眠れる美女 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 2784
レビュー : 302
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001203

作品紹介・あらすじ

波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女-その傍らで一夜を過す老人の眠は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作『眠れる美女』のほか二編。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルの「美女」は何で「美少女」じゃないんだろう。きっと表情に幼さを残した十代のきむすめたちも、薬か何かで一晩中眠らされたまま老人と一晩を過ごす、その自分が置かれた環境とそうしなければ生きていけない境遇に対して、否応なしに大人にならなければならなかったからじゃないかな。少女のままでいられなかった。でもそれは勝手にわたしが思っているだけで、けっして本当のところはわからない。だって少女たちはけっして目を覚まさない。老人たちの「生きている人形」として横たわっている彼女たちの意志はどこにも見当たらないのだから。

    海辺の宿屋では、みずみずしい肉体をもつ美少女が眠る。目を覚まさない少女の傍では、ただ共に眠るだけの一夜を過ごす老人がいる。
    全裸の娘から伝わる体温と肉体が放つ匂いを感じながら、老人はそう遠くない未来に訪れるはずの「死」を見つめるようになっていくように思う。強烈な生命の輝きは物言わず陰に潜んでいる死をも炙り出す。
    若く美しい命は「眠り」という器に閉じ込められ、男でなくなった老人へ「生きた人形」として差し出される。けっして人形は傷つけられたり痛めつけられることもない。なのに、その小さく歪な世界には仄暗く妖しげ時間が流れ、老人は情欲を煽り立てられる。眠っているだけの美少女が、目を覚まして話をしたり抱き合ったりする女よりも、これほどまでに官能的で崇めたくなるほどにエロティックなものとして描かれていることに感嘆する。そしてなんでだろう。老人が眠れる少女たちへと執着していくほどに「死」を思い浮かべてしまうのだ。たぶんそれは心のどこかで目を覚まさないこと=永遠の眠りを暗示しているように思えるからだ。ただその死は恐れとも嫌悪とも違う、魅惑的で倒錯的なエロティックなものとして。

    すでに男ではない老人たちとは違い、自分はまだ「安心できるお客様」ではないと自負している江口は、少女たちを通して過去の女たちを思い出していく。そして物語最後の夜に自分の最初の女は「母だ」と母のいまわに胸をなでたこと、幼い日に若い母の乳房をまさぐって眠ったことを思い浮かべる。さらに夢で見た家をうずめるほどの赤いダリアのような花。その花の色と宿屋の真紅のビロードのカーテンに命の脈動を感じた。懐古と追憶、そしてエロティックな色。同時に江口にある人物の死が突然訪れることになるが、宿屋の女の非道な一言を受け入れた江口。この場所が普通とは俗世間とは違う価値観で存在していることに改めて気づくことになる。江口はもう後戻りできないところまできてしまった。その魅力に憑りつかれた江口にとって、今はもう性と死はどちらも始まりと終わりであってメビウスの輪のようなものなのかもしれない。

  • 天才とナントカは紙一重と言うけれど、脳みそのどこをどう押したらこんなストーリーを思いつくのかと驚愕しました。女性の描写は美しくただそれだけで読み応えがありますが、いかんせん私としては主人公の気持ちと同化することが出来ず。
    『片腕』が3編の中で1番好きです。シュール感強めでした。

  • デカダンス文学の傑作と言われる作品。
    読もうと思ったきっかけは、原宿ブックカフェという番組で浅田次郎さんが“人生を変えた一冊”に挙げていたのを観たから。

    薬か何かで眠らされた少女と、添い寝して一夜を過ごすことが出来る部屋。知人から聞きつけた江口老人は、ある日そこを訪れる。
    奥の部屋の布団に眠る若い女は一糸纏わぬ姿で、そしてどんなことをしても絶対に目覚めない。
    そこを訪れるのは大抵、もはや男性としての機能を失ってしまった老人ばかりであるが、江口老人はまだ完全に機能を失ってはいない。
    隣に眠る若い女を犯して破壊してやろうかという衝動にも襲われるが…。

    直接的な肉体の交わりのないエロティシズムが却って妖しさを引き立てていて、死が見え始めている老人が若い肉体を目の当たりにした時に感じる寂寥感がそこはかとなく漂っていた。
    その妖しげな家にいる女主人が最後に放つ一言が、凄まじく悲しい真理だった。

    他に二編収録されている中の一編「片腕」は一人の男がある女性から片腕を借りて家に持ち帰る物語なのだけど、表題作同様、現実離れしていて不思議な物語だった。
    三作目の「散りぬるを」はひとつの殺人事件を小説家が語るつくりで、これだけは雰囲気が全然違った。

    解説を三島由紀夫が書いていて豪華。とても絶賛している。
    発想力も文章力も凄い。昔の文豪が残した傑作はやはり面白い、と思わされた一冊。

  • 「雪国」に続いて「眠れる美女」にチャレンジ(笑)

    日本文学作品には苦手意識があって、学校の授業以外ではほとんど読んでいない私が、イイ大人になったのでチャレンジして、今年の始めに読破できたのが「雪国」だ。
    調子に乗って他の作家のものも色々手にとってみたが、どうにも途中で挫折してしまい中途半端になっていたので、川端康成氏に戻って別の本を読んでみようと手に取ったのがコレ。正解だった。

    たぶん私は川端康成氏の文中の表現や世界観が好きなのだと思う。人のこころの危うさのようなものが。

    本書は「眠れる美女」「片腕」「散りぬるを」の3編から成る短編集である。

    「眠れる美女」のあらすじは、
    波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女-その傍らで一夜を過す老人の眠は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している-。(作品紹介より)

