名人 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001197

感想・レビュー・書評

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  • 実際にあった本因坊秀哉名人の引退碁試合をベースに描かれた小説とのこと。名人の死を微細に描く始まりから、時間を引退碁興業試合時点にまで戻し、その死に至る試合をなぞることで、碁の盤面上の世界を無機質に表現している。
    ここで描かれる秀哉名人は、物腰が柔らかい半面、囲碁・将棋・連珠・競馬といった勝負事に狂う餓鬼道一直線の人物である。いにしえの芸道の頂点としての「碁名人」として、そのクライマックスを賭けて戦う姿は、勝負と芸能美が一体となった前近代の達人そのものだ。
    これに対する大竹七段は、現代碁の試合を生きる繊細で研究肌の人物として描かれ、名人最後の試合相手として対称となっている。
    半年にわたって継がれた一局の対戦を、秀哉名人の前近代名人の発想と死と隣り合わせの病気、そして試合の申し合わせを簡単に反故にすることの憤りから対戦停止を言い張る大竹七段という図式の中で、とにもかくにも進んでいく。
    あまり囲碁を知らなくても読めるかなと思ったのですが、終盤は試合内容の細かい描写が続くので、やっぱり囲碁を知っていないと少し苦しかったです。(笑)
    死を賭けた無機質な勝負の世界を、人間世界の思わくに彩られながら、筆者自身が仮託した人物の目を通して硬質な文章で描く。ところどころに挿入される色彩感覚も見事です。

  • 名人と同様、挑戦者の大竹七段もまた、難しい立場で、懊悩しながら碁を打っていたことが印象に残った。

    碁界の最上位に位置する名人は、棋士として有終の美を飾らんと、病を押して打ち続ける。文字通り命を削って碁盤に臨む様には頭を垂れずにはいられない。その反面、自身の碁をとりまく周辺環境に関しては自らを中心に廻っていたと言っても過言ではない。対局日や場所等、全てが名人の意向をまず忖度される。些か身勝手と思われる要望も道理を除けて通っていたりと、碁を打つことそのものに対するストレスは殆ど無かっただろう。

    一方、大竹七段にしてみれば、真剣勝負の最中にあっても相手の体調への気遣いや配慮の情を持たざるを得ず、やり辛くて仕方なかったであろう。かといって、次代を担う数多くの棋士達の代表としてその場に臨んでいるという義務と自負もあり、浦上記者が言う通り、おいそれと勝負を投げてしまうわけにもいかない。大病ではないものの、常に身体不調を抱えていた七段もまた、極限状況の中で戦っていたといえるのではないだろうか。

    それでも、決着に向けて歩みを止めない、止められない両者の姿は、求道者が持つある種の神々しさすら感じさせる。碁に命数を捧げ、碁を取り巻く係累から脱けられなくとも、一意に前へ進まんとするそのストイックさには只々敬服するばかり。

  • 死の近い名人の引退碁を観戦記者として見つめる。著者曰く「碁は素人」だから、視線を棋士に注ぐというが、勝負の趨勢は疎かにされていないし、両対局者の描写と著者の所感は、客観的で抑制が効いている。半年間というゆったりとした対局の中、淡々と記述は進むが、終わり近く、「降りる」という挑戦者を著者が留める場面、そして敗着となった名人の一手、そこにまつわる考察は、クライマックスを劇的にしている。一人の名人を描いた事でこれは文学作品なのかもしれないが、囲碁を全く知らない人にも、そこで何が起きているのか直ぐに腑に落ちるほど文章が明解で、かつ観戦記に留まらない叙述性がある。川端康成を読みたい人は、有名な「雪国」等より、この作品から入るのも良いと思う。

  • 碁打ちでなくとも楽しめる、ヒカルの碁のような作品。

  • 囲碁のルールはほとんど知らないのに、非常に面白く読めました。

  • 2019年3月30日、13頁まで読んで返却。

  • 遠い世界のように感じる囲碁の世界。そこで繰り広げられる勝負の機微。久方ぶりの川端作品との邂逅でしたが深いものですね

  • 囲碁のルールが全く分からない私が読んでもなかなか面白い小説だった。序盤で対戦結果が分かるので変なハラハラドキドキ感もなく一語一語落ち着いて読み進めることが出来た。
    長さも長すぎず短すぎずで読みやすい。

  • 不敗の名人、本因坊秀哉について描かれる。一芸に打ち込むことは美しい、たたえられるべきことに思われるが、本人にとってもそうなのか。客観的にみればそれは悲劇なのかもしれない。しかし、そんな生きざまにあこがれてしまう部分もある。川端康成の文章の静謐さと、名人の碁の凄みには共通するところもあるかもしれない。

  • とてもよかった

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著者プロフィール

1899年生まれ。1920年東京帝国大学文学部英文学科に入学(のち、国文学科に転科)。1921年第六次『新思潮』を創刊。『伊豆の踊子』や『雪国』などの作品を残す。1961年文化勲章受章。1962年『眠れる美女』で毎日出版文化賞受賞。1968年10月、日本人初となるノーベル文学賞受賞が決定する。1972年没。

「2017年 『山の音』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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