うのが、「ああ、この女はおれに惚れているのだと思ったが、それがまた情けなかった」という記述。こんなふうに男女の関係を断言してしまうって、人として終わりじゃないかしらん。まあ、「彼は昆虫どもの悶死するありさまを、つぶさに観察していた」と語り手=作者に語らしめる視点人物の異様さ……語り手と視点人物はこの時点でほとんどそっくりなので、川端があの眼の異様さを自身で語るという記述になっているのだが、もう凡百の柔弱な男には辿り着けない(辿り着きたくない)極北にいるのだと思う。感情移入できるかできないかで判断すればこの小説大っ嫌いという人もいるだろう。しかし、まずは文章の運びで読ませる。そしてポリコレの時代ますます男性が言いにくい本音が、当の男性にとってすらギョッとするレベルで描かれているので、捨て置けない。

    ・ところで本書で視点人物が見る女性について順番で並べてみたら……葉子駒子駒子駒子駒子駒子葉子駒子葉子駒子、という感じ。10分の3くらい記述に割いた葉子の描写が、読み手がたじろいでしまうくらい鮮烈なのだ。「東京に連れて帰ってください。駒ちゃん(に)は憎いから言わないんです」と。冒頭で、まるでフェアリイかアイドルかのように見えた葉子が、急に地金を見せつけてきた瞬間の視点人物と同じ眉の顰め方を、読んでいてしたと思う。オボコな少女と幻想をかぶせていた相手が意想外の意思を差し出してきた時の驚き……人が一人いれば当然なのに、つい相手を見下すことで愛でる心理的機序がある。
    ・だからこそ「君はいい子だね」を連発して、「行っちゃう人が、なぜそんなこと言って、教えとくの?」と復讐される。男の身勝手への激烈なアンチも含まれているが、……
    ・「さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった」と、ひとり自然と感応して陶酔する身勝手さを、感じた。冷酷だ。でもだからこそ成立する美しさでもある。

  • 久しぶりの再読。
    自分が二十歳頃に読んだ時、世界に吸い込まれていく感覚で、とても感動したのを覚えている。
    あの頃の私は感性が鋭かったのか。
    大人になった今、そこまでの感動は得られなかった。
    ただ、文章の美しさ、ひとつひとつの素晴らしい言葉のセンス、情緒たっぷりに描かれる雪国の風景や季節の移ろい。
    島村の眼を通して表現される駒子と葉子。
    必死に生きる女たちの美しさの表現。
    そんなものを少しは感じ取れるようになったのかもしれない。

  • 夏?に購入したので
    冬になるのを待ち読了

    読んでて村上春樹さんの
    「ノルウェイの森」を思い出した

    どこかふわふわしている主人公
    2人のキーとなる魅力的な女性
    印象的な火事のシーン


    当時の情景や風俗が
    あまり上手くイメージ出来ず
    昭和が遠くなったと感じた

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著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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