    読みながら頭に浮かんだのは「耽美なエロティシズム」という言葉。

    若く美しい女たちの肌を表現するというひとつとってもその言葉選びが美しい。また、枯れ行く老人の心情が切実に伝わってくる。
    まさに、生と死が布団に並んで横になっている姿を見るようだ。

    「片腕」は、ホラーかよって思って読み始めたが、フェチだなこれは。究極の腕フェチ。私にはない感覚なので、いまいち共感はできないが、やはり美しかった。ラストはやっぱりホラーだったけど(笑)

    「散りぬるを」は、うーん。これは作者の目線そのもので書かれているのだろうか?という感じ。やはり危ういのだが現実っぽすぎて、美しさが足りない気がした。

    他の作品もまた、読んでみたい。

  • 『眠れる美女』『片腕』『散りぬるを』の3編から成る短編集。
    『眠れる美女』『片腕』が印象的。
    2作品共、性的描写は出てこないのに、文章全体から醸し出される官能的な妖しさにドキドキしてしまう。

    『眠れる美女』に心奪われ年甲斐もなくオタオタする江口老人。
    その汚れなき美しい肌に触れたくてもなかなか触れることもできず、添い寝の途中で起きはしないかとハラハラしっぱなし。
    美女の弾ける若さに対して己の老いを痛感する。
    そして眠れる美女の隣で、江口老人は過去の女達に思いを馳せる。
    ラストの宿の女の一言はとても衝撃的。

    「片腕を一晩お貸ししてもいいわ」娘のサラリとした一言で始まる『片腕』。
    尋常ではない設定にも関わらずコミカルに物語が進むので違和感なく読める。
    男は娘の可憐なやわらかい腕を事細かく観察し堪能する。
    こちらの男もまた、娘の体の一部を娘の身代わりのようにもてなし添い寝して喜びを感じる反面、己の孤独を痛感する。

    老い、孤独…年老いた男達の哀愁をチクリと鮮やかに皮肉る川端康成の筆力はやはりただ者ではない、と唸るしかない。
    そして解説があの三島由紀夫…最後の最後まで気の抜けない贅沢な文庫本。

  • 理解しようとしても、今は無理だろう...
    江口老人が、夜毎娘たちの元へ訪れる所業にである。彼は「生の交流、生の誘惑、生の回復」だと言う。恥も外聞もなく、その枕元に立つ事が死を目前にした者たちの死生観なのか...若い柔肌への関心は「生の執着」ではなかったか...

  • 川端康成は『雪国』だけを読み、美しいけどうーん…というのが私の印象であった。ガルシア=マルケスの『わが悲しき娼婦たちの思い出』がこちらを下敷きにしているというところからしった作品である。表題作とほか中編が2つ。あぁ、なんと美しく面白いのか!!裸のうら若き熟睡しきった生娘と添い寝する宿を描く表題作のなんと頽廃的で耽美なことか!乙女の「片腕」をつける「片腕」。殺人事件とその犯人の問答「散りぬるを」まで3編すべてが面白く、しかもそれぞれに趣が異なり飽きない構成である。川端文学円熟期の紛うことなき名作である。川端康成、これからすこしずつ読もう。巻末の解説はなんと三島由紀夫。解説も必読。2013/355

  • 年老いた男のロマンやフェチシズムを文学にすればこうも評価されるのか、と少し憤りはしたものの、三島由紀夫の解説での表現が的確過ぎて納得。
    ー「眠れる美女」は、形式的完成日を保ちつつ、熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品である。
    ー6人とも眠っていてものも言わないのであるから、様々な寝言や寝癖のほかは、肉体描写しか残されていないわけである。その執拗綿密なネクロフィリー的肉体描写は、およそ言語による観念的淫蕩の極致と言ってよい。
    ー作品全体が、いかにも息苦しいのは、性的幻想に常に嫌悪が織り込まれているためであり、また、生命の讃仰に常に生命の否定が入り混じっているためである。

  • 『眠れる美女』の、秋から冬になっていく感じが好き。こういうところに作者らしさを感じ惹かれる。

    娘たちが生きたまま人形にされてしまったようで怖い。娘たちの肉体は江口老人の追憶や想像と結びつくことでいっそう生々しさを与えられる。

    『片腕』は薄気味悪く、でも絵面はなかなかコミカルだなんて思う。ひたひたとにじり寄る紫のもやが不吉だがたまらなく幻想的。

    『散りぬるを』は、創作過程の頭の中を垣間見みるような面白さがある。小説家ゆえの明晰さはまさに狂気。

    三作とも寂しさが強く後を引く。夢とうつつの境は魅惑的でありまた無情だ。

  • 私には合わなかった。
    描写は本当に素晴らしいけど、内容がまるで人から「昨日見た夢」をずっと聞かされているようだった。
    眠って起きない少女の横に添い寝をする老人の話。
    ある女から腕を1本借りる話など。

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著者プロフィール

1899年生まれ。1920年東京帝国大学文学部英文学科に入学(のち、国文学科に転科)。1921年第六次『新思潮』を創刊。『伊豆の踊子』や『雪国』などの作品を残す。1961年文化勲章受章。1962年『眠れる美女』で毎日出版文化賞受賞。1968年10月、日本人初となるノーベル文学賞受賞が決定する。1972年没。

「2017年 『山の音』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